母乳搾り屋の日常 作:南尾重国
朝、昼に来る人がいれば夕方に来る人もいる。
多くのお客様はそれぞれ都合の良い時間に母乳搾り屋にいらっしゃるが、その中で夕方というのは比較的来客が少ない。1日の始まり、皆が外出したあと、家事が終わってひと段落ついたら……というように始まりから考えていくと、夕方というのは、子供達が帰ってきたり、これから夕食を作ろうという時間だったりで母乳搾りには中途半端な時間なのだ。
もちろん、各ご家庭の都合にも左右されるので絶対ではないし、日によってまちまちではあるが、全体の傾向としてそういう感覚がある。
「次の方どうぞ」
入ってきたのは、一際胸の大きいお姉さんである。特に胸を誇張するようにボディラインのはっきりした服を着ており、スタイルはだいぶ良く母乳搾りであっても格好やメイクをきっちりと仕上げてくる。
「では上着を脱いでください」
そう言ってお客様の方を向くと、お客様はすでに服を脱ぎ始めており、そのまま特注のブラジャーに包まれた胸が露わになる。脱いだ服をカゴに置くと、ブラ紐に手をかけてこちらを見て意味深に笑う。
ニヤリと口を歪まさせながらブラジャーを外すと、ぶるんと乳房が揺れた。
「わかってる? 普段ならお金取るんだよ?」
彼女はいわゆるセクキャバで働いていて、言いようによっては飯の種をここで無償で提供していることになる。そんな事をいちいち言われてもこちらとしては困るのだが、年下をからかって日頃の鬱憤をわずかばかり解消しているらしい話を聞いて、実害がある訳でもなし、それぐらいならいいかと飲み込んでいる。
少し色の濃い乳輪周りを消毒してから、軽く乳首を摘み状況を確認する。
「あ……ん」
指が触れると僅かな喘ぎ声。
そんな声は無視して、母乳が滲んだのを確認し、当店で最も大きいプラスチックカップを装着する。機械の吸引に合わせて、乳房を下から支え、時にマッサージし母乳の出を促す。
「んー……店長さんいつも上手ねえ」
気持ちよさそうな声には先ほどまでのからかいの色はない。お客様に不快な思いをさせまいと日々努力している成果と思えばいいのか、少なくとも悪い気はしない。快楽を与えるのが目的ではないが、リラックスできているのであれば幸いである。
自分が夜職に従事していることを母乳搾り屋に話すかは人による。母乳搾り屋は医療保険の適用範囲ではなく、本人確認さえできれば自称会社員でも構わないのだが、正直に話してくれた方が、検査で何か問題が発生した場合などにより詳しいサポートができる。
特にお酒を飲む機会が多い人は、数値に出やすいので正直にいうことが多い、らしい。らしいと言うのも母乳搾り屋として全国を回っている両親からの受け売りで、当店の夜職はこの人しかいないからだ。
夜のお店には、母乳を飲ませるサービスというのもあるらしく、この女性が勤務する日は搾りにこられないこともある。他人に飲ませる都合上、害のある母乳ではまずいので、時々、提出するため定期的な検査結果の書類を作成している。母乳にも飲食に関する規定があり、売買するものよりは緩いが、それでもクリアしなければならない項目がいくつもある。
そのため不思議な話だが、一切性的な接触がないよりも、多少エッチでも母乳を飲ませる方が無理な酒、タバコが控えられる傾向にあり、ストレスの問題さえクリアすれば健康な人が多い。
自分などは赤の他人に母乳を吸われるのは、どんな気分なのかと考えてしまうが、そこは人によるのだろう。少なくともこのお客様からは悪いとは思っていないことが伝わってくる。
「終わりました」
「うん、いつもありがとう。月一の書類を提出しないといけないので来週に用意してもらえますか?」
「はい、大丈夫ですよ」
タブレットのお客様からの依頼として書類作成にチェックを入れる。これで母乳搾りは完了だ。後は脱いだ服を着て、会計に向かってもらう。
その後ろ姿を確認してから、プラスチックカップと容器を新しいものに変える。
「次の方どうぞ」
肩を回しながら凝りをほぐす。残りも頑張ろう。
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