天元様と一夜を共にした後、俺は薨星宮を出て高専の寮へと戻った。
そして高専に呪力の登録の為に預けていた格納型呪霊を回収して中身を調べた。
そしたら大量の呪具が出て来た。
高専の資料と照らし合わせるとそれらはどれも特級呪具に相当する物であった。
例えば天逆鉾。
発動中の術式の強制解除という破格の術式を持った呪具だ。
これら全てが禪院甚爾の遺品であり俺の戦利品なのだが、禪院家がそこに口を挟んで来た。
どうやら事態を知って禪院甚爾の所持していた呪具を回収しようと企んでいるらしい。
それらのゴタゴタを解決する為に俺は現在禪院家へと向かっている。
その道中で見知らぬ女性から声を掛けられた。
ナンパらしい。
「もし良ければお茶でもしませんか?」
「あぁー…すいません。タイプじゃないです」
そう言って俺はスタスタとその場を去った。
何となく嫌な予感のする女性であった。
額に縫い目があるのも気に掛かる。
俺の本能が警戒していたのでお断りしたが、見た目は凄く好みだった。
惜しいことをしたか、と若干後悔する。
しかしやることが山積みな今は仕方がないと割り切ろう。
そう言い訳して俺は禪院家に足を運んだのであった。
◇
禪院家に着いてすぐに直哉が迎えてくれた。
直哉は昔から俺のファン?らしく、よく懐いてくれていた。
「まさか甚爾君が悟君とやり合うとはな。惜しい人を亡くしたわ」
「そうか?俺からしたら危険因子が減って一安心だが」
「悟君からしたらそうやろな。でも俺からしたら憧れの人亡くすのは堪えるんやわ」
直哉は甚爾に憧れを抱いていたらしい。
俺が知る限りギャンブル中毒の女誑しという最悪の人物なんだがな。
「にしても、親父もよう分からんわ。悟君が勝ったんやから、戦利品が悟君の物なのは分かり切っとることや。それを横から口挟むなんて何考えてんのやろ」
「さぁな。意外に狡猾な人だから狙いはあると思うが…」
そんな会話をしながら禪院家当主である禪院直毘人の待つ部屋へと向かって歩く。
直哉としては当主の考えに反対らしい。
ぶつぶつと文句を垂れている。
まあそこら辺は話し合いで解決だ。
円満に行くと良いが。
そんな風に考えている間に部屋に到着したらしく、先導してくれていた女性が部屋の襖を開ける。
「失礼します。五条悟様をお連れしました」
俺は直哉と別れて部屋へと一歩踏み入れる。
そこには当主以外にも二人の人物がいた。
確か禪院甚一と禪院扇という人物だった筈だ。
「よく来た。五条家当主殿」
「で、そっちの言い分は?」
俺は開口一番本題に入る。
つまりは甚爾の遺品の扱いについてだ。
「伏黒甚爾は禪院家の血筋の者だ。ならばその遺品は禪院家の所有物になるべきだ、というのが言い分だ」
「伏黒?」
「奴は婿に入った」
俺の疑問にあっさりと直毘人が言い放つ。
それは俺にとって有り難い情報であった。
「婿に入ったんなら尚更禪院家には関係ないでしょ。関係あるって言うんなら迷惑料として受け取ることにする」
「ああ。それで異論はない」
「…?」
直毘人は意外にもあっさりと俺の言い分を認めた。
本当に何を考えているか読み難い人である。
直毘人は酒を片手にニヤリと口元を歪めている。
「話は終わりだ。あぁ、それと甚爾には息子がいるが、直に禪院家へと引き取られる予定だ」
「…それを話してどうするつもりで?」
「さてな」
今一狙いが分からない。
何故甚爾に息子がいることを話した。
それを俺に話して何のメリットがある。
ぐるぐると思考を回す俺を置いて直毘人はさっさと部屋を出て行ってしまった。
部屋にいて話を聞いていた甚一と扇の二人も部屋を出て行った。
俺は一人取り残されて思考する。
直毘人の狙いは何だ。
俺に話すこと自体に意味があるのか?
分からないことだらけだ。
俺が悩んでいると直哉が部屋に入って来た。
「何や、随分悩ましげな顔やね?」
「伏黒甚爾に息子がいるらしいんだが、それを俺に話す意味が分からなくてな」
「…?悟君に引き取って欲しいんとちゃう?」
直哉はそう簡単な答えを口にした。
「確かにそれなら話した意味も分かるが、俺はそんな信頼に足る相手じゃないだろ」
「禪院家に置いとくよりマシっちゃう判断やろ。ここは酷いとこやし」
直哉の言う通り禪院家は酷い所だ。
女性に人権はなく、男児の扱いですら厳しい。
古い因習に囚われて人権を無視した扱いを平気でする。
それなら確かに五条家に預けておいた方がマシだろう。
俺は得心して頷いた。
「成程なぁ。俺ん家の方が遥かにマシだわ」
「やろ?俺はそう思うで」
納得して俺は部屋を出て廊下を歩く。
玄関へと向かう俺を直哉が引き留めた。
「折角来たんやしゆっくりして行かへん?」
「まあ、それもそうだな。お言葉に甘えるとするか」
俺は踵を返して歩き始めた。
二人で並んで廊下を歩いていけば、豪華な中庭が目に入った。
五条家の庭も凄いが、禪院家も中々綺麗である。
俺が景色に見入っていると、視界の端に人影が映った。
視線を向ければ、そこでは幼い少女二人に暴行を加える男子達の姿があった。
俺はそこに蒼の瞬間移動で割って入る。
突然無下限に拳を阻まれた男子達が慄く。
「何してんだ」
「え、えっと…あの…」
俺が腹の底から湧き出る呪力を立ち上らせると男子達は皆、泡を吹いて気絶した。
気配だけで気絶するとか弱い奴等である。
俺は暴行を受けていた少女二人に向き直り、赤く腫れた頰に触れる。
少女達は最初は怯えた様子だったが、俺が反転術式で治癒していると分かると気を緩めたようだった。
「もう大丈夫だよ」
「ありがとう!」
「ありがとう、ございます…」
片方の少女は元気良く、もう片方の子はビクビクしながらお礼を口にした。
それに俺は笑みを浮かべる。
そこに直哉がやって来た。
「何や虐められとったんか。コイツらもようやるわ。弱い者虐めして何が楽しいんだか」
直哉は呆れた様子で気絶して倒れている男子達を見ている。
俺は直哉に疑問を投げ掛けた。
「いつもこんなことを?」
「俺は知らんで。まあでも普段からやっとるやろ」
直哉の言葉に沸々と怒りが湧いてくる。
俺は一つ決意をして、直哉に宣言した。
「この子達は俺が嫁に貰うわ」
「それは構へんと思うけど、また同じようなことは起こるで」
「それは直哉が変えてくれ」
「まあ悟君の頼みならええで。せやけど、真希ちゃんと真依ちゃん娶るんわちゃんと親父に言っとき」
「あぁ。ちょっと色々言って来る」
そう言って俺は二人の少女を連れて直毘人の所へと向かうのだった。
◇
あの後、女中に直毘人の居場所を聞き出した俺は直接直毘人に真希と真依両名を嫁として五条家に迎え入れると言い放った。
直毘人はまたしてもあっさりとそれを了承し、そうして俺は二人の嫁を連れて五条家へと戻ることになった。
二人にはちゃんとした衣食住を与えて、好きな物は好きなだけ買い与えるように言い付けた。
直毘人にも禪院家の因習について改善を求めるように言った。
これでまた同じようなことがあったら家ごと消してやると固く決意するのであった。
そして伏黒甚爾の家族についてであるが、五条家の力を使って調べた所、どうやら津美紀という娘と恵という息子がいることが分かった。
この二人に関しても後程引き取る旨を五条家の面々に伝えた。
五条家の皆は俺のこと全肯定マンなので反対意見は出なかった。
取り敢えずこれで甚爾の遺品については片付くのであった。
新たな問題も増えたが、一先ず終わりが見えて一安心だ。
問題は恵君と津美紀ちゃんがどうしたいかだが、まあ禪院家に行きたいとは言わないだろう。
そう信じて俺は眠りについた。
・オリ主
真希真依の扱いにブチギレ。
引き取ることは難しいと踏んで嫁にする方向に舵を切った。
・禪院姉妹
突然助けられて、突然嫁にされて困惑した。
優しくしてくれるオリ主への好感度は高い。
・禪院直毘人
計画通り。
真希と真依をオリ主の嫁にする計画を幾つか立てていた。
これで禪院家も安泰であると一人笑って酒を飲んだ。