※この作品はR-18です。

おねショタアーカイブ   作:交野平六

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 シリーズ第3話目です。
 今回はセリカちゃんが中心です。第1話目を踏まえたお話でもあるため、そちらをご覧になってから今作を読むとより楽しめると思います。
 作品に対する感想やコメント、いつでもお待ちしています。
 pixivでも投稿していますので、そちらでもご覧ください。

《 https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=26213461 》


同罪の少女

 中学からの友人、奥空アヤネにその手の趣味があることは薄々ながら感づいていた。その手の趣味、いわゆる幼児趣味、「ショタコン」の兆しと思われそうな出来事はいくつも目にしてきた。しかし、友達として私はそれを見て見ぬふりをした。その結果が、キヴォトス随一のスキャンダルを招いてしまったのだ。廃校を防ぐための協力を惜しまないと意志を見せてくれた人たちも一時期はその数が減ってしまい、SNSでも根拠のない噂が当たり前のように広まってしまっていたことは今でも忘れられない。

 メディアやSNSではアヤネに対する同情の声こそ少数ながらあるものの、大体は私たちへの非難の声が多い。加えて、スキャンダルから数週間は対応に追われ、借金の解決そっちのけで陳謝や自粛に追われた。それでも不思議なことに、アヤネに対して「なんてことをしてくれたんだ」という思いよりも「もっと寄り添えてやれなくてごめん」という思いが勝っている。少なくとも、私も、先輩たちもそう考えているみたいだ。

 それもそのはず、アヤネが失踪した次の日の朝に発見された分厚い手記から、その手の趣味に苦悩していたこと、相手の玲央君とは同意の上での不純異性交遊であったこと、そして私たちに迷惑をかけないためにアビドスから去ったことを知ったからだ。読んだ後、その場にいる私たち、先生は何も言えなかった。普段から傍にいながらも、自分の秘密に苦しんでいたことを知ろうとしなかった自分たちを銃尾で殴りたい気分だ。私は尚更辛い。その日は快晴であるにも関わらず、気分が気分なので学校内の活動をせずに先輩たちは帰宅した。

 私はというと、先生と2人だけで教室に残った。無論、先生は眉をひそめて頭を抱えている。当然だ。息子がこのキヴォトスの生徒と姦通したのだ。本来ならキヴォトスを追放するのが妥当であるが、前まで住んでいた地域の小学校では息子君はいじめの対象になっていたそうだ。親でもある先生からすれば、追放すればいじめが再発する、そのままにすれば悪評が広がりかねないという、どちらを選んでも危険な選択に陥ったのである。その様子は、大人を信じられない私でも思わず、いつものように皮肉をぶつけるのを躊躇ってしまう程であった。

「……ねぇ、セリカ」

「先生?急にどうしたの?」

「アヤネには昔からそういう趣味があるって知っていた?」

「そうね……。それっぽい出来事は見ていたけど、だからってあそこまでやるとは思わなかったわ」

「そう、だよね……。正直、キヴォトスを追放されてもおかしくないことを息子は、玲央はしてしまった……。でも、玲央は通っているフリースクールで少しずつながら友達ができているし、将来の夢をハッキリと決めて日々勉強をするし、追放するのはあんまりな気がしてね……」

「夢?どんな夢なの?」

「飛行機やヘリの操縦士、らしいよ。今では算数や理科を頑張っているみたいだ」

「へぇ……。多分、アヤネの影響なのかも知れないわね、それ」

「それだけ、あいつにとってのアヤネは大きな存在だった、てわけだ。だから、玲央には「アビドスから遠い学校へ転校した」と伝えている。今のあいつには、アヤネにはもう逢えないかもしれないなんて、とても伝えられそうにない……」

「な、何か、その、気分を悪くさせてごめん、先生。今日はここで帰るね……!」

 荷物をまとめて私は学校を出た。夏に向かいつつある初夏の日差しは考えもせずに私を照らす。首筋にべっとりと汗が滲み出るのを感じる。今、ここにはいないアヤネも同じ日差しを浴びているのだろうか……。友達としてアヤネの苦悩に向き合わなかった罪を背負ってしまった私への罰なのか、砂埃を含んだ暑い風が前から吹いてくる。その砂が肌や衣服にたくさんついていることに気づいたのは大分経ってからであった。

 

 ある日、先生のモモトークから連絡がきた。自宅で自習課題を終えた丁度そのときである。

「こんばんは。シャーレの赤染です。私はトリニティ総合学園の補習授業部の顧問を務めてほしいと頼まれ事が来たので、玲央の生活の面倒を見てくれる生徒がいないか、いくつかの学校に声をかけて探しているんだ。セリカもよかったら手伝ってほしいな。よろしくね」

 トリニティ総合学園……!パテル、フィリウス、サンクトゥスの3つの勢力が合体してできた、派閥争いが絶えないと噂される学園に先生が顧問として行くのか……。シャーレの調査員である以上、トリニティで余程大きな出来事が起きるようだ。それよりも、あの学園で顧問を務める間、この私を含めた何人かの生徒に生活のお手伝いをしてほしいと頼み事をしてきたのだ。正直な所、私はシャーレの先生の息子、玲央君とはあまり深く関わっていない。軽いノリで銀行強盗や長距離サイクリングに誘おうとしたシロコ先輩、耳かきをしていたノノミ先輩、宿題の相談に乗っていたホシノ先輩の方が私より玲央君の面倒を見る方が向いている。だが、委員会で重要な立場にいる3人がそれをするとなると、活動もしがたくなるかもしれない。況してや、例のスキャンダルでアビドス地区の名誉を取り戻すとなると、ホシノ先輩たちは抜けることなどあってはならない。だからと言って、大して関わっていない私が来ても玲央君は喜ぶのだろうか。

 頭で色々と考えている内に、頭が勝手に揺れだした。どうやら、寝不足が祟って睡魔が襲ってきたようだ。とりあえず、明日は休日だ。シャーレのお手伝いは明日、電話で先輩に訊いてみよう。私は大きなあくびをして、部屋を暗くしてから寝床に入った。

 翌朝、私は昨晩の連絡の真相を知ることになった。

『トリニティ総合学園、ゲヘナ学園と条約を結ぶ声明を発表!両校の関係改善なるか』

 朝の眠気が嘘のように吹き飛んだ。補習授業部の顧問を担当する、という予定はあまりにもいきなりであったが、まさか、この条約のためにトリニティに出張することであったとは……。しかも、条約を結ぶ相手はあのゲヘナ学園……。以前、カイザーグループと衝突したときに遭遇した便利屋68、風紀委員会が所属するあのゲヘナか。中学生の頃から私は両校の関係が悪いとは聞いていたが、それにしても唐突すぎる。あまりにも突然で、裏に誰かが仕組んでいるのではないか、と勘繰ってしまう。まぁ、その学校に縁のない私が考えても意味はないのだが……。ともあれ、先生がいない間にシャーレは玲央君だけになってしまう。生活の面倒を見る生徒が必要だということはいうまでもない。それを私に伝えることからして、責任が大きい仕事だ。もし、すると決めたら、バイト先に休暇を伝える必要もある。

 お腹の音が鳴った。そうだ、まだ朝食を食べていなかった。私は階下へ降りた。

 

 朝食を食べ終え、私は先輩たちに電話をした。無論、先生からの例の連絡についてである。3人共、了解してくれた。

「いいよ~。その間の委員会の仕事はおじさんたちがやるからさ~。任せてよ」

「ん、心配しないで。私たち3人だけでも仕事はやれる」

「分かりました~。アヤネちゃんと仲のいいセリカちゃんなら玲央君もすぐに心を許してくれますよ~」

 さてと、次はバイト先の柴関ラーメンの柴大将に連絡をしないと。爆破事件以降から出勤こそ少なくなったものの、バイトをしているお店だ。断りをしないといけない。

「はい、紫関ラーメン、って、セリカ⁈珍しいね、そっちからかけてくるなんて」

「大将……。その、先生がしばらく自宅を空けないといけなくなるから、あたし、しばらくシャーレのお手伝いに行こうと考えているの。先生からも直接頼まれているし、先輩からもいいと言われたから……」

「わかった!それじゃ、出発する日時が決まったら教えてくれ。その前日にウチへ夕ご飯を食べに来な。もちろんタダだ!」

「ありがとう!決まり次第、連絡するね」

「おうよ!じゃあな」

 大将も私の遠出に賛成してくれた。後は家族だ。

 幸い、家族も賛成をしてくれた。生まれ育ったアビドス地区から離れての遠出は初めてだ。先生に行けるとの旨の連絡をしなくては。

「こんにちは。アビドス高等学校の黒見セリカよ。」

「あぁ、セリカ。お手伝い、引き受けてくれてありがとう。君の他にも他校から生徒がお手伝いに来ているから、その生徒とも仲良くしてね」

「他の学校からも、人が来るのね……。どんな人たち?」

「百鬼夜行連合学院からチセ、ミレニアムサイエンススクールからコタマが来てくれるみたい。学習については連邦生徒会からオンライン授業で補うから心配しないで」

「オンライン、ね……。まぁ、ここはあたしに任せてよ!」

「ハハハ。ありがとう、セリカ。……それと、玲央に「あのこと」は秘密にしてね。今の彼には残酷すぎる。また前のように心に傷を負ったら」

「わ、分かっているわ。言われなくても秘密にするつもりよ」

「どうか、気をつけてね」

 電話はそこで切れた。それから数日間、荷物をまとめた。アビドスとしばらくお別れするのは寂しいが、先生の頼み事である。惜しむ気持ちを押し殺して、私は紫関ラーメンの屋台のあるいつもの場所へ向かった。

 

 荷物の準備を整えた私は今、連邦生徒会のあるD.U.地区に向かう快速電車の席に座っている。運賃は事前に先生が送信したデジタルチケットで払った。砂だらけだったアビドスが遠くなるにつれ、緑が豊富な郊外、賑やかな住宅地、オフィス街と窓から見える景色が変わっていく。

――生きづらさを抱える人には、この変わらない日常がどんな風に見えるのだろう……?

 景色を見ている内に、ふと、昔の思い出が蘇ってくる。

 中学校の頃だったか、当時、女子たちの間で流行っていた少女漫画を何人かで共有しながらひっそりと読んだことがある。当時、私たちの中学校は朝読書での漫画の持ち込み、図書室での漫画の貸し出しが禁止されていたため、当時の私たちでもできるような、年頃の子が憧れるアングラな楽しみであった。その漫画は、脚フェチの冴えない男子高校生が頭髪フェチの天才女子高生と「甘酸っぱい」恋愛をしていて、人物の内面描写、キヴォトスの外の文化への深い理解度が高い評価を得ている。キヴォトスで生まれてそこで育った私たちからすると、異世界のお話でありながら等身大の10代の心情を描いていて、読むと時間を忘れる程に引き込まれてしまうのである。もちろん、解散する時間になると各々が読みたい巻を自宅に持ち帰り、次の集会にて持ち主に返却するという決まりがあった。あのとき、アヤネは登場人物の女子高生の弟が出てくる巻を随分と返却することを渋っていたように思う。それは、周りの子たちもその返そうとしない様子に苦笑いする程であった。

 あのときも含めて、何度か感じていた違和感がとうとう、あの日、形になってしまった。私は目を背けてしまっていたのだろうか、それとも、友達としてアヤネを止められなかったのだろうか。いつの間にか、ため息が口から洩れていた。

 電車が止まった。どうやら、終点のようだ。アナウンスが流れたと思うと、駅員がやってきて乗客に降りるように声掛けをする。私はそれを遠くに聞きながらたくさんの荷物を手に持ち、ノソノソと駅を出た。シャーレから近い出口は確か、この辺りか……。

「お手伝い、一緒にやるよ、私もね」

「先生からお聞きしています。あなたが黒見セリカ、ですか?」

 おわぁ!

 思わず声が出た。……って、私の名前を知っている?もしかして、この2人がチセ、コタマのことだろうか?ど、どっちがどっちだ?え、えーーと、百鬼夜行連合学院は和服の生徒が多い、逆にミレニアムサイエンススクールはネクタイとワイシャツ、って、私服だ!余計分からなくなってきた……。

「あ、えー、もし、どちらがどちらで……?」

「私のこと?私、百鬼夜行連合学院2年の和楽チセ。よろしくね~」

「あ、私はヴェリタス所属のミレニアムサイエンススクール3年の音瀬コタマです。ここでは少し音が騒がしいので、どこか別の場所で話しませんか?」

 成程。赤い角の生えた青い髪の少女が「チセ」、メガネを掛けていて無口そうな少女が「コタマ」のようである。「チセ」と名乗る少女は白を基調とした和服に身を包み、傍には大きな旅行鞄を持っている。昔、国語の教科書に載っていた『伊豆の踊子』の主人公がこんな鞄を使っていたような、気がする、多分。「コタマ」と名乗る少女は夏ということもあって薄手のパーカー、膝下までの長さのズボン、サンダル、そして目を引く程の大きなリュックサックである。まるで、キャンプをするかのようである。駅まで乗っていたにしても、あの電車によく乗せられたものだ……。と、そんなことを考えつつ、私たちはフリーWi-Fiの通る場所に移った。

「ここから大通りを進み、信号を左に曲がり、道なりに進むとシャーレに着くみたいです」

「先にシャーレに行くの?どうして?」

「そこにいる連邦生徒会の人から何か指示があるのかもしれません。先生の自宅はそこの近くにあるので、シャーレに着けば先生の自宅に着いたと同じです」

「へ、へぇ、そうなのね。ともあれ、これからしばらく一緒に生活するのね……。まぁ、改めてよろしくね。コタマ先輩、チセ先輩」

「えぇ、よろしくお願いします」

「よろしく~」

 

 大通りの目立つD.U.自治区はとても広い。砂だらけのアビドスにいる私からすれば、建物ばかりであっても広々とした印象である。風も清らかで涼しく、夏の日差しが心地よい。

「あ!あそこにハトがいるよ、可愛いね。ハト座り、デデポッポ鳴く、夏の昼」

「ん?それは確か……、俳句でしたっけ?5、7、5で思いを詠む文芸は」

「そうだよ~。ここのような、初めて訪れる場所は俳句が作りやすいなぁ」

「へぇ。す、すごいなぁ。俳句をその場で詠むなんて。あたしなんて中学生のときに碌な俳句も詠めずに授業が終わってしまったからなぁ……。チセ先輩が羨ましいわ」

「そう?自分の思ったことを素直に詠めば俳句は作れるよ。季語を入れるとか、定型で収めるとか厳しいルールはあるけど、まずは自分なりに作ってみることも必要だよ」

「自分なりに、ですか……。私が学ぶ工学とはえらく違いますね。工学は公式や法則、機械の種類や使用方法の遵守をマスターして初めて創意工夫ができる世界ですから。チセちゃんのいう俳句上達の道とは在り方が異なっていますね」

「成程ね。自分なりに練習するのも、型から入って修得するのもどちらも大切だねぇ」

――駄目だ。お話が高度すぎてついていけない……。

 成程、2人はいい話をしているのかもしれない。だが、バイト漬け、勉強もそれ程の私からすると言葉は理解できてもその背景にある考えに実感が湧かない。身体は勝手に動いて歩いているのに、頭が真っ白になってしまいそうだ。

 しばらくすると、連邦生徒会の本部にたどり着いた。

 すごく、すごく大きい。テレビやスマホで建物は見たことがあるものの、実物を見るなんてこれが初めてである。青空に突き刺さりそうな巨大なタワーの中に、私たちの権限を握る人たちがいるのか……。大きな建物の中に多くの人がいると思うと、アビドス高等学校が頭をよぎる。私たちは少ない人数で、目の前の連邦生徒会はたくさんの人で活動をしている。思わず切なくなる……。

 あ、先輩たちに遅れた。

 私は扉の奥へと入った先輩たちの後を追うように走った。

 

 1階ロビーでは、少年とピンク色の髪の少女が話をしている。少年の顔にはアザがあり、尻尾のついた少女の傍にはお菓子の袋がいくつも重なっている。コタマ先輩が受付でいくつかの手続きをしているとき、少女が私に声を掛けた。

「おやおや、見ない顔だねえ~。いらっしゃ~い♪」

「ど、どうも、しばらくお世話に、なりまっす……」

 連邦生徒会、というと厳格な人が多いと思っていたら、こうもラフな人もいるのか……。

「ほら、玲央く~ん。お久しぶりのセリカお姉さんだよ~」

「あ、え、えっと、セリカお姉ちゃん。久しぶり……」

「え、えぇ、久しぶり……」

――予想もしていない再会となった。

「あ、名乗り忘れていたわ。私ね、由良木モモカ。連邦生徒会1年生だよ~。よ~ろしくね~~」

「ど、どうも、ワタシハ、アビドス高等学校1年、黒見、セリカ、デス……」

 やっぱり、この手のマイペースな人はどうも苦手だ。言葉もぎこちなくなってしまう。

「ん?2人はどこかで知り合ったこと、あるの?」

「ま、まぁ、昔、お父さんがアビドスに来たときに……」

「そ、そうなの。そのときに知り合って……」

「フ――ン……。アビドス、ねぇ。アユム先輩たちがちょっと前にアビドス地区で騒いでいたなぁ……。あんたたち、何か知っている?」

 握っていた拳に力が入った。とにかく、姑息でもいいから取り繕わないと。

「そ、それは知らないわ……。あ、アハハ……。ね、ねぇ、玲央君!」

「……うん。でも、アヤネお姉ちゃんがどうな」

「おやおや、そういえば、リン先輩が例の事件で「アヤネ」って人の名前を言っていたような……」

「あ!彼女は、アヤネは他の学校に転校したんです!な、な、何でもないです!」

「ほぉほぉほぉ……。ホントぉにィ?」

「モォッ!ホントったらホント!」

「ふむふむ。まぁいいや。あっちの手続きが終わったら私が案内するね~」

――危なかった。固まっていた身体が急に緩んだ。

 丁度、あちらでもチセ先輩とコタマ先輩の手続きも終わったようだ。2人は先生の息子である玲央君をじっと見ていた。チセ先輩は怖がらせないように目線を合わせてしゃがみ、コタマ先輩はそれを見て同じ動きをした。最初は怯えていた玲央君も、2人が怖くない人と知ると私の袖から手を離して身体を向けてお話ができるようになった。

 そうして、5人で先生の自宅の前に着いた。モモカとかいう人の説明よりも、ここに入ったアヤネを思い出さずにはいられなかった。隣にいる玲央君とアヤネはここで互いの「初めて」を貪りあったのである。私の中で後悔の気持ちが尚更増してくる。あの手記の内容がありありと頭に浮かんでくる。

「お――――い。聞いている?これから、あんたたち3人で係決めをするよ~~」

 モモカの声で我に返った。係、というのは「食事係」、「お勉強係」、「金銭係」などのことで、モモカ本人はひとまず適性のある振り分けを事前に考えてきたらしい。それを私たちは見る。

「月曜日:食事係(コタマ)、お勉強係(チセ)、金銭係(セリカ)」

「火曜日:食事係(チセ)、お勉強係(セリカ)、金銭係(コタマ)」

「水曜日:食事係(セリカ)、お勉強係(コタマ)、金銭係(チセ)」

「木曜日:食事係(コタマ)、お勉強係(チセ)、金銭係(セリカ)」

「金曜日:食事係(チセ)、お勉強係(セリカ)、金銭係(コタマ)」

「土曜日:食事係(セリカ)、お勉強係(コタマ)、金銭係(チセ)」

「日曜日:食事係(コタマ)、お勉強係(チセ)、金銭係(セリカ)」

 ……今の私には表の内容なんてどうでもよかった。私は空返事をした。他2人は迷わず賛成した。モモカは満足げに表をテーブルに置いた。

 こうして、私たち4人の共同生活が始まったのである。

 

 共同生活では、私の手料理が絶賛されることが多かった。バイトの経験が役立って誇らしい。チセ先輩は玲央君の趣味や将来の夢などの話に耳を傾けていて、コタマ先輩は玲央君の宿題や自由研究に親身になって教えている。心なしか、コタマ先輩は玲央君との距離がえらく近い、ように見える。まるで、相談に乗ることを口実に彼といちゃつこうと画策しているみたいで腹が立つ。肝心の玲央君はというと、チセ先輩とはすぐに打ち解けている一方で、コタマ先輩には耳たぶを真っ赤にして緊張していた。不覚にも可愛く見える。

 周に一度は全員で家の掃除、テレビでトリニティ総合学園のニュースを毎日確認した。先生が長期の滞在をする場所となると、そこの情報を知っておく必要がある。今の所は、私が心配していたことは起きていない。胸をなでおろしたが、いつ、何が起きるか分からない。油断はできない。

 休日は家にいるだけでなく、近くのレストランやバイキング、博物館への外出、近所の運動場でのランニングもやった。そんなこともあって、金銭係を担当するとその出費の多さに口がへの字に曲がりそうになる。まぁ、私自身もかなりお金が出てしまっているが、2人の先輩の出費も多いのだ。チセ先輩は雑貨や書籍、コタマ先輩は機材やダウンロードコンテンツ……。多すぎる。あまりにも出費が多すぎる。あの2人は我が強いから、迂闊に注意しても聞く耳を持ちやしないだろう。幸い、生活費は連邦生徒会が出しているらしいが、にしてもこれはひどい。今では月曜日、木曜日、日曜日が憂鬱な気分になる。どれだけ楽しいことをしても、この出費の多さを見ると現実を突きつけられて暗い気持ちだ。

鬱屈とした気持ちが渦巻き、不満が溜まる私はとうとう、それが決壊した。

 

 それは、チセ先輩は近所の図書館に行き、コタマ先輩は連邦生徒会の方で電子機器の修理に立ち会った日であった。祝日ということもあって、それぞれが自由に過ごしていた。

 私はというと、先輩たちに振り回された疲れからソファでだらしなく横になっていた。玲央君はリビングで過ごしている。

「あ、もう10時か……」

 いつの間にか、寝てしまっていたみたいだ。寝ぼけた身体を強引に動かしてソファから立ち上がる。少し伸びをして、辺りを見回す。……ん?

 何だか、嫌な臭いがする。シチューというか、汗や油のような、生臭い臭い。この部屋から臭っているようだ。バイト先のお客さんの会話を参考にするに、男の人のスペルマはそういう生臭い臭いがするらしい。この部屋の男の子は玲央君だけだ。つまり、男の子がよくしてしまう、あれか。注意しなくちゃ。

 顔を後ろに振り向けると、ズボン、パンツを下ろして露わになった性器を握った玲央君がいた。玲央君はばれてしまったことを隠そうとして失敗してしまったみたいだ。知識が伴っていないからか、飛沫はそのまま、床や右手がぬらぬらと濡れているまま。

「あ、え、ご、ごめんなさい……」

「ったく、ごめんなさいでは済まないわよ……」

 「男の子は自慰をよくする」と聞いてはいたが、流石にこれはひどすぎる。彼の将来のために正しい自慰を私なりに教えないといけないみたいだ。ここは怒りをこらえて優しく問いかけよう。

「ねぇ、玲央君。どうして、この部屋でお〇ん〇んをいじったの?」

「え、えっと……、この本を読んでいたら、アヤネお姉ちゃんと逢いたくなって……」

 彼の中でアヤネは相当大きな存在のようである。だからといって、他人のいる前で自慰をしていいい理由にはならない。毅然として注意しないと。

「そんなにアヤネのことが好きなのね……。気持ちは分かるけど、お〇ん〇んをいじるときは誰もいないときにしなさいよね。これは誰かに見せるものではないから」

「は、はい……」

「もう……。ん?この本、確か、あたしの中学校にあったような」

「あ。この本ね、シミコお姉ちゃんがくれたんだ。いつか大切な人とエッチするためにも正しい知識を持とうって」

 シミコ、という人物は分からないが、この本をくれた人物のようだ。この前、先生が行ったトリニティ総合学園の生徒かしら?今、ゲヘナ学園との条約締結で注目を集めている学校の生徒でも、アヤネのような趣味を持つ生徒が一人や二人はいるのだろう。私の中で、イケナイ考えが働いた。先輩たちは当分帰ってこない。色々と溜まったものを発散するならここしかない。

「そ、それじゃ、あたしもその自慰をお手伝いしてもいい?」

 あーあ、言ってしまった。私もこれでアヤネと同じ立場の人間になってしまった。

「え……?でも、他人には見せてはダメだって」

「い、いいの!好きな人同士なら見せてもいいの!」

 焦る心を抑えながら私はティッシュを3、4枚程乱暴に引っ張る。開かれた本のページでは、素手でお〇ん〇んをしごくイラストがある。多分、今では一般的な方法を知らないのだろう。私がレクチャーしなくては。

「いい?ティッシュ、あるでしょ?このティッシュはお〇ん〇んをいじって気持ちよくなったときに出てくる精液を溜めて拭くために使うの」

「精液?えっと、このお〇ん〇んから出ているこれ?」

「そ、そうよ。そのままにすると臭くて困る人も出てきちゃうの」

「困る?アヤネお姉ちゃん、お口に出たのを美味しそうに飲み干したのに」

 ……は?飲み込んだ?あれ、臭いもきついし、味も不味いし、ネバネバするし、汚いったらありゃないのを⁈アヤネのショタコンぶりに思わず引いてしまう。

「アヤネのときは例外だけれども、他の女の子は苦手なものなの。だからこそ、このティッシュで気持ちよくなったときに代わりに出して綺麗にするの」

「そうなんだ……。僕、まだまだ知らないことばっかりだったんだね」

「大丈夫大丈夫。こういう失敗は誰にだってあるから。このセリカお姉ちゃんに任せなさい!」

 こうして、玲央君は自慰を再び始めたが、今回は中々固くならないみたいだ。もっと、興奮するようなものがないといけないのか……?

「そのさ、玲央君、私の身体、興味ある?」

 少し置いて、玲央君は答える。

「……うん」

 迷わずシャツを脱ぎ、ズボンを脱ぐ。正直、私の身体はアヤネやノノミ先輩のような、男の子の目を引くような身体ではない。これで興奮するなんて、と思って玲央君を見る。

 彫像か何かのように「それ」は別の生き物のように上を向いている……。

 目を疑った。こんな貧相な身体で興奮するのか……⁈これはいわゆる、その、「新たな性癖の扉を開いた」という状況なのだろうか。目の前の男の子は滾る身体を抑えられずに欲望のなすままに任せている。その健気さを見ていると、何だか、こっちも股の間からジンジンとした気持ちが湧いてくる。駄目だ。もう、止められない。

「アヤネとは違ってぺったんこなのに興奮するなんて、悪い子じゃん♡」

 自分の口でこんな言葉が出てくるとは思わなかった。人間、本性がそうでなくてもその気になるとそれらしい物言いをしてしまうようである。

「そんな悪い子には、お姉ちゃんもご褒美をあげたくなっちゃうな、ハイ」

 私自身は処女である。もう、その気になってしまった以上、その果てまで行かないと自分を止められない気がする。迷うことなく、下着全てを脱いで生まれたままの姿になった。

 玲央君はそろそろ出そうになったのか、左手で先程私が取ったティッシュを探してそれをつかんだ。そして、ティッシュを持つ左手を右手に近づける。いよいよフィニッシュか。私は考えるより身体が先に動いて、彼の両手に添えるように両の掌を添えた。

 ついに、そのときが来た。出口から白く濁った液体がドクドクと、ジュクジュクと出てくる。液体は下に垂れて、ティッシュに溜まってその色が輝いている。さっきは嫌だった臭いが今では嫌とは思わなくなった。直接見たことはないが、まるで、妊婦の出産に立ち会う産婆の気持ちになったようだ。

「で、出た――。初めて自分で出せた……」

「お疲れ様。よ~しよし。気持ちよかった?こうして、精液をティッシュに溜めて、ビニール袋にしまうの。そうしないと、さっきのように臭いが広がっちゃうからね」

「ありがとう、セリカお姉ちゃん……」

 思いの外、私の教えた付け焼き刃での自慰の作法を学んでくれたみたいだ。とても誇らしい。私だって、そういう知識がないわけじゃないからね……。

「さて、これで少しは収まるはず、って、ウソでしょ⁈」

 またしても目を疑った。まだまだ立ち上がっている……。あんなに興奮していたのに。ど、どうしようか。今の私はムラムラする本能とそれを止めようとする理性で揺れ動いている。あのときのアヤネの気持ちを追体験している気分だ。どうすればいい。どうすれば。

「マスターベーション、気持ちよかった?ハイ、ご褒美、あげるね」

 私は堕ちるところまでどん底に堕ちてしまうことを決めた。

 

 私は迷わず玲央君の乳首に口に含んだ。彼は小さく声を上げる。右手で固まるお〇ん〇んを包み、左手でたくし上げたシャツを抑えていると、アヤネもこうして彼を愛撫していたと思えて身体がさらに興奮してくる。口を外す。自分の唾液で輝く橋ができた。

「アヤネより小さいけど、こっちも興味ある?」

「わ、分かった」

 今度は胸だ。それ程立派なものではないが、抱きしめるには申し分ない大きさである。玲央君は顔を埋める。鼻息が荒くなるのが肌で感じられる。こんな汗ばんだ肌だけで興奮するなんて、変態だ。いや、それは私もか。

「どう?おっぱいは小さいのだって魅力があるでしょ?」

「うん……。心臓の音がよく聴こえる」

 やばい。そんなことを言われたら、あたし、どうにかなりそう。

「他人を煽るようなこと言っちゃって……。そんな悪い子には、もっとご褒美をあげないとね♡」

 体勢を変えて、私は股を露わにした。自分以外の誰かに見せるなんて初めてかもしれない。こういうとき、アヤネならどうするのかと頭の中で考えを巡らせる。

「おぉ……。セリカお姉ちゃんのも可愛いなぁ。でも、ヒダが小さいし、上のでっぱりが大きい」

「う、うるさい!形にも個人差があるの!でも、こうして、アヤネのも見たのよね?」

 玲央君は頷く。前髪が乱れて顔の上半分を隠している。

「じゃあ、アヤネにしたときのようにさ、あたしのこと、気持ちよくしてみて」

「アヤネお姉ちゃんのときのように?」

「そ。お願い」

 玲央君は顔を近づけ、私の股を優しく舐めた。舌のゾリゾリとした感触が穴の入口や上のクリトリスに刺激が迫ってくる。思わず声が出てしまう。

「あっ……、そ、そこ、し、舌お、もっろ使え、お、ふぐぅ、ぇあ……」

 身体全てが性欲そのものになった気分だ。足が勝手に動き、脛で彼の頭を抑えている。勝手に身体が動いたのか……?気持ちいい気持ちいい気持ちいい気持ちいい……。もう、恥も理性もなかった。身体は着実に整いつつある。

「……はぁ、気持ちよかった……」

「ありがとう、ちょっと乱暴すぎた?」

「そんなことないわよ、あたしは満足したんだし。じゃ、仕上げと行くわよ」

 私は体勢を変えた。玲央君も察したのか、こちらに近づく。そして、堅くなった自分のを私の股と合わせた。先端が入ったと思ったら、スルリとそれは奥の方へと入り、深奥の壁に当たった。凄まじい快感。身体がグッと硬直する。

今、私は引き締まった私の中が固い肉に貪られている。それも、相手は友達が初めてを捧げた子どもである。アヤネの筆下ろしが余程上手だったのか、他の相手で経験を積んだのか、はたまた、そういう知識を集めて学習したのか、それは私には分からない。ただ、目の前の男の子の健気さを見ると、あれだけアヤネが心酔したのも納得がいく。擦られる固い肉も段々と速くなる。あぁ、懸命に動くこの身体を、私の全てで受け止めたい。

 

 私の中で精液が出た。玲央君もようやく体力の限界が来たのか、私の身体の上に重なっている。床に流れる汗は、精液や愛液と混ざってどうしようもない臭さを放っていた。でも、今はそれを気にする余裕なんてない。

「はぁ、はぁ、玲央君?上手すぎでしょ……。どこで習ったのよ……」

「……アヤネお姉ちゃんの他にも、シミコお姉ちゃんが色々と教えてくれた……」

「やっぱりね。これで私もアヤネと同じ、悪い女の子になっちゃったなぁ」

 玲央君は言葉の意味が分からないのか、こちらに目を向ける。

「どうして?同じ「好き」なのにいけないことでもあるの?」

 答えに悩んでしまう。

「そ、それは……」

「ねぇ、アヤネお姉ちゃんはどこに行っちゃったの?ニュースで全く聞かないし、お父さんは何も答えないし、どうしちゃったんだろう……?寂しい、寂しいよ……」

 彼も受け身ばかりではないようだ。子どもなりに聡いところがある。私は彼の前髪をかき上げ、その口にそっと口づけをした。

「心配しないで。アヤネとはすぐに連絡できないけど、あっちでもちゃんと元気にしているみたいよ。きっと、君がいい子にしていれば、いつか逢える日が来るかもね」

 優しく、彼の身体を抱き寄せた。本当に10歳なのか疑いそうにある小柄さだ。それが却って母性を刺激される。最初は躊躇っていた玲央君も、すぐにその両の腕を私の身体にも回した。この心から日々の鬱憤から解放された気分だ。もう、掃除とか換気とか、どうでもよくなった。

 

 ねぇアヤネ。これで私もアンタと同じ立場の人間になっちゃった。私までもがこうなるなんて、望んではいないかもしれないよね。でも、今ならあのときの気持ちが分かった気がする。だから、心配しないで。もし、何かあったときは私たちが玲央君も、先生も、アンタの分まで守ってあげるから。

 




 普段からの手癖を如何にして直すか、今作はそれに苦戦しました……。シリーズそのものの中心にアヤネを置いた以上はいつか書かないといけない人物であったため、一層気合を入れて書けたと思います。
 「下手な作家は主人公に自分を投影しようとする」、という誰かの言葉の通りに気をつけた作品でした……。

 【人物紹介】
 赤染源一郎
 キヴォトスを中心に活動していた軍人。イメージcvは有本欽隆さんで。
 享年53歳。
 キヴォトスのみならず、世界各地で活動を重ねた伝説の軍人。現在では故人であるものの、生前の活躍はキヴォトスでは伝説のような扱いをされている。
 幼い頃に両親が自分を残して心中をしたことから「命を粗末にさせない」ことを信条に、苛酷な任務や戦闘を乗り越えてきた。その生き様は聴くもの全てを魅了させる。
 そんな彼の趣味は押し花やお菓子作り、フルート、ストンプ、編み物、パッチワークと、渋い外見からは想像の付かないものばかり。これはかつて助けてくれた上司や戦地に派遣された娼婦たちから教わったもの。その趣味の多くは息子に受け継がれている。
 また、女遊びでも品位があるとして娼婦からも人気があり、人気を得ようとして命懸けのケンカに発展したことも何度かある。これほどの人気があるため、酒も煙草も生涯一度も口にしなかった。

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