廉直女学院中等部校舎のプールサイド。
そこには俺と傑と黒井さんの三人がいた。
そして俺はガラケーを使って夜蛾先生に確認を取っていた。
その内容は天内の扱いについて。
「天元様から天内理子の要望には全て応えよとの御命令だ。学校に通わせるのは不安が残るが仕方がない」
「命令に関しては分かりました。ですが本人にも了承を得てるんでいざとなったら高専に連れて行きます」
「ああ。大変な任務になると思うが頼んだぞ」
「…ええ」
俺は夜蛾先生の気遣いに対して若干の間を置いて返事をする。
もし天内が同化を拒んだら高専とも敵対関係になる可能性は高い。
一応回避できるかもしれない言い訳はあるが、それがどこまで通用するかは分からない。
最悪の場合は想定しておいて損はない。
五条家は俺の言いなりだから問題なし。
他の御三家は保守的だから猛反発することは目に見えている。
こういう時の為に他の御三家との関係を作っておくべきだったな。
呪術の技能を磨くのに専心し過ぎた。
もし、呪術界から追われる身になったら、と考えてみる。
硝子や歌姫が狙われる可能性は非常に高い。
人質に取られたら厄介だな。
今の内に手を打っておくか。
俺はメールを開いて二人にサッとメールを送る。
内容は『呪術界と敵対するかも』という簡潔な文だ。
それに対して、硝子からは『OK』と軽い了承、歌姫からは『何がどうしてそんなことに!?』という驚愕が返ってきた。
これで二人には最大限警戒してもらえるだろう。
二人だって術師であるから弱くはない。
過信もできないが早々人質や晒し首にならないだろうと思う。
そんなことをやっている間に傑と黒井さんで何やらやり取りしたらしく、若干黒井さんの瞳が潤んでいた。
それには触れずに俺は監視について傑に尋ねる。
「傑、監視に出してる呪霊は?」
「あぁ。冥さんみたいに視覚共有ができれば良いんだけどね。それでも何か異常があればすぐに─」
傑の言葉は不意に途切れた。
そして顔付きを鋭くした。
「悟、急いで理子ちゃんの所へ」
「了解。数は?」
「二体祓われた」
最低でも二人以上は確定か。
俺は傑達と校内を駆けながら思案する。
呪霊を祓えるなら呪術を扱えるか呪具を装備していることになる。
少なくとも盤星教の信者ではない。
Qは最高戦力の離脱により組織が瓦解している。
となると野良の呪詛師の可能性が高まる訳だが、一体何が目的で襲撃なんて仕掛けてきたんだ?
盤星教が金で雇ったのか?
いや、そんなことより問題は現在の天内の所在か。
走りながら黒井さんに質問を投げる。
「天内は?」
「この時間は音楽なので音楽室か礼拝堂ですね」
「成程。ミッションスクールだからか」
俺が一人納得していると傑が各自に役割を振り分ける。
俺は礼拝堂に、黒井さんは音楽室に、傑が襲撃犯二名の元へ向かうということになった。
「申し訳ありません。移動の度にメールするよう言ったのですが…」
「気にしないで下さい。後で叱れば良いだけのことです」
後で、との言に黒井さんは微笑みを浮かべて「そうですね」と口にした。
そこで黒井さんとは別れて天内を探しに向かった。
礼拝堂に到着した俺は迷わず扉を開けた。
「天内!!」
「なっ…なな…」
天内が突然現れた俺に動揺する。
そしてそれを掻き消す絶叫が響いた。
「「「え〜〜!?」」」
「何理子、彼氏!?」
「従兄弟!従兄弟だよ!」
「高校生!?背ぇ高!!」
「おにーさんグラサン取ってー!!」
俺は要望に応えてグラサンを外す。
そうすると黄色い声が上がった。
「イケメンじゃん!!」
「おい調子乗んなよ!!」
みんなの黄色い声に天内が苛つきを見せる。
そんな混乱を音楽教師が手を叩いて収めた。
「困りますよ。身内とはいえ勝手に入られては」
「すいませんね。事情は後で校長から説明されますんで」
「校長から?でしたら仕方がないですけど…あ、後これ私のTEL番」
「おおーい!!条例違反!!」
TEL番を受け取って俺は愉快な喧騒から天内を連れ出して去る。
腕に抱いた天内から抗議の声が上がる。
「馬鹿者!!あれ程みんなの前に顔を出すなと─」
「呪詛師襲来。後は察して」
俺は取り合わずに短く言い放った。
「このまま高専行く。友達は巻き込みたくないでしょ?」
「うん…」
天内はしおしおと萎れて黙り込んだ。
不服だが友達に危害が行くのは本意ではないという顔だ。
そんなに友達が大事なら同化なんてしなければ良いだろう。
同化したくない、とただ一言聞ければ良いんだがな。
そんなことを考えながら校舎を駆け上がり学校から飛び出していく。
屋根上を駆けて高専に向かう俺達を遮る姿があった。
紙袋を被った男が四人、前方を塞いでいる。
そこで着信音が鳴る。
俺は天内を降ろして隣に置き、携帯を取った。
通話相手は傑だった。
「悟、理子ちゃんの首に三千万の懸賞金が懸けられている。呪詛師御用達の闇サイトで期限付き。明後日の午前十一時までだそうだ」
「成程ね」
俺はそれだけ聞いて大体の相手の狙いを把握する。
恐らく三千万の懸賞金は釣りだ。
狙いは精神的な削り、これ見よがしに期限を付けているのは油断を誘う為。
迂遠なやり方だ。
盤星教そのものというよりは盤星教に雇われている俺を知ってる誰かの策略だろうな。
そんなことを企み、実行できそうな相手は一人だけ心当たりがある。
「ったく。呪術師は万年人手不足なんだがね。転職するなら歓迎するよおっさん」
「二、三、四人。みんな同じ背格好じゃ。式神か?」
「いやぁ職安も楽じゃねぇだろ。そのガキ譲ってくれればそれで良い」
「増えた!!五人じゃ!!」
天内が一々騒ぎ立てる。
そんなに騒いでも状況は変わらないんだがな。
俺は分身二体を蒼で衝突させる。
ゴシャと鈍い音を立てて分身が頭をぶつける。
「式神が消えん!!どれが本体じゃ!?」
「式神じゃないよ。分身だ。全部本体の」
天内に説明している間に残った三人の内二人が殴り掛かってくる。
しかしその拳は俺の眼前で停止する。
「んだこれ!!」
「俺に近付く物は近付く程遅くなる。だから永遠に辿り着けない。無限の障壁だ」
必要はないが一応術式開示で呪力を底上げする。
そして丁寧に相手の術式について説明する。
「本体含めMAX五体の分身術式。どれが本体かは自由に選択できるんだろ?本体が危うくなったら安全な分身を本体にする。良い術式じゃん。何でそんな弱いの?」
「何故俺の術式を知っている」
「俺の眼はあらゆる呪術を看破する。それだけのことだ」
そう言って蒼で残った一体を引き寄せる。
そして指先に術式反転赫を発動して炸裂させる。
「ガッ…!!」
呪詛師は倒れ伏して気絶する。
こいつはマジで使えそうなので捕獲しよう。
適当に呪詛師の服を破いてロープ代わりにして縛り上げる。
後は補助監督に任せよう。
「五条!!どうしよう!!黒井が…!!黒井が!!」
そうこうしていると天内が慌てた様子で俺に携帯を見せつけてきた。
画面に映っていたのは黒井さんが縛られて拘束されている姿だった。
そこに傑が到着して粗方事情を聞き出して状況を整理する。
「すまない。私のミスだ。敵側にとっての黒井さんの価値を見誤った」
「そこに関しては俺もだな。天内との関係値を考慮すべきだった。だけどまだ取り返しはつく」
その言葉に真っ先に反応したのは天内だ。
顔を明るくさせて希望を見出そうとしている。
それに応えるように俺は不敵に微笑んだ。
「相手は次、人質交換的な出方で来るだろ。天内と黒井さんのトレードとか、天内を殺さないと黒井さんを殺すとか。だが主導権は変わらずこっちにある。取引の場を設けさえすれば後はどうとでもなる」
「理子ちゃんはどうする?」
「連れて行く」
「良いの?」
俺の言葉に縋るように口を開いたのは天内だ。
若干俯きながらも希望の籠った瞳を俺に向ける。
俺は天内の頭を撫でて安心させる。
「俺らの手元に置いとくのが一番安全だし、それにまだお別れも言えてないだろ?」
「うん…!!ありがとう!!」
俺は可愛らしく笑って感謝を告げる天内に見惚れる。
歳下に見惚れるとか有り得ないな。
俺は煩悩を振り払う。
そして誤魔化すように口を開く。
「まぁ、俺達最強に任せとけ。特に駆け引きに於いては俺の得意分野なんだわ。黒井さんを助け出せるように上手く誘導してやる」
俺はニヤリと悪辣な笑みを浮かべて相手を転がす算段を立てた。
美人を拉致った罪は重い。
その命で持って贖わせる。
俺はそう固く決意した。
・オリ主
駆け引きが得意。
天内に見惚れてしまった。
・天内理子
頼りになるオリ主に好感度がグングン上がっている。