長年相棒だった全身鎧の戦士が実は甘えたがりの高身長女子だった話 作:山崎世界
ワレに渡すための装飾品を作るためにアリアの元を訪れる。本来は一人で作れると思っていたがどうにも、ものがものだけに手間が掛かりそうだった。
「しっかし一体何? とうとうプロポーズでもする気なの」
「何だそりゃそんなんじゃねえよ」
「だってそれ、妖精族で三ヶ月掛けて作る特別な指輪じゃないの。まあ今じゃ作れる小人族も少ないって話だったけど。長老様から教わったんでしょ?」
「……消耗品だろ?まあこんなもん使わんに越したことはないけどな」
それとあの長老は若者に教えたがりでもののついでで無理矢理押し付けられたようなもんだ。
「そういえば聞こうと思ってたんだけど」
「うん?」
「アンタってワレちゃんの持ってる鎧について、どういうふうに聞いてるの?」
「どうもこうも、どっかの迷宮か何かで拾った呪いの装備だって聞いてるが?」
「ふーん……そう、アンタにもそう言ってるんだ」
「どういう意味だ?」
目線を向けると、アリアは溜息を吐いて続けた。
「あんなもの凄い装備がそこらの迷宮なんかに落ちてるわけないわ。どっかの名家の門外不出の秘宝か何かよ」
「そうか」
「……反応薄っ、まあそれくらいは分かってたんでしょうけどね。で、調べようと思えば調べられると思うけど、どうする?」
「あいつが話してないことだ。それをわざわざ探ろうとも思わんさ」
いつか話してくれるのを待つ。あるいは、別に話さなくてもいい。忘れたいことなら無理に思い出させようとも思わない。
「……そう」
アリアはそれ以上食い下がることもなかった。こっちの答えも薄々分かっていたんだろう。
ワレの居場所。それは、どこだっていいんだ。元居た場所じゃなくたっていい。ここじゃなくたっていい。
ただ、形になる何かを残したくなった。そんな衝動に駆られていた。
そしてその予感は、当たっていたのだ。
※※※
ギルドを訪れて依頼を探していた矢先、その男は現れた。
ワレよりも高い身長の中年の男。とはいえ、その筋肉は厚手の詰襟服の上からでも分かるほどに盛り上がり、年の衰えなど微塵も感じさせない。
髭は綺麗に整えられ、白髪交じりの黒髪。目つきは鋭く、いくつもの修羅場をくぐっているのが一目見てわかった。
ガタッ。
鎧の擦れた音。ワレが、後退ったのが分かった。
「失礼する。ここに、ワレ……ワレ・ウォーブレイブはいるか」
「え、ええっと……」
受付嬢はその迫力に押されていた。男は努めて冷静、紳士的ですらある態度だがそこに何か鬼気迫るものを感じざるを得ない。
受付嬢はちらり、とこちらを見て、それに合わせて男はこちらを見つけ、歩いてくる。
「ここにいたか」
遠慮なくこちらに、ワレの方に向かってくる男。そこに俺は割って入った。
「何だ貴様は」
「俺は、コイツの相棒さ。アンタこそ一体何……」
「っ!」
ワレを庇おうと腕を伸ばそうとしたら、それを掴んできたのもワレだった。
「ぁ、あに、き、やめ……」
弱弱しくも、ワレは俺を止めようとした。何故、と聞くまでもなく、俺は吹っ飛ばされていた。
「脆いな、まるで綿菓子だ」
「あにっ……!」
ワレは、男に睨まれ、立ちすくむ。
「……父親と相対しているのだ。いつまで兜を被っている!」
男はワレの頭を無理矢理掴み、そのまま兜を外して、ギルドの面々にワレの素顔をさらす。
「……え? ワレさんって女だったのかよ」
「いや、それよりどこかで……」
にわかにざわめいたギルド内を、男は一瞥するだけで黙らせた。
「ワレよ、お前がウォーブレイブ家の家宝たる勇者の鎧を盗み出し、家から逃げ出した。それは許そう」
「ぬ、盗んだわけじゃないよ……ただ……」
「別にそこを問い詰めようとは思わんさ。ただ、あまり我が家名を汚すような真似は控えてもらいたい。正直耳を疑ったぞ。栄えあるウォーブレイブ家の人間があのようなつまらぬ矮小な男の陰に隠れてケチな仕事をこなして日々を過ごしているなどと」
「あ……! あにきは……!」
「……何だ?」
「っ……!」
ワレは、何も言えなかった。何かを言おうとして、言えず、ただ目の前の男に怯えていた。
「待てやおっさん」
「ぬ……?」
「おいリン、お前、血が……」
正直、身体中が痛かった。だが大切な妹分が……相棒が、泣きそうなんだ。泣かされそうなんだ。黙って見てるわけにはいかないだろうが。
「……」
男はこちらに目を向けた。その視線は意外なものを見るようで、一瞬、緩んだ。
「……なるほど」
男は、踵を返した。
「今は退こう。だがワレよ。お前はここにいるべきではない。日を改めて、迎えに来る。その準備をしておけ」
※※※
ヴァルセント・ウォーブレイブ。それがあの男の名前。かつて勇者とともに世界を救ったという伝説が残る戦士が興したウォーブレイブ家の現当主であり、ワレの父親。
かつてワレは、その家に生まれた兄弟姉妹たちの中でも期待されていた末娘だった。
昔は、楽しかった。強くなればなるほど褒めてもらえて、頑張ろうという気持ちになれた。だがいつしか、その期待に応えるのが苦しくなった。
出来て当然、何故出来ない。誰も褒めてくれなくなった。いつしか兄弟たちの誰よりも体躯が大きくなり、誰にも甘えることを許されなくなっていった。
そんな折だった。ウォーブレイブ家に伝わる勇者の鎧。それから声が聞こえたのは。
『さあワレさん。ワタクシの手を取りなさい。そうすれば、ここから逃げ出す手助けをして差し上げましょう』