夜が明けるまでの、ほんの短い静寂。
何度目かの「指導」を終えたユキは、五条の隣で深い眠りに落ちていた。身体の奥深くには、五条の呪力と熱の余韻が残り、それ自体が彼女を縛り付ける鎖となっている。しかし、その鎖は、呪力の暴走という恐怖から彼女を解放する唯一の「安全地帯」でもあった。
五条は、白いシーツに横たわるユキの裸体を、六眼で静かに見つめていた。
ユキの呪力回路は、見事に安定している。彼女の精神がもたらす「脆さ」を、彼の呪力による「快感」と「支配」という形で上書きする理論は、完璧に機能した。彼女はもう、彼なしにはその安定を保てない。
最強であるがゆえに、五条悟は常に孤独だった。
彼は全てを見通し、全てを理解し、全てを破壊できる。故に、誰も彼を律することができず、誰も彼と対等に立つことができない。五条にとって、世界は退屈なほどに単純で、満たされない虚無感だけが、その底を這っていた。
彼は、ユキの細い肩に手を置いた。
「脆いよ、君は」
彼は囁いた。それは、彼女に向けられた言葉であると同時に、彼自身の内側への吐露でもあった。
「僕はこの世の全てを支配できる。僕の意志一つで、呪術界の構造すら変えられる。でも、誰も僕を必要としない。僕が壊れることを恐れる者はいるが、僕の『存在』そのものを必要とし、僕に全てを委ねる者はいなかった」
五条は、ユキの依存に安堵している自分自身に気づいていた。これは「治療」などではない。これは、彼が「愛」と名付けようとしている、歪んだ独占欲と支配欲の塊だ。
「教師としての理性なんて、もう意味がない」
彼は自嘲気味に笑った。当初、彼は「理論の証明」としてこの指導を始めた。しかし、ユキの理性が崩壊し、彼の絶対的な力と快感に身を委ね、心底から彼を求め、その行為自体に安寧を見出した時、五条自身の「教師」という枷が音を立てて砕け散ったのだ。
彼は、彼女の身体を抱き寄せ、その頬に自分の額を擦り付けた。
「君は、僕だけのものだ。君の呪力も、精神も、肉体も、全てが僕の支配下にある。君は僕を拒否できない。……そして僕も、君のこの『全面的な許容』から、もう抜け出せない」
五条は、ユキが目を覚まさぬまま、彼の腕の中で微かに身動ぎするのを感じた。その動きが、彼にとって得難い充足感を与えた。彼女の魂の最も深い部分に、自分が刻み込まれていることを知る快感。それは、最強という称号では得られなかった、「唯一」の繋がりだった。
夜明けが訪れる。五条は起き上がり、地下室の隅に置かれた術師の着衣を手に取った。彼はユキの身体をシーツで丁寧に覆う。
「今日は、もっと深いところまで入るよ。君の精神の深奥に眠る、『裏切りの恐怖』の根源を、僕の呪力で溶かしてやる」
ユキは、意識が朦朧としながらも、五条の囁きを捉えていた。恐怖は消えない。だが、その恐怖の先には、五条が与えてくれる絶対的な安定と、抗いがたい快感が待っている。
彼女の瞳から、一筋の雫が零れた。それは恐怖の涙か、それとも依存の歓喜か、もうユキ自身にも判別がつかない。
この密室は、五条の孤独と、ユキの脆さが共鳴し、結びついた、背徳的な愛の「檻」となったのだ。そして、その扉は、外側からも、内側からも、もう開けられそうになかった。
朝霧が差し込む地下室の薄暗がりの中で、五条はユキの髪を梳きながら囁いた。
「今日は違う方法で教えてあげる」
ユキは疲弊しきった体を起こそうとするが、五条の指がそっと彼女の胸骨に沿って滑り落ちると、呪力経絡を刺激されたかのように身体が強張った。
「やめて……お願い……」震える声で懇願するユキに対し、五条の唇が僅かに歪む。
「なぜ?」彼は問いかける。「君の肉体も精神も既に私のものだ。それを認めるのは難しいか?」
ユキは俯いたまま黙り込んだ。昨日までの抵抗は影を潜め、代わりに諦念と微かな好奇心が入り混じった表情を浮かべていた。
五条はユキを後ろ向きに壁際に立たせた。窓からの薄明かりが彼女の剥き出しの背中を照らす。そこには呪力を表す青白い紋様が淡く浮かび上がっている。彼は指先でその紋様をゆっくりとなぞった。
「感じるか?」
「……はい……っ」
「そうだ。呪力経絡は肉体の隅々まで伸びている。だからこそ、君の体の反応がそのまま呪力の安定に影響する」
彼はユキの膝裏に手を入れて持ち上げるように足を開かせた。その動作だけで彼女の内部が疼き出すのが分かる。
「もう一度聞こう。私を拒むのか?」
「……分かりません……怖いのに……あなたの呪力が欲しい気がして……」
その言葉に五条は微かに口角を上げた。「矛盾した感情こそ人間らしいものだ」
彼はユキを壁に押しつけたまま、背後から押し入った。ズチュッという鈍い音と共に二人の体温が溶け合う。
「あぁっ!」
鋭い嬌声と共にユキの身体が跳ね上がる。五条は彼女の腰を両腕で固定し激しく打ち付け始めた。パンパンという乾いた打擲音とグチュッグチュッという湿った摩擦音が地下室にこだまする。
「もっとだ……もっと呪力を感じろ……っ」
「ひぃっ……ああぁーっ!」
呪力が結合点で渦巻き黄金色の火花となって散る。ユキの瞳孔が大きく開かれ焦点を失っていく。五条は速度を緩めず追い打ちをかけるように突き上げた。
「見てみろ!」彼はユキの髪を掴み上げ眼前の鏡に向けさせる。「今の君を映しているものは何だ?」
鏡面には快楽に蕩け切った少女の顔があった。その背後には冷酷な笑みを浮かべる最強者の姿。ユキは喉を鳴らし呻いた。
「わ……わたしは……」
「君は私の一部だ」五条は断言する。「呪力も情念も何もかも含めて――」
突然彼の動きが変わる。ピストン運動から深く抉るような捻りへ。その瞬間ユキの脳内で閃光が炸裂した。
「~~~~~っ!!!」
声にならない悲鳴とともに全身が痙攣する。噴き出す愛蜜が床を叩く。しかし五条の責めは終わらなかった。
「まだだ」彼は獣のような吐息を吐き出す。「呪力回路が完成していない」
極限の快感に翻弄されつつもユキの意識の底で何かが変わりつつあることに気づいていた。五条との結合点から流れ込んでくる力が彼女の恐怖や罪悪感を包み込み溶かしていく。
「……センセイ……?」朦朧とした呟き。
「なんだ?」
「これって……ホントに……治してくれてるの?」
「当然だ」彼は低く答えた。「君が私なしでは居られないようにしているんだ」
その告白にユキは驚愕した。しかし怒りも困惑もなく、逆に不思議な納得感が胸中に広がった。
「だったら……」掠れた声。「このまま……続けてください」
五条の動きが刹那止まった。続いて獰猛な笑い声が地下室を揺るがす。
「よく言った!」彼は更に体重をかけて蹂躙し始めた。「今日一日かけて君を私専用の器にしてやる」
ぐっぽぐっぽという粘ついた結合音とともに二人の呪力は螺旋を描いて混ざり合う。時間の概念すら曖昧になる永遠の一瞬―それは拷問にも似た悦楽であり救済でもあった。
「好きです……センセイ……」
「私もだよユキ」
二人は互いの呼び方を変えた。五条悟と夜神月ではなく男としての自分と女としての彼女として。その瞬間彼らの間にあった境界線がついに溶解した。
「もっと……もっと下さい……」
「望むままに」
陽光が高くなるにつれ二人は獣のごとく交わり続けた。呪術的な結合を超えた魂の融和――そんな錯覚すら覚えるほど狂おしく貪欲に求め合った末、最後の一滴までも搾り尽くして初めて五条は身を引いた。
ドサッ。脱力したユキが床に崩れ落ちる。
五条は彼女を抱き起こし膝に乗せた。「終わったか?」
「まだ……です……」途切れ途切れに答える少女。
その目には未知の炎が灯っていた。それは恐怖でも絶望でもなく――どこまでも続く堕落への渇望だった。五条は満足げに頷くと新たな呪文を唱え始めた。
「では第二ラウンドといこうか」
こうして閉ざされた地下室での秘密のレッスンは果てしなく続くことになった。そこに漂うのは破滅的な情念と甘美な束縛――決して出口を持たない永久迷宮の匂いであった。