長年相棒だった全身鎧の戦士が実は甘えたがりの高身長女子だった話 作:山崎世界
小人族の里の奥深くに建てられた古びた石造りの大図書館。その内部には小人族の背丈など軽く飛び越すほどの本棚が無数に並び、無限とも言える蔵書に囲まれる。
ガキの頃は何とも思わなかったが明らかに外観と内部の容量が合っていない。ついでに言うと本の中身も昔からあるもののはずなのに経年劣化せず、知識を保管し続けている。一体どれだけの叡智と奇跡がここに集約されているのか、それなりに成長した今なお把握しきれない。
「……リンか」
適当に本を漁っていると声を掛けてくる存在があった。
「ようジジイ。生きてたか」
「フォッフォッフォ。お主もな若造よ」
ひげを蓄え、深いシワを刻む小人族の長老。名前は確か、テンスとか言ったか。別に名前で呼ぶことなんてないが。
小人族というのは長命で若い時間が長い種族であるが老人の小人族というのはまず見かけない。その前にまずどこかで死んでいるからだ。この目の前の長老のようにジジイの小人族を見かけたなら、それは伝説の類なのである。
この大図書館の管理人というが、然もありなん。外の世界を見聞きして、この大図書館がどれだけ大それたもんか理解したつもりである。
「それで何用じゃ? また壁にでもぶつかったか? 言っておくが、お主がこれ以上強さを求めてもろくなことにはならんぞ」
「ま、そりゃそうだろうけどな」
この大図書館には全てがある。やろうと思えば不可能なことはないだろう。
とはいえ、その知識を持ち出す俺には限りがあるのだ。それをどうにかしようとすればろくなことにはならんだろう。
「まあ何だ。実は近々結婚することになってな。で、例の指輪を作るために場所を借りようと思ってな」
「ほう、お主が結婚とな」
ジジイは驚いたような声を上げる。
「時が経つの早いものであるの。で、相手はアレか。あのウォーブレイブの娘か」
「何で知ってんだジジイ」
いや、多分最初からいろいろとお見通しだったのか。
「ま、つーわけで色々と作業するからよろしくな」
「構わんよ。どうせ利用者などめったにおらんしのう」
「んー……」
小人族というのは魔法の扱いに長けてはいるが奔放な種族であり知識を蓄えたりはしない。だからこの図書館も滅多に人は寄り付かないしこうして細工道具などの持ち込みも許されている。
ここにある知識の重要性を考えると有り得ない話だろう。聞く人間が聞けば卒倒する。だからこそ成り立っている。そういうものなのだろう。
カンカンカン……!
金槌で鉱石を叩き、火花が散ってもお互いに何一つ気にすることはない。そもそもここの蔵書を意図的に害そうと思っても不可能なのである。
「さて……ふーん……」
工程が一段落して、適当に本を手に取る。
今の工程としては鉱石に込めた魔力が馴染むまで様子を見つつゆっくりと待つ、という段階だ。丁寧に時間をかける必要はあるが作業自体はそれほど複雑ではない。本を読みながらでもこなせるくらいに。
だから俺は適当に漁った本を読みつつ、作業を進めていたのだが……。
「リンよ。お主、結婚するというのは本当か?」
「何だよ。さっきも言っただろうが」
ジジイが話しかけてきた。
「では聞くがなぜ今その結婚相手と共におらなんだ?」
「なぜと言われてもな……。アイツ割と行動的なところあるし、付き合わせるのも悪いと思って」
俺は別にこうして地道な作業やら読書やらは別に苦ではないというか普段は冒険者などやっているが恐らく本質が割と内向的なのだ。だがワレは一見、内向的な性格に見えるが実はじっとしているのはそれなりに苦手で考えるよりも先に行動に走ったりする。
作っているモノがモノだしな。別行動した方がいいと思ったのだ。
「ううむ……」
しかしジジイはそこが何か納得がいっていないらしい。
「まあ確かにのう。お主の考えは間違っておらぬ。おらぬが……」
「何だ?」
「……知っておるか? お主がいなくなってから多少は顔を見せていたガキどもはめっきり顔を見せなくなったのじゃ」
「へー……」
昔、ここは俺たちの遊び場の一つだった。もっとも、ここにある本を読み漁っていたのは俺くらいのもんだったが。
それで、それがどうかしたのだろうか。
「……まあよいじゃろう。お主もまだ若いということで安心したくらいじゃ。そう言うことであればちょいとついてこい」
「?」
ほんの少し場を離れ、ジジイに連れてこられた場所。適当に一冊本を取ってみる。
「ここにあるのはまあ何じゃ。男女の営みについて触れてあるところでのう、まあお主らにはまだ早いと思うて案内しておらなんだが」
「……別に要らんが」
というかその手の本もあったのか。知らなかったぞ。
「ホッホッ、まあそう言うでない。お主の嫁は戦士であろう。であればたまには身体を労わる術を学ぶというのも必要じゃろう。その手の知識もこの辺りにあろうて」
「……そういうことなら」
今さらエロ本に興味のある年頃でもないが、ジジイの言う通りワレを支えるための技術、というのは確かに盲点である。
当人がいないのはまあある種のチャンスというのもあるし、俺は適当に知識を吸収していくのだった。