長年相棒だった全身鎧の戦士が実は甘えたがりの高身長女子だった話 作:山崎世界
家名を汚すな、とワレの父親のヴァルセントは言った。まあ要するに、どの程度かは知らんがプライドというのを重視するのだろう。
となれば、挑戦は受けるだろう、そう見積もった。そして乗ってきた。
「……ワレはいないのか」
人気のない郊外で、俺とヴァルセントは対峙する。
「約束してもらう。もし俺が勝ったら、ワレから手を引いてもらう」
「……分からんな。少し痛めつければ損を悟ってアレから離れるものと思っていたが」
怒りが湧くかと思ったが、穏やかな心地だった。
「利用しようと近づいたのではないのか?」
そうだな。まあ最初はそうだったかもしれん。だが、もう違うんだ。
「嫁を守ろうとするのがそんな変なことか?」
「……嫁だと?」
呆気にとられ、驚いたような顔でこちらを見る。
「だから、俺はあいつを守る。あいつが立ち向かえないなら代わりに俺が戦う」
「……愚かしいな。お前はアレの持つ資質から、導くことができなかった自分から目を背けている」
そうだな。
「本気で、ワシに勝てるとでも思っているのか?」
「そんなもんはやってみなきゃわからんだろ」
負ける気なんざ微塵もない。
「そういえばお前が負けた時の条件をつけていなかったな。そうだな……お前の両腕を貰うぞ。いいか?」
「何だ? そんなもんでいいのか?」
命を取られても仕方ないと思っていたが、また生きて会えるならそれで十分だ。
「……そうか」
ヴァルセントはゆっくりと目を閉じ、数瞬。かっと目を見開いた。
「あい分かった。なるほど、お互いに譲れぬものがある。こうするしかなかった。決闘と呼ぶに十分だ」
ピリピリと肌が痺れるプレッシャー。
「それでは始めるぞ! リン・ローズウェルド!!!」
ヴァルセントの姿が視界から消える。
「ぐっ……!」
身体が思い切り吹っ飛ばされる。大丈夫だ、まだ追いつけている。
「……身体の強張りを解いて力を逃がしたか。理屈で理解できていても実行できる者はそう多くない」
まるで巨大な岩に相対しているような気分だ。どうすれば突き崩せるのか、全く想像がつかない。
それでも可能性があるなら、短期決戦か。出し惜しみはしない。持ってきたチャームに込めた魔力を砕き、一気に放出する。
「ッ!」
これでケリがつけばいいが……。
土煙が晴れて現れたのは、さっきと変わらぬ仁王立ちのままのヴァルセントの姿。
「……防ぎきれぬ、か」
コートの腕の辺りが破れ、血が出ている。しかし、決め手には全くならなかった。装備品もワレの鎧ほどではなくとも一級品なのだろう。
だが、それ以上に問題なのは剣だ。ヴァルセントは腰につけていた剣を抜いている。
その剣が、俺の魔法を弾き、防いだのだ。
「気が付いたか。これは今ワレが占有している勇者の鎧と対を成す剣だ」
なるほどな。
落ち着け。勝機がないわけじゃない。通じないわけじゃない。
「ぬっ……? 速度が上がった?」
ヴァルセントの剣が虚空を切る。相手からすれば、いきなり速度が上がったように見えるだろう。
「着け耳……なるほど。色々と隠し玉がある、か……油断できぬものだな」
にやりと、ヴァルセントは口元を上げる。
俺は再び、正面から魔法を放つ。
「何度やっても無駄……だと、ぬ……?」
思い通りに進んだか、と気が緩みそうになったところでヴァルセントの動きが一瞬止まる。そして、大きく横に飛ぶ。
背後から飛んできたチェーンによる攻撃を躱され、舌打ちと地団駄を堪え、睨みつける。
「強いな……いや、予想以上だ。久しぶりに楽しさを感じるほどだ」
「世辞は辞めな」
「本心であるとも。だが、その上であえて言おう。届かないぞ」
ヴァルセントは見せつけるように剣を掲げる。
「二対一というのはいささか気が引ける。せめてもの敬意として、紹介しよう。察しの通り、この魔剣もまた、意思を持つ剣。不意打ちなど通用しない」
息も切れ、ダメージも蓄積しつつある俺。
対して、ダメージがないわけではないが疲れが見えず余裕を保ったヴァルセント。
このままの攻防が続くのであれば、決着は目に見えている。
「……気が変わった。今、降参するのであれば悪いようにはしないがどうする?」
「ハッ! 何を勝った気になってやがる。言っておくがな、俺は舐められるのが一番嫌いなんだよ」
「そうか。失礼した……貴殿とは、また違う場所で会いたかったものだな」
おいおい、漏れてるぜ。
とはいえ、俺たちのすることは変わらない。俺は、必ず勝つ。そして、ワレの元に帰るんだ。