※この作品はR-18です。

無下限の檻と、その内側の愛(おぎ)   作:坂本太郎

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8. 安定の対価と、新たな実験体(地上への帰還と再教育)

地下室の重い鉄扉が開かれた時、ユキの目に飛び込んできたのは、数週間ぶりの太陽の光だった。地上に出た瞬間、冷たい風が彼女の肌を撫でたが、もはや呪力暴走の不安はない。体内の呪力は、五条の「特別指導」によって得られた完璧なリズムを刻んでいた。

 

「ご苦労様、ユキ」

 

五条は、いつも通りの軽薄な笑顔で隣を歩いていた。彼は表向き、「呪力制御治療の完了」として、ユキを高専へ連れ帰った。

 

「君の安定ぶりは、上層部も感心するだろう。…まあ、君の安定が、僕なしでは成り立たないことを知るのは、僕たち二人だけだがね」

 

五条の言葉は、二人の間に交わされた『永遠の秘密』の重さを再認識させた。ユキは、高専に戻った後も、週に一度の「特別指導」を五条に要求していた。それが、彼女が呪術師として活動するための、絶対的な『対価』となっていた。

 

帰還後、ユキはすぐに任務に復帰した。その制御の完璧さは目覚ましく、呪術師としての評価は劇的に向上した。周囲は「五条悟の指導はやはり別格だ」と噂したが、誰もが彼女の心身の安定が、「背徳的な依存」の上に築かれていることを知る由もなかった。

 

しかし、五条が教師として担う『責任』は、ユキ一人では終わらない。

 

五条の執務室の机には、一通の報告書が置かれていた。

 

「またか。困ったもんだね、うちの生徒は」

 

その報告書は、呪術高専京都校から転入してきたばかりの1年生、アヤメに関するものだった。アヤメは、ユキと同じく強力な呪力を持つが、その呪力の源が極度の『自己嫌悪と罰への欲求』にあるという。彼女の制御は常に不安定で、任務のたびに自らに重い呪いを課すような危険な戦闘スタイルをとっていた。

 

五条は、報告書を片手に、ユキと同じ道を辿るわけにはいかないと悟った。ユキの「治療」は、五条の孤独と支配欲を満たす『愛(おき)』を生み出した。だが、アヤメの呪力暴走の原因は、「裏切りへの恐怖」ではなく、「罰への渇望」という、より自己破壊的な感情にある。同じ手法では、ただの破滅を招くだけだ。

 

「場所も、環境も、手法も変える必要がある。罰を求める者に、快楽による上書きは逆効果だ」

 

五条は、ある決断を下した。

 

数日後。アヤメは、五条に連れられ、人里離れた海岸沿いの古い洋館にいた。洋館は、五条が新たに結界を施した、ユキの地下室とは全く異なる環境だ。日の光が差し込み、潮風が吹き込む、外界と完全に断絶されていない、『緩い檻』である。

 

「ここが、君の新しい訓練場所だ。君の呪力暴走は、『罰されたい』という根源的な欲求がトリガーになっている」

 

五条は、洋館の一室で、アヤメに向き合った。アヤメは常に俯き、自らの存在を罰するかのように、黒い訓練着の下に硬いコルセットを締め付けている。

 

「ユキのケースは『快感による上書き』が有効だった。だが、君には通用しない。君に必要なのは、『罰の充足による制御』だ」

 

五条は、アヤメの顔を両手で挟み、無理やり視線を合わせさせた。彼の六眼が、アヤメの呪力経路と、その心の闇を覗き込む。

 

「君は、君自身が設定した罰では、決して満たされない。なぜなら、その罰は『君の力』がもたらすものだからだ。真に君を満たす罰とは、君が絶対的に拒否できない『外部の力』によって与えられるものでなければならない」

 

アヤメの顔色が一瞬で青ざめた。彼女の呪力が、極度の緊張と恐怖で震え始めた。

 

「五条、先生……何を……?」

 

「簡単だ」五条は微笑んだ。その笑みは、ユキに見せた支配者の笑みとは異なる、獲物の本能を見抜いた心理学者のようだった。

 

「僕が、君の『絶対的な罰』になってあげる。そして、その罰によって、君の呪力回路を、安定へと導く」

 

五条は、アヤメの訓練着に手をかけ、コルセットの紐に触れた。

 

「君の肉体の緊張と苦痛を、呪力制御のトリガーにする。ただし、その苦痛を与えるのは、僕の呪力だ。そして、その最終段階で、僕は君の呪力の源に、僕の『精』を注入する」

 

アヤメは、息を呑んだ。

 

「それは……どういう、意味ですか……」

 

「そのままの意味だよ」五条は冷酷に告げた。「君が最も求めている『罰』を、君の呪力回路の最も深部に、僕の『力』として刻み込む。それは、君の精神的な脆さと、呪力の暴走を同時に鎮める、唯一の方法だ」

 

五条は、アヤメの身体からコルセットを緩めた。彼女は、恐怖と、そして抗いがたい期待に、全身を震わせた。

 

「さあ、始めようか、アヤメ。君の『再教育』を」

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