長年相棒だった全身鎧の戦士が実は甘えたがりの高身長女子だった話 作:山崎世界
身の上話から始めよう。俺はリン・ローズウェルド。しがない冒険者崩れの魔法使いである。生まれは小人族と呼ばれる魔法の扱いに長けているがその名の通り小柄でついでに童顔、力仕事には向かない種族であり、基本的にインドア派、引きこもり気質の一族である。
しかし俺はその中でも異端寄りの気質である。つまり、外に出たい。富を得たい。名声を得たい。力を得たい。そしてモテたい。そういう欲を人一倍抱いていた。
だから里を抜け出したまではいいがまあ魔法使いというのは一般論としてソロには向いていない。ましてや体力がないことに定評のある小人族である。出世には頼れる相棒かべやくが不可欠である。
さりとてそんな都合よく相棒が見つかるわけもなく、薬草探しだのなんだの地味な仕事をしつつ日銭を稼いでいたある日のことである。
「…………ワレは」
「ひっ」
受付嬢がひどく怯えた様子で応対していた。
そこにいたのは全身真っ黒の鎧姿だった。俺が小人族であることと関係なく大きく威圧的と言える鎧姿で、たまに漏れる息遣いすらも相対する者に恐怖を与える。
「ようどうした? へー新入りか。俺はリン・ローズウェルド。もしよかったら俺が面倒みるぜ」
善意100%で動けるほどで来た人間ではない自覚はある。あくまでこれはチャンスだと思ったからである。
「名前は?」
「……ワレ」
「うん? あーそうか、ワレが名前なのか」
結果は思いの外上出来だった。実力は文句なしに一級品だったし、同時に口下手な面もあったので世話を焼いて恩義を着せることができた。
「俺のことは兄貴と呼べ」
「……あにき?」
兄貴風を吹かせ、偉そうにあれやこれやと指図をした。強い舎弟を従えて、自分が強くなった気になって、周囲に対して傲慢になっていた時期もあった。
ただ、そんな俺のことをいやな顔一つせずに慕う弟分を見て、そんな自分が恥ずかしくなった。だから、あいつに対して、恥ずかしくないような男になりたい。
「ふぅん……呪いの装備ねぇ」
聞くところによるととある迷宮ダンジョンの宝箱から見つけた鎧を装備してみたところ脱げなくなったという。
そのせいで食事やら排泄やら出来ないらしいがどうやら鎧の能力でどうにかなっているらしい。睡眠も必要ないとか。自力で調べて見た限り嘘はないようだった。
「……戦闘に、影響はない。リン、さんに迷惑をかけることは……」
「でもお前はどうにかしたいんだろ? ならこっちの事情でもある。兄貴分ってのはそういうもんさ」
そうして俺はワレの呪いを解く手段として古巣である小人族の里を訪ねたりした。
「大きい男になったのう、リンや……」
長老にはそんなことを言われた。どうなんだろうな。実感はない。
さて、ワレの装備した鎧、それは呪のろいというよりも宿主を守るための呪まじないの類らしい。鎧には精霊の類が宿っているらしく宿主が心身ともに強く成長するまで守ろうとしている、という。何とも過保護なことだ。
故に、その呪いを解いて鎧を脱ぎ捨てるには鎧に対して実力を証明すればいい。俺は小人族に伝わる秘儀で、鎧とワレの間の仲立ちをする。精神世界においてワレが鎧に宿った精霊を屈服させる手伝いだ。それ以上の手助けは出来ない。鎧の精霊が値踏みしているのはあくまでワレの力だからだ。
「俺ができることはそう多くはないが、いつだって見守ってる。それだけは忘れるな」
小人族に伝わる手作りのチャームを渡す。ワレの装備している鎧に比べれば誤差にもならない加護ではあるが。
そうして、ワレは眠りについた。俺も一睡もできない中で時折手を繋いだりしながら見守って三日……いつの間にか寝入っていた俺は鎧の擦れる音で目が覚めた。
「あに……き……」
鎧の手の部分が剥がれた。
「……よろしくな。相棒」
初めて握手をした。思っていたよりもずっと柔らかい手の感触だった。
「カンパーイ!!」
その翌日。俺たちが組んで稼いだ貯金を使って、高級宿を取り、宴をすることにした。
高級な酒は口当たりがよく、気分が高揚していることもあってこの日は自分でもわかるくらいに飲み過ぎていたが止められなかった。
「まあそうだな。厄介な呪いが解けたんだ。色々なことだって出来るさ。俺がいなくたって……あーいや、なんでもない」
わかっていた。ワレはもう、俺が付いていなきゃ何もできないようなガキでもない。むしろ俺がまだ付きまとっていたら成長の妨げになるかもしれない。
(……なんて達観できるわきゃねえ)
そこそこいい歳ではあるが、だからといって理屈ですべてを呑み込めるほど大人になり切れてもいないんだろう。ああ、何だ。やっぱりコイツとまだ冒険をしたいんだ。俺は。
「……あにき……」
「あん?」
「お、おいわう、なら……。わ、ワレのおねがい、きいて、くれる……?」
「……何だ?」
何だって聞いてやるさ。お前の望みならな……。
その会話を最後に、俺の記憶は途絶えた……。
※※※
目が覚めた時、一番最初に感じたのは柔らかさだった。さすが高級宿屋のクッションというべきか。ほのかに人肌の温かさを感じ、とりわけ頭に乗る柔らかな感触はどこまでもやわらかく目の前にはピンク色の乳首が……うん? いや、ちょっと待って欲しい。
「んん……」
声が、間近から聞こえる。
「あ……」
長い黒髪の美女だった。片目を覆いそうなくらいに前髪を長く伸ばしていて、腰元まで伸ばしている。顔立ちは整っているが表情はあどけなく。胸は片方だけでも俺の頭より大きいくらいで、しかし腹周りにかけては引き締まっていて無駄な肉づきはなく、おおよそ芸術のようにきれいな体型だった。
「お……おはよう……あにき……」
恥ずかしそうに胸元を隠しながら挨拶を交わす。
「……ワレ、か?」
「……ん」
「……お前、女だったのか?」
「ぇ? うん……」
周りを見回す。ほのかに香る精液臭さ。そして、シーツに残っている赤い痕。そして恥ずかしそうに身をよじる相棒ワレ。完全に事後だった。
「……マジかー……」
相棒だと思っていた黒騎士は実は女だった。そしてそんな慕ってくれていた相棒を酒の勢いでヤっちまったらしい。
ちょっと気持ちの整理をつけるのに、時間がかかりそうだった。