長年相棒だった全身鎧の戦士が実は甘えたがりの高身長女子だった話 作:山崎世界
「リンさん、折り入ってお話があるのですが……」
「何だ一体? ワレも呼んだ方がいいか?」
「その辺りの判断はお任せしますが出来ればまずリンさん個人にお話ししたい案件でして……」
※※※
ここ数日、あにきの様子がおかしかった。妙に溜息を吐いていたり、どうしたのかを尋ねても何でもない、と首を振った。
さすがに何かあったのかな、と思ってギルドの受付嬢さんに問い詰めた。
「……リンがワレちゃんに内緒で何か依頼を受けている、ねえ」
というわけでアリアさんに相談をしに来た。
「それで? その依頼って何なのか分からないの?」
もちろん、尋ねてみた。
『うーん、こちらとしても無理にお願いしている立場でして。リンさんが秘密にしているなら話すわけにもいきませんねぇ』
だけど、受付嬢さんも困っているようなのでこれ以上尋ねるのは気が咎めた。
「ど、どうなのかな……ワレが、足手纏いだから、とか。そういう危険な依頼とか……」
「うーんさすがにそれはないかなー……そこで変な意地張るやつでもないしギルドの方で秘密にすることもないでしょ」
そうなのかな……。多分そうなんだと思う。
結局、ワレが一番気になってるのは、あにきに隠しごとをされたことで。そんなにワレは頼りないのかな、とか。こんなことを考えてアリアさんに相談に来るような子だから、あにきも信頼してくれないのかな、とか。
そんな考えで堂々巡りしている。
「まあ本当に心配するようなことはないだろうけど個人的にももやもやしてきたわ。仕方ないわねワレちゃん、尾行しましょう!」
※※※
依頼の日の当日。朝早くからあにきは家を出た。
「いってらっしゃい」
「……ああ、行ってくる」
ワレは極めて何事も無いように笑顔でいってらっしゃいが言えた。のかな。
「ふふ、ワレちゃん。じゃあさっそく追跡開始よ」
アリアさんと合流して、あにきの背中を追う。あにきは適当に用事があると言って出て行って、何も聞かずに送り出したワレにちょっと意外そうでバツの悪そうな顔をしていた。
『いってらっしゃい』
本当は……何も聞かずに送り出したかった。こうやって疑って、後をつけて、そんなことはしたくなかった。
けど、ごめんなさいあにき。ワレは悪い子だから。まだあにきみたいになれない、未熟者だから。
「……あ、アイツ角曲がったわよ」
慎重に見つからないように、と気をつけてはいたけど……あにきはどうやら一枚上手だったようでいつの間にか見失ってしまった。
「……ワレたちに気づかれた?」
「うーんそういうわけじゃないと思うけど普通に人目を気にしてるって感じの動きね。よほど人に知られたくない仕事なのかしら」
出来れば使いたくなかったんだけど、と言ってアリアさんはいつか見た犬耳を取り出した。
「ワレがやるよ」
「そう? それじゃあよろしくね」
兜の下から犬耳をつける。嗅覚が鋭敏になり、これならあにきの匂いが辿れそうだ。
そうして辿り着いたのは宿屋の一室で、何とか部屋を開けてもらうと、あにきの着ていた服だけが残されていた。
「着替えてどっか行ったみたいね……ワレちゃん、匂い辿れる?」
「……うーん……」
本当の犬ならあるいはと思うけど調整されて効果も弱まっている犬耳だからこれ以上の追跡は無理みたいだった。
「……仕方ないわね」
それから、アリアさんはどこからか取り出したおしゃれなワンピースにワレを着替えさせた。
そしてそのまま、オープンテラスのカフェでお話をする。
「まったくアイツってばワレちゃんにこんな心配かけて仕方のない奴よ」
「あはは……」
アリアさんは極めて何ともないように明るく振舞って、あにきの愚痴を交えながら談笑した。
気づけば時間も忘れて、イヤな気分もすっと晴れていた。
「……アリアさんもちょっとあにきに似てる、のかな」
ぼそっと呟いた言葉にアリアさんはものすごい顔をしていた。
「まあそうね、アイツ結構変わり者だし。お互いに似たような部分が出来たのかもね」
「そっか……うらやましいな」
「羨ましがるようなもんでもないわよこんなの。て言ってもそうねー。まあ難しいかもね。でもこんなの時間が解決してくれるって。これからもずっと過ごしてる内にね」
ずっと過ごす……。アリアさんが当然のように言った言葉。でも、ほんとうにそうなるのだろうか。
だってワレは、自分のことをあにきにずっと秘密にしてる。それでも聞かないでくれる。もし、あにきに全てを打ち明けた時に、あにきは……。
「……え?」
ふと目線を横にずらしたとき、不意にあにきの姿が映った。
――近所の学園の小等部の制服を着たあにきに。
「あははははははは!!!」
「いい加減笑うなていうか何でお前がワレと一緒にいるんだよ」
アリアさんはさっきからずっとひっきりなしにカフェの机を叩きながら笑っていた。
聞くところによるとあにきはどうやらさっきまで近所の学園の卒業式の護衛のために内部から生徒として潜り込んでいたらしい。
どうやらあにきの噂を聞きつけた資産家が万が一を考えて子どもの卒業式のために特別に呼ばれた、と。
「脅迫状かなんかでもあったの?」
「まあそんなとこだ。一応、不審者を何人か捕まえたりはしたけど別に大した仕事でもなかったよ」
「ふーんへーほー……ぷ、くくく……」
「いい加減笑うんじゃねえよおい第二弾があったらお前も巻き込むぞ」
「おっとそのセリフは他の誰かちゃんに言ってあげなさいな全くもう」
アリアさんはワレの方に目線を向けて、あにきもこっちを見る。
「……悪かったな」
すっと手を差し出してくるあにき。
「……あにき♡」
ベレー帽をかぶった短パン姿でいつもよりかわいいあにき。