シティハンター - 冴羽獠と禁断の依頼(もっこり) 作:坂本太郎
1. 喫茶「キャッツアイ」の朝と香の疑念
新宿の喫茶店「キャッツアイ」。早朝のカウンター席で、冴羽獠はスポーツ新聞を広げ、いつものように怠惰な時間を過ごしていた。隣では、相棒の槇村香が、コーヒーを飲みながら、険しい表情で彼を見つめていた。
「獠、ちゃんと仕事してるんでしょうね」
香の声には、いつもの怒気だけでなく、冷たい疑念が混じっていた。
「ああ?もちろんさ、香。俺は新宿一のスイーパーだぜ。依頼は山ほどある」
「依頼?この前来た依頼人は、『心の穴を埋めてほしい』って言ってたわよ。報酬は手編みのマフラー。それがまともな仕事?あんた、最近の依頼が、『禁断の救済者』なんて呼ばれていること、知ってる?」
香は、真剣な眼差しで獠を見つめた。彼女は、獠が女性の心の闇や肉体の歪みを、自身の精気で救済するという、裏の世界の噂が真実ではないかと恐れていた。
「救済、ねぇ。依頼人の望みを叶えるのが俺の仕事だろ?香には分からねぇ、大人の複雑な事情ってやつさ」
獠はいつものように笑って誤魔化そうとするが、その瞳の奥には、「救済」と「罪」の境界線を踏み越えることへの重い覚悟が見え隠れしていた。二人の間の信頼関係に、見えない亀裂が入り始めていた。香は、自分が獠の仕事に立ち入れない領域ができたことに、孤独を感じていた。
2. 秘密の覚悟とXYZ
その日の夜、新宿警察署の刑事・野上冴子の妹、野上唯香は、人目を忍んで新宿の裏路地へと向かっていた。
彼女は、姉の冴子とは違い、素朴で無邪気な高校生だが、最近、獠への抑えきれない好奇心と、大人への憧れという危険な衝動に駆られていた。
唯香は、姉の冴子が冗談めかして言っていた「獠の裏の顔」を思い出していた。
「あいつはね、唯香。男としては最低だけど、時々、どうしようもないものを救ってしまう、特別な力を持っているのよ」
唯香にとって、獠は危険で圧倒的な男であり、大人の世界への扉を開ける鍵のように感じられていた。彼女の無邪気な好奇心は、禁断の領域への扉を叩こうとしていた。
3. 掲示板のSOSと「禁断の依頼」の開始
唯香は、深夜の新宿駅東口。スイーパーへの依頼の慣例として使われる、駅前の伝言板の前で立ち止まった。 彼女はスカートのポケットに隠し持っていた、一本の黒いチョークを握りしめた。
通常、スイーパーへの真剣な依頼は白のチョークが使われるが、この黒いチョークは、獠の裏の顔である『もっこり依頼』、すなわち個人的な欲望や禁断の救済を求めるサインだった。
彼女は震える手で、掲示板に大きく、しかし簡潔に、黒のチョークで暗号を書き記した。
『ABC』
この黒のチョークで書かれた『ABC』こそが、獠への救いを求める最後のSOS、つまり依頼のサインだった。
唯香は、その下に、自分の無邪気な衝動と求めるものを、正直な気持ちで綴った。
『自分の魅力がどれだけ通用するか、試してほしい。事務所で待っています。 唯香』
依頼を書き終えた瞬間、彼女の背筋に、大人としての秘密を持ったような、ぞくりとした興奮が走った。彼女は、急いでその場を立ち去った。
獠は翌朝、その依頼を「野上冴子の妹」という名前に、一瞬の躊躇を見せながらも、香の疑念を背中に感じながら、受けることになる。
「禁断の遊び」は、無邪気な好奇心と大人の責任の間で、静かに幕を開けた──。