貞操逆転世界のエロゲに転生したけど、ラスボスの女帝(処女)が「開発してくれ」と頼んでくる 作:七草七
謁見の間は、死ぬほど重い沈黙に包まれていた。
磨き上げられた大理石の床に額をこすりつけながら、俺──アレンは、心臓が早鐘を打つのを感じていた。 背中には、無数の視線が突き刺さっている。 この部屋を警護する近衛騎士たちの視線だ。もちろん、全員が女性である。
(……食われる。物理的にも、性的な意味でも)
ここは『ファンタジー・クロニクル』の世界。
剣と魔法、そして「女性上位」が常識の貞操逆転世界だ。
男は弱い。魔力も体力も女性に劣り、ただ「種」を提供するだけの存在として扱われる。
街を歩けば逆ナンは当たり前、夜道で襲われても「無防備な格好で歩いている男が悪い」とされる狂った世界だ。
そんな世界で、前世の記憶を取り戻した俺は、モブらしく城の下働きとしてひっそりと生きてきた。
目立てば狩られる。イケメンでもない俺ですら、油断すれば飢えた女騎士に拉致されかねないからだ。
なのに、どうしてこうなった。
「──面を上げよ」
頭上から降ってきたのは、鈴を転がすような、しかし絶対零度の冷たさを含んだ美声だった。 俺は恐る恐る顔を上げる。
そこにいたのは、この世の美をすべて集めて凍らせたような美女だった。
白銀の長い髪、紫水晶(アメジスト)のような瞳。
豊満な肢体を包むのは、漆黒のドレスと、皇帝の証である真紅のマント。
足を組んで玉座に座るその姿は、まさしく「支配者」そのものだ。
ベアトリス・フォン・オルクス。
この帝国の女帝であり、原作ゲームにおいては主人公パーティーを壊滅寸前まで追い込む、最強最悪のラスボスである。
(殺される……! 掃除の時に壺を割ったのがバレたのか!?)
俺が死を覚悟した、その時だった。
「……下がれ。全員だ」
ベアトリスが短く命じた。
騎士たちがざわめく。 「へ、陛下? このような下賤な男と二人きりなど、危険です!」
「余の命令が聞けぬと?」
「は、はいっ! 直ちに!」
氷の視線に射抜かれ、騎士たちは慌てて退室していく。
重厚な扉が閉まり、広い謁見の間には、俺と、世界最強の女帝だけが残された。
……終わった。
これはあれだ。誰にも見られないように処刑して、死体処理するやつだ。
俺がガタガタと震えていると、ベアトリスが玉座から立ち上がり、カツ、カツ、とヒールの音を響かせて近づいてきた。
そして、俺の目の前で立ち止まる。
甘い香水の匂いが鼻をくすぐる。見上げると、整いすぎた顔が俺を見下ろしていた。
「貴様……名はアレンと言ったな」
「は、はいっ! 下働きのアレンでございます!」
「ふむ。……宮廷魔導師からの報告によれば、貴様の魂には『異界』の痕跡があるらしいな」
(!? バレてる!?)
転生者であることが、魔法で看破されていた?
俺が言葉を失っていると、彼女はさらに続けた。
「異界……そこには、この世界よりも遥かに進んだ『性愛の知識』が存在すると聞く」
「……は?」
予想外の単語に、間抜けな声が出た。
ベアトリス陛下は、わずかに視線を逸らし、咳払いをした。
その頬が、ほんのりと──いや、明らかに赤く染まっているように見えるのは気のせいか?
「単刀直入に言おう。……余に、教えろ」
「は、何を……?」
「だ、だから! ……その、『セックス』というやつだ!」
…………はい?
俺は耳を疑った。
今、このラスボスは何と言った?
セックスを教えろ?
俺に?
「き、聞こえなかったのか愚か者! 余を、その……開発しろと言っているのだ!」
ベアトリスが叫んだ。顔はもう真っ赤だ。
俺は混乱する頭を必死に回転させた。
この世界の女性は性欲に忠実だ。皇帝ともなれば、美少年のハーレムを作っていてもおかしくない。
それなのに、なぜ俺なんかに?
「あ、あの……陛下には、その、沢山のお相手がいらっしゃるのでは……?」
「いるわけなかろう!!」
彼女は即答した。そして、悔しそうに唇を噛み、小声で呟く。
「……余は、強すぎるのだ」
「え?」
「余が強すぎて、気位が高すぎて……男どもが全員、余を恐れて逃げ出すのだ! 誰も余を抱こうとしない! 近衛の女どもは『陛下は数多の男を食い尽くした絶倫に違いない』などと噂しているが……余は、まだ……その……」
そこまで言って、彼女は蚊の鳴くような声になった。
「……未経験、なのだ」
(…………マジかよ)
俺は驚愕した。
原作最強のラスボス。世界を恐怖に陥れる氷の女帝。
その正体が、まさかの「処女」?
強すぎて男が寄り付かない?
なんだその悲しすぎる理由は。
「こ、このままでは、帝国の威信に関わる! 女帝たる者、夜の戦いにおいても最強でなければならんのだ! だが、今更部下に教えを請うわけにもいかん!」
なるほど。
プライドが高すぎて誰にも聞けない。
そこで白羽の矢が立ったのが、異世界の知識を持ち、かつ口が堅そうで、殺しても問題ない下っ端の俺というわけか。
「アレンよ。貴様には、異界の『高度なテクニック』があると見込んだ」
ベアトリスは俺の胸倉を掴み、引き寄せた。
至近距離で見る彼女の瞳は、潤んでいて、羞恥と、それ以上の好奇心に揺れていた。
「余を満足させてみせろ。……もし余を『イカせる』ことができれば、貴様を取り立ててやる。だが、もし不満足な結果に終われば……」
「お、終われば?」
「不敬罪で即刻処刑だ」
選択肢はなかった。
俺はゴクリと唾を飲み込む。
相手はラスボス。一歩間違えれば死。
だが──目の前で顔を赤らめ、涙目で俺を見つめるこの絶世の美女を、「開発」できる権利を与えられたのだ。
男として、(そして元エロゲプレイヤーとして)、逃げるわけにはいかない。
「……承知いたしました、陛下」
俺は覚悟を決めた。
「俺が持てるすべての知識を使って、陛下を……とろとろに蕩かせてみせます」
「ふ、ふん。口だけは達者だな。……ならば、今すぐ始めろ。こ、ここでだ」
ベアトリスはそう言うと、玉座にドカリと座り直し、震える手で自らのスカートの裾を掴んだ。 白く、滑らかな太ももが露わになる。
こうして、世界で一番恐ろしく、世界で一番初心な女帝陛下との、秘密のレッスンが幕を開けた。
(続く)