pixivでのURL。
《 https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=27198384 》
――かゆい。
肌を出して寝ていたからか、虫に刺されたようだ。それも右腕。目を開けると、眠りについた皆がコンロを囲んでいる。コンロは少しばかり焦げた臭いを放つ。ヒヨリはゴシップ雑誌を広げながら、ミサキは紙の皿を丁寧に重ねて、憑き物が落ちたかのように眠っている。こうして、気兼ねなく食事をするなんて久しぶりだ。
私たちは今、3人で日雇いバイトをして、各地を転々としながら生活している。最初こそは中心となるサッちゃんがいないことでの衝突もあったが、元々仲が良かったこともあってそれも少なくなった。今日のように、お金がある程度貯まった日には、お鍋などの少し贅沢な料理を3人で食べることもできるようになった。
今は時間が時間ということもあって、月は暗い空に輝いている。月光を浴びても猶、ヒヨリはグッスリと寝ているままだ。昔とは全く変わらないなぁ。
「ヘヘヘ……。あ、先生、この味だけ食べてないので食べさせてくらさぁい。ふぇ、らめれふかぁ……。お願いれふぅ……。らんれもひまふからぁ……」
寝言は、まぁ、いつも通りか。
……え?
ヒヨリを照らす月光は、開かれたゴシップ誌も共に照らしていた。
そのゴシップ誌には、壮年の男性が写っている。
「シャーレの先生の父親、赤染源一郎のハレンチ恋愛遍歴総まとめ!」
その顔を、私は忘れるはずがない。いや、あの人のことを知っているのは私だけだ。
あの日、私を助けてくれたおじさんが、まさか、あの先生の父親……。
記憶が蘇るにつれ、右腕のかゆみはとっくに薄れた。
仄かな光が差す部屋。
泣き叫ぶ女の人の声。
叩かれる音や殴られる音。
脱ぎ捨てられて山積みの服。
汗とはまた違う、生臭い臭い。
――さっきまで、私は何をしていたのだろう。
クマさんのぬいぐるみ。片手にある。
どこかは分からないけれど、ぬいぐるみを抱きしめてしまう。怖い。
痛む顔を無理矢理上げて、周りを見る。
あ、人だ。
あの人は確か、いつも私のことを守ってくれるお付きの人。
――知らない人と何をしているの……?
その人もお付きの人も、裸だ。
おかしな格好をしては、大声を出している。
ただ、一緒にいる人の方は身体つきが違う。身体が毛だらけ、腕もお腹も太く、顔は髭だらけ。本で見たことのある、「男」という人なのかな。
しばらく見ていると、お付きの人が大声を出すこともなくなった。まるで、お人形さんになってしまったみたいに、静かだ。
いつの間にか、ぬいぐるみを持つ腕の力が入らなくなった。今、思い返すと、あのときは何をやっても逃げられないことへの諦めでそうなったのかもしれない。
「男」と思われる人間が私の方に顔を向けた。髭まみれの顔がとても怖い。さっきまでの裸のまま、私の方に身体を向けた。
大きな音。
眩い光。
銃声。
「男」はぐったりとその場に倒れる。その先に誰かがいる。
「ふぅ……。少し、間に合わなかったようだな、すまない」
突然現れたその人は女の人の顔を撫でる。
そして、私に近づく。
「心配するな、君が無事でなによりだ。さてと、ここを出ないとな」
マダムが聴かせてくれる、弦楽器のような、それでいて、力強さのある声だ。
彼は手を差し伸べてきた。その手はキラキラと輝いている。手を伸ばすと、その輝く手の大きいことがよく分かる。掌をつかむことすらできない。
「よし、いいぞ。そらッ……、これで落ちることもないかな」
一体、どんな人なんだろう……。そんなことが気になったものの、次第に眠たくなってきた。身体から力が抜けるように、私自身が溶けていく……。
目が覚めたとき、夜空が見えた。一緒にいる大人たちやマダムから教わっていたけれど、あのときの夜空はとても美しかった。あのときの私の知っていることでは例えられないような真っ暗な空に、小石のように星が光っている。手が届きそうに見えて、腕を伸ばしても届きそうにない。私はまだまだ小さいことをこういったときに実感していた。
身体を起こすと、隣にクマのぬいぐるみがある。あの人が拾ってくれたのかな。
辺りを見回すと、近くで眠っている人がいた。身体にかけている布から僅かに指が覗いている。その指は星明かりに照らされて、キラキラと輝いている。安心した。あのとき、助けてくれた人だ。
嬉しかった、私のことを守ってくれる人が、アリウスではない場所にもいると分かったから。周りの大人は私のことを大切にしてくれてはいるものの、何でもやってくれるばかりで私の思いを知らずに動いてばかりだ。
感謝したい。でも、渡すためのものもない。さっきの部屋の景色を思い出そう。……裸だ。そうだ、裸になれば、きっと、この人も気づいてくれるに違いない。
私は着ている服全てを脱いだ。普段から大人たちが着方を教えてくれるので、こうすれば脱げると学んでいる。夜の風がさっきよりも肌に迫ってくる。
あのときの私はそうすれば、あの人も喜んでくれるに違いない、と思った。だが、あの人はそうしなかった。
――何をしている⁈子どもがみだりに裸を見せるんじゃアない!
助けてくれたときの優しくて心強そうな様子が嘘のような話し方だった。そして、その人は近くにあった毛布のような大きい布を私にかけた。腕や背中が布の感触で包まれる。
「……いや、すまない。どうも、仕事の癖でつい、な……。君がそういう場所にいたから、ろくでもないことをされてしまったんじゃアないかと驚いてしまった……。だが、傷跡がないようで安心したよ」
私はさっきから気になったことを訊いてみた。
「……あの」
「どうした?」
「おじさんのお手手、どうしてピカピカしていて、それで硬いの?教えて」
目の前の男の人は声にならない笑い声をクツクツと上げる。
「そうだなぁ……、このピカピカした腕はな、昔、ケガをしてな……」
男の人は苦々しい顔をしている。どうしてなのだろう?
「あ、イヤイヤ!こんな辛気臭い話なんて聞きたかないだろ?そ、そうだな!何も娯楽がないのは寂しいか?」
そんなことはない。とにかく、静かにしていたい。
「……まぁ、何もせずにいるのは退屈だろう?なら、ここで少し、音楽を聴かせてやろう。すこーし、待っててくれよ」
背中を向けて、荷物から何かを出そうとする。小さなバッグだ。さらにそれを開けると、キラキラと輝く何かが入っていた。
「……ん?これ見るの、初めてか?これはフルートって、俺の好きな楽器だ。好きな曲でも何でも聴かせてやろう」
フルートという楽器は、明かりに照らされて輝いている。絵本でしか見たことのないものが、今、目の前にある。どんな音がするのだろう?
男の人は、音を奏でた。フルートという楽器から出る音は、風のような、また、宝石のような音色だ。音は小さくて遮られそうな大きさだけれど、不思議と、心に沁み込むような音だった。
「……いい音色だろう?昔、妻があれだけ夢中になってたワケが分かる気がするよ。あのとき、もっと音楽を楽しんでれば、なんて後悔しちまうよ……」
……何でだろう?不思議と、心が満ちてくる、気がする。何と言えばいいのか、分からないけど、とにかく……。
「そんなことないよ、ありがとう、おじさん……」
目の前が暗くなった。頭の後ろに、堅いものが当たる。
「よしよし、辛かったよな……。安心しろ、俺がいるからには怖いものなんてないぞ」
サッちゃんやマダムから撫でてもらうときと違って、傍にいたくなる気持ちだ。ずっと、ずっと、こうしていたい。
「……あ!いけねぇ!それよりも服を着な!寒いだろ?」
「やだ、おじさんのフルート、ずっと聴いてたい」
「しょうがねぇなぁ、ここは外だからフルートには厳しいんだ。いつか、続きは聴かせてやるぞ」
「……うん!」
……暖かい。夜なのに、寂しくない。
「なるほど……。親父とはそういう縁があったんだね、アツコ」
私たちは今、シャーレにいる。先生からのお呼びで、ミサキ、ヒヨリと3人でお話があるらしい。私はというと、その間に息子である玲央君の面倒を見てほしいとのこと。あのとき……。
「……アツコ?大丈夫?」
サッちゃんのあの言葉が忘れられない。あの人は、おじさんはもう、この世にいない。そして、目の前にいる、かつて私たちが憎悪すべきだと教わってきた先生がその息子であることを、私は知らなかった。何せ、先生にはおじさんの面影が全くない。あの人にあった暖かさや大らかさがなく、むしろ、どこか一線を引いていて、淡々としている、そんな印象の人だ。それでも、不器用ながら面と向かおうとするところが血のつながりを感じさせる。
「んん、何でもない。大丈夫」
「それならよかった。まぁ、親父も最期まで心配してたからね。無事であるならなによりだ」
「……その、ありがとう。あのときは助けてくれて」
「俺一人だけの力じゃない。サオリたちもいて助けられたからね」
「……もう、おじさんはどこにもいないん、だよね?」
先生は目を逸らす。
そして、静かに頷いた。
……そうだよね。やっぱり……。
「すまない、謝ることではないけれど……。辛かったら相談に乗るよ」
「……、ありがとう、先生」
ドアのノックする音が。乱暴に扉が開いたと思うと、お出かけの格好をしたヒヨリとミサキがいた。
「先生、そろそろ出発の時間だよ」
「えへへ、ごめんなさい、玲央君。お姉さんたち、お父さんとお出かけに行くのでそこにいる姫ちゃんとお留守番、できますか?」
そろそろ3人は出発するようだ。
「まぁ、そんなわけだ、アツコ。玲央のこと、頼むね」
「うん、任せて」
急ぐようにして、3人は外へ出た。どこに行くのだろうか、と気になる余裕もなく、声を掛けられた。
「あ、あの、よろしくね、アツコお姉ちゃん……」
しゃがんで彼と目線を合わせた。
「えぇ、よろしくね」
先生の息子である玲央君には、アザがある。顔の左側にかけて、内側から何かが侵食してきたかのような形だ。思えば、アリウスではこういった子どもは粗末な生活をする人に多かった。マイアのような力のない子どもや今一つ足りない子どもは、どんな様子であろうと大人たちに虐げられることがほとんどだ。つくづく、彼がアリウスで生まれなかったことが幸せだと思う。
「ねぇ、玲央君。学校って、楽しい?」
「うん、楽しいよ。友達もできたし、勉強も分かるし、……最近だと友達と色んな所に冒険をしに行くんだ」
「冒険?どんなところに行くの?」
「冒険、って言っても大したことじゃないよ。ゲヘナへカードデッキを買いに行くとか、ミレニアムへゲームセンターを制覇しに行くとか、そういったことかな」
ゲヘナ、それにミレニアム……。一緒に色んな所へ行けるお友達ができているのか……。
「いいなぁ、学校。玲央君はさ、好きな子とかいるの?」
「……」
返事をしない。……何か、よくないことを訊いてしまったのかも。
「む、無理に返さなくていいよ。答えにくいなら」
「……アヤネお姉ちゃん」
ソファもある広い部屋には似合わない、小さな声。それも、悲しげな顔。年上の恋人が「いた」のかな?
「アヤネ、ね……。その子は今、どうしているの?」
「父さんもセリカお姉ちゃんたちも、皆、ハッキリとは……」
あ、あの雑誌に載っていた『アビドス自治区の生徒、空前絶後の大スキャンダル』は本当のことだったのか……。確か、「アビドス自治区の生徒Aがシャーレ長官の親族と性的関係を結んだ」と記事には書かれていた。記事では、その後に「アビドス怪文書」という今回の件と関わりがあるとされるネット文書、それの模倣犯の比較表と、事細かに記されていたような気がする。どれ程大変なことなのかは分からないけれど、少なくとも、人々が許すようなことではない気がする、うん。
少し前、先生にもやったように、からかってみようかな。
「ねぇ玲央君さ。……子どもの作り方って、知ってる?」
「……うーん、わかんない」
まぁ、そうだよね。その年頃ならそんな反応するはず。
「あ、あの本に載っていること?」
階段へ向かって、昇って、しばらくしたと思うと、片手に1冊の本を持って来た。ページをめくる、表紙を開く、そうして動かす度に渋い臭いが広がる。マダムからお勉強を学んだ部屋を思い出した。
「この本ね、身体のことについていっぱい書いてあるんだ。男の人と女の人が一緒になると、子どもができる、これで合っている?」
「……うん、合っている」
玲央君の言い方に躊躇いがないのが怖かった。ミサキやヒヨリはそういったことについてはあまり言わなかった気がするけれど、それでも、話すとなると周りの目を気にしながら話していた。子どもたちだけでアリウスにいるということは、人攫いや流れ者の慰み物にいつなってしまってもおかしくないワケだ。……思い出すまいと思っていたのに、どうしても頭に浮かんでしまう。
少しばかりの好奇心、そして心配の心持ちのまま、私は玲央君に話しかけた。
「……、玲央君。ちょっと、昔話をしてあげるね」
えーと、そうだね……。昔話、といっても、そんな大したお話じゃないの。これはとある町のお姫様のお話。ん?飲み物がほしい?ありがとう。飲み物は何があるの?麦茶?あ、それでお願い。お菓子は準備しなくていいよ。そんなに長いお話ってわけでもないし。
では、始まり始まり――。
昔々、あるお姫様がいました。お姫様、といっても大昔にこの地を支配した王様の遠い血筋なので、今では尊ぶ人が誰もいません。お姫様はとても幼く、世の中のことをあまり知りませんでした。
ある日、お姫様は悪い悪いユニコーンに捕まってしまいました。ユニコーンはお姫様の付き人を帰らぬ人にし、お姫様を独り占めしようとします。そのとき、誰かさんがその場に駆けつけて、ユニコーンをやっつけたのです。ユニコーンは捨て台詞を吐いてその場から逃げました。誰かさんは都では知らぬ者もいない腕の立つ旅人でした。お姫様のことは、特別な誰かだから助けたのではなく、可哀想な目に遭っている子どもを見逃せなかったからだと言って、お姫様と共に町に帰ろうとしました。ですが、今いる場所から町へはとても遠い道のりです。
旅人は道中、お姫様に様々なことを教えたり、色んな特技を見せてきました。名人と謳われた横笛での音楽、魚の捕り方、食べられる野草やキノコの見分け方、水の汲み方、そして、身体のことについて。お姫様は悪いユニコーンのおぞましい姿を見てから、ことある毎に服を脱いでしまわないと安心できない心になってしまったのです。旅人は最初こそは叱っていましたが、回数を重ねるにつれ、彼女を抱きしめて落ち着かせるように心がけました。お姫様にとっては不思議な心持ちであったのは無理もありません。自分が裸になるのをどうして旅人が拒むのかを、このときのお姫様は知りませんでした。そうして2人で過ごして数ヶ月。お姫様は無事に町へと帰ることができました。旅人は次の仕事があるとのことで、彼女の友達にお姫様を託して町を去りました。
お姫様はしばらく成長して、他人の前での正しい振る舞い方や読み書き計算、助けてくれた旅人について知っていきました。そのときに、ふと、旅人がどうしてあのとき、自分に裸になってほしくなかったのかに気づきました。旅人は生来からの好色で、春を鬻ぐ者たちをよく知っていました。ただ、その道楽を知ってしまっている以上、貧しい者や苦しんでいる者も目にしているのです。旅人は、他人に身体を許すことの恐ろしさ、辛さ、そして、自分の身体の大切さを自分に教えようとしていたのです。
お姫様は驚きました。そして、旅人が今、どうしているのかを調べました。ですが、旅人は事故で身体を毀してしまったことで、少し前にこの世の者ではなくなってしまったそうです。お姫様が居場所を見つけたと思ったその場所は、小さな小さな彼のお墓でした。 お姫様はそこに植えられた青いお花を撫で、故郷へと帰りました。お姫様はその後、町で仲の良かった青年と結ばれ、たくさんの子宝に恵まれました。その子どもたちには、旅人のことを語り継ぐようになったとのことです。とっぴんぱらりのぷう。
とまぁ、これがアリウスに昔から伝わる昔話。自分のことを守れるのは自分だけ、だから命を粗末にするようなことはしてはならない、という教訓を伝えるためのお話なんだ。少し、麦茶を飲んでもいい?……ハァ、美味しい。アリウスにいたときはこんなに美味しい飲み物はなかったんだ。優しい甘みで、乾いた身体が潤いそう……。
「どうしたの?もじもじして?」
玲央君の様子がおかしい。おかしい、というか、こう、何かを恥ずかしがるような。
「あ、や、え、えと、その、な、なんでもないよ……」
耳たぶが赤くなり、視線もそらしてばかり。……両手で腰の前を隠している……。ふーーん、男の子によくあるアレか。
「ここは私たちだけだよ。恥ずかしがることなんてないよ?」
「そ、その、お願い。……エッチ、しよ」
玲央君は手慣れた手つきで素早くズボンもパンツも脱いだ。目の前には小さいながらも立派な肉棒が前に突き出ている。少し、酸っぱい臭いを漂わせる。
「1人だけでおちんちんをこすっても全然スッキリしないんだ……。クラスの友達は皆できてるのに、僕だけできないのが悲しいよ。でも、お姉ちゃんと一緒になれば、僕だって……」
今、あのときのおじさんの気持ちがよく分かった。玲央君もきっと、自分で何とかしようとして苦しいのかもしれない。ただ、自分のしようとしていることの重大さや大変さを全く理解していないんだ。いつの間にか、指に力が入る。
落ち着こう、落ち着こう、落ち着こう。
部屋の静けさが異様に騒がしくなる。
「ど、どうしたの?お姉ちゃん?お願い、僕を助けて」
……ごめん、おじさん。私、しばらくの間、悪い子になるね。
私は玲央君を落ち着かせるために、そっと抱きしめた。
そして、近くにあったあの本を手に取る。
「……玲央君、落ち着こうか。玲央君がしようとしていることは、確かに気持ちいいことかもしれないね。実際、楽しいし。でもね、皆が皆、いつでもそれをしたいとは限らないの。多くの人は、ある程度関係が深まってからでないとそういうことを許してくれないんだ。アヤネちゃんがどんな子なのか私は分からない。でもね、君にとってあの子のような大切な人が「いいよ」といっても無理矢理エッチしようとしちゃダメ。どんな理由があっても絶対にダメ……!」
抱きしめられた玲央君は、ようやく落ち着いた。
「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい……」
頬には涙が流れ、目元が赤味を帯びている。私の言葉が余程、心に響いたようだ。
ソファに座り、私は彼に向かって手を伸ばした。
「おいで、玲央君。玲央君の辛さをなくす方法、私が教えてあげる」
玲央君を膝に載せた。彼は思いの外軽く、大して苦にはならなかった。息をする度に大袈裟に動くあばら骨が、私の乳房にとん、とんと当たる。そして、右手で肉棒を、左手で彼の胴体を抱き寄せた。拳銃よりも頑丈そうな肉棒はひくひくと動く。
お手本となるように、私は本のとあるページを開いた。そこは男の子と女の子のそれぞれの1人エッチのやり方についてを解説したページだ。
「な、何をするの?この本の真似なんて無理だよ、1人エッチで気持ちよくなるなんて……」
「安心して。私がいるから怖くないよ。さ、始めよっか」
私はヒヨリの拾ってくるビニ本の知識を頼りに右手を動かした。根元から鈴口と呼ばれる先端へ動かすと、彼は声にもならない声を出す。
「ン、ウッ……、ハッハッ、アッ……」
「苦しい?でも大丈夫。最初は私が気持ちよくしてあげるから」
目の前の玲央君は、きっと、苦しいのかもしれない。多分、セックスしか知らずに育ってきて、1人エッチを全くしてこなかったのかな。でも、1人エッチができないと、彼はこの先もっと辛いことに巻き込まれてしまう。そう思うと、彼の身体をますます愛撫してあげたくなった。
「ん゛ッ!」
指先から、温かい液体が垂れてくる。自治区にあった、身売りの町でよく嗅いだ臭い。どうやら、玲央君は射精できたみたいだ。いや、まだ吐精という方がより近いかな。
「どうだった?気持ち、よかった?」
「ハァ、ハァ……。出そうになったとき、身体が震えそうに、なったんだ……。僕も、1人エッチ、できそうな気が、する……」
よかった……。それなら安心。
「頑張ったね、玲央君。それじゃ、次は左手を出して」
玲央君が出した左手に右手の指を絡ませる。雑誌に書いてあった「恋人つなぎ」だ。そして、耳元で囁いた。
「私と一緒におちんちんをいじって、……びゅっびゅ~、しちゃおっか♡」
彼は静かに頷いた。
つながったままの手で肉棒を包み、私は彼をリードしながらさすった。最初、彼は手に力を入れていたが、私の力の入れ方を真似して緩くなった。さすればさする程、くちゅ、くちゅ、と生々しい音が部屋に響く。
「来る……、何か来る……、ウッ、フン、アウッ」
「落ち着いて。力まずに……、出そッ♡」
今日2発目の吐精。さっきよりは粘っこくないが、それでも独特なあの臭いは健在だ。ネットリとした臭いは、この部屋に広がる。
「で、出たァ……。僕、頑張ってみる」
「頑張る、ね……。もしかして、1人でする?」
「さっきシてくれたみたいに、優しく、ゆっくりと、だよね?1人エッチ、できるようになりたい……」
ようやく、1人エッチに乗りきになってくれたみたいだ。太ももや頬は興奮したからか真っ赤に染まり、いじらしさが増している。
「じゃあ、私が抱きしめてあげるから、玲央君だけで1人エッチ、やってみて」
「うん、頑張る」
そうして、玲央君は右手を肉棒に重ね、静かに、そして、優しく扱いた。彼の胴体の必死に動く感触が腕に伝わってくる。その様子は、「目の前の男の子は生きているんだ」と気づかせてくれる。何て可愛らしいんだろう。アヤネという少女が妬ましくも羨ましく思える。
突然、玲央君の体勢が崩れた。息がとても激しくなっていて、顔中からは宝石か何かのように汗が流れている。そして、私の腕に当たった右手にはあの生温かさが伝わってきた。
「ハァ、ハァ……。や、やっと、1人でイけたよ、アツコお姉ちゃん……」
彼にとっては、とても大きな成長であったに違いない。頭を撫でてあげた。
「お疲れ様、玲央君。これで寂しくなったときも辛くなったときも安心だね。一緒に慣れなくても、寂しくならずに済むよ」
「でも、この後もできるかな、もし、また失敗しちゃったらどうし」
彼の言葉を遮るようにキスをした。荒い鼻息。唇越しに伝わる硬い歯。そして、垂れてきて溜まった汗のしょっぱさ。懸命に頑張っていたことがよく分かった。
「……ッパァ。心配はしなくて大丈夫だよ。毎日じゃなくても、やりたいときにそっとすればいいんだよ」
「……ありがとう、アツコお姉ちゃん」
ページを開いた本は、いつの間にか閉じていた。
「ところで、さっき話した昔話って、どこの本に載っているの?」
しまった。あのお話は私の体験談、例の騒動が落ち着いてから自分で調べて知ったこと、そして、先生から聞いたことを組み合わせた創作のお話なのに……。どうやって誤魔化せばいいのか……?
気分を落ち着かせないと。そう思って、私はぬるくなった麦茶を喉に流し込む。氷もすっかりと溶けてしまったからか、さっきよりも味が薄い。
「そ、それは……、と、とにかく、宿題を進めよう」
「あ、そうだったね。えっと……、あったあった、「皆のおじいちゃんやおばあちゃんについて調べよう」、これだ!」
随分と大きな紙だ。この紙に調べたことについてまとめるのかな。
「……そのさ、玲央君。君のおじいちゃんの名前って、知ってる?」
もう既に知っていることだけれど、どうしても訊かずにはいられなかった。
「確か……、赤染源一郎、って名前、だったような。会ったことがないから言い切れない」
「その人は、どちらかの腕がロボットみたいだった?」
「うん!」
あ、おじさん。
いや、違う、玲央君だ。あのくしゃっと笑う顔が、一瞬ながらおじさんと重なって見えた。魚を焼いて食べたときも、歌を歌うときも、野原の花を見つけたときも、こんな顔をしていた。まさか、何年も後でまた会えるなんて……。
もう、この世界におじさんはいない。でも、おじさんの子どもと孫はこうして生きている。だからこそ、私はあの人を忘れずに生きよう。そして、おじさんが自分にしてくれたように、躓きそうになった人を助けよう。サッちゃんのようにはまだまだなれないけれど、きっと、私もあの人のようになれるはず。
そうなると、さっきの昔話のタネを暴いてしまう方が良かった気がした。私は、迷うことなく、玲央君に問いかけた。
「そっか……。さっきのお話と被るかもしれないけど、私も君のお祖父さんのことについて話しても、いいかな?」
今回の周年ガチャでアツコちゃんは迎えられませんでした……。ですが、いつか迎えられる日を待って、ゲームも続けます。
投稿している作品は、どちらがいいですか。
-
今のままシリーズだけで。
-
作品個別で再投稿してほしい。
-
個別だけにしてほしい。