※この作品はR-18です。

おねショタアーカイブ   作:交野平六

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 今回は前回出てきたコタマが主役になります。盗聴など、音を聴くことが好きなコタマなら、音だけが聴こえる暗闇でのエッチも似合いそうだと考えたのが今作のきっかけです。作品の背景を知る上で、先に第3作目をご覧になることをお勧めします。
 作品に対する感想、コメント、いつでもお待ちしています。
 pixivでも投稿していますので、そちらも是非ともご覧ください。

《 https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=26477004 》


面影を追って

 鍵の代わりとなるパスキーをかざすと、音を出して開錠された。ドアノブを手に取って開けると、玄関でチセ、セリカ、玲央君が待っている。今日のお昼は連邦生徒会の電子機器の修繕に呼ばれたため、眼鏡には汗の流れた跡、ひっつく埃がいつにもまして多い。それでも、奥の部屋からチセと玲央君が顔を覗かせていてるが……。

「コ~タ~マ~先ぱ~い~……。すこ~し、お話してもいいかしらぁ……」

 猫耳のツインテール少女、黒見セリカは私に近づく。まぁ、金銭係を担当する日には苦しげな顔をする彼女が怒ることとなると、流石の私でも原因に察しがつく。私の趣味、ASMRや音楽、生成AIなどのダウンロードコンテンツのことであろうか。靴を脱いで手を洗い終えたとき、セリカは汗ばんだ私の腕を逃がさないようにつかんでリビングへと引っ張った。引っ張る力があまりにも強い。ほとんど私とは身長が変わらないにも関わらず、私は幼子のように引っ張られてしまう。あぁ、ヴェリタスのみんなにはこんな扱い、されたことなんてないのに……。

 リビングに連れられた私はテーブルが目に入った。

 何かの領収書、レシート、出納帳……、なのかしら?

とにかく、様々な紙が積まれている。

 ……待てよ。この領収書の内容、見覚えがある。

 先日、デビューして15年を迎えるベテラン同人声優のASMR、人気アニメのボイスCD、ヴェリタスの活動に必要な機材……。私の買い物での出費が、目の前にあるその紙に一つ一つ事細かに記されているのだ。

 チセちゃんは玲央君を連れて別の部屋に逃げてしまった。私は恐る恐る右隣を見る。ツインテールの少女はそのお下げを揺らさんがばかりの殺気を放つ。

「ねぇ、せーんぱい。生活費は連邦生徒会から補助されているのは事実だって、知っているでしょ?でもぉ、先輩の買い物は限度があるじゃないかしらァ……」

 私は姑息に乗り切れるような回答を探す。

「は、はぁ、私は、その、普段から付き合いのある部員とあまりお話ができないので、まぁ、好きなものに囲まれて発散したくて……」

「ふむふむ……。そうよねェ……。気持ちは分かるわ。でも……」

ーー好き勝手にも程があるでしょうがァ!!!

 怒声が家中に響いた。

 結局、私は罰として1週間のお小遣いの禁止、食事の分配の制限、そしてネット機器の没収を喰らってしまった。最後のネット機器没収は本当に痛い。好きなASMRを聴けなくなること、知り合いとの連絡ができなくなることはとても大きい。

 しかし、私自身はあーだこーだと言える立場ではない。問題を起こした人間には当然の処置だろう。

 その日の夕食はとても食べた気分にはならなかった。とても気まずい空気になっていたこともあって、喉を通る食べ物全ての音がただの雑音にしか聴こえない。喉から胃袋へ流すときには、柔らかい鉛を無理して飲み込んだ気分だ。味わって食べる、なんてとてもできなかった。

 夕食を食べ終え、歯を磨いた後は居場所がないと実感した。今までは気にしなかった視線や無言の圧力が、怖い。逃げてしまいたい。普段から気ままに生きることを当たり前だと思ってきたツケが廻ってきたのだろう。ランニングに使う薄手のパーカー、シャツ、長ズボン。この格好になり、逃げるように外へ出た。

「コタマ先輩?あ……」

「ま、待ってよ、コタマお姉ちゃん」

「もぉ、勝手にしなさい!」

 奥のリビングから3人の声が聴こえる。それは、今の私には苦しかった。

 

 夜の都会を歩くと、ネオンやビルの窓からの光が星々のように輝いているのが見える。都会は騒音が大きい、都会は暑苦しいとよく言われるが、このD.U.自治区は思いの外静かである。歩いている私の靴の音が珍しくよく聞こえる。

 夜の闇を裂くように走る電車のアラーム。

 飲食店の近くを駆け回るネズミの鳴き声。

 自宅に帰るのか、私生活について話をする社会人の大きな声。

 社会人の欲望を刺激する女衒の人々の媚びた声。

 ビル群に当たって暑さを削り取る涼しい風。

 やはり、いろんな音が聴こえる都会は居心地がいい。何も考えずに歩いていても、常に多くの音が入り込んでくる。

 音は私にとって「ここに自分が存在しているんだ」と実感させてくれる、素敵な存在だ。音を耳にすると、周りにある悩み事も乗り越えられそうな気分になる。それは、他人に対しても同じだ。どんな人間も音から無縁の生活を送ることはできない。相手の音を聴くということは、ありのままの相手を知ることでもある。その音を聴くためには、本人とのつながりが必要になるのだ。

 いつだったか、初めてシャーレの当番を任されたとき、未知の人物であった先生のことをもっと知りたくて、私はシャーレに盗聴器を仕掛けようとしたときがある。あるときはクマのぬいぐるみ、あるときは飲み物に。

 シャーレに盗聴器を仕掛けたことを先生にバレたのはそれから数日後であった。

――どうしてここに盗聴器を仕掛けたの?

 私は返す。

「その、先生ともっと仲良くなりたくて……。ごめんなさい」

――仲良くなるのはこうして直接話をすることでもできるでしょ。盗聴は犯罪でもあるし、誰だって他人にはばらされたくない秘密があるんだよ。気をつけなさい。

「秘密、ですか……。気をつけます」

 あのときの先生はとても怖かった。普段は怒らない先生だからこそ、淡々とした態度、内心を見透かすような冷たい目、下手な言い訳を許さない喋り方が尚更恐ろしい。

 それからも事あるごとに、あのときの先生に抱いた恐怖が急に蘇るときが何度もあった。朝、目が覚めるとき。通学に使う電車の広告でスーツ姿の男性が動く様子を見たとき。授業を終えて別の教室に向かおうとするとき。規則性はない。ただ、気が緩みそうになったときにやってくる。先生が私をこのお手伝いに呼んだのも、私が反省したことを試そうとしているためか、はたまた、連邦生徒会の管轄に置くことで盗聴をやらせないようにしているためか、もしかしたらどちらの意味もあり得る。

 歩けば歩く程に、心地よかった周りの音が煩わしくなってきた。腕時計を見る。時刻は8時37分。いつの間にか、1時間近くも歩いていたようだ。帰らないと。

 そういえば、大通りが随分と騒がしい。悲鳴を上げる人もいれば、罵声を上げる人もいる、みたいだ。何が起きているのだろう。確かめずにはいられない。

 大通りに出た。この時間帯では、会社帰りの人や飲食店の音が騒がしい。私の視界では、大通りの奥に大きなモニターが見える。人々は、そのモニターに視線が集まっているみたいだ。アナウンスが入る。

……私はそのアナウンスが言った言葉の意味がすぐには分からなかった。いや、分かりたくなかった、という方が正しいかもしれない。しかし、理解したくないと願った私の思いを、あの大きなモニターは容赦なく私に現実を見せつけた。

『シャーレの先生、凶弾に堕つ!主犯格は「アリウス分校」の生徒か⁈』

  昔、驚いたときの気持ちの例えに「その一瞬、世界の中で自分だけが孤独になったような気分になった」という言い回しがある。あのときは「そんな馬鹿な」と思っていたが、このときになって「あぁ、確かにな」と納得してしまう。

 まだ、まだ、先生の生きている「音」を十分に聴けていないのに……。

 

 先生のお手伝いをする少し前、学童保育のボランティアに参加したことを思い出した。大学進学のアピールのために、という軽い動機での参加である。他校の生徒には教育学に真剣な男子や女子が多かった。私は彼らのように積極的に幼児と関わることはなく、どちらかというと保育士さんのお手伝いをして時間を潰していた。そのおかげか、幼児たちで何かあったときにすぐに現場へ駆けつける保育士さんを何度も目にしたのである。そのときの喧嘩の内容というと、作った泥だんごや砂のお城を壊された、気分を傷つける物言いを言われた、〇〇組で飼っている虫にちょっかいを出した、と分別のつかない子どもらしいものばかり。洒落にならないなと私が納得するものがあれば、溜息をつきたくなる程のしょうもないものと程度も様々だ。それでも、保育士さんはやってしまった幼児、やられた幼児、双方の立場を汲み取って仲直りさせていた。原因が大きいもの、小さいものであれ、保育士さんは真剣に対応をしていたのである。

 また、先生から叱られたあの日からどうしても諦めきれない私は密かに先生の公共の場での行動を盗聴していたときのことだ。先生のお手伝いを頼まれたので、先生がどんな様子であるのかを確認したかった。トリニティ総合学園へ宿泊するための準備を済ませた先生は、夜、自室に独りでお気に入りの飲み物を飲んでいる、みたいだ。普段と違って呂律が回らず、本音が漏れ出ていた独り言は、盗聴をしていた私に強烈な衝撃を与えた。

 

――親父。あんたがあのとき言っていたみたいな「他人を守る大人」に俺も近づけているのかなぁ?正直、生徒のやることなすことには、色んな理由があってたまげそうになるよ。でもな、俺の叱る言葉がどれだけ痛いと思っていても、痛みを乗り越えて立派な人間になってほしいんだ。ま、俺も、生徒の思いをしっかりと受け止めて、自分らしさを尊ぶ人間へ導けるように教えていかなくちゃあな。

 

 意識せずにヘッドホンを外した。

 耳が軽くなって、部屋の空気が当たることを実感した。

 自分の心音がいつにもまして煩い。

 首筋が汗ばんでいる。

 失礼なことをしている自分、そして、これをしないと満足できない自分の性が憎らしい。周りにいる大人たちは私情を押し殺して子どもに好い子になってほしいと思って動いている。なのに、私は成人まであと一歩の年頃になっても好き勝手にやっている。なんて恥ずかしいことだ。過去を今更なかったことにできないが、防音室に閉じこもって全てから逃げたい気分である。その日は盗聴をする気分にすらなれず、自宅へ足早に帰った。「明日は朝が早いから」という理由だけで帰宅したわけではない。

 遠くから鳴っている車のサイレンで急に現実に引き戻された。自分が場違いに思える、そんな夏の夜を私は歩いていたのだ。いつの間にか、いつもの玄関の近くにいた。尻が当たっている所が固い。どうやら、私は放心状態で歩いてここに戻り、玄関の近くでしゃがみこんでいたようだ。どれだけ帰り道を思い出そうにも、削り取られたようにそこの記憶がなくなっている。夜空を照らす月もだいぶ西の方へ動いている。

 時計を見ると、1時48分。余程私はまっすぐには帰れなかったみたいだ。あちらこちらをふらついては立ち止まり、ふらついてはしゃがみこみ、を何度も繰り返していたのかもしれない。両脚が岩になったように肉が固まっていて、すぐに動けない。重い身体を動かして、私はポケットに入れたパスキーを右手に持って玄関へ向かった。

 

 パスキーをかざしてドアを開ける。

 さっきとは違って、玄関の先は真っ暗だ。もちろん、他人の気配すらない。小学校の書写で使った液体の墨汁に染められたみたいだ。ドアを閉めると、その暗闇も一層深くなる。暗い場所にいると、物を考える私自身はそこにいてもその空間に存在を喰われてしまった気分だ。唯一、そうではないと気づかせるのは自分から出る音だけだ。普通の人なら玄関の明かりをつけて家に上がるはず、である。しかし、こんな暗闇は中々お目にかかれない。折角の機会だ。自分の音や触覚を頼りに動いてみよう。

 手探りで自分の脛をつかみ、その細くなっていく先をたどる。固い。骨のそれとは違う、冷たい感触。サンダルだ。留め具を見つけて足を自由にした。足の指が動かしやすい。もう片方の足も同じ要領でサンダルを脱ぐ。これで私は裸足になった、はずだ。

 脚をそっと上げ、静かに下ろす。今ではすっかり歩き慣れた感触が伝わる。床だ。かけた脚に力を込め、もう片方の脚を引っ張り上げる。両足に同じ感触が伝わる。ぶつかることなく、床に立てたようだ。

 確か、ここから少し歩いていけば洗面所に着くはず。折角だ。やってみるか。自分の歩くときのしっとりとした音、重心の移る足の感覚を感じながら歩いてみる。いつも通り、6歩も歩けば右手に洗面所があった、気がする。

 1、2、3、4、5、そして6歩。

 ほんのりと漂う、水道水、花の香料、埃の匂い。よし。読みは当たった。歩いてみる。入り口を過ぎたみたいだ。匂いはさらに強くなる。私は記憶を頼りに手を伸ばしてみる。ここでの生活が長かったおかげか、記憶だけで、、蛇口をつかむ、手を水で濡らす、ハンドソープを出して手を洗う、手をすすぐ、この行動ができた。右のポケットに入れたハンカチを出して手を拭く。残るはうがいだ。これも記憶を頼りにコップのありそうな場所に手を伸ばす。丸い感触をつかむ。よし、これも当たりだ。さっきと同じように蛇口をひねって水を出し、コップに水を入れる。段々とコップの重みが増す。うがいをした。音は変わらず部屋中に響く。

 静かさは人を狂わせる、という言葉はあながち間違ってはいない。現に、私は音を出すことで「私自身はここにいるんだ」と実感できる。しかし、それがないときの私は心臓の鼓動を無駄にするだけの肉の塊になってしまう。死んでいるのと変わらない。意外にも、自分を自分であると実感するためには、周囲の音、自分の音を知ることが欠かせないのかもしれない。

 さてと、手も洗った。私はリビングにある寝袋で普段から寝ているので、廊下の奥にあるリビングを目指す必要がある。……ん?リビングが仄かに明るい。さっきまではこんな明かりはなかったはずだ。誰か起きているのだろうか?純粋な好奇心が湧いてきた。確かめよう。奥に向かって私は歩いた。リビングに入る。

――明かりの先には階段を下りたばかりの玲央君がいた。

 

 階段の照明に照らされた玲央君はパジャマ姿である。しかし、よく見ると、ズボンもパンツも履いていない。パンツは右手に持っていて、遠くにいる私でも分かる位、甘ったるい臭いが漂わせていた。いわゆる、年頃の男の子によくあることが起きてしまったようだ。

「だ、誰か、いるの……?」

「怖がらないで。コタマです。こんな遅い時間に起きて、どうしました?」

「コタマお姉ちゃん、助けて。変なお漏らし、しちゃった……」

 恥ずかしがって股間を両手で隠す。見るに、これは初めての出来事なのだろう。男性経験のない私でも、この現象、「夢精」は知っている。何でも、夢の中でいやらしいことを考えると男の子の身体が反応して精液が出てしまう、らしい。女の子である私は自慰が多いこともあってそれに近いことは体験していないが、知り合いで経験した子の話は聞いたことがある。その子たちからは例外なく「最初はどうしたのかと驚いた」と言っている。玲央君も、同じ気持ちなのだろう。ここは不安を煽るような発言をしないように気をつけないと。

「お漏らし、ですか……。分かりました。洗いますのでこっちに来てください」

「え……。で、でも……」

 こちらに近づくことを躊躇っている。思わず、私も気まずくなった。さっき、というには時間が経ちすぎているが、黒見セリカに られたことを部屋の外から聴いていたこともあって、私に幻滅しているに違いない。「悪いお姉さん」、と彼の中ではすっかりとイメージが変わってしまったのだろう。思い返す度に、ここにいる資格がなくなりそうだ。

「……さっきはみっともない姿を見せてしまってごめんなさい。せめて、君は私のような身勝手な人にならないようにしてください。ともあれ、その汚れた服はすぐに洗いましょう」

 その言葉で安堵したのか、玲央君は明るい場所から私のいる暗いリビングへ近づいた。先程から漂う匂いが一層強くなる。やがて、歩く音が私の近くで止まった。私の近くにいるみたいだ。左手を振り回すと背中らしき場所に手が当たった。暗闇に迷うことのないように、私は玲央君の肩に手を当てたまま、闇に染まった洗面所に向かった。

 

「何で、暗いままなの?」

「そ、それは、音を楽しみたいからです。暗闇の方が楽しめます……」

 私は玲央君が片手に持っていたパンツを代わりに洗っていた。衣服の柔軟剤や洗剤ではすすぎにくいときがあるので、この場合はハンドソープで十分である。ハンドソープで洗うと、最初は生臭い匂いであったパンツが水ですすぐと香料の良い香りに染まっていく。

「ところで、さっき玲央君の身体で起きていたことは、ただのお漏らしではないんです」

「え……?あの臭さ、セリカお姉ちゃんのいう精液だよね?精液が出てしまうことってあるの?」

「いわゆる「夢精」ですね。玲央君が夢の中でエッチなことをしているとき、または、エッチな夢を体験しているときにペ〇スが反応して出るんです。まぁ、女の子でも同じような生理現象が起きる、らしいですね。私はないので分かりかねますが」

 パンツを洗濯機の中へ放り込む。洗濯槽の設定をして起動させた。ちょっとした量なので、すぐに洗い終わるのだろう。

「とにかく、次、同じことが起きたら私がしたように、自分で汚れたパンツを洗って洗濯機で洗いましょう。精液は放っておくとひどい汚れにもなりますから」

「……」

「どうしました?」

「セリカお姉ちゃんもシミコお姉ちゃんも、言っていたんだ。精液は汚い、臭いとかって。何でこんな悪いことしかないものが僕の身体から出てくるの?アヤネお姉ちゃんは大人の証だと言っていたのに、こうなるのなら大人になんてなりたくないよ……」

 自分の身体の変化をまだ受け入れられていないみたいだ。……って、「アヤネ」?趣味の盗聴で聴いたことのある名前だ。どんな人物だったか……?

「悲しむことはありません。私だって、月に一度は身体からドクドクと血が出てきますから。最初は怖かったんですが、今では毎月忘れずに対策できていますから。その出てくる血だって、君の精液よりも強烈な臭いですよ。まぁ、最近はあまりないですけどね」

「え……。じゃあ、お父さんもお母さんもそういうことに苦しんでいたのかな……?」

「はい。変わっていく身体に戸惑うのは誰でも同じです。怖がることはありません」

 ……あぁ、そうか。身体が変わりゆくということは、近くにいる玲央君もいつかは先生のように引き締まった大人の身体へと変わっていく。そのときには、今の小さくて愛らしい身体も、その身体からの音も消えてしまうのだろう。

 先生の音が恋しい。気持ちが昂ってきた。玲央君の身体は、今、子どもと大人の中間にある。そのアンバランスさの中に、先生の面影を感じられるのかもしれない。もう、先生の音を聴けないのなら、玲央君に求める他にない。

 思わず、玲央君の身体を抱きしめた。玲央君は最初こそ戸惑ったものの、恐る恐る私の胴体に両腕を回した。左耳の側にある首筋の脈が少しずつ速くなっている。

「コタマお姉ちゃん……?どうしたの?」

「すみません、たまらなく君の音を聴きたくて。前からずっと、先生の息子である君の音を直に聴きたかったんです。先生に会えない間は君の音を聴けば、先生の面影を見つけられると思っていました。……我ながら、最低ですね。自分の望むことを子どもの君に押しつけてしまうなんて」

 玲央君は予想外の答えが返ってきた。

「アヤネお姉ちゃんも似たことを言っていた気がする。コタマお姉ちゃんがそれをして嬉しくなるのなら、僕もそのお手伝いをさせてよ。力になれるなら、何でもする」

 そっか……。「アヤネ」という少女は彼とそういう関係にあったのか……。

 今の私は17歳。そういうことをするには少々遅れを取った気がする。取り戻すなら今しかない。

「ありがとう、玲央君。この暗闇の中で、私を抱いてくれませんか?」

 玲央君は頷いた。暗闇であってもその動きは見えずとも伝わった。

 

 最初は互いの身体を抱き寄せた。

 私の胴体、太ももに玲央君の身体が当たる。

 パジャマの擦れる音。

 息をする度に膨れては縮むあばら骨。

 そして、ゴクリと音を立ててモゾモゾと動く喉の骨。

 盗聴では聴くことのできない、いやらしい、人間の音。

 玲央君のは男の子らしくなっていて、太ももに当たっている。

 唇を首筋に当てて、上に上に登らせていくと、玲央君は小刻みに震える。

 可愛い。

 顎にたどり着いた。右腕をそっと後頭部に回して、私は唇を奪った。フレンチ・キスであったものの、玲央君の唾液や汗の匂いが鼻へと直にやってくる。玲央君も慣れた手つきで私の胸を服越しに優しく触る。これがたまらなく気持ちいい。小柄な身体が大きな身体に抱きつく感触は母性をくすぐられる。

「ッハァ……。もっと、もっと、先生の音の名残を実感させてください……」

「父さんの名残?いいよ、お姉ちゃん。僕でよければ」

 人は、一度決断すると頭で考える前に行動では終わらせてしまう、らしい。

 このときの私もそうだった。

 暗闇の中で玲央君の手をつかんで、服のファスナーや裾をつかませ、私も玲央君のパジャマを動物の皮を剥いで、お互いに裸になった。いや、暗闇にいる以上、「裸になった」という言い方は相応しくないかもしれない。互いの腸に隠していたものを捨てて、本能に従う動物に「変身」した、という方が相応しいか。

 そうして、私たちは暗闇の中で肌を重ね合わせた。

 洗濯機はゴトゴトと私たちを煽るように回り続ける。

 

 互いの乳首が擦れ合う音。

 抱きしめようとして肘の曲がる音。

 背中やあばら骨をまさぐる音。

 普段から聴くASMRでは聴くことのできない、「特別」な音。

 お互い、わざわざ言葉を交わす必要はなかった。自然と、どこを触れば気持ちいいのか、どこを触ってほしいのか、言葉にならない喘ぎだけで察せてしまう。

 幼い先生はきっと、こんな感じだったのだろうか……。

 それにしても、本当に子どもなのだろうか。幼いにしては手つきが上手で、初めての人によくある乱暴さがない。最近では小学生で既に経験を済ませてしまう子どももキヴォトスでは珍しくない。玲央君もその例、であろう。

「玲央君……。その、もう既に誰かとエッチしましたか?」

「……ウン。アヤネお姉ちゃんとしたんだ。皆は悪いことだと言っていたけど、僕は、すごく嬉しかった。こんな僕を拒まなかったから……」

「拒むなんて……。私もそんなことしませんよ。他人の音は私にとってどれも魅力にあふれていますから。嫌になるものがあるからといって、それで諦めるには早すぎますね」

「……それじゃ、僕をもっとぎゅっと抱きしめて」

 迷わず抱きしめた。温かい。大人な先生の音と違って、何事も全力でやろうとする、いじらしい気持ちにさせる、子どもらしい音。

「ところで、どこまでやりましたか?」

「その……、股同士を合わせるところまで……、やった……」

 そこまでやっているのか……。その「アヤネ」という人物は、余程手解きが上手だったみたいだ。彼のなすままに任せよう。

 玲央君は私の身体に、優しく指を絡ませる。

 二の腕。

 腋の下。

 あばら骨の横。

 下乳。

 そして、乳首。

 少し慎重でありながらも優しい手つきは、経験のない私にとってたまらなく気持ちいい。あまりの気持ちよさに声が出てしまう。汗の匂いがさっきよりもきつくなってきている。どうやら、玲央君も興奮して汗ばんできているみたいだ。鼻からの呼吸も段々と速くなっている。エッチをしているときの先生もこんな声を出すと思うと、尚更身体が火照ってきた。

 今の私たちには、洗濯機の音なんて全く聴こえなかった。最早、それどころではない。

 

「う、上手いですね……。そ、それじゃ、お〇ん〇んもいじっていいですか?」

「……いいよ。一緒に気持ちよくなろ」

 私は左手で玲央君の腕をつかみ、自分の股間へ導いた。先程の吐息やペッティングで十分に濡れていた性器に手が当たる。

 全身に電撃が走るような衝撃が走った。

「わ、わぁ。コタマお姉ちゃんのお股、チクチクして痛い……」

「それは多分、私の陰毛です。ンッ……、そ、その辺りをいじってください……」

 私も右手で玲央君の身体をなぞって、太ももまでたどり着いた。そこから横へ指を滑らせると、太い筒に指が当たった。しかも筒は骨が入っているかのように硬くなっている。あぁ、これが男の子のお〇ん〇んか。

「い、いきますよ、私、初めてなので、ンアッ、フッ、上手くないかも、しれま、せんッ」

 私は硬くなったお〇ん〇んを指でなぞった。ひとまず、どのような形であるのかを確認してから、掌でそれを包み込んだ。手で握ると、ヒクヒクと動いている。そこだけが別個の生命体であるかのようだ。正直、私は触るのも初めてなのでどれほどの力加減が丁度良いのか分からない。不安だ。

 とりあえず、普段の握る力より弱い力で包んで、根元から先端までこすってみた。

「アッ、フッ、ングッ、それが、気持ちいい、お願い、もっとッ」

 幸いにも、今の力加減が丁度良いみたいだ。お〇ん〇んをいじられた玲央君は、恥ずかしい声を挙げている。どんな顔をしているのか見えないのは残念だが、自作である先生の合成音声のASMRを思わせる声が聴けるのはありがたい。そうだ。ここで私が囁けばもっとASMRらしくなるのではないか……?邪心が働いた。

「玲央君は、アッ、耳元で囁かれながらイッたことはありますか?」

「「イッた」?な、ンアッ、ど、どういうこと?」

「玲央君の好きそうな女の子の中には、こうすると嬉しくなる子もいるんですよ。今からやりますね」

 左手を伝わせて、肩に手を置く。左手の位置を頼りに胴体を顔の側面らしき場所へさっきよりも近づけた。私は顔をさ迷わせると、玲央君の頬に顔が当たった。耳元に近いようだ。いつも聴くASMRの声や言い回しを意識して、私は囁いた。

「もぉ、お〇ん〇んをこんなに大きくしちゃって……。今の、気持ちいいですか?フフッ、このまま思い切ってビュルルルルッと精子さん出しちゃおっか♡ほーら、ほーら、出しちゃえ出しちゃえ♡」

 あまりにも恥ずかしい。普段は言わないタメ口を役になりきるためとはいえ、逃げだしたくなる気分だ。

 右手が粘ついた。ネットでよく見る、「我慢汁」という現象だろうか。この汁が出てきたということは、射精もそろそろだろう。

 玲央君は息遣いがさらに荒くなる。息に加えて喘ぎ声も混ざるようになった。

「コタマ、アッ、お姉ち、ンアッ、ハッ、イク、そろそろ、フッ、で、アンッ、イクゥッ!!」

 突然、私の左手に生臭い何かが出てきた。豪快な音を立てて出るわけではなく、身体の震えと共にそれは出た。生温い部屋の暑さに劣らない温かさは、掌、手首、そして手の甲へと広がる。それの匂いも辺りを漂い始めた。

 左手に絡んだ精液を口に含んだ私は、先程の位置へと頭を戻した。そこから、首を少し伸ばし、玲央君の顔に喉元を近づけた。首筋に玲央君の吐息がかかる。射精した後の玲央君は、あまりの気持ちよさにただ息が上がるばかりだった。

 口の中にあった精液を舌で全て集め、聴かせるようにゆっくりと身体の奥へと飲み込む。苦い味が口の中に広がる。

「ハァ、ハァ……。玲央君、気持ちよかったですか?」

「お姉ちゃん、ありがとう。精子さん、ごっくんしてくれて」

「私も精液の味を知りたくて、つい……。すみません、飲み込む音も聴かせたくて、こんなこと、しちゃいました……」

「あ、アハハ……」

 私の股はというと、いつの間にか膣からの体液で濡れていた。玲央君のお〇ん〇んをいじっているときにあふれてしまったみたいだ。股から垂れたそれは、太ももを伝って膝の周りに這っていた。

 洗濯機からの音が変わった。そろそろ洗濯も仕上げになってきているようだ。

 

「そ、その、お願いしてくれますか?「アレ」を」

「「アレ」って?」

「まぁ、「アレ」です。エッチにおける、最終地点、でしょうか……」

「それって、何もしないままヤると赤ちゃんができるっていうよ……」

 幸いなことに、私の身体ではここ数週間は睡眠不足や不摂生から生理があまり起きなくなっている。生理があまり起きない、つまり、生で出されても大丈夫といえるのだ。

「構いませんよ。生でしたからといって、必ずしも赤ちゃんができるとは限りませんよ。さ、体勢も変えましょう」

 私は暗闇の中でつかんでいる玲央君の手を導いた。左手の指は玲央君の指と絡ませ、右手は腕をしっかりとつかむ。背中には生温い床、こぼれた洗剤のビーズ、抜けた髪の感触が伝わる。そして、左脚を軽く上げた。

「玲央君。身体に脚が当たっていますか?」

「……うん。スベスベしていて柔らかい」

「フフ……、その脚を肩に引っ掛けてくれますか?」

「どうしてこんなことするの?」

「この体勢にすることで、いつものよりももっと気持ちいいエッチができるんです。折角ですから、楽しみましょう」

「……うん、分かった」

 左脚がつかまれる感触。

 そのまま玲央君は言われた通りに脚を身体に沿わせた。脛に髪の毛の擦れる音がする。さーて、これで準備完了だ。

「……じゃ、始めましょうか」

 自由な右手で玲央君の身体をなぞり、股間と思しき場所に着く。股間にあるお〇ん〇んをつかむと、彼はビクンと身体を震わせる。

「いいですか?入れますよ?」

 つかんだお〇ん〇んを自分の股にあてがう。私の股はさっきの玲央君の手でベットリと濡れている。膣に刺すのは難しいことではなかった。

 膣の中で玲央君のお〇ん〇んが動く。自分の身体に起きた変化に対応しようとしているみたいだ。中でヒクヒクと動きながら膣の壁を押しのける。

「ハッ……、オッ……、フ、フンフッフゥ……」

 少し離れたところで吐息が聴こえる。この体位でのエッチはしたことがないのか、喘ぐばかりで動いていない。こちらから仕掛ける必要があるみたいだ。また自由になってしまった右手を伸ばす。腰回りに手を回し、そのお尻をギュッとつかんだ。

「痛いッ!な、何するの?」

「準備はいいですか?私に玲央君の全て、ぶつけてください♡」

 察しがいいのか、玲央君は身体を動かした。

 肉体を叩かれる音が身体中に響く。普段の趣味では体感することのない快感が質量を以て全身に迫る。玲央君のお父さん、シャーレの先生は生死をさ迷っている中で、私は自分が生きていることを実感する。たまらなく後ろめたくて涙が流れてしまうのに、この快感を欲してしまう。

 玲央君はそんな私のことも知らずに必死になって腰を振る。降る度に私の喘ぎも勝手に身体から出てくる。

「で、出そう!アッ!ウッ!フッ!フッ!フンッ!!」

「オッ!ウッ!アッ!出して!先生!私を孕ませてッ!!アグッ!!ンアッ!」

――やがて、とびきり強烈な突きの後、私の膣は温かい体液に満たされた。

 ほぼ同時に洗濯機もアラームが鳴ったかと思うと、事を終えたように動かなくなった。

 

 真っ暗な中であっても、その吐息や汗の匂いで互いに全力を出したことは察せる。でも、玲央君は私の本心まで分かることはないのだろう。空調の利いていない空間、それも暗闇の中でセックスしたこともあって、洗剤の匂い、埃の匂い、そして互いの体液の匂いで満たされていた。……自分の身体からこんな匂いが出てきたとは信じたくない。

「き、気持ちよかったですか?私、初めてなので乱暴だったかもしれません……」

 私の身体に重なっている玲央君は乳房の谷間の間で頭を左右に振った。

「そんなことないよ。やっぱり、こうしてエッチするとお姉ちゃんと一緒になれたんだと実感できるから、僕は辛くないよ」

 あまりにも濡れてしまったので、私たちは身体を起こし、風呂場のある方角へ向かった。そこでようやく電気をつけた。風呂場の電気に照らされた私の身体は、下腹、股の間、陰毛に精液が這っていた。玲央君はというと、顔も胸も脚も火照っていていやらしい。

「今日のことは、私と君だけの秘密ですよ。さ、身体を洗ってスッキリしましょ」

 私は、眩い風呂場へ玲央君を連れていった。

 そうして、私たちは汚れた互いの身体を洗いあった。さっきまでの暗闇でのエッチの余韻はなかったが、とても楽しい、細やかな時間であった。

 

「と、こ、ろ、で、……。昨日の夜、誰か玲央君と風呂場使っていなかったかしら?」

 朝食を食べた後、チセが陰陽部とチャット通話するその間、私はフカフカのソファではなく、堅い床の上で正座させられている。とても痛い。玲央君はソファの上に座っている。

「な、何のことでしょうか……?」

「何のことも何も、アタシが起きたとき、風呂場のガスのスイッチが点いていたままだったの。それに、玲央君のパンツだけが洗濯機に入っていた。加えて、洗面所と風呂場の床が生臭い!!……まさか、コタマ先輩、玲央君とそういうことしてたのかしら?」

「……はい、すみません。しました」

 黒見セリカは一瞬、眉を上げて目を見開いたが、自分の反応に気づいてすぐに真顔に戻った。やはり、昨夜の玲央君の発言は本当のことのようだ。

「ま、まぁ、このアタシだって玲央君とエッチしたけれど、そういうことは迂闊にしない方がいいとは思っているの。玲央君だってそうよ!女の子、皆が皆、エッチしてくれると思ったら大間違いよ!!気をつけなさい!」

「うん……。ごめんなさい」

 黒見セリカは話題を変える。

「ところで、急な話なんだけれど、トリニティ自治区にいる先生が重体だってのは、本当?」

「……はい。昨日の夜、速報で報じられていました。正直、悪い夢か何かだと今でも信じたい位です」

「「悪い夢」て……。アタシにとっては先輩の浪費ぶりが「悪い夢」であって欲しいわよ、全く……。ま、あの先生がちょっとやそっとで死ぬはずなんてないわよ。どうせ、すぐに身体を直していつも通りにアタシたちの前に来るわよ」

 玲央君は朝食のときに見ていたニュースで知っていたときは狼狽していたものの、今では静かに私たちの話を聴いている。日頃から、お父さんから「先生という仕事は危険と隣り合わせだ」と聞かされているからなのだろうか。

 彼は静かにしていると、身体をこちらに向けた。

「もしさ、お父さんが仕事できなくなっちゃったときはさ、僕が代わりになるよ。僕だって、お姉ちゃんたちの力になりたい!」

 そのときの顔の凛々しさ、子どもながら先生の面影があった。瞳にも一切の迷いがない。あぁ、今いる先生の跡取りはこの子になるのかもしれないな。

「い、言ってくれるのは嬉しいけれど、まずは学校の勉強を頑張りなさいよ!さっさと登校の準備をしなさ~~い!!」

 黒見セリカは私そっちのけで玲央君とじゃれつき始めた。さっきの凛々しさが嘘のように、玲央君は年相応の子どもらしい振る舞いを見せている。私はその様子を見て、こう、心の中で願った。

――彼も先生の音を受け継ぐ人になれますように。




 今作のこだわりは、暗闇でのエッチです。コタマ、玲央君が暗闇の中で何をしているのか、どこに触れているのかをしっかりと考えながら描写しました。また、セリフでも、他のユーザーの方がしているように、喘ぎ声を文字にして臨場感が増すように工夫しました。楽しんでくださったら、とても光栄です。
 pixivで事前に投稿した作品は全て載せたので、次作からはpixivで投稿してから同じタイミングでこちらにも投稿します。その次作も歓声が近づきつつあるので、近い内に投稿したいです。
 ご期待くださいませ。

投稿している作品は、どちらがいいですか。

  • 今のままシリーズだけで。
  • 作品個別で再投稿してほしい。
  • 個別だけにしてほしい。
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