長年相棒だった全身鎧の戦士が実は甘えたがりの高身長女子だった話 作:山崎世界
数日後。
とうとう指輪が完成した。
「ワレ……その……受け取ってくれるか……?」
不安に思うことなんて一つもないはず。そう確信していても、心臓がバクバクしながら指輪を差し出す。
「……」
ワレは笑みを浮かべ、指輪をギュッと握りしめる。しかし、その指輪を嵌めようとはせず、真剣な眼差しで俺を見つめていた。
「お父様が来たときに、ね。実はアリアさんと話をしたの」
「アリアと……? 一体何を」
「このままあにきに守られるなら、そうなったらきっと、もうあにきを守ることは出来ないんだって、そういうこと、かな」
そうか。そうかもしれない。
「それは、イヤだって、そう思ったの。そう思ったら、お父様にだって立ち向かえる勇気が湧いてきた。ちょっとだけ、足りなかったけど」
何を話そうとしているのかはまだ分からない。けれど、俺はワレの言葉をずっと待っていた。
「ワレは、ずっと弱虫のままだった。それでも、そんなワレでも、あにきと出会って強くなれたって、そう思うの。あにきと一緒にいたから、強くなれたんだって。あにきのためなら強くなれるって」
ワレは俺の手を握る。
「あにき、今まで、ずっと見守ってくれて、守ってくれて、傍にいてくれて、ありがとう。だから、ワレの旦那様になってください」
そして、ワレは自分の握りしめていた指輪を、俺の指に嵌めた。
「……なんて、ね。あにきが、ワレのために作ってくれた指輪なのに」
「いや、そうだな……うん。まあ、いいんだ。これが俺たちらしいのかもな」
一度目は俺からプロポーズをして。
二度目はワレからプロポーズをして。
だから、俺たちはお互いに相棒で、最愛の人になるのだ。
「これからはあんまり無茶とかしちゃダメ、だからね」
「その時はお前が守ればいいだろ」
「あ、うん。そうだね」
ぎゅ、っとお互いに左手の薬指に指輪を嵌めて、手を絡めあう。
「……あにき……」
そして、静かにキスをして。
俺たちは今度こそ結婚を誓うのだった。
※※※
そして俺たちは、俺たちの出会った町へと帰る。すると、何やら町中に装飾が施され、心なしか騒がしい。
この時期に祭りか何かあったか?
「あ、帰ってきたわね。思ったより早かったじゃないの」
珍しく店の外に出ていたアリアに出くわす。
「て、母さん?」
そしてアリアの傍らには何やら用向きで出掛けていたはずの母さんと父さん、それに……ヴァルセントもいた。
「一体どういう集まりなんだ?」
「まあまあ細かい話は後よ後。とりあえずアンタはこっち。ワレちゃんはあっちね」
と、俺はアリアに。ワレは母さんに背中を押されるようにして別々の場所に移動させられる。一体何だってんだ。
「ほら、さっさとこれに着替えなさい」
案内されたのはギルド内の一室。そこでポイっと手渡されたのは純白のスーツ……タキシードだった。
「これ、って……まさか……」
「アリアちゃん、リンくん、こっちの準備も出来たわよ」
「はーい。ほら、行くわよリン」
事態を呑み込みかけたところで母さんが呼びに来て。
「……あ……」
辿り着いた先には、純白のウェディングドレスを着たワレの姿があった。
「ふふん、ま、私も作るの初めてだったけどね。何とか上手くいってよかったわ」
「あぁ……」
「……うぅ……」
当事者である俺とワレは、何というかその……言葉を失っていた。
「まあアンタたちのことだしねぇ。こうでもしないと結婚式とか多分やんないままになっちゃいそうだしさ。節目は大事じゃない。ねえ?」
アリアが意地の悪い笑みを浮かべながら肘を突いてくる。それで何とか少しずついつもの俺たちを取り戻していく。
「綺麗だぞ」
「……あにきも、かっこいいよ」
「ゴホン」
と、二人の世界になりそうだったところで咳払いをしたのはヴァルセントだった。
「お父様……」
「ワレ。ワシが言えた義理ではないかもしれんが……幸せになれ。彼はワシが認めた男だ」
「……はい」
ヴァルセントとワレは軽く抱擁を交わす。
そこでふと気づいたのは、その隣に軍服を着た長身の女と、目深くフードを被った小柄な男の姿だった。
長身の女は黒い髪にきりっとした目つきだがとこかワレに似ている。小柄な男の方は、女に寄り添う、というよりも護衛をしているといった様子で、一瞬目が合ったと思ったらその鋭さにぞくりとした。
(……強いな……)
その小柄な身体にもかかわらず、放つオーラは強者のそれだ。首筋あたりに刺青のようなものが見えた。見たことのない紋様だが。
「マリアンヌお姉様」
ワレは長身の女とまた抱き合っていた。そうか、あの女が例の。
「ワレ、良い人を見つけたようだな。幸せにな。ただ、何か困ったことがあればこの姉を頼ってくるといい。いつでも待っているぞ」
「うん……ありがとう」
麗しい姉妹の再会だった。
「まあ時間はあったからね。色々と話はしたわ。別に構わないでしょ?」
アリアときたら色々な気を利かせていたらしい。全くコイツは……。頭が上がらんかもしれん。
「ところでマリアンヌ。どうする? 見たところこの男中々強いぞ。妹を誑かした男をギタギタにしてやる、には中々に骨が折れそうだ」
「え?」
「な、こらカノッサ! 余計なことを言うんじゃない!」
「余計? 余計だったのか? ふむ……難しいな」
カノッサ、と呼ばれた男は腕を組んで眉を寄せながら思い悩んでいた。その様子はどこか可愛げすらある素朴なものだった。
「あぁ……そう、なんだね。この人がマリアンヌお姉様の大切な人……」
ワレは呟く。そうなのか? というか何でわかるんだ。姉妹間でそういう勘が働くものなのだろうか。
「う、む……そう、だぞ……」
マリアンヌは少し顔を赤らめながら、肯定した。
「そうか。ならばこれからはオレたちは一族となるのか。よろしく頼む。リン」
「ああ。よろしくな」
そしてカノッサもまた俺に握手を求めてきたので、それに応える。
それからは目まぐるしく過ぎていく。
「二人とも。二人は、どんな時にもお互いを支え合って、ずっと傍にいることを誓えるかな?」
小人族の婚姻に則って母さんが見届け人になっていたり。
「……フン! あなたなんて知りませんわ! どこへなりともお幸せに!」
「……何なんだよお前ら」
「ワレさんどうかお幸せに」
「うん。ありがとう」
前に依頼を受けたフィリス魔法女学院の女生徒どもに絡まれたり。
「よ! お二人さん! お幸せに!」
ギルドの酒場で酒の肴になったり。
そして、そんな宴も終わりを迎えて、俺たちは俺たちの家へと帰るのだった。