長年相棒だった全身鎧の戦士が実は甘えたがりの高身長女子だった話 作:山崎世界
あにきの助力を得て、ワレは鎧の精霊と向き合うことになった。
白い。白い空間だった。他には何もない。地面すらもなくて、どう立っているのかもわからない。
そして、孤独だった。ずっと目の前にいてくれたあにきがいなくて、それだけで挫けそうになる。
「オーホッホッホッホ!」
そんな空間に立ち尽くしていると、いきなり甲高い女の人の声が響いた。
「思ったよりも早い対面になりましたわね。ワレさん」
そこにいたのはワレの着ていた黒い鎧を身に纏った女の人。金髪の縦ロールに綺麗で派手な顔立ちをしている。
圧倒されそうな迫力に気圧されそうになる。
「一つお聞きしたいのですが……何故貴女はこうしているのかしら?」
「どうして……て」
「分かっているのでしょう? ワタクシは貴女を守っているのです」
それは……そうだ。この鎧は、ワレを守っている。この鎧のおかげで、お腹が空くこともなかったし、風邪を引いたりすることすらなかった。知らない人から話しかけられても追い払ってくれた。
でも……。
「あにきに……ワレの本当の姿を、知ってほしいから」
そう。本当の願いはそれだ。
「おかしなことを言いますわね。貴女、自分の本当の姿に自信なんてないでしょう? 自分みたいな無様に背丈の大きい女、彼に近づいてはいけないと常々思っているのではないですか?」
ああそうだ。この鎧の精霊は、ワレのことをずっと理解している。
弱くて。臆病で。だからこそ鎧に引きこもって、頼り切っていたのを見抜かれている。
でも、それでも前に進みたいって。あにきを見て思ったんだ。
しかし……鎧の精霊はゾッとするくらいに冷めた目で、こちらを見ていた。
「はっきり言って、貴女とあの小人族の男では何一つ釣り合いなど取れていませんわ。いつか、貴女のことを背負いきれなくなる。そんな時は、きっと近い。お互いのためにならないのです」
「そ、そんなことない! ワレは……」
「おいおいしっかりしな、相棒」
え?
「何驚いてんだよ。まあ何とか潜り込めてな。安心しろよ。何なら後ろに隠れててもいいぜ」
目の前には、あにきの姿があった。
「あにき……!」
心がぱぁ……と明るくなる。あにき……そう、あにきとなら、きっとどんなことだって乗り越えられる。だから……
「はぁ……」
鎧の精霊は、頬に手を当てて、ため息を吐いた。
「それがダメだと言っているのですわ。だから釣り合わないと言っているのです。そんなだから……」
ザシュッ!
「……え……?」
「こうして足手纏いが死にますのよ?」
あにきの首が、飛んだ。
「……ぁ……」
嘘だ……嘘だ嘘だ嘘だ!!
「さあどうしますの? これでもまだ続けますの?」
「あにき、あにき……!!」
頭の中が真っ白になる。ただ、泣き縋るしかできなくて。
「……ええ。いいのですわ。このままで。ワタクシならば、どんなときだってあなたを裏切りはしません。一人にはしません。幻滅などしません。だから、ずっと、ワタクシに守られていなさい……」
仇に、立ち向かうことすらできなくて……。抱きしめてくるその手を振り払うことすらできなくて……。
あにき……ごめんなさい……少しは、強くなれたと思ってた。でも、そんなことはなくて、本当は、ワレはあなたの傍にいちゃいけない存在で……。
『俺ができることはそう多くはないが、いつだって見守ってる。それだけは忘れるな』
ふと、右手に温かい感触がした。
「これ……」
ただの錯覚と見過ごしてしまいそうな微かな感覚。
でも、これはあにきだ。
「そう、何を、何を甘えようとしていたの……」
これは、ワレ一人で乗り越えなくちゃいけないことだとそう送り出してくれたのに。本当にあにきが駆けつけてくれるなら、そういってくれるはずなのに。
ワレは、あにきのことを信じ切れていなかった。だから、だからこんな幻なんかに惑わされた!
「……っ!」
振り払う。そして、鎧の精霊とお互いに剣を携え、対峙する。
「ぅぁあああああああああ!!!!!」
鎧の精霊の剣を弾き、そして、斬りつけた。
「……そう、乗り越えましたのね。少しばかりあの方の過保護ぶりが目立つところですが、まあ及第点、かしら」
「ぇ、ぁ……その、大丈夫、ですか?」
血を吐いて倒れる鎧の精霊に、思わず声を掛ける。
「ふふ、全く、ここまで見事に斬りつけておいて心配されるとは思いませんでしたわ」
「あ、うん……あなたが、ワレを心配してくれて、守ってくれてたのは、確かだから……」
鎧の精霊が言う通りだった。ワレと、あにきはまだきっと釣り合ってない。ワレと一緒に戦っているあにきが、ワレをかばって傷つく可能性だってゼロじゃない。
「まあ、そうですわね。このまま小人族のあの方に頼り切るようなら、ワタクシが守っていた方がまだマシ……それは確かだとは思っていましたから。でも、大丈夫そうですわね」
真の相棒になれるかは、きっとこれからなんだ。
「ふふ、まだまだ危なっかしいですわね全く。こんなんじゃ、まだまだ見守っていくしかありませんわね」
「……いいの?」
「ええ。だから、強くおなりなさい。守られるばかりでなく、あの方を守れるくらいに。あの方は、きっと貴女に必要な人。失礼なことばかり言って悪かったと、いつか伝えてくださいな」
そして、意識が浮上する。
※※※
目を覚ますと、あにきは傍にいた。ずっと、ずっと見守ってくれていたんだ……。
「あに……き……」
鎧の手の部分が剥がれた。
「……よろしくな。相棒」
あにきと握手をする。小さくて、すべすべで、柔らかい手。この人を守れるくらいに、強くなりたいと、強く決意した。