長年相棒だった全身鎧の戦士が実は甘えたがりの高身長女子だった話 作:山崎世界
「ちっ」
何度目かの舌打ち。また防がれた。
ヴァルセントは先ほどから攻め気がない。じっくりと攻めていけばそれで十分、ということだろう。
あちらにしてみれば怖いのはまぐれだ。そして体力にも差がある。ならばこちらの持つ手札を出し尽くし、体力も削ってからでも遅くはない。
それは功を奏している。こっちとしては刺し違える格好の方がまだ勝機を見出せるのだ。
「……どうした。これで終わりか」
次元が違うだとか、敵わない相手だとは決して思わない。だが、このヴァルセント・ウォーブレイブは俺などより遥かに経験を積み、先を行く存在であることを認めざるを得ない。
そして、そこには一切の油断がない。自分の半分程度の背丈の存在に対しても真摯に向かい合っているのだ。やはり……いや、それは今はどうでもいいか。
「ならば……!」
突進。余計なことを考えてしまった。受けて、まだ戦えるか。思考を巡らせ、腕の一本程度は覚悟した。
しかし、
「……ぬ!?」
そこに現れたのは、黒い全身鎧の剣士。
「ワレ、お前……」
「あにき……遅れてごめんなさい」
「ッ! 何をしに来たッ! ワレッ!!!」
ヴァルセントは今まで見たこともないほどの剣幕で怒声を浴びせる。
「今、我々は決闘の最中だ。ワシとリン・ローズウェルド。今この瞬間は、我ら二人にある決着をつけるためにある。それを阻む権利など、誰にもありはしない。それは侮辱だ。分かっているのかッ!」
それは本物の怒りである。戦士としての矜持を、目の前の男は持ち合わせているのだ。
「……それは違う!」
しかし、ワレはそれに気圧されることなく、啖呵を切る。鎧の精霊にたよらず、自らの声で相対する。
「これがあにきの戦いだというのなら、それはワレの戦いでもある。それを否定する権利こそ、あなたにはない!」
「ぐぬ……」
何と言うことか。信じがたいことに、ヴァルセント・ウォーブレイブは気圧されていた。
「……勝てると思っているのか」
「勝つよ」
「決闘の条件に、そこの男は負けたら両腕を差し出すと言った」
「……」
ちらり、とワレは俺の方を見た。その強い目力に、責められているような心地になる。
「こちらが勝てばお前には家に帰ってもらう。どこぞの辺境の貴族との縁談の準備でも進めよう。そこの男とは二度と会わせはしない」
「うん。それでいい」
一瞬、ヴァルセント・ウォーブレイブは眩しいものを見るかのように目を細めた。
しかし、カッと目を見開き、全身に力を漲らせる。
「はぁああああ!!!」
カン! キン! 剣が交わる音が木霊する。ヴァルセントの全力の踏み込みにも決して負けず、ワレは相対していた。
「ふっ……!」
「くっ、小賢しい真似を」
ヴァルセントは俺の援護する魔法に悪態を吐いた。 剣技で言えばさすがにヴァルセントに分がある。だが、こちらには勇者の鎧がある。ヴァルセントの剣でも芯を突かねばワレにダメージは通らない。
それはつまり、ワレと勇者の鎧相手ではさすがのヴァルセントと魔剣でも隙が生じると言うこと。
だが……それでもなお、あと一歩が届かない。
「……もし今、そこの男が万全の状態だったなら話は違ったやも知れんな」
「はったりだ。聞くな」
確かに、蓄積したダメージはあるし魔力もチャームも底を突きつつある。だが、たとえ万全だったとしてもきっとこの状況は変わりはしない。そう確信している。
一旦距離を取り、次の攻防に備えていると、ワレが小声で話しかけてきた。
「……分かってる。お父様に、簡単に……何も犠牲もなく勝てるわけがないって」
「……ワレ?」
「作戦、があるの……。あにきに、それに鎧の精霊さんに、信じてもらわないと出来ないことが……」
その詳細を聞いた俺は、少なからず動揺した。下手すれば死ぬかもしれない、そんな無謀な作戦だ。
『いいですわ。ワタクシは乗りました』
「……」
正直なところ、止めたかった。ワレが一番危険だというのもあるし、それに……。
「いいんだよな」
「うん」
他ならぬワレが覚悟を決めているのだ。感傷は、後にしよう。
「……覚悟は定まったか」
ヴァルセントは呼吸を整え、待ち構えている。勝負は、この攻防でケリがつく。勝つにしろ負けるにしろ、だ。
俺に出来ることは、信じることだけ。チャンスは一度。これをものにする。そのために魔法の威力を最大限に溜める。
ガンッ!! ワレとヴァルセントがぶつかり合う音がする。
「何ッ!!??」
ヴァルセントに驚愕が走る。ワレの勇者の鎧がひとりでにワレの身体から剝がれる。そしてそのままヴァルセントの身体に装備され、その身を鈍らす拘束具となる。
ヴァルセントが驚愕したのは、その浅慮である。確かに、それはヴァルセントにとって最大の隙となる、だがそのために払う代償があまりにも大きすぎる。
『ぐぬっ……この……!?』
鎧の精霊ではヴァルセントと魔剣を完全に押さえつけることは出来ない。あくまでその動きを鈍らせるだけ。そしてそのために……ワレの防御を無防備にさらすのだ。
一瞬だけ、躊躇したようにヴァルセントの剣の動きが止まった。しかし、戦士としてこの勝機を逃すわけがなく、ワレの無防備な身体に剣が振り下ろされる。
血が、飛んだ。今すぎにでも駆け寄りたかった。
例えそれが、作戦通りだったとしても。
パキッ。ワレの左手の指輪が、突如光りだす。そして、傷跡が何事ものなかったように修復され、指輪は役目を終えて粉々に砕け散った。
「ラストエリクシル……だと……」
小人族に伝わる秘儀により作られた指輪。その効果は、致命に至る傷を受けた時、一度だけその身代わりとなって傷を癒す。大切な人間に贈る、祈りの形だ。
「「はぁああああああ!!!」」
最大の隙、俺たちはヴァルセントに必殺の一撃を喰らわせた。
土埃が晴れ、そこには未だ立っている勇者の鎧。
「……見事だ……」
そのまま膝を折り、決着を迎えた。
「……ぬ……」
その後、お互いの手当てをして目が覚めるのを待った。
「約束は守ろう。もうワレを連れ戻そうとはしない」
「お父様……ワレは……」
「勘違いするな。ワシとお前たちは敵対し、袂を分かった。それはこうして決着をつけた今でも変わらぬ」
「……ぁ……」
「さらばだ。もう会うこともなかろう」
ヴァルセントは、差し出したワレの手を振り払い、傷は深いだろうに独りで立ち、背を向けた。