※この作品はR-18です。

魔鍵師A・NTR~敗北剣士のやり直し英雄譚〜   作:ハルカ

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よろしくお願いいたします。


第九話 決意の戦線

 

「くそっ、クソクソクソっ、ふざけやがって、あの女……くそっ!」

 

怒りに満ちた声を上げながら、竜凪和馬は街中を闊歩していた。引っ掛けた二人の女は既に傍にはおらず、ただ一人不機嫌さを纏いながら街ゆく人々を押しのけている。

 

竜凪和馬にとって、世界は思い通りになる都合の良い舞台だった。

資金があり、才能に溢れ、人脈にも長けている。女も勝手に相手から寄ってくるのはもちろん、幾度の苦難を容易く乗り越えてきた彼には、この世は自分を引き立てる物語のように思えた。

 

それ故に、実績を積み上げた竜凪和馬に訪れた配置換えの指令は、予想外とも言えるものだった。

大都会のど真ん中にある本部から少し離れた、しかして田舎町とも言えない中途半端な町。古臭くはないが目新しいものもないようなそこは、魔妖の発生率が高いゆえに人員を求めていたのだ。

 

最初は不満だった。若く、才能溢れる自分がどうしてそんな場所へ行かなくてはいけないのか。こんなものは、うだつの上がらない中年魔鍵師がやれば良いのだ。

まぁ、同じく配属されている同年代の美少女、神楽坂朱音と、隊長を務めている美女、神城千空がいるので妥協してやろう。

隣に邪魔なモブがいるが、どうせ自分には敵わない。

当たり前だ。なぜなら竜凪和馬は主人公なのだから。

 

しかし……

 

「くそっ、ふざけやがって、舐めやがって、あのクソども……っ!!」

 

朱音には袖にされ、千空には相手にされず、あまつさえモブと侮った神崎九朗には捩じ伏せられた。

何か汚い手を使ったに決まっているが、だとしてもあと一歩で手に入れられた女を、横から奪われたのは納得できない。

所詮は竜凪和馬を主人公とした物語の、取るに足らない端役であるはずなのに、その立場を脅かす存在が許せないのだ。

 

「俺は主人公だぞ……ふざけやがって……ふざけやがって!!」

 

不可解な譫言と共に放たれた蹴りが、路地裏のゴミ箱を吹き飛ばす。飛び散った生ゴミが異臭を放ち、それを九朗の頭に見立てて踏みつけ、踏みにじる。

それで少し落ち着きを取り戻したのか、竜凪和馬は歪な笑みを浮かべ、ポケットから一本の注射器を取り出した。プラスチック特有のチープな光を宿した注射器は、どこか毒々しい色の液体をため込んでいる。

本来ならば忌避すべきソレを、竜凪和馬はためらいなく首筋へ刺し、一気に体内へと流し込んでいった。

 

「あ゛ぁ゛~……きっくわぁ……」

 

正気とは思えない声音と瞳孔の開き方だった。明らかに正常ではない。それを本人も分かっているのだろう。しかし認識としては周囲の常識とはかけ離れている。

不気味に舌なめずりをし、危険域にまである多幸感でこれからのことを夢想する。

問題ない。仕込みは澄ませてある。自身が主人公となり、端役が何も出来ないのだと、簡単に証明できる。

朱音はすぐに自分に靡き、あの肉厚な太腿を開いて差し出してくるだろう。

千空も端役を見限り、疑いをかけていた謝罪と共に子宮を明け渡すだろう。

 

「まぁ、問題ねえな……何にも、問題ねえ」

 

**********

 

夜が来る少し前の黄昏時。

感知できる範囲の火種を全て狩り取った九朗は、打刀を鞘へと納めながら思考を巡らせていた。

原因となるのはやはり、竜凪和馬の存在だ。

今は視界の端にその姿が見えるよう行動を共にしている。日中、朱音と接触させてしまった失態のせいだが、それ以上に何かしらの裏を探る必要があるためだ。

 

「おい、何見てんだよクソモブ」

 

監察しているのがバレた。すると、やけに上機嫌な竜凪和馬は、舌打ち交じりに長剣を構える。

遊びで魔鍵を向けてくるのは感心しないが、大した脅威も感じない。一度勝利した相手だからと侮っているのではない。正当な脅威判定だと九朗は思っている。

あの時のように起動しているのならばともかく、光も何も帯びていない竜凪和馬の魔鍵は単なる近接武器でしかないのだ。

 

「ちゃんと仕事をしてるのか見てただけだ。アンタが管轄したところを周るのは朱音だからな」

 

「うるせえよ。てめえみたいなのに言われる筋合いなんざ無えってんだ」

 

「筋合いって……一応、今の責任者は俺なんだけど……」

 

「うるせえって言ってんだろクソモブ。どうせ何も出来ねえくせによ」

 

再度の舌打ち。言いながら立ち去ろうとする竜凪和馬の背を、九朗は打刀に手を付けながら観察している。

千空からの情報に寄れば、短期間で大量の魔妖を討伐し、実績を上げていった話だが、歩き方や構え、言動から立ち会った感覚に至るまでが、何処か薄っぺらいのだ。

これが、いったいどうやって実績を上げてきたのか本当に分からない。

何かもう少し、証拠や手がかりがあれば、と考え込んだ時、セットしていたインカムが起動した。

 

「朱音、どうかし」

 

『九朗、マズい……魔妖が集まって……九朗ッ!』

 

「っ、朱音……朱音!」

 

通信を繋げると共に、朱音の切迫した声にノイズがかかり、途切れた音声に九朗が寒気を覚える。

魔鍵師の通信は特殊な加工をしてあるため、電波が通じないとしても支障が出ることはない。

ソレが途切れ、呼びかけにも応じないと言う事実が、緊急性と危険性が跳ね上がったことを意味していた。

ならば何をするべきか。それはプライドも何も捨てて、急ぎ応援に向かうことだ。

 

「竜凪、今すぐ朱音のところに……」

 

そのために竜凪和馬へと声を上げた。何が起きてるか正確には分からない今、一人より二人が常識だ。手を借りる相手が最悪と言う点には目を瞑らなければいけないが、状況が最悪になるよりはマシだ。

そこまで考えた時、竜凪和馬の表情が眼に入り言葉を止めた。歪な笑みを浮かべ、この状況を、朱音の窮地を知り悦んでいる。

 

「アンタ……なんて顔をシてるんだ……」

 

「あぁ? なんか言ったかクソモブ責任者」

 

「なんで、そんな嬉しそうな顔をシてるんだと、言っているんだよ、俺は」

 

静かな問いかけを白々しくかわそうとした竜凪和馬に、再度具体的な追及をする。

確証はない。だがしかし、その表情と先ほどの”何も出来ない”という言葉の二つが、九朗が持つ疑念をより強く、明確なモノへと変えていった。

それはへばりつく悪夢がそうさせるのかは分からない。だが、純粋に、今この男を向かわせることは危険だと直感している。

 

「嬉しそうだぁ? 何言ってんだお前。頭でも湧いたか?」

 

「意外と冷静だよ。冷静だから、いまこうしてアンタに詰問する余裕がある」

 

鯉口を切り、抜刀の体勢を取る。空気がひりつき息が詰まる。

首筋を流れる冷や汗は留まることを知らず、したり顔の竜凪和馬の危険性を本能が教えているようだ。

朱音が危険だと理解しているが、ここでこの男を見逃せば、より最悪の展開へと向かいそうな、そんな予感が捉えて離さないのだ。

 

「くく、そりゃ嬉しいだろうよ。こんだけ魔妖が集まれば力を見せつけれる。そうすりゃ評価もあがって万々歳だぜ。ようやく俺に正当な扱いがくるってもんだ」

 

ベラベラと口を開き、肩に担いだ長剣をぎらつかせる。日が落ち、次第に夜が深まっていき、竜凪和馬の口調とは裏腹に空気が剣呑さを増していった。

嫌な予感が九朗の背筋をかける。脳裏にこびり付く最悪の結果は、思い返せばこの後に起こったものだったかもしれない。

大量の魔妖に襲われた朱音を、この男が助け、その後に気が付けば……

 

「……どうして魔妖が集まってるって知ってるんだ?」

 

ふと言葉が口から出る。九朗の場合は、悪夢と朱音との通信を元にした推測で成り立った思考だ。

しかし、竜凪和馬のソレは違う。状況を知らず、説明も受けず、まるで何が起こるのかを端から知っていたかのような口ぶりだった。

揚げ足を取るような思考だろうか、と止まりかけるも、態度と言葉が原因の究明へと一足飛びで到達する。

 

「アンタが……仕掛けたのか」

 

これは問いかけではなく、確信だった。否定の言葉は返ってこない。むしろ面倒なことになった、とでも言うかのように表情を歪めている。それこそが答えだった。

燃え盛るような激情とは違う、凍てつく殺意が九朗を包み、抜刀させる。夜闇を鋼色の刀身が揺らめき、纏う魔力が青白く光りを放つ。

あと一秒もあれば、九朗はためらうことなく竜凪和馬へと斬りかかっていただろう。

そうしなかったのは、一歩を踏み込む直前にインカムが一瞬繋がったからだ。

 

『九朗、アタシは大丈夫だから、そっちも……ッ!』

 

「ッ、朱音……朱音!」

 

朱音の声が聞こえた。追い詰められながら、しかして九朗のことを想う声だった。冷静さが戻り、そこでようやく昨晩交わした言葉を真に理解し、自分がなにも理解できていなかったのだということを知る。

こんな気持ちだったのだと思い知らされ、心臓を締め付ける痛みで膝を折りそうになってしまう。

なぜ助けを求めてくれないのか、という不安が、恐怖へと変わり耐え難い苦しみに成っていくのだ。

 

「こんな……感覚か……」

 

何も言ってもらえないとは、信じてもらえていないということ。

助けを求められないことは、期待すらされていないということ。

怒りではなく悲しみが生まれ、抑え込んでいたはずの欲望が腹の底で渦巻く。

今ここで蓋をしてしまうのは容易い。一度脇に置き、刀を納めて竜凪和馬と共に朱音を助けに行くのが確実だ。

この男の真意などは、あとからいくらでも問いただせば良い。

それが正しく、魔鍵師としても正道なのだと理解している。

 

「なんだ黙りやがって。さっきの推理ごっこはもう終わりか?」

 

「……ああ、そうだな」

 

竜凪和馬が何かを言ってくる。

不思議と不快感は少なかった。いやむしろ、向けていた感情が一度消え去ったと言った方が正しいだろうか。

小さく笑い、刀を軽く振るいながら納刀する。しかし纏う魔力はより濃さを増し、淡かった光は鋭くコンクリートの地面を削り歪めていく。

 

「アンタなんかに構ってる暇はない」

 

言い捨て、真に心が願う方へと九朗は駆ける。

やるべきことは決まっている。

最初から、きっと決まっていたのだ。

 

**********

 

魔妖の大群は、それぞれの系統が決まっているわけではない。猿人のようなモノから四足歩行のもの、形容しがたい異業種のようなものまで集まっている。その群れが一点に向かっている先にいるのは、魔鍵を纏った朱音の姿だった。

廃屋の屋根に座し、スコープ越しに這い寄ってくる魔妖の群れを視認し、魔力を回して引き金を引く。

ガウンッ、と重い音が響き、魔力によって作られた弾丸で地面と共に空を抉った。

 

「っ、ああ、もうっ! 数が多すぎるってのっ!」

 

近距離戦闘用の拳銃ではなく、そもそも魔妖を近づけないようにと選択された狙撃銃。

連射は出来ないが、魔力を込めれば込めるほど威力を増し、着弾先の魔妖を吹き飛ばしていく。

しかし、もう数分以上も休まず狙撃しているせいか、朱音の息が上がり、狙いの精度も悪くなっていく。

段々と魔妖の群れが近づいてくる。場所を変えた方がまだ勝ちの目があるだろう。

形状を狙撃銃から大型拳銃へと切り替え身を起こす。

 

「まずは九朗と……くぁッ!?」

 

その刹那、立ち上がった朱音の身体が何かと衝突した。

あばらが軋み、浮かぶ身体が吹き飛ばされ落下する。何が起きたのかを思考するよりも先に答えが迫ってくる。空をかけ風を纏わせた鳥類型の魔妖だ。倒れ伏す朱音を、翼を広げながら虚空の頭部で見下ろしてきていた。

大群の中から死角を突いてきたのだろう。悪知恵の働く相手だ。

 

「あいつ……、舐めたことをっ!」

 

立ち上がり拳銃を構えようとした矢先、四足歩行の魔妖が飛びかかってくる。鋭く、歪な爪が朱音を狩り取ろうと迫り、反射的に銃口を向けて三度引き金を引く。連なる銃声が魔妖を塵へと変え、背後にいた小鬼型の頭を吹き飛ばす。

そのまま囲まれる前に立ち去ろうとするが、連射の所為か魔力が薄く、力が入らない。しかも今の攻撃の反動か、激痛で咳き込み立つことも難しく膝をついてしまった。

 

「ふぅ……ふぅ……っ、あぁ、もう……最悪」

 

囲まれた。

小鬼が多い。虚空の頭から不気味な笑い声が聞こえてくる。その次に多いのは獣型か、唸り声と爪が鳴っている。猿人型はそこまで多くないのか姿が見えない。空は未だに飛行型が支配し逃亡を許してはくれないようだ。

何とも運がない。なんでよりによって今夜なのだろうか、とため息すら出てしまう。

本当なら、朝が来たら九朗とご飯をと思っていた。気まずさを解消して、また一歩踏み込めたら、と思っていたのだ。

 

「こんなことなら、告白くらいしとけばよかったかな……」

 

情けない遺言だ。負けヒロインにすらなれないような負け惜しみ。

深く息を吸い、激痛で意識を覚醒させながら拳銃を構える。最期の最期くらいは、気高く美しい戦士として九朗の中では覚えていてほしい。

 

「ほら、来なさい」

 

その一言にあわせ、上空を旋回していた魔妖を打ち落とそうと引き金に指をかけた。届くかは分からない。しかし、自分を打ち落とした相手に何もしないのは癪だった。不敵な笑みを浮かべ、見えない表情を歪ませてやらなければ割に合わない。

 

上空の飛行型もソレに気が付いたのだろう。嘲笑うように身を震わせると。朱音の首を狩り取ろうと翼を傍目させ急降下してきた。

空気を裂き、命を奪おうとするその凶刃が朱音へと届かんと距離を詰めてきた。

 

刹那――

 

一筋の剣閃が飛行型の身を両断したのだ。

 

「え……っ」

 

朱音が声を漏らす。視界の先では、二つに裂かれた飛行型が黒の霞へと消え去る。直後、閃光が群れの中心部へと着地し、九つの軌跡を描く。

刃が煌めき、切り裂く音が駆け抜けると、朱音の隣へ閃光が収束した。青白い雷光を纏い、黒のコートをはためかせたその剣客は、打刀を鞘へ納め鍔鳴りの音を響かせる。

すると、閃光が通り抜けた魔妖たちを一拍遅れに斬撃が襲い、群れの戦線に大きな風穴を開けた。

 

「ま、さか……これって」

 

「ごめん朱音、少し離れよう」

 

優しい声がした。

そのまま声の主は、跪いたままの朱音を抱きかかえ、出来上がったばかりの通り道を駆け抜けていく。声と同じように運び方は優しく、そして何よりも、朱音を最も安心させてくれる男の温もりを感じさせた。

どうしてここにいるのか、どうしてここが分かったのか。色々なことを聞きたかったが、それでも朱音の口から零れたのは、たった一言だった。

 

「九朗……、九朗……っ!」

 

ただ自分を助けてくれた相手の名を、九朗の名を呼ぶしかできない。

呼ばれた九朗も何かを答えることはなく、朱音を抱きしめながら魔妖の大群を引き離していく。

その横顔は、昨晩まで見せていた張り詰めた表情ではなく、何かを振り払ったようにスッキリとしていた。

 

「ごめん、朱音……俺は、何も理解してなかった」

 

「……え?」

 

やがて距離を作った九朗が、廃ビルのフロアに落ち着き朱音を下ろした。そこから出た一言は小さな謝罪で、言われた側としてはなぜこのタイミングなのかわからなかったが、その続きを黙って待っている。

九朗が一つ、二つと息を吸って、吐く。そしてようやく言葉の続きを絞り出した。

 

「俺が大丈夫なら、俺が何とかすればって……何とかなるって思ってた……でもダメだ。俺自身が何をしたいのか、何で何とかしたいのか分かってないから、色々と噛み合わなくて、めちゃくちゃになってた」

 

頭の中で絡まっていた思考を吐き出し、適切な言葉を言葉を選び、どうにか伝えられるように努力をしている。

どうすれば誤解なく、嫌われないように伝わるのかを考えているのだろう。震える手からそれを感じ取った朱音は、その手を取り九朗を見つめた。

 

「俺は、みんなを守りたいとか、みんなのためにとかじゃなくて……ただ、ただ……」

 

「いいよ。好きに言って」

 

言葉に詰まり、奥歯を噛み締める九朗へ、朱音が声をかける。

それは、どんなことを言われても九朗を軽蔑しない、嫌悪しないと言う宣言だった。優しく、ただ待つだけだ。促すこともされないせいで、九朗は誤魔化すことすら許されない。

息を吐き、吸い、再度吐く。普段は穏やかな表情を歪め、情けなさから目を伏せようとする。そうしないのは、神崎九朗が誠実で、真っすぐでありたいと願っているからだ。

 

「俺は、ただ……誰も奪われたくないっ、誰も、なにも……俺の傍にいてほしい、俺から離れないでほしい……だから、俺は……っ!」

 

涙が出そうになるのを堪えているのだろう。そこまでして絞り出した言葉は、余りにも我儘で、情けなく、なによりも九朗が隠そうとしていた弱さそのものだった。

朱音が触れた、初めての本心。どうしてここまで恐れているのかは分からない。

それでも良かった。

朱音にとっては、九朗が何を求めているか分かるだけで良かったのだ。

 

「ったく……言ったでしょ。アタシは、ここにいるって……」

 

立ち上がり、震える九朗へと歩み寄り、縮こまろうとする身体を抱きしめる。

痛みよりも先に、九朗を抱きしめたいと言う願いが強くなった。これは呪いも受けていない、朱音の本心だ。

ギュムリ♥と乳肉が潰れるほど強く、互いの吐息が触れ合うほど近く、宿った熱を伝え合っていく。

 

「あ、かね……俺は、こんな……」

 

「いいよ、別に……アタシも、似たようなもんだからさ」

 

九朗の弱音と同じように、朱音も抑えていた言葉がある。

ずっと千空が羨ましかった。九朗と触れ合い、女性として見てもらえることが妬ましかった。

あと一歩の勇気を出せない自分が疎ましかった。愛しい彼を支えることも出来ないのかと、苦しかった。

だから、それも今日で終わりにしてしまおう。

 

「アタシも九朗が好き」

 

「……え?」

 

「離れたくないし、あわよくばってずっと思ってる」

 

「あの、朱音?」

 

「この前も、呪いの影響がなくってもシたかった。ちょっと恥ずかしいけどね」

 

「いや、ちょっと……っ朱音」

 

「だからさ、九朗……」

 

繋げ、紡ぎ、畳みかけた朱音が、その手に拳銃を展開する。銃口が捉えたのは九朗よりも遥かに背後。足音を隠す気も無く迫ってくる魔妖の大群だ。

九朗も先に気が付き、鯉口を切る。数舜前までの弱弱しい空気は消え去り、戦線を立て直した魔妖たちへと鋭い視線を向けていた。

 

「背中は任せて、思いっきりやっちゃって」

 

「ああ、頼む」

 

声に気迫が乗り、九朗の身を青白い雷光が轟く。

口元に浮かんだ獰猛な笑みは、今までのような歪さが消えている。戦士として、狩人としての闘争心が剥き出しになった笑みだった。




カス……まさかのカスすぎる……

やくちゅうってだけじゃなくなんかよく分からんことまで……

九朗くん……言えたじゃねえか……

次回は大戦闘回。

呪印の凌駕でお会いしましょう
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