※この作品はR-18です。

魔鍵師A・NTR~敗北剣士のやり直し英雄譚〜   作:ハルカ

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大変お待たせいたしました。
仕事が立て込み、体調を崩し、中々直らずをこの数か月続けておりました。

ようやく決戦です。


第十一話 決着の剣閃

 

一対の閃光が刃を振るい、命を刈り取ろうとその殺意を剥き出しにぶつかり合う。

互いが互いを否定し、片や別の時空に起きた悲劇の復讐を、片や起こりえない理不尽への怒りを、それぞれ振るう刃へと注ぎ込んでいるのだ。

 

「ふざけんな、ふざけんな!」

 

血走った目で長剣を振るい、放たれる閃光が周囲の魔妖を滅ぼしていく。竜凪和馬にとって、一体どれだけの光景が正しく写っているのだろうか。

深く刻み込まれた斬撃の痕は治るわけもなく、力任せに長剣を振るう度、引きちぎれそうに揺れ動いている。

 

「俺が、俺が主人公なんだよ!だからあの人はコレをくれた!俺を選んでくれたんだ!」

 

焦点の合わないまま、悦びに満ちた声で叫んでいる。

歪な笑みを浮かべ、血を撒き散らしながら閃光によって周囲を蹴散らしていく様は、あまりにも不気味で脅威に感じるだろう。

しかし、遅いくる光の刃をいなし、受け流す九朗にとっては、どこまでも御しやすい獲物でしか無かった。

 

「ごちゃごちゃと……喚くな!」

 

怒りを載せた声が響き、振り下ろされる長剣に合わせて逆袈裟の斬り上げが迎え撃つ。

熱を纏った閃光が弾けるよりも先に巻き上げ、九朗を狙っていた刃を囲んでくる魔妖へと向けさせた。

 

「こいつ」

 

「お前の言ってるソレは……餓鬼の癇癪だ」

 

血を流す傷へと、九朗が鍔迫り合いから柄を叩き込む。

端正な顔が激痛に歪むが、構うことなくもう一度、二度と叩き込み黙らせた。

堪らず竜凪和馬が後退り、鮮血で地面を濡らすと、九朗はすかさず上段に打刀を構えた。

魂ごと叩き潰さんとする一刀が、一息のままに竜凪和馬を捉える。

 

「剛意――ッ!」

 

魔力が回転し、速度ではなく力に回される。

両腕から打刀の鋒にまで巡り、振り下ろされる刃が竜凪和馬の防御をものともせず叩き潰した。

速度ではなく威力へ切り替えた基本技術は、使い手によってその精度を増す。自動的に反応し、受け止めたはずの長剣は押しつぶされ、肩から脇にかけてを深く斬り裂いた。

 

「ぎゃっ」

 

「逃げるなよ」

 

痛みに呻き、後退する竜凪和馬へ宣告する。振り下ろしから脇構えに繋げた横薙ぎの一閃は、未だ剛意の力を纏っていた。

下段から放たれる逆袈裟の斬り上げが、地面を削り巻き込まれた魔妖を薙ぎ払い、長剣ごと吹き飛ばした。

耐え切ることも出来なかったのだろう。受け止めきれず、転がりながら竜凪和馬が魔妖の群れへと飲み込まれる。

 

「ふぅ……ふぅ……っ、ああ、くそ……っ」

 

舌打ちと共に、籠りすぎた力を抜き打刀を払う。柄に入った亀裂を魔力によって補修すると、姿を表さない竜凪和馬の気配を辿った。

一度目は届いた。確かに肉を斬り裂く感触があった。

しかし、返し刃からの二撃目は硬質な長剣のモノしかない。

防がれた感触が掌に残っているのだ。

 

「出てこい。まだ終わってないぞ」

 

低く、ドスの効いた声だった。すると、何かが魔妖の群れを掻い潜り移動する。

姿は見えない。いや、見えないようにしているのだろう。

舌打ちをした九朗は神経を研ぎ澄まし、僅かな音や気配を逃さぬように張り巡らせた。

足音はない。物が動く音も、魔妖の呻き声で消されてしまう。ではどうするか、と思考した時、ひとつのアイデアが浮かんだ。

 

「朱音、頼めるか」

 

『はいはい。ったく……お願いが遅いっての』

 

通信機越しに声が聞こえた。呆れたような、しかして浮き足だったような声に、九朗も笑みを零してしまう。この声を守ると意識を引き締め、払った打刀を納刀する。

刃の音が響き、腰だめに構え、息を吐いたその時、通信機からガウンッと銃声が驚いた。

 

宙を一筋の閃光が流れ、着弾。爆音と共に魔妖を蹴散らしていき場を荒らしていく。そうして作られていくのは、焔と魔妖の残骸によって出来る通り道だ。

そこを駆けてくるナニカがいる。バカ正直に、真っ直ぐ真っ直ぐ、誘導された通りに向かってくる。

 

「これで……終いだ」

 

息を吸い、吐く。

身を捻り、振り返り様に抜刀。鋼色の一閃が横薙ぎに轟き、突貫してくるナニカ、竜凪和馬を捉えた。迅意が底上げした速度は空気を揺らし、遅れて太刀音が響く。

そう、断ち切るはずの剣閃が、()()()()()()()()()()

 

「っ、しまった……!」

 

そこに居たのは、満身創痍の竜凪和馬ではなかった。分厚く、硬く、おぞましいまでに肥大化した腕を振るい、正気とは思えない歪な笑みを向けてくる異形こそがそこにあった。

千切れかけていた腕は九朗の居合を飲み込み動きを止め、もう片方の貧相な腕から長剣を振るう。

 

「――――ッ!」

 

それは言葉にもならないような絶叫だった。

長剣に宿る光は強く、激しく、しかして神々しさよりも禍々しく迸り九朗を捉え、放たれる。

地面を焦がし、魔妖を焼き切る熱量が襲いかかり、魔力を纏っていた九朗の命を削った。

激痛が意識を刈り取ろうとする。それに耐え、歯を食いしばりながら剛腕を足蹴にして打刀を引き抜く。ふらつきながらも構えを取った。

 

「――――ッ!!」

 

再びの絶叫に鼓膜が揺らされ、平衡感覚が麻痺する。

そこへ振り下ろされる拳を打刀で受け止めるが、衝撃は留まることを知らず九朗の体躯を浮かした。

体勢を崩しながらも攻勢に出ようとするが、放たれる裂光に耐えられるわけもない。

 

「ぐぁ……っ」

 

盾にした打刀を貫通した衝撃に吹き飛ばされ、硬い地面を二度、三度とバウンドする。そこへと群がるのは、撒き餌に釣られた魔妖たちだ。

三方向から襲い来る獣を認識した九朗は、宙に浮く身を捻り打刀を滑らせる。二匹の足を刈り取り、三匹目の頭上に刃を突きたて、貫き落とす。

 

「邪魔だ」

 

魔妖を鞘に見立て抜刀。

迅意によって速度を増した九朗が、脚を失った二匹を横薙ぎに斬り捨てた。全身を痛みが包み動きが鈍る。

息を吐き、着地と共に膝を折りそうになったのを耐えた。

 

「っ、まずい……!」

 

そこへと追撃が来た。空気を裂く剛腕は既に眼前にまで迫っている。

直撃すれば命はないと直観的に理解した九朗は、迅意の出力を引き上げた。加速する身を捻り、紙一重で避けながら竜凪和馬の腕へと刃を突き立てる。

踏み込みも甘く、力も上手く伝わらず、火花を散らして表皮を削るしか出来なかった。

 

歪に隆起した肩を足場にし跳躍、距離を取った九朗は、意識を研ぎ澄まし、波打った精神を沈めていく。

火傷と打撲の激痛が、魔鍵を通して実際の肉体にも影響を及ぼしてきた。それはつまり、限界が近いということだ。

 

「あぁ、分かってる……」

 

自分に言い聞かせるように、九朗は打刀を払い斬るべき敵を見据える。

数刻前まで片腕を裂かれ、痛みに悶えていたのが嘘のような化け物、竜凪和馬。

何かをしたのだろう。長剣を持たない腕は肥大化し、身の丈近くと言えるほどの筋肉を増量している。

左右非対称なシルエットは不気味で、相対する者へ恐怖や不快感を与えてくるようだ。

それを見ながら、九朗は嘲るように息を吐いた。

 

「さっさと終わりにしよう。お互い、もう疲れただろう」

 

蠢く異形に語りかける。

声に宿っているのは、怒りを通り越した呆れだ。この男は、きっとこれから先も同じように抜け道を見つけ続ける。

他者の足を引っ張り、自分の思い通りにしようとする。

しかし、滑稽にすら思える竜凪和馬の姿は、一歩間違えれば九朗も成っていたであろう姿だ。

 

「迅意……(カサネ)

 

臍の下に溜まる熱を意識し、尽きかけていた魔力を捻り開ける。

思考の奥に響く獣の唸り声は幻聴だろうか。

それとも、内に潜むナニカの声だろうか。

纏っていた青白い魔力が雷光へと変わり、轟き、鋭さを増していく。

 

鞘へ刃を滑らせ、納刀。

低く、低く構え、視界から余計な情報を消していく。

色と、景色と、他の何もかもを削ぎ落とし、残ったのは向かってくる竜凪和馬の姿のみだ。

 

「スゥ……シィィィィ……」

 

息を吸い、少しづつ吐く。

息切れで乱れていた心音が、次第に一定のリズムを取り戻し、轟く魔力だけが光を強くし、脈動していく。

もう一秒、もう一瞬、と時にすらならない時が流れた刹那。

 

異形へと変貌した怨敵が駆け出した。

 

 

**********

 

竜凪和馬は、既に人間を超えている。

 

それは良い意味では決してない。

九朗による一太刀を防げず、使い物にならなくなった腕へと、何本もの増強剤を打ち込んだ。回復だけではなく、この一瞬に勝利するために持てる限りありったけを投薬したのだ。

 

結果、魔力を使わずとも魔妖を殴り殺し、痛みも忘れ九朗を劣勢へと追い込んでいる。出会った瞬間から気に食わなかった、透かした小僧が傷だらけになりながら向かってくる。

その姿に、竜凪和馬は正気を失いながらも歓喜を覚えた。

 

今まで彼は、恵まれていたとは本人としては言えない環境にあった。

 

平凡な両親に平凡な生活。

何をしてもある程度は上手くできる退屈な日常は、ある日同僚によって絶たれてしまった。

軽く揶揄い、構ってやった仕事のできない同期に刺され、不当に命を奪われた。

 

今わの際、理不尽に怒りながら同僚を罵倒したその時、眼前にナニカが訪れた。

既に記憶は曖昧で、男か女かも、子供か大人かも、そして人かどうかであったかすらも分からない。

 

ただ覚えているのは一言だけ。

 

『欲望のままに、好きにお生きなさい』

 

だからこそ、竜凪和馬は言葉の通りに、欲望に従い、全てを意のままに、思うがままにしていった。

新たにやり直したこの人生を謳歌してやろうとしていた。

しかし、思い通りにならないモノはある。壊してやった。殺してやった。犯して、汚してやった。

 

その中でも、眼前の男は、神崎九朗は極大限の()()だった。

 

だが今となってはどうでも良い。人間の域を超えた自分ならば、容易く捻じ伏せることが出来る。

両腕を圧し折り、両脚を引きちぎり、身動きも抵抗も出来なくなった状態で、見せつけるように朱音をハメ潰してやろう。

下卑た妄想が、肥大化した剛腕をいきり立たせ、歪な笑みと共に九朗へ止めの拳を振り上げる。避けられようとかまわない。長剣から放つ光線によって焼き払えば良いのだから。

 

その迂闊さが、竜凪和馬が出来る最後の攻勢だと言うことも知らずに、振り上げた拳で押しつぶそうと駆け出した。

 

**********

 

迅意は、体内で魔力を転回させることにより、使用者の速度の概念を引き上げる技術だ。

膂力を底上げする剛意と合わせて、魔鍵師が最初期に学ぶ基本技能として叩き込まれる。

だからだろうか、ソレを学び研鑽する者はあまり多くない。

魔鍵という超常の力を扱う中で、更に身体能力を引き上げる行為はあまりにも過剰で、完璧な制御が難しくなるのだ。

 

しかし九朗は違う。

少ない魔力を、いかに出力を高めて運用できるのかを求めた結果が、累と名付けた独自の異能だ。

ソレは、限界値を無理やり外し、身体能力だけでなく動体視力と思考速度にまで影響を及ぼす。

許容値を超えた速度の世界において、唯一の自由を手に入れる。

 

拳を振り上げる、竜凪和馬の姿が緩慢に見える。

剛腕の影へ隠した、長剣の狙い先がよく分かる。

斬り捨てるため描く、何通りもの道筋が浮かぶ。

 

そして実行したのは、僅か一秒にも満たない刹那だった。

 

青白く轟く雷光を纏い、九朗が距離を詰めた。

 

魔力を込めた打刀が鯉口を切り、音を置き去りにしながら竜凪和馬の剛腕へ刃が煌めく。

深く踏み込む必要ない。刃の先からたった三寸あるだけで、断ち、斬ることには何の支障はない。

三日月のような半月を描きながら、歪さの塊となった剛腕を斬り飛ばす。届いていたならば九朗の頭蓋を潰していただろうが、そんな未来が訪れることはない。

 

肘から先が離れていく最中、返す刃が軌跡を描き、担がれた打刀が袈裟斬りへとつなげられた。

隠れていたもう片方、長剣を構えていた手首へ数珠のように繋がった一閃が放たれた。自動的に起こるはずの防御が機能しなかったのは、既に人を捨てているからか。もしくは、一つ上の速度で放たれる刃には反応出来なかったのか。

ソレが分かるモノもいないまま、脇腹を通りながら二人の影がすれ違った。

 

「……は?」

 

瞬く間とはこのことだろう。

竜凪和馬の眼前から消えた九朗は、その背後で打刀を抜き放った体勢で制止している。

直後、斬り飛ばされた剛腕と、斬り落とされた長剣を持った腕。その二つが、互いの中間点へと落下した。

噴水のように赤黒い血が辺りを濡らし、間抜けな呟きから汚い悲鳴へと声の質が変わる。

ソレを背に受けながら、九朗は打刀を払い、納刀しながら宣告した。

 

「これで、決着だ」

 

肉体が軋み、視界がぼやける。たった五秒にも満たない累が、九朗の存在そのものへと負荷をかけていた。

だが死傷ではなく、支障にもならない。

数分にも満たないこの時間こそが、神崎九朗という敗北者の雪辱を晴らしたのだから。




次回は、皆さんお待ちかねの回かな?
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