※この作品はR-18です。

マクロスΔ オペレーション・スィートプリズナー   作:夜叉五郎

162 / 218
2068年5月19日(土)
惑星レハーム アルテミシア・グランドホテル レセプションホール


ch.162「カナメ記者会見:質疑応答フェイズ」

喧騒が一段落し、再び質疑応答の時間が設けられた。

 

会場の空気は、先ほどまでの「エロティシズムへの熱狂」から、一転してカナメ・バッカニアという女性の「本意」を問う、重苦しい緊張感へと引き戻される。

 

一人の女性記者が、震える声を絞り出した。

 

「……改めて確認させてください。カナメさん、あなたが女性としての尊厳を、一個人のプライバシーをすべて捨ててまで、ヴァールの根治に身を捧げるのは……一体なぜなのですか?」

 

カナメは、その問いを真っ向から受け止めた。

 

その瞳には、かつて戦場の空を見上げていた時と同じ、静かな決意が宿っている。

 

「私は、惑星ディバイドの出身です。ヴァール症候群が引き起こした凄惨な戦乱の中で育ちました。幼い頃、憧れのランカ・リーさんのように、大好きな歌で悲しい戦いを止めたい……そう願ってアイドルを目指しました。その夢は一度は潰えましたが、ワルキューレを立ち上げ、ここまで必死に走り続けてきました」

 

カナメは一度言葉を切り、組んだ指に力を込める。

 

「その歩みの中で、私は大切な仲間や友人を、数えきれないほどヴァールで亡くしてきました。……あの絶望を、もう誰にも味わわせたくない。もし、私の身体を晒すことで、この銀河からヴァールの恐怖が根絶できるのだとしたら。私一人の女性としての尊厳など、それに比べればあまりにも些細なことです」

 

会場に、しんと静まり返るような沈黙が流れた。

 

女神のような自己犠牲。

 

だが、その直後、別のゴシップ記者が冷ややかな声を投げかける。

 

「綺麗事ですね。結局、全人類の男性の欲望を一手に引き受ける快感に酔っているだけではないのですか? 大勢の男にチヤホヤされたいという、歪んだ自己顕示欲の現れでは?」

 

カナメは眉一つ動かさず、むしろ可笑しそうに口角を上げた。

 

「どうでしょう? 正直、そのことはあまり意識していませんでした。先ほども述べた通り、私にとって婚約者以上の殿方はこの世に存在しませんから。他の皆様にどう思われようと……私にとっては、彼に愛されているという事実だけで十分なのです」

 

堂々たる惚気(のろけ)に、記者は毒気を抜かれたように黙り込む。だが、その沈黙を破ったのは、会場後方から飛んだ切実な、叫びにも似た質問だった。

 

「数は少ないかもしれませんが、女性の罹患者もいます! 彼女たちのための救済はどうなるのですか!?」

 

カナメはその問いに、慈愛に満ちた微笑みで応えた。

 

「ご安心ください。そのための『バイオペニス』です」

 


 

カナメが傍らに控えるクレア・パドルへ視線を送ると、彼女は事務的に、しかし確かな自信を込めて説明を引き継いだ。

 

「バイオペニス……。KBモデル発売時のCMソング、私の新曲『涙目射精音)』のミュージッククリップ内にプロトタイプが登場して以来、弊社の次期主力商品と噂頂いていたデバイスです。本日、ついにその全貌を公開いたします」

 

背後のスクリーンに映し出されたのは、あまりにも生命力に満ち、妖しく脈打つ「男根」の3Dモデルだった。

 

「これまでの女性のヴァール化パターンを解析した結果、失礼ながら同性愛傾向、それも能動的な『タチ』側の性癖を持つ女性が罹患しやすいというデータが得られました。彼女たちにとって、このバイオペニスはまさに、魂の渇望を埋めるピースとなるでしょう」

 

会場の空気が、カナメの優しげなムードから、クレアの語る「効率的な性欲管理」の冷徹な熱っぽさへと塗り替えられていく。

 

「本機はABVと同様、OTM(オーバー・テクノロジー・オブ・マクロス)の粋を集めた、ケイオス・アダルト支部との共同開発品です。形状は、どのような女性でも満足いただけるデザインとなっており、素材にはフォールドクォーツの粒子が練り込まれています」

 

クレアはスティックでデバイスの断面図を指し示した。

 

「最大の特徴は、フォールドバリアによる感覚還元システムです。装着者のクリトリスをバリアで包み込み、バイオペニスの表皮が受けた刺激を、そのままダイレクトに還元します。女性の極小な性感帯を、物理的にペニスサイズまで引き延ばしたかのような感覚……。それは、良い意味での『鈍感さ』と、広大な面積から押し寄せる『怒涛の快感』を両立させます」

 

「ペニスサイズまで、クリトリスの感覚が広がる……?」

 

女性記者たちが、その異常な快楽の理論に絶句し、思わず自身の股間を意識するように脚を組み替えた。

 

「さらに、根元にはカートリッジ式の射精ギミックを搭載。もちろん受精機能はありませんが、特濃の『擬似精液』が装填されています。量、粘度、味、温度……そのすべてが完全に再現されており、バイオペニスの射精と連動して、装着者自身の潮吹き、およびセイズノールの射出を促します」

 

クレアは淡々と、しかし断定的に付け加えた。

 

「これこそが、女性の体内からもセイズノールを排出し、ヴァール化を予防するための最適解なのです。なお、本デバイスはABVやKBモデル同様に、通信状態を維持しないと機能しません。皆様の得た快感データは、逐一ケイオス・アダルト支部のサーバーへ送られ、更なるワクチンの改良に役立てられます」

 

女神の告白に続き、今度は具体的なデバイスによる機能的な救済の提示。

 

会場はもはや、医療発表会なのか、それとも銀河規模の巨大な官能の祭典なのか、その境界が完全に見失われようとしていた。

 

クレアは会場の女性記者たちの、熱を帯びた視線を受け止めながら、唇の端をわずかに吊り上げた。

 

「もちろん、ヴァール対策に関わらず、こちらのバイオペニスは純粋な娯楽としても利用可能です。その実用性については、すでに確かな証明がなされています」

 

スクリーンに、二人の女性のシルエットがぼんやりと浮かび上がる。その特徴的な髪型とプロポーションに、会場の誰もが息を呑んだ。

 

そして、そのシルエットの股間には、それぞれが装着した『バイオペニスバンド』の、あまりにも生命力に満ち、妖しく脈打つデバイスの輪郭が、くっきりと、そして異常な大きさで浮かび上がっていた。

 

スクリーンの右下には、控えめなフォントで『※本シルエットはイメージです』という注釈が添えられている。

 

「……ッ! マキナとレイナが……ッ!?」

 

「あのデバイスを、二人が……!?」

 

会場のどよめきが、悲鳴に近い衝撃へと変わる。

 

かつての戦友であり、星団中が知るあの清純な二人のシルエットが、いまやデバイスによって、ドロドロに溶け合うような官能の中毒者として衆目に晒されているのだ。

 

「この星団で最も有名な女性ペアにテスターをお願いしたところ、大変な好評を博しておりました。彼女たちは現在、毎晩交互に、カートリッジを一本丸ごと使い切る勢いでこのデバイスに励んでおられます。愛を深め、互いの熱量を高め合うのに、これほど有用なツールはない……。彼女たちの現在の、非常に『充実した』夜の生活が、何よりの証左と言えるでしょう」

 

クレアの、その「最近の二人の爛れた生活」を確信犯的に仄めかす口振りに、記者たちは絶句した。

 

女性記者たちの間に、戦慄にも似た好奇心と、抑えきれない湿った熱気が広がっていく。

 

バイオペニス。

 

それは、女性たちが抱えていた「同性への渇望」や「満たされない肉体の空隙」を、科学技術という名の暴力的な快楽で埋め尽くす、禁断の代替品であった。

 


 

バイオペニスの圧倒的な機能美に会場が沈黙する中、一人の男性記者が、食い下がるように声を上げた。

 

「……確かに、性能と救済の理論は理解しました。ですが! 世の中の男性すべてがカナメさんをタイプとしているわけではありません。嗜好が合わなければ、いくら高性能なデバイスでも没入できない層がいる。その救済はどう担保するおつもりですか!?」

 

その問いを、クレア・パドルは待っていたと言わんばかりの、艶やかな微笑で受け止めた。

 

彼女は金髪のお団子ヘアを揺らし、一週間前の壁尻配信で100万本の男性器を射精に追い込んだ時と同じ、情熱的で、獲物を逃さないサキュバスの瞳でマイクを握る。

 

「その懸念は、あまりに近視眼的ですね。本日、私からも重大な発表をさせていただきます」

 

クレアは淀みのない、しかし熱を帯びた声で、全銀河の視線を釘付けにした。

 

「私、クレア・パドルもまた、ワクチンABV嬢として正式にデビューいたします。私の身体データをミリ単位で精密にサンプリングした『CPモデル』も、ソフトと合わせて同時発売となります」

 

その瞬間、会場には「やはり来たか」という納得と、それを上回る激しい興奮が爆発した。

 

「ABVにクレアさん本人までもがラインナップされるのか……!」

 

「あの伝説の前夜祭や壁尻配信で見せた、あの『蕩けるような奉仕』が、フルデータで味わえるなんて!」

 

CM撮影中に自らオリッシュの精液の熱に震え、配信では百万人以上の「下僕」たちを口腔と乳房の愛撫で一滴残らず搾り取った、あのクレア。

 

彼女が今、自らをカナメと同じく、男どもの性欲を受け止める贄として捧げることを宣言したのだ。

 

「カナメのような包容力や母性を求めるのではなく……私のような、溢れんばかりの情熱で皆様を包み込み、悦楽の深淵へと一途に誘う導きを求める方々も、決して少なくないはずです」

 

クレアは潤んだ瞳をさらに輝かせ、言葉を継ぐ。

 

「私が皆様を、理論を超えた『本物の熱量』をもって、至高の絶頂へと導きましょう。そして、これはあくまで検討段階の計画ではありますが……」

 

彼女はいたずらっぽく、しかし極めて実利的なビジネスの顔で、魅力的な「未来」を仄めかした。

 

「このカナメや私のABVソフト、およびKB・CPモデルの売れ行きが好調であれば、さらなるラインナップの拡充も視野に入れています。……そうですね、例えば『MNモデル』や『RPモデル』といった、新たな可能性の開発・販売も、決して夢物語ではありません」

 

その瞬間、会場の熱狂は飽和点を超えた。伏せられたイニシャルが指し示す、あまりにも有名な「あの二人」の存在を、その場にいる誰もが瞬時に理解したからだ。

 

「MN……あの、ふわふわわがままボディのマキナ・中島か!?」

 

「RPは……あの無機質でハッカーなレイナ・プラウラーのことか!? まさかワルキューレが全員、ABV嬢になるっていうのか……!」

 

記者の抗議は、もはや歓喜の波に完全に飲み込まれた。

 

クレア・パドルが提示したのは、単なる新製品ではない。「好み」という最後の逃げ道すら、最強の布石で塞ぎにかかる、完璧な欲望の包囲網の完成だった。

 


 

クレアによる衝撃の「参戦」と、次なる『MN』『RP』モデルの示唆に、会場の興奮はもはや暴動寸前の沸点に達していた。

 

だが、クレアはそれを冷徹なまでに事務的な、しかし残酷なほど甘美なスケジュールでまとめ上げた。

 

「それでは、皆様が最も関心を寄せているであろう、正式なリリーススケジュールを発表いたします」

 

背後のスクリーンに、銀河の運命を塗り替えるロードマップが映し出される。

 

「まず、来る6月1日。この日は弊社社長オリッシュ・ハメルマンと、カナメ・バッカニア嬢の晴れがましい結婚式当日でございます。この記念すべき佳き日に、ABV本体、およびカナメによる『ワクチンABVソフト第一弾』の発売を開始いたします。皆様にお願いがございます……。式当日は、ライスシャワーの代わりに、ぜひ皆様の『射精シャワー』にて、両人の門出と、人類の輝ける未来への第一歩を祝福していただきたいのです」

 

真面目な顔で「射精による祝福」を求めるクレアの言葉に、全銀河のネットワークは狂喜乱舞した。

 

週明けの市場開場と同時に、オーオク社の株価が寄り付くことなくストップ高へと叩き込まれることは、もはや抗えぬ運命となっていた。

 

だが、会見の最後に用意されていた「真のサプライズ」こそが、この場を真の修羅場へと変える。

 

カナメが再び、慈愛に満ちた、しかし逃げ場を許さない真摯な眼差しで数千人の記者たちを見渡した。

 

「本日は、この惑星レハームまで足を運んでくださった皆様に、特別なご提案がございます。このアルテミシア・グランドホテルにご宿泊のマスコミ関係者の皆様限定となりますが……皆様の宿泊期間中、ABVシステムの試遊機、およびご希望の方にはKBモデルとバイオペニスバンドを、無料でお貸し出しさせていただきます」

 

その瞬間、巨大なレセプションホールを埋め尽くした数千人の男たちの理性が、一斉に音を立てて崩壊した。

 

メインホールへの入場パスを持ってる記者たちは、ほとんどがアルテミシア・グランドホテルの宿泊者たちだ。

 

今日、これから。

 

この銀河の歌姫であり、ワルキューレのリーダーである「カナメ・バッカニア」を、擬似的とはいえ抱くことができる。

 

彼女の秘部を模したデバイスを使い、彼女に与えられる快感を五感で味わい、その肉体に溺れることが許されるのだ。

 

男であれば誰しも抗えぬ、根源的な渇望。

 

目の前に微笑む「サキュバス・クイーン」に一滴残らず吸い尽くされたいという、破廉恥で泥濘のような欲望。

 

会場全体に、無言のまま総立ちとなった男たちの「性欲」が、視覚化されんばかりの禍々しいオーラとなって立ち昇った。

 

数千人の猛る熱気が巨大なホールに充満し、吐息が白く濁るほどの濃密なムラムラとした圧力が支配する。

 

対照的に、サテライト会場やホテルの外に締め出された「持たざる」木端記者たちは、あまりの格差に血涙を流し阿鼻叫喚の声を上げた。

 

選ばれたエリート記者たちだけが、今夜カナメ・バッカニアという名の悦楽を独占する。

 

カナメはその剥き出しの欲望のオーラを、拒絶するどころか、むしろ心地よくその身に浴びた。

 

彼女は嫋やかに微笑み、数千人の男たちが発する、窒息しそうなほどの性愛の熱を受け止めながら告げる。

 

「これは単なる試遊ではありません。どうか今夜、皆様ご自身でこの新しいヴァール対策への試みの素晴らしさを、そのお身体で味わってみてください。そして、ヴァールを根治し、平和な銀河を取り戻すために……どうか、あなた方マスメディアの情報発信力を使って、私たちに力を貸してください」

 

カナメが深々と頭を下げた。

 

今夜、このラグジュアリーホテルの全客室で、銀河史上初となる「大規模な集団絶頂によるヴァール予防」が行われる。

 

その事実は、既存の倫理を完全に粉砕し、新たな「快楽による統治」の時代が幕を開けたことを告げていた。

 

(続く)

 

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