マクロスΔ オペレーション・スィートプリズナー 作:夜叉五郎
天の川銀河 各所
惑星レハームのアルテミシア・グランドホテルの控室。
「はぁ〜〜ん……。そういうことだったのね、カナメちゃん」
銀河ネットワークを介して配信された、狂騒の記者会見。
その余韻が冷めやらぬホテルの控室で、ボビー・マルゴは羽扇子をパタパタと仰ぎながら、モニターに映る「女神」のアップを見つめていた。
今回、レディMから「銀河の命運を左右する、最高にエロスで重要な仕事がある」と、目が飛び出るような高額報酬でフロンティア星系よりわざわざレハームへと呼び戻されたボビー。
会見の直前まで、カナメとクレアの二人を、男たちの理性を一瞬で焼き切る「究極の雌」へと仕立て上げるべく、その伝説的なヘアメイクの腕を振るい抜いたのだ。
二ヶ月ちょっと前、初の慰安任務に送り出すためにカナメを「宇宙一の夜の蝶」へと変貌させた時のことを思い返すボビー。
「あの時の、あの悲壮なまでの覚悟……。ただの慰安任務じゃなくて、全人類の男の精を吸い尽くす『サキュバス』への脱皮だったってわけね。あの震えは、進化の産声だったのよ!」
ボビーは鏡に映る自分のアフロを整え、ふふっと妖艶に微笑んだ。
自分の筆先で仕上げられたカナメが、今や自らの生体データを銀河に開放し、全オスを絶頂へと導くデバイスの核(コア)として君臨している。
「メイクアーティストとして、こんな光栄なことはないわ。一人の女性を、銀河規模の性欲の拠り所に仕立て上げる手助けをしたんだもの。私の筆先から、新しい進化の種が芽吹いたのね。最高にクリエイティブで、最高にエロスな仕事だったわ……!」
世間では「倫理観はどうなっているんだ」といった批判の声も上がっている。
だが、自由な愛と美を追求するフロンティアの生き証人であるボビーにとって、そんな外野のノイズは退屈なものでしかなかった。
「倫理? 道徳? そんなの、美しさと愛の前ではゴミ同然よ。見てごらんなさいよ、あのカナメちゃんの顔。あんなに蕩けて、あんなに満たされて……。あんな幸せそうな『雌』の顔、無理やりやらされてる女ができるわけないじゃない。本人があんなに輝いてるんだから、それでオールOKよ!」
ボビーは脚を組み替え、唇に指を当ててモニターを凝視した。
画面には自分の手で磨き上げたカナメとクレアの二人だけが映し出されているが、カナメの口からは何度も、愛おしそうにその男の名が紡がれている。
「それにしても、そのオリッシュ・ハメルマンって男……。今回の会見で初めて名前を聞いたけど、一体何者なのかしら?」
あの日、ボビーが「宇宙一の夜の蝶」に仕上げ、送り出した先。
そこで待っていた「任務の相手」が、まさかカナメにこれほどまでの決断をさせ、銀河の救済主ならぬ『サキュバス・クィーン』の座へと導いた支配者だったとは。
全銀河の男たちに自分の妻の「中身」を安売りすることを許し、それでもなお、カナメの心を独占している。
「はぁ〜ん……会見には出てこないなんて、焦らすわね。でも、あのカナメちゃんにあんな幸せそうな顔をさせるなんて、オリッシュ・ハメルマン、どんな凄まじい『メソッド』を持ったいい男なのかしら? 相当なテクニシャンに違いないわ! ちょっと、私も一度メイクしてみたいわね。……いいえ、メイクの前に、その実物をじっくり拝ませてもらいたいぐらいだわ!」
ボビー・マルゴは、期待に胸を膨らませて高らかに笑った。
銀河が快楽によって救済され、一人の女がサキュバスへと昇華する。
その歴史の転換点に、伝説のメイクアップが刻まれている。
ボビーは満足げに、再びモニターの中の「最高の上玉」へと視線を戻した。
惑星フロンティア・某高級レジデンス。
「……は? アダルト・バリア・ビジョン……? 何よ、そのふざけた名前は」
ケイオス・アダルト部門のトップ女優、ミランダ・メリンは、自宅のプライベートシアターでシャンパングラスを握り締めたまま硬直していた。
大スクリーンに映し出されているのは、一ヶ月前、レディMの極秘指令によって「専用の性愛教則ビデオ」を制作して送りつけた相手――カナメ・バッカニアだ。
だが、その隣で司会を務める広報担当、クレア・パドルが語る「ABV」という次世代フォーマットの全貌は、ミランダが築き上げてきた業界のルールを根底から破壊する「劇物」だった。
「五感追体験……摩擦、温度、圧力、締めつけまで生体データとして再現するっていうの……? ちょっと待ちなさいよ。そんな『本物の感触』を直接脳に流し込むような真似をされたら、私の『演技』なんて、ただの古臭いフェイク(紛い物)に成り下がるじゃない……!」
直接会ったことさえない、画面越しに「教育」してやっただけの素人が、今、自分の所領(シマ)を根こそぎ奪おうとしている。
さらに追い打ちをかけるように、司会卓に座っていた広報の女――クレア・パドルまでもが、情熱的なサキュバスの瞳で自らのABV嬢デビューを宣言して、爆発的な興奮と反響が鳴り響いている。
「冗談じゃないわよ……ッ!! 歌姫の次は、その会社の広報まで自分を売り出すっていうの!? 救済? ワクチン? 綺麗事言わないでよ! あんたたちがやってるのは、業界の秩序をぶっ壊して、全銀河の男の股間を身内で独占する『ゲームチェンジ』じゃない!!」
かつてミス・マクロスの栄冠を手にしながら、ランカ・リーという「本物の歌」に居場所を奪われ、どん底まで突き落とされたあの日。
「飼い猫に手を噛まれるどころか……飼いもしない野良猫たちに喉笛をまとめて掻っ切られた気分だわ……」
ミランダは震える手で端末を操作し、ネットの反応を見る。
案の定、SNSのトレンドは「カナメとクレアのABV」一色だ。
そこにはミランダ・メリンの名など、影も形もない。
実のところ、この会見が始まる前まで、ミランダが脅威を感じていたのは、カナメよりもむしろ、このクレアという20歳の小娘だった。
一週間前、彼女が成し遂げた「KBモデル百万本達成記念生配信」の暴挙を、同じ業界に身を置くミランダが知らないはずがない。
壁に埋まった格好で全オナホールに直結した送信用デバイスを操り、手コキ、フェラ、パイズリの波状攻撃で百万人の男たちを同時に絶頂に導いたあの圧倒的な「奉仕の実力」。
個人的な接点こそないが、その配信を見た瞬間、ミランダの背筋には冷たいものが走っていた。
(この小娘が本格的にAVデビューすれば、私の地位は危うくなる……。そう思っていた矢先に、これよ!)
今や自分を歴史の隅に追いやろうとしている画面の中の二人は、もはやミランダなど視界に入っていないかのように、姿を見せぬ開発者「オリッシュ」への独占欲と忠誠を隠そうともせず、艶やかに微笑んでいた。
脳裏に、アナル調教ビデオを撮影した時の自分の声が蘇る。
あの時、ソープ嬢並みの手際にまで上り詰めたカナメの記録映像を見て、半分は本気、半分は揶揄を込めてこう言い放ったのだ。
『任務が終わったら、是非AVデビューしましょう? 私と乱交コラボで、銀河中の男たちを一緒に狂わせましょ♡』
英雄でありトップアイドルである彼女を「こちら側」へ引きずり下ろせることに、歪んだ愉悦と満足感を得ての発言。
だが、それはあくまでミランダという「女王」が君臨する世界へ、敗北した歌姫を招き入れてやるという、残酷なまでの余裕から出た冗談だったはずだ。
「……まさか、本当にデビューしてくるなんて。それも、私の足場を根こそぎ奪い取るような『ワクチン』なんて看板を背負って……!」
ミランダは突如、喉を鳴らして笑い出した。
彼女はかつての、ただ泣き寝入りするだけの新人女優ではない。
泥をすすり、誇りを捨て、欲望渦巻くこの業界で這い上がり、自らの肉体だけで「売上No.1」の椅子を勝ち取った女だ。
「いいじゃない。やってやろうじゃないの……! カナメ、あんたがビデオ越しに私から学んだ小手先のテクニックと、トップ女優の私が磨き上げた『快楽の暴力』、どっちが男たちを狂わせるか……白黒はっきりつけてあげるわ!」
だが、ミランダの胸を焼くのは焦燥だ。
アイシャ博士が語った通り、ワクチンABVのシステムは『サキュバス波』がなければ成立しない。
そしてそのメソッドを施せるのは、銀河でただ一人、画面の向こうで名前だけが神のように連呼されているオーオク社の社長――オリッシュ・ハメルマンだけなのだ。
(私には、まだその『サキュバス波』とやらがない。……なら、そのオリッシュ・ハメルマンとやらに、今すぐメソッドを施してもらうまでよ)
ミランダは端末をひったくると、即座に専属マネージャーへ回線を繋いだ。
「私よ。今すぐ、あのオーオク社の社長……『オリッシュ・ハメルマン』という人物とコンタクトを取りなさい! ケイオスのアダルト部門経由でも、何でも使いなさいよ。先行組にすべてを奪われる前に、私から奪いに行くのよ!」
マネージャーに指示を飛ばすミランダの瞳には、かつてないほどギラついた野心が宿っていた。
「ABV嬢の席が埋まっていくなら、力ずくでこじ開けるまでよ。いい? 誰がこの業界の、真の女王なのか、あの世間知らずの歌姫や、しゃしゃり出てきた広報女に思い知らせてやるんだから……!」
カナメたちが「救済」を掲げるなら、ミランダ・メリンは「圧倒的経験値」で応じる。
かつて自分を奈落へ突き落とした「本物」を、今度は自分自身も強引にサキュバスへと成り上がり、その圧倒的な毒で飲み込んでやる。
「待ってなさいよ、オリッシュ・ハメルマン。あんたのそのメソッド、この私が最高の精度で使いこなしてあげる。……あんたの精気、一滴残らず吸い尽くしてあげるんだから……♡」
あの日冗談で口にした「乱交コラボ」が、今や恐ろしいまでの現実味を帯びて迫ってきている。
地球のとあるメンタルクリニックのセレナ・グルドアの私室。
薄暗い私室に、ヴィンテージワインの重厚な香りが立ち込める。
診療士セレナ・グルドアは、壁一面の大型モニターに映し出される惑星レハームからの「銀河ネットワーク記者会見」を、毒蛇のような冷徹さと、調教者としての熱っぽい好奇心を持って凝視していた。
画面の中では、かつて自分が三年の月日をかけて丹念に「治療(醸造)」した最高傑作、クレア・パドルが、薄い水色のスカートスーツに身を包み、堂々とマイクを握っている。
会見の中でセレナが特に目を奪われたのは、クレアが解説を始めた新デバイスの3Dモデルだった。
妖しく脈打つ、次世代型感覚還元デバイス「バイオペニス」。
「……何かしら、あの魔法の道具。装着者の性感帯を物理的にペニスサイズまで拡張し、ダイレクトに快感を還元する……。それも、フォールドバリアによる感覚同期システムなんて」
セレナは思わずソファから身を乗り出し、眼鏡の奥の瞳を爛々と輝かせた。
彼女の脳裏には、即座にこれを用いた「教育」の光景が浮かんでいた。
「あれを私自身が装着すれば……。催眠で理性を溶かした女の子たちに、『本物の生物的なペニス』に対する奉仕の技術を、私のこの身体で直接叩き込めるわ。彼女たちの舌が、指が、どこをどう愛撫すればオスが至福へ至るのか。私の脳に伝わる還元データを元に、一ミリの妥協もなく矯正できる。最高に効率的な『教材』じゃない!」
セレナの顧客には、処女という無垢なブランドを求める層が多い。
ゆえに、自らその膜を破るような真似はしないが、商品としての価値を高めるための「奉仕の技術」は必須だ。
あのデバイスがあれば、たとえ経験のない娘であっても、一突きごとにオスの熱量を感じ取り、貪欲に種を求める名器へと完璧に仕立て上げられるだろう。
そのバイオペニスの圧倒的な機能説明に続き、画面の中のクレアは、自らも「ワクチンABV嬢」として正式にデビューすることを高らかに宣言した。
「ふふ、いいわ、クレア。期待通りに作動しているようね」
セレナはクリスタルグラスを傾け、ルビー色の液体を一口含んだ。
あんなに男性を恐れていた子が、処女喪失をきっかけに今や全人類のオスを誘うサキュバスへと進化を遂げた。
「私の教育が、彼女の殻を完全に突き破らせたのね。最高に誇らしいわ」
自分の手で極上の雌へと書き換えた少女が、銀河規模の性欲を受け止める器へと昇華した事実に、セレナの口元は醜く歪む。
「欲しいわ。今すぐにでも……! あのデバイス、開発はケイオス・アダルト支部だと言っていたわね。なら、私の立場なら入手は難しくないはず……いいえ、待てないわ」
セレナは震える指で、プライベートで交換済みの連絡先から、レハームのクレアへメッセージを打ち込み始めた。
もちろん、セレナは自分が「催眠人形製造師」であることをおくびにも出さない。
クレアにはあくまで、献身的な診療士としての顔を見せ続けるつもりだ。
『親愛なるクレアへ。会見、拝見したわよ。貴女の立派な姿を見て、先生も誇らしい気持ちでいっぱいだわ。……ところで、貴女が紹介したあの「バイオペニス」。あれは女性の性機能障害や、男性恐怖症の脱感作療法において、画期的なブレイクスルーになる可能性を感じるわ。私の施療院でも、治療のガイドライン策定のために、ぜひ先行してサンプルを検証したいの。……融通を利かせてもらえないかしら?』
送信ボタンを押すと、セレナは残りのワインを一気に飲み干し、モニターに映るバイオペニスの輪郭を、愛おしげに指でなぞった。
「ふふ、ふふふ……。早く届かないかしら。あれが手に入ったら、私の可愛い『患者』たちは、もっと、もっと素晴らしい悦びを学習できるようになるわ……」
静まり返った私室に、知的な仮面を脱ぎ捨てた女の、狂気じみた笑い声が反響していた。
(続く)