※この作品はR-18です。

魔鍵師A・NTR~敗北剣士のやり直し英雄譚〜   作:ハルカ

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リメイク版プロローグです。
探り探りやっていきます。
よろしくお願いいたします


プロローグ

炎がたゆたい、血飛沫が舞う。

廃墟の群れの中を闊歩するのは、人の形をしているものから、明らかに人外だと分かるシルエットの数々だ。

獰猛な唸り声と、気狂いのような奇声を上げながら異形達は一点をめざしている。

魔妖と呼ばれるケダモノ達が群がる中心には、一人の青年がいた。

 

少し長めの黒髪に、こけた頬と生気のない瞳。息を切らし、倒れそうになる身体を構えた打刀で支えながら、たった一人で必死に魔妖の相手をしているのだ。

 

正面から来るのは、四足歩行の獣。口より上は、真っ暗な空洞のような頭部を持った個体だった。

大口を開け、ギラついた牙を剥き出しにして飛び上がった。

対して、青年は奥歯を噛み締めながら横薙ぎの一閃を放った。

両断された残骸の影から二匹目が襲い来るが、返す逆袈裟の刃で首を斬り飛ばした。

雨のように体液が飛び散り、彼の纏う黒衣を濡らし、霧散する。

しかし汚れやらを気にする余裕はない。

後続には、巨大な腕を四つと、一対の角を備えた魔人が待ち構えているのだから。

 

深く息を吸い、血糊を払って打刀を青眼に構えた。

刀身には亀裂が走り、鍔も半壊している。

覇気も何もなく、もはや立っているのすらやっとだ。

それでも倒れないのは、僅かに残った矜持故だったのだろう。

 

吐いた息を浅く吸い、そのまま止める。

 

青年が駆けだしたのは、魔妖の群れが吠えたのと殆ど同時だった。

 

青白い光を薄く纏った彼の、正面からの突貫。

 

一体目の首筋を抉り、振るいながら頭を斬り飛ばす。

それを足蹴に飛び上がると、すれ違いざまに二匹を切り裂き血しぶきを上げさせた。

 

このまま、と勢いをつけようとした時だ。

駆け抜け、跳躍した青年の脚が何かに捕まれ、それ以上の動きを封じ込められた。背筋に悪寒を感じた時にはもう遅かった。身構えるより先に勢いよく地面へと体が叩きつけられ、激痛と共にバウンドする。

 

激痛で意識が飛びかけるのを、奥歯を噛み締めて耐える。打刀を突き立て身体を起こし、追撃に来る魔妖の拳へ上段からの振り下ろしを放った。

 

交錯する僅かな煌めき。

 

打ち負けたのは青年の刃だ。

亀裂が広がり、半ばから刀身がへし折れ、異形の放った拳を防ぐことも出来ず直撃した。

軋む、どころの騒ぎでは無い。砕けたかと錯覚するほどの衝撃と激痛で、意識を失うことも出来ず瓦礫の中に転がっていく。

 

粉塵の中、朦朧とした意識の中で青年は吐血する。肋骨は折れ、肺に刺さり呼吸を阻害してきた。

助からないと確信し、自分の人生に価値はなかったと、青年、神埼九朗は今際の際になってようやく気づいた。

 

いや、その言い方へ語弊がある。

 

より正確に言うのならば、無価値だったと認めた、という方が適切だ。

 

ある時期までは、自分こそ選ばれた人間なのだという驕りがあった。

 

予期せぬ事件に巻き込まれ、そのまま何も知らずに戻ることも出来た。

 

けれど、尊敬する師匠に才能を見出され、誰かのために生きる魔鍵師。

そんな非日常の道を選んだのが3年前のことだ。

 

人知れず、されど人々の日常を守るため、異形の存在と命を賭けて戦う。そんな英雄的存在になれたと確信していた。

最初は順風満帆だった、と思う。

基本を学び、努力し、時々サボり、幼馴染や女友達、先輩と共に戦った。

 

それが歪み始めたのは、いつからだったろうか。

 

きっかけや、分岐点はいくつもあった。

 

九朗が気付かぬ恋心を抱いていた幼馴染と、亡き師匠の親族が関係を深め、その成熟した淫欲を隠さなくなってきた頃。自分から心が離れ始めた幼馴染に、そうなるより早く心の内を伝えていれば。

そう思った時には、幼馴染は情欲の虜となり、自分の前ですら男に股を開くような、淫売と呼ばれてしまうほどに堕ちていった。

 

仲を深めていた男勝りな女友達に新しい交友関係ができた。程なくして様子がおかしくなっていたことに、当時の九朗は気づかなかつた。

色気を纏い、罪悪感のあるような表情。それは、彼女が裏で醜い輩に媚薬を盛られ、普段は隠している痴態を記録された故だった。彼女が魔妖の餌となり、魔妖の一派に仕組まれていたことだと知ったのはその後だ。

 

信頼していた先輩の女性が、パトロンとの会食を増やしていった。ただ、いつしか共に任務へ出るよりも会食の方が多くなり、やがて彼女が任務に出ることはなくなった。

ふとした時、肉付きの良い臀部や、実った乳果実を隠す気のない格好の彼女を見た。それは、既に妊娠し、ネットで卑猥な動画を流された頃だ。

 

そして何より、魔鍵師見習いとなったばかりの年だ。

師匠に守られ続けた時から、全ては狂っていたのかもしれない。強大な魔妖の王にねじ伏せられた九朗を守るため、その身を捧げた女傑たる師匠。

やがて彼女は、魔妖の孕袋として、淫猥なる魔妖の女王として現れた今回の侵略でのことだ。

 

あらゆる分岐点、分水嶺で間違え続けた結果がこれだ。

 

全て失った。

守るべき者も、並び立つ仲間も、尊敬すべき人も。

元よりそれは、九朗のものですらなかったのかもしれない。

 

魔妖の近づいてくる足音が、処刑執行の宣告のように聞こえる。

もはや立ち上がる気力は潰え、折れた刀を握る力もない。視界すらも殆ど見えていないのだ。これで戦うことなど出来るわけもない。

今の九朗に出来ることは、項垂れ、瓦礫に背を預け、最期の瞬間を受け入れることだけ。

 

――あぁ、本当に……無価値で無意味な人生だった……

 

そう、声にもならない呟きが零れた。そして、魔妖の鉄槌が振り下ろされる。霞んでいた視界が暗転したその時、神埼九朗という敗北者の人生は終りを迎えたのだった。

 

**********

 

暗い中に、一筋の光が見えて目を覚ます。

自分の人生を終えたと言うのに、どうして寝起きのような思いをしなければならないのだと思いながらも、九朗はゆっくり目を開けていく。

全身に纏わりつく倦怠感を引きずり、九朗は周囲を見渡しながら息を呑んだ。

 

「どこだ、ここ……」

 

そこは、まるで高級ビルのように丁寧に塗装され、整えられた廊下だった。

見渡す限りの白い景色は、どこか薄ら寒い印象すら与えてくる。何もなく、ただひたすらに見えない先までが続いているのだ。

立ちすくむ中で歩を進める。すると、九朗は自分という存在が崩れていくのを感じ取った。

 

「なんだ……ここは、そういうことか……」

 

恐らく、ここはあの世の何処かなのだろう。

地獄や天国のどちらかに送られる手前の、後戻りできなくなる前の何処か。

気配を辿れば、見えなくとも似たような存在を感じ取ることが出来る。彼らも、これからどうなるのか振り分けられると考えれば、自分の立場もよく分かった。

きっと自分は地獄に行くのだろう。何も出来なかったのだから当たり前だ。役立たずには、その結末がお似合いだ。

 

『おい、そこの。何を湿気た面をシているんだ?』

 

ふと、項垂れ歩く九朗に何処からか声がかかった。

男の声だ。

初めて聞くソレに九朗は視線を移すことも無く、ただ無気力に歩いていく。

 

『なんだ無視か? まぁいい、俺はなぁ……』

 

しかし、男は九朗の態度もお構いなしに話し始めた。

自分は平民の産まれで、運良く剣術を学ぶ機会を得たこと。

戦場を駆け、悪鬼羅刹と切り結び、剣客として強くなったこと。

後輩には慕われ、女人には愛を告げられ、多くの仲間を手に入れたこと。

それでも、やがてお偉方から疎まれ、敵視されて立身出世の道も絶たれたこと。

 

何を言っているのか、殆ど頭に入ってこなかった。

しかし、それほど順風満帆な人生を送ってきても、終わりへ向かうにつれて上手くいかないものだと言うことは理解した。

その事実が、何も成すことが出来なかった九朗を少し慰めた。

 

ふと、突き当たりにたどり着く。

左右に別れた道は、恐らく片方が閉ざされ、片方が更に続いているのが感じ取れた。

右と左。交互に視線を向けた九朗は、疲れたような笑みを浮かべながら道を選ぶ。

 

『おい、なにしてんだ。そっちは行き止まりだろ』

 

それを男が引き止めてくる。

言われた通り、九朗の選んだのは何処にも繋がっていない道だった。何も間違いではない。

九朗は初めて、男へ視線を向けて言葉を紡ぐ。

自分はもう終わった人間なのだ、と。

 

『終わった……終わった、かぁ』

 

男は表情を歪めた。その声に振り向くと、初めて視線が合った。

背丈は同じほどで、着流しに打刀を携えている。年齢は九朗よりも一回りほど上だろうか。

どうでも良いと切り捨て、そのまま行き止まりへと向かおうとする。

 

『おい、お前さんはこっちいけ。代わりに俺が行く』

 

しかし、男が九朗を引っ張り位置を入れ替える。

何を言っているのか、と問いかけようとするが、力強い視線に押し込められてしまった。

なぜ彼が自分の代わりになるというのか分からない。声を出そうとし、行き止まりへと歩む彼を止めようとした。

 

『俺は満足した。んが、お前さんはそうじゃないだろう?』

 

男は精悍な顔立ちをしていた。異性同性に関わらず、その笑顔はきっと他人を惹きつけるのだろう。自分には無いカリスマ性と、懐の深さ。そんな彼よりもなぜ自分が救われるのか。

疑問符は尽きない。しかし答えが返ってくることはない。九朗は男が入るはずだった道に吸い込まれ、男は九朗が選んだ道を代わりに進んでいく。

消えゆく背中に手を伸ばした時、男が最後に言葉を残した。

 

『諦めるんなら、やり切ってから諦めな。その時まで、せいぜい踏ん張れ』

 

それが、九朗と男が交わした最後の言葉だった。残ったのは手のひらに宿る熱のみで、姿も形も見ることは出来ない。

自分のせいで。自責の念が溢れ出す。

声にならない声が零れ、後悔が薄れゆく意識を満たす。体が崩れ、流れる光の渦に飲み込まれながらも、その思いは消えない。

 

忘れない。

 

忘れてはならない。

 

自身の無為な人生を。

 

自身に未来をくれた男を。

 

彼から受け取ったこの熱を。

 

生まれ変わっても、忘れない。

 

**********

 

 

カラカラクルクル――

 

カラカラクルクル――

 

カチリ、カチリ、カチリ――

 

歯車が回る。

 

歪に噛み合っていたものに、異物が混じる。

 

悲劇に塗れ、苦痛に満ちたポルノショーは、託された刃によって崩れ去る。

 

これは、偽りの英雄を狩り、不幸を正し、悪意の気まぐれを正す、叛逆の物語だ。

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