※この作品はR-18です。

マクロスΔ オペレーション・スィートプリズナー   作:夜叉五郎

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2068年3月1日
惑星ラグナ・マクロス・エリュシオン


プロローグ
ch.1「突然のプロポーズ」


 春の気配など微塵も感じさせない、冷たい艦内空気。

 マクロス・エリュシオンのブリーフィングルームに乾いた拍手が響く。

 

 この日、正式に辞令が下り、アラド・メルダースがマクロス・エリュシオンの艦長に就任した。

 空いたデルタ小隊の隊長ポストには、本来なら本日同時に、ミラージュ・ファリーナ・ジーナスが任命されるはずだった。

 

 だが、ミラージュは、半月前から赴いていたリーダー研修先で何らかのトラブルに巻き込まれたようで、この日も不在である。

 そのため、代理として当分の間チャック・マスタングが、臨時で小隊長を務めることが発表される。

 

 なお、ハヤテ・インメルマンはフレイアの忘形見の養育に専念するため、ヘイムダルの争乱終結直後に退役している。

 そしてワルキューレは、美雲、マキナ、レイナ、そしてカナメ――フレイアのいない四人で、再び活動を始めることになった。

 

 わずか一ヶ月余りで、ケイオス・ラグナ支部は、随分と寂しい陣営に様変わりしていた。

 

 カナメ・バッカニアは静かに息を吐いた。

 


 

 就任式が終わった直後、アラドから短いメッセージが届く。

 

『カナメさん、少しお時間いただけますか。格納庫で』

 

 ――指定された場所は、バルキリー格納デッキ。

 

 照明が落された広大な空間に、VF-31Sジークフリードが静かに佇んでいる。

 アラドは愛機の主翼に軽く手を置き、こちらを待っていた。

 

 カナメはワルキューレの通常業務用ユニフォーム姿で歩み寄る。

 濃紺のクロップドジャケットに白のインナー、短めのスカートに黒のタイツ。

 ジャケットの裾から覗く腰のラインが、照明に照らされて艶やかに光った。

 

「お待たせしました、アラド艦長」

 

 まだ「艦長」と呼ぶのは慣れない。

 ずっと「隊長」だったのに。

 

 アラドは苦笑交じりに首を振った。

 

「まだ慣れないな、その呼び方。……今日は、艦長としてじゃなくて、個人として話がある」

 

 カナメの眉が小さく動いた。

 

 個人として?

 

 アラドは一歩踏み出し、真っ直ぐにカナメを見つめた。

 いつも冷静な瞳に、今は確かに熱が宿っている。

 

「カナメさん。俺と、付き合ってくれないか。……結婚を前提に」

 

 瞬間、カナメの思考が真っ白になった。

 

 え?

 

 頭の中で言葉が反響する。

 耳を疑った。聞き間違いかと思った。

 

 でも、アラドの表情は本気だった。

 冗談でも任務でもない、ただの「男」の顔。

 

「ちょ、ちょっと待ってください……!」

 

 声が裏返る。

 心臓が早鐘のように鳴り始めた。

 

 どうして? いつから?

 自分はそんな素振りを見せた覚えはない。

 いや、アラドだって――

 

「急に何を言い出すんですか……!」

 

「急じゃない」

 

 アラドは静かに首を振った。

 

「ずっと前から、貴女が好きだった。ワルキューレを護衛し始めた頃から、ずっと」

 

 カナメの頬が熱くなる。

 

 十歳以上も年上。

 戦友。

 飲み仲間。

 公私ともに世話になりっぱなしの、頼れる存在。

 

 それが今、恋愛対象として自分の前に立っている。

 現実が、どうしても飲み込めない。

 

「……私、答え、すぐに出せません」

 

 やっとのことで絞り出した言葉。

 

 アラドは静かに頷いた。

 

「わかってる。急かさない。……ただ、伝えたかっただけだ」

 

 それ以上何も言わず、軽く敬礼の仕草で手を上げると、アラドは背を向けて歩き去った。

 VF-31Sの影が、まるでそれを見送るように長く伸びる。

 

 カナメはその場に立ち尽くしていたが、やがて踵を返し、ほとんど小走りで自室へと逃げ帰った。

 

 

【挿絵表示】

 


 

 自室のドアを閉めた瞬間、力が抜けてベッドに倒れ込むカナメ。

 枕に顔を埋めて、両手で頭を抱えた。

 

 うわああああああああああああああああ!!!

 

 心の中で絶叫する。

 

 どうして? どうして今? どうしてアラド艦長が――

 

 でも、嫌じゃない。

 それが一番怖かった。

 

 拒絶感が湧かない。

 むしろ、胸の奥が熱くて、苦しくて、甘いような――

 

「……だめね、私」

 

 カナメは枕に顔を押し当てたまま呟いた。

 

 フレイアが逝って、まだ一ヶ月も経っていない。

 

『カナメさん、幸せになってな!』

 

 笑顔で言ってくれたあの子の声が、まだ耳に残っている。

 

 メッサーのこともある。

 

『歌ってくれ、カナメさん』

 

 あの言葉が、今でも胸を締め付ける。

 

 大切な人を、立て続けに失ったばかりだ。

 こんな時に、結婚なんて――

 

 でも、アラドの瞳が脳裏に焼き付いて離れない。

 あの真剣で、どこか切なげな眼差し。

 

 胸の奥に小さな火が灯ったような、そんな気がした。

 

 カナメはゆっくりと体を起こし、机の上に置いてあったメッサーの形見のブレスレットを手に取る。

 

「……どうすればいいの、メッサー君」

 

 答えは返ってこない。

 

(続く)

 

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