長年相棒だった全身鎧の戦士が実は甘えたがりの高身長女子だった話 作:山崎世界
「……はぁ……」
また一つ溜息を吐いてしまう。
あにきは適当に街を見て歩くといいって言ってくれた。小人族の里の景色はまるで童話の中に紛れ込んだみたいで、素敵だと思う。
けれど、心はまるで弾まない。理由は分かってる。あにきが隣にいないから……。
うん。分かってる。あにきはその……ワレと二人の将来のために頑張っていて。ワレがいても邪魔になるだけだろうって。
「……でも……」
思ってしまう。きっと、傍にいるだけでいい。
「ワレにーちゃん、どうしたんだー?」
ふと声を掛けられた。顔を上げると、あにきの弟分のみんな? だった。
「なんか元気ねーみたいだけど」
「うむ……いや、そんなことは」
「ま、いっか。おれたちこれから大図書館にいくんだ。ワレにーちゃんも行くかー?」
「いや、ワレは……」
「そっかーそいじゃあなー」
「ぁ…………」
思わず、その背中に手を伸ばしかける。あにきの邪魔をしちゃいけないんだよ、って。そんな小うるさい大人みたいなことを言いそうになった。
けど、本当に心に浮かんだのは違う。ずるい。ずるいずるい。そんな無邪気に甘えようとしてるのが、ズルいって。そんな子供じみた癇癪だった。
「……じゃあ、ワレにーちゃんも行こうぜー」
「え?」
「ダイジョブダイジョブ、リンなら気にしねえって」
「あ、いや、ワレ、は……」
手を引いてくるみんなに、仕方ないよねって言い訳をしながら、ワレはあにきの元に向かうのだった。
※※※
「あん? どうしたガキども……て、ワレじゃねえか」
あにきは奥のスペースにいて、モノクルを掛けながら腰掛け、膝を組みながらハードカバーの本を捲っていた。集中するときに掛けるモノクル姿、結構好き。
「……ったく。大方、無理矢理連れまわしてんだろ。あんまり迷惑かけんなっての」
「ギャー! 何すんだよ!」
あにきは小人族のみんなの頭を小突いたり、グリグリと拳を押し付けたり……ああ、気の置けない仲って言うのかな。正直、羨ましかった。
「ワレも、こんな湿気た場所に顔出したりしないで自由に町中見て回っていいんだぞ」
「そ、そんなことは、ない……みな、よい子たちだ」
「……?」
「ホッホッホ」
いつの間にか隣にいたのは背の小さいお爺さん、だった。
「よう来たのう悪ガキども。今日は特別にワシが直々にこの大図書館の秘密の小部屋を見せてやろうて」
「えーいいよめんどくせー」
お爺さんが小人族のみんなを連れて行く傍ら、一瞬だけ目が合い、ウィンクをしてきた。
「悪かったなうちの悪ガキどもが。折角だからゆっくりしてくといい」
また、だ。
「そんなことないよ。さっきも言ったけどみんな、いい子たちだから」
きっと、分かっていたんだと思う。
あにきのところに行く勇気がなくて、踏み出せなかったワレのことを。手を引っ張って、連れ出してくれたんだ。
それは多分、あにきの背中を見て育ったから。そういうこと、なんだと思う。
「……ワレも、悪い子なの。ホントはね、あにきのところに行ったら迷惑だってわかってて。でも、やっぱり傍にいたいなって。だから、ついてきたの」
「……そうだったのか。悪かったな、察してやれなく……」
「だから! ね、ワレも、悪い子なの」
ハッ、ワレ、何言って……。
「……ううん? えぇ……っと……」
「い、今のは、忘れて……」
アリアさんとかにも少し感じていた嫉妬。
あにきにとっての距離感が、気の置けない感じが、それが少し羨ましくて。
「……うん。これからはまあ変な遠慮とかすんなよ。いいな」
ポンポン、って頭を軽く叩いてくる。
「えへへ」
それが少し、嬉しい。
「……とはいえ本当に気にしなくていいんだけどな、作業としてはつきっきりってわけでもなく話をするくらいの時間はあったし。何ならこの後数日くらいは外出ててもいいくらいだ」
「ホント!?」
思わず立ち上がってしまう。そんな様子を、あにきは優しく見守てくれていた。
「そういえばあにきは何読んでるの?」
「んー……? んー……古典文学って奴かね。おとぎ話の類なんだが。あのジジイの正体とかこれで分かったりするもんかねって気になってな」
「へー……」
「読むか? 何なら解説してやるが」
「うん」
それじゃあ……こっちに来て?
「いや、その……どうしてこうなるかな?」
あにきを膝の上にのせて。内側からあにきが本のページをめくる。
「もっと身体を寄せてくれないと見えないー」
「ぬぅ、でもこれ以上はおっぱいに思いっきり当たるぞ」
「別にいいよ……?」
むしろもっとあにきにもたれかかってほしい。あにきは一つ溜息を吐くように背中から倒れこむように身体を預けてくれた。
「……会ったことはないんだが小人族にも色々あるみたいでな。魔法に長けた一族だけじゃないみたいなんだ。ゴブリンにドワーフ……七人の小人……その辺りの伝承に伝わっているのもまた小人族の氏族の一つで……」
あにきは丁寧に解説してくれて、でもやっぱりちょっとわからないことだらけだった。
「……褐色の肌に刺青を入れた戦士、なんてのもいるらしい。時の権力者の命じるままに力を振るい続けて色んなところから恨みを買って絶滅した名前も残らない氏族……まあ眉唾だなー」
「へー……」
あにきとの楽しい時間がいつの間にか過ぎていて、暗くなった道を二人で手を繋ぎながら歩いて帰った。
※※※
「リンくん、いきなりだけど家を空けようと思うの」
「うん?」
あにきのご両親との団らんの時間で切り出された。
「どっかに出かけるのか?」
「ええ。アリアちゃんから連絡があってね……ぁ……」
「……アリアの?」
思わずうっかり漏らしてしまった、と言う感じで、エレーナさんはあらあらと慌てていた。
「……まあ別にアリア経由のことだったら別に心配は要らんだろうし詳しく聞こうとは思わんけどな」
「ええ。悪いことではないから心配しないで。この人もついているから。ね」
エレーナさんに寄り添うアレンさん。その姿はとても自然で、愛し合って、信頼し合っているのが分かって、何だか見惚れてしまう。
いつかあにきと、こんな夫婦になれるのかな、なんて。
「それでどうしましょう。このままこの家を使ってくれても構わないのだけれど」
「んー……折角だからアオイのところに金を落としに行くさ」
「まあアオイくんに? それはいいわね」
「アオイ……さん?」
「ああごめんなさい。ワレちゃんは知らなかったわね。知り合いの温泉旅館を切り盛りしている子なの。温泉、しっかり楽しんでね」
「温泉……りょかん……?」
よく分からないけれど、とにかく、明日からはその温泉旅館というのに滞在することになるのだった。