長年相棒だった全身鎧の戦士が実は甘えたがりの高身長女子だった話 作:山崎世界
出発してから十日ほど。故郷の里に近づいてきた。
一旦、山の中腹辺りまで登った後、人の手の入っていないルートに入る。そうして辿り着いた洞穴の中を進んでいく。すると、暗闇の中からひとりでに輝きを放つ鉱石の光が辺りを照らす。
開いた場所に出る。小人族の里。そこは岩肌に囲まれた白い都市。日光は差し込まないが小人族の優れた魔法技術により光源は維持されている。
流れる時間はどこまでものんきで、穏やかだ。ずっといるには退屈が勝るとは思うが、生まれ育った故郷に、どこか気が緩むのも感じている。難儀なものだ。
「……ん?」
里に一歩足を踏み入れた瞬間、微かな違和感を覚えた。緩く張った糸を足に引っ掛けた、そんな程度の。
「っ!」
ワレが前に出る。目の前に飛び込んできたのは小さい人影。三、いや四人か。魔本や杖などを構えながら、俺たちに向かって駆けつける。
「下がってろ」
「でも……」
「いいんだよ」
俺はワレの前に出て、制止するように促しながら、軽く指を鳴らす。
「来な、撫でてやるよ」
バチバチバチ! 最初に飛び出してきたやつと俺の手のひらの間で火花が散る。単純な魔力の塊同士のぶつかり合い。だがこれで大体の力量はわかるものだ。なるほど……。
「ふっ!」
後ろに飛びのいて二人目を躱し、三人目が詠唱に集中しているところの脇腹を蹴りつける。
そしてチェーンを操り、物陰に隠れて様子を窺っている四人目を捉える。
「……よぉ、中々精進してんな悪ガキども」
勝負がついた、というところで軽く伸びをして、肩の力を抜く。
「へへ、おかえりリン」
「リン、おみやげはー?」
「待ってな今渡してやるから。言っておくがちゃんと家族にも渡すんだぞ」
「わかってるよー子ども扱いすんなって」
四人のクソガキどもは生意気な口を利きながら人懐こく寄ってくる。
コイツらは俺が面倒を見ていたガキどもで、どうやら里を守るための門番の役目も自主的にやっているらしい。
もっとも、こうして襲い掛かってくるってのさすがに俺だけだと思うが。
「ワレにーちゃんもひさしぶりー」
「ん、うむ……」
コイツらとワレは面識自体はある。ワレはコイツらのことを悪く思ってはいないようだがどう接したらいいのか多少困っているようだ。
ついでに言うとワレの性別も知らんわけだが……うーん……。
「なんか考えごとかー? リン」
「お前らもワレくらい従順ならなー……てな」
「そんなことねーよー。むしろワレにーちゃんはオレらを見習うべきだぜー。なー?」
やれやれ。年としてはもう成人として認められてもいいはずだが、未だに落ち着きのない奴らである。
※※※
「……あー……その……ただいま」
「まあまあ、リンくん。おかえりなさい」
実家に帰ると両親ともに温かく出迎えてくれた。
エプロン姿の小柄な少女にしか見えないがれっきとした俺の母親であるエレーナ。小人族という種族は年をとってもあまり容姿が変わらない。性格も穏やかというかどこか浮世離れしているというかぽわぽわしているのが一般的というのは故郷を出てから知った話。ともすれば年下にすら見えるような母親であるが、不思議と頭が上がらない。
父親のアレンは寡黙で物静かな男である。小人族の社会の中では力持ちの若者であちこちで頼りにされているらしい。
「それで今日はどうしたの?」
帰ってくることは伝令の魔法で伝えてあったが、用件まではまだ言っていない。
直接伝えるべきことだと思っていたから……というのは言い訳半分だ。
「……実はさ」
「うんうん」
「…………結婚、したい相手が出来たというか」
「っ! まあまあまあ……! それで、お相手は?」
「……あー、ちょっと待ってくれ。今、紹介するから」
そうして俺とワレは実家の俺の部屋にとりあえず籠り、心の準備を整える。
「ふー……はー……」
「大丈夫か?」
「うん、だいじょうぶ。この日のために、アリアさんに、かわいい服、用意してもらったし……」
ワレは鎧を脱ぎ、用意していた服に着替えていた。黒を基調とした上品なドレス姿で、ちょっとドキッとしたのは秘密だ。
「……手を繋いでれば少しは大丈夫か?」
俺は手を差し出すと、ワレは少し迷いながらその手を取って、歩き出す。
「まあまあ、綺麗な女の子ね」
「は、はじめまして、じゃ、なくて、その……どうも、ワレ、です……」
「「……」」
父さんはまあ少し驚いた様子で目を見開いていた。が、母さんに驚きは薄くむしろどこか納得したようで、頷いていた。
「あの……本日は、その……」
内容は色々と決めていた、はずなのだがワレは緊張しているようでどうやら頭が真っ白なようだった。
「あ……あ……あにきをワレにください!!!!」
そして、ワレの大きな声での宣言に、両親は口をあんぐりと開けて、やがて声をあげて笑った。
「そう……ワレちゃん、リンくんにちゃんと思いを伝えられたんだね。頑張ったねぇ」
「驚いてないのか? ていうか……もしかしてワレが女だって母さんは知ってたのか」
「え? それはそうだよねぇ……ワレちゃんは最初から女の子だったでしょう? まさかとは思うけど……気付いてなかったの? そういうのお母さんよくないと思うな」
ぷんぷん、と頬を膨らませ迫力のない怒りを表現する母親である。
「……ワレさん」
父さんはあまり口数が多くなく自分から話しかけるのもそれなりに珍しい。
「小人族の伴侶と付き合うにあたって、きっと様々な苦悩があると思う……だが、これだけは忘れないで欲しい」
「は、はい……」
何だ? 俺とワレは父さんの目を見て向き合いながら話を聞く。
「小さいから好きになったんじゃない。たまたま好きになった人が小さかっただけだ!」
「「……」」
いや何言ってんだこの父親は。
「……うん……そう、そうだよね……」
しかしワレは感銘を受けたようであった。
「もう、あなた! これでもわたし、小人族の間ではグラマーで通ってるんですからね」
聞いたことあるな。まあ俺から見れば違いが分からないんだが。
「さあワレちゃん、いっしょにご飯でも作りましょうか」
「ぁ、でも……ワレ、あまり手先が器用じゃなくて……」
「だいじょうぶだよ。リンくんの好みも教えてあげるから、ね」
「は、はい……!」
こうして打ち解けたワレは夕食を共に囲むころにはすっかりと笑顔を見せる程度に打ち解け、団らんの時を過ごすのだった。