蛇口を捻り、お湯を出す。
普段ならば暖かくなるまで待つが、今日の朱音はいち早く纏わりつく不快感を流したかった。未だ日が落ちれば気温は低く、冷水に晒され「んっ、くぅ……っ」と甘い声を零し身体を震わせる。
赤みのある髪が濡れて重くなり、頬に貼りつき色気を増す。すると、次第に暖かくなるお湯に強張った肢体が弛緩していく。
「ふぅっ……っあ〜……やっと暖かくなってきた……」
思わず呟くほどの時間、出はなったはずだ。ほんの数秒。
少なくとも一分も経っていない。
それでも朱音が声を漏らしてしまうのは、日中に起きた最悪な体験の所為だ。
突如として現れ、自分の身体をまさぐってきたあの男、竜凪和馬を思い出し、朱音は言いようのない不快感を覚えた。
「アレが補充人員って……なに考えてるのよ……」
初対面で自分を襲ってきた相手。更に悪びれることもなく、その先へ進もうとした悪漢。
これが少女漫画か何かなら運命の出会いになるのだろう。
しかし、現実として起こってしまっては殺意しかわかない。
奥歯を噛み締め、握った拳を叩きつけると、風呂場に籠った音が響く。竜凪和馬への怒りはもちろんのこと、いいようにされかけた自分への不甲斐なさが、朱音を追い詰めてくるのだ。
「ふぅ……ふぅ……んっ♥ くっ、ふぅ゛……っ♥ 九朗も、九朗で……あいつぅ……♥」
やがてその憤りは、下腹部の奥で眠っていた疼きを目覚めさせ、無視できないものへと増幅させた。
温水の熱が伝い、ユサユサ♥と揺れる乳肉を濡らして強く疼かせていく。白い肌が紅潮し、乳首がプックリ♥と膨らむと、苛立ち混じりの声が少しづつ零れ出る。
脳裏に浮かぶのは、弄ばれる自分を助けに来た九朗の姿だ。
「呪いとか、辛いくせに……♥ あんな、無茶して……かっこ、つけてぇ……っ♥」
ブルンッ♥と揺れる乳肉へ指を這わせ、ゆっくり揉みあげる。
疼く肢体を慰めようと肉を歪め、シャワーの音に消えそうなほどか細く、甘い喘ぎ声を零した。
抱き寄せられた腕の強さが身に残り、思い出すだけで全身を熱くする。
自分に向けられた、泣き出しそうな九朗の表情が、朱音の下腹部を更にズクン♥と疼かせる。
「ふぅ゛……ふぅ゛……っ♥ もう、なんであんなに……過保護、なんだからぁ♥」
自分の感じる力加減は分かっている。ギュムリ♥と乳肉が歪み、快楽で思考が蕩けていく。
太腿をシャワーに紛れ愛液が滴ると、擦れ合った肉厚な太腿へと空いた方の指を滑らせた。
膣口へと指が届き、ぬめりを帯びながら中へと入り込むと、クチュリ♥と湿った音に加え、ビクンッ♥と腰を震わせる。立ち止まることは出来ないと、指はより深く、雌の肉壺の奥へと滑り込んでいった。
「いま、ごろ……っ♥ 先生と、きっとぉ……あの、勃起おちんぽぉ……っ♥」
熱はシャワーよりも高く、熱く朱音を襲い、支配する。
思わず零れ出た卑猥な言葉は、深層心理にでも眠っていたのだろうか。
もしくは、先日の研究室で行われていた情事を目の当たりにしらばかりだからだろうか。
情欲に塗れ、思考が蕩けてこれ以上を許してくれない。壁に手をつき、ミッチリ♥とした巨尻を突き出すようになりながら、膣肉を引っ掻き続けるのだ。
「ずっ、るいぃ……♥ 先生、ばっかり……先生、だけぇ……っ♥ 私も……私、だってぇ♥」
乳首を人差し指でカリカリ♥と引っ掻き、残った指で乳房を揉みしだく。
噛み締めた喘ぎ声に朱音は自分がイヤになる。何を嫉妬しているのか。何に嫉妬しているのか。
それを意識するたびに自責の念が増し、しかしてクチュクチュ♥と膣口を擦っていった。快感の波は大きく、深く意識を飲み込み、指の動きが激しくなる。
「私も……私も、九朗とぉ……っ♥ はっ、あ゛っ、んぅ……ッ♥」
ラストスパートがかかり、膣肉の感じる場所へ一気に指が入り込んだ時だ。朱音の全身を止めどない快感が走り抜け、愛液と潮がプシャアッ♥と噴き出した。甘いような、それとは別種のような饐えた香りが籠り、一瞬前までの自分がナニをシていたのかを朱音に知らしめてくる。
シャワーに紛れ、絶頂の余韻が流されていくと、浮かされていた思考が冷静さを取り戻し、後悔が襲ってきた。
「ふぅ……ふぅ……んぅ♥ あぁ、もう……
零れ出るのは重い溜息だった。
一体なにをしているのかと、そんなことをしている場合かと、自分を責めながらシャワーを止める。まるで全てを悟った賢者のように思考が澄まされ、愚かしい過去を悔やみながら着替えていく。
今ごろ九朗が何をしているのか。そんな思考だけは消えないまま、朱音は自分の煩悩を押し殺していくしかなかったのだ。
**********
「……ちっ、何でてめえなんだよ」
そう口を開いたのは、治療を受けたばかりの竜凪和馬だった。
向かいに座っているのは九朗ただ一人で、千空すらも少し離れた場所で成り行きを見ている。
朱音の無事を確認し、話を通した後にこうして研究室に三人で缶詰状態になってから既に2時間。そろそろ夜となり、魔妖が出現する時間帯だ。
「性犯罪者と被害者を、そうそう同じ部屋にいさせるわけがないだろう。やったことを自覚しろ」
「うるせえな、モブ野郎に指図される謂れはねえんだよ」
舌打ち混じりに和馬が怒鳴る。
しかし、その目の奥には九朗へ向けての恐怖のような物が見え隠れし、言葉以上は仕掛けてこない。
ただ喧嘩を売るだけでは分が悪いと学んだのだろう。
敵意だけを受け止めた九朗は溜息をつき、壁際で眺めているだけだった千空へ視線を向けた。
「……本部からの正式な辞令だ。昨今、魔妖の活性化に伴い、若い人員を教育するために各地へ派遣された。そのうちの一人が、こいつという訳だな」
言葉を介するよりも早く説明がされる。
まるでおかしな点はなく、九朗も文句のつけようがない。
それを見た和馬も気を良くしたのか、黙る九朗を見ながらニヤけ、侮った目を向けてきた。だがそれに反応せず、九朗は千空の説明を待った。
僅かな沈黙が流れ、和馬の舌打ちがソレを破る。
「おいおい、なに黙ってんだよクソモブ。残念だったなぁ、俺を追い出せなくてよぉ。生憎だけどな、朱音ともすぐに
下卑た笑い声と共に煽ってくる。その言葉の端々には、言外の意味が籠り散りばめられているのだろう。
九朗を怒らせようとしているのか、それとも本心かは定かではない。しかし、少なくとも友好的にしていこう、と言う気を見せる素振りすらなかった。
やがて、九朗の視線を受け止めていた千空は、咥えていた煙草を離し、深く溜息を吐いた。
「竜凪、今回のは罰則案件だ。今夜の巡回はお前に単独で行ってもらう」
「はぁ!? ふざけんなよなんで俺が」
「なんだ、出来ないのか。本部から回された割には随分と謙虚なんだなぁ。どうだ神崎、不安そうな新入りのサポートでもして、親交を深めるのも悪くないんじゃあないか?」
和馬の文句ができる前に、千空の冷淡な声が切り捨てた。
反論も許さない声音に何も言えなくなり、鋭い視線に抵抗することもできなくなったようだ。
中途半端なプライドが、不当な扱いに気を立たせ、しかしそれが余計に侮られることを許さないのだ。
「……っ、いいぜ、やってやるよ!」
それ以上、何も言わずに見てくる九朗と千空に悪態をつく。そのままジャケットを掴み部屋から出て行った和馬は、ドカドカと足音を響かせながら夜の巡回任務へと向かって行った。
部屋の中に二人きり。九朗と千空だけになった。しかし、色っぽい雰囲気にはならない。互いに言葉を待っているのか、時計の針が進む音だけ響く。5分近く経っただろうか、溜息を着いた九朗が言葉を紡いだ。
「で、本当にアレだけですか?裏が無いとは、思えないですけど」
「……さすがに隠しておくのは難しいか」
小さく千空が笑みを零すと、室内の空気が弛緩した。
部外者がいなくなったおかげだろうか、硬くなっていた表情を緩めながら、九朗は椅子に座り直して続きを待つ。
千空も軽く伸びをし、ユサユサ♥と胸元の肉果実を揺らしながら対面に座る。和馬がいた場所を塗りつぶすようにだ。
「どう思った、竜凪和馬を見て」
突然の問い返しだった。
咥えている煙草に火をつけ、肺いっぱいに煙をす吸い込み、吐き出す。艶やかな唇が僅かに尖り、甘い吐息に混じって副流煙が九朗に漂ってくる。
本来ならば室内のセンサーが反応するはずだが、なる気配は一向にない。
「安心しろ、電源は切ってあるさ」
「……アレは、なんというか、ちぐはぐですね。指名されたと言う割に実力が伴ってない、ように感じました」
煙を手繰る千空に返答を促され、九朗は短く考えをこぼした。
そのまま戦闘時の印象を話し、沈黙の中で続きを待つと、肺いっぱいに煙を吸い込んだ千空が灰皿にタバコを押し付ける。
間を置かずに二本目に火をつけると、疲れたのかソファーに沈みこんでいった。
「あぁ……お前の見立て通りだ……ここ数ヶ月で多くの実績を立てたらしいが、どうにも不自然な点が多い。疑うなと言うには少し難しいほどにな……」
「と、言いますと?」
千空が語ったのは、竜凪和馬の遍歴だった。
魔妖は土地や人に吸い寄せられ大量発生する。例えば九朗たちのいるこの地域は、土地的に魔力が流れやすく、留まりやすい。それ故に魔妖が自然発生するのだと検証がされている。
それは土地ではなく人間である場合もある。臭いや空気、血筋などが引き寄せるのだが、竜凪和馬にはこれといった特質性はない。
「だと言うのに、奴は異常なまでの魔妖を討伐している。数だけで言えば同年代でもトップクラスだろ。ただ滅茶苦茶に呼び寄せている訳では無い……」
煙が揺れる。円を描き虚空に消えると、そこへひとつ吐息を乗せる。絡め取られた一息が煙に溶け込み、やがては形を消して宙を揺蕩う。
蠱惑的な唇の動きに目がいき、思わず下半身が力を取り戻そうとしているが、九朗も何とか息を呑むだけで耐えきった。
それよりもずっと重要な、不穏さと歪みのようなものを覚えた背板。
「きな臭い、だろう?」
「そりゃあ、そうですね……まるで」
と言いかけたところで、九朗は出かけた言葉を飲み込んだ。焦るべきではない。結論を出すには、証拠も根拠も何もかもが足りていないのだから。眉間に寄った皺を解し、深く息を吸って吐いていく。未だ竜凪和馬がやったことと言えば強姦未遂のみ。
本来ならばそれだけでも重罪だが、魔鍵師としては見過ごさなくてはいけないレベルだ。
「まぁ、言えんだろうな。だから、少しの間、私も調査に出る」
「ここを離れるんですが?」
「そう言うことだ。その間は九朗……お前に任せる」
「任せるって、それは……」
重荷が圧し掛かる。決まっていない期間に加え、結果がどうなるかも分からない調査。千空の無事を疑うわけではないが、ナニカが起こらないとも限らない。
本来ならば調査に出るのは九朗で、その間に千空が現場管理をするべきだとも思った。
しかし、裏を返せばそれは、九朗がいないところで朱音や千空が竜凪和馬と共にいるということだ。
それだけは嫌だった。吐き気がする。悪寒が走る。生理的に受け付けることが出来ない。
「……分かりましたけど、早く帰ってきてくれると、助かります」
「っくく、なんだ九朗。存外、かわいいことを言うじゃないか」
成人近くにもなっておかしなことを言うと、九朗自身も思っていた。だが本心だ。
何も起こらないことを願い、何かが起きる元を断とうとする。
今の九朗には、それしかできないのだから。
**********
夜の町をかけるのは、部屋から出された竜凪和馬だ。その手には光を宿した長剣を握りしめ、群がる魔妖のなり損ないを薙ぎ払っていく。九朗と朱音が討伐したものとは違い、形は不定形で脅威判定も低い、日中に狩り損ねた火種の残りだ。
「くそっ、なんで俺がこんな地味な仕事を……」
悪態を吐きながら長剣を振るう。型も何もない乱雑な動きだが、切っ先は魔妖を逃がさず捉え両断していく。息切れを起こしながらも剣閃は衰えず、ストレス解消のように動き回ると、ようやく目的の魔妖を見つけた。
「そうだ、焦ることはねえ……おれは大丈夫だ……なんだってできる……あのクソモブも、神城千空も……跪かせてやる……」
口元に浮かんだのは、獰猛に歪んだ醜い笑み。
自分の行動と、力を信じて疑わず妄信した英雄のように。
しかして、どこか台本のように踊る道化のように。
竜凪和馬は向こう見ずな特攻へと向かって行った。
色々とばたつき時間があきました……
これからも、これくらいのペースで頑張りますので、よろしくお願いいたします。