マクロスΔ オペレーション・スィートプリズナー 作:夜叉五郎
アルテミシア・グランドホテル ロイヤルスィート「ルビー・プリズン」
下界の喧騒とは隔絶された静謐な空気が流れる最上階ロイヤルスイート。
オリッシュ・ハメルマンは、ガウン一枚を羽織った寛いだ姿で豪勢に盛り付けられた朝食のテーブルについていた。
オーオク社の社長である彼の脳裏には、昨夜の狂乱の余韻が征服感と共に鮮明に焼き付いている。
昨日、記者会見を終えた直後。
オリッシュは興奮冷めやらぬまま、会見衣装のタイトなスーツに身を包んだままのカナメとクレアを寝室へと引きずり込んだ。
壁一面のモニターには、記者たちが各客室でワクチンABVソフトの試遊を開始したことを示すログが、次々と流れ始めていた。
リアルタイムで激しくカウントアップしていく『射精回数』の数字を眺めながら、オリッシュは二人の女神をひん剥き、その肢体を思い存分に貫いて大いによがり啼かせたのだ。
モニターの数字が跳ね上がるたびにオリッシュの性欲は加速し、彼は二人の粘膜を一晩中蹂躙し続けた。
「……それでクレア。結局、最終的に数字はどこまで伸びたの?」
オリッシュは、ヴィクトリアンメイド服に着替えたカナメが注ぐコーヒーの香りを楽しみながら、改めてホログラムを展開させた。
昨夜の激しい交わりによって、カナメの首筋には今もオリッシュの情熱の証である鮮やかな鬱血痕が残っている。
「はい、ご主人様! 最終的な総射精回数は……22,108回を記録したわっ♡ 昨日の夜だけでこれだから、皆さん本当に必死だったみたいね」
フレンチメイド服の裾を揺らし、クレアが楽しげにタブレットを操作して答える。
「へえ、2万を超えたんだ……! なんだかとんでもないことになってるなー。俺が作った会社が一晩で銀河を騒然とさせてるなんて……最高に気持ちいいよ」
オリッシュは驚きを隠せず、感嘆の声を上げた。
自身が意図して世界を導いている自覚など微塵もないが、オーオク社の事業がこれほどまでに順風満帆に進んでいる現状に、ただただ最高の気分だった。
「……それにしても面白いな。データだと最初は全員、見栄を張って感度レベル『中』を選択している。だけど実際にステージ1の手コキをクリアできたのは……全体のわずか1.2%か。ははっ、傑作だ!」
「うふふ、そうですね。皆さん『中(7割)』のあまりに精細な刺激に、一分も持たずに放出してしまって……。結局、二回目からはプライドを捨てて『並(5割)』か、それ以下にレベルを落としてリトライしてる状況だわ。中には『極小』まで下げて、ようやく最後まで辿り着いた情けない記者さんもいたみたい」
そのクレアの報告にオリッシュは鼻を鳴らして嘲笑した。
学歴もキャリアもあるエリート記者たちがバーチャルのカナメに翻弄され、無様にレベルを下げて縋り付いている。
その様子を想像するだけで、支配者としての優越感がマックスまで跳ね上がる。
「いい気味だ。どんなに偉そうな能書きを垂れても、結局はこれなんだな。……カナメ、あいつらがカナメの『幻影』に溺れてる間に、俺はこうして『本物』に尽くされている。この差は一生埋まらない特権だな」
「……ふふ、すべて貴方の望むがままに。これで貴方の見せてくれる『生命の歓喜』がさらに素晴らしいものになるなら、私も本望です」
カナメは嫋やかな微笑みを浮かべ、オリッシュへの深い敬愛を込めて、新鮮なフルーツをその口元に運ぶ。
オリッシュの種まき、つまり『生命の歓喜』を最大化させるための奉仕は、彼女にとって今や何物にも代えがたい至上の歓びとなっていた。
「そういえば……」
カナメにフルーツを食べさせてもらいながら、ふと思い立ってクレアへと視線を向けるオリッシュ。
「その厳しい『中』レベルのファイナルステージまで、一番最初に到達してクリアした記者って誰だったんだ?」
「ええと、ちょっと待ってください」
クレアは手元のタブレットのホログラムを素早く操作し、膨大なログデータから検索をかけた。
「……ああ、彼ね。G棟の806号室に宿泊している剣崎ヒビキ(27歳)。SNNの名物レポーターのようです」
「へえ、SNNの若手記者か」
オリッシュは感心したように口角を上げた。
「7割の快感とはいえ、あのカナメのピストンに耐え抜くとはなー。なかなかやるじゃないか。名前、覚えておこう」
果敢に挑んできたヒビキの記録に、オリッシュは支配者としての余裕ある称賛を送った。
オリッシュ本人は知る由もないが、この光景こそが彼を管理するレディMが描いた極秘プランそのものだった。
オリッシュが無意識にリンクしている宇宙再構築システム――その銀河を崩壊させかねない暴走を抑えるため、彼のリビドーをサキュバス化した歌姫たちへ注がせ、さらにその余波をABVとして銀河全体へ霧散させて「処理」する。
自分が宇宙を再構成する神のごとき力を持っていることも、その力の暴走を悦楽によって調律されていることも知らず、オリッシュはただ、本物の女神たちを独占する優越感とビジネスの成功に、満面の笑みを浮かべていた。
「さて、ご主人様。昨日の会見内容をマスコミがどう報道したか、お伝えしますね」
フレンチメイド服のスカートを軽快に揺らし、クレアが朝食のテーブルにホログラムウィンドウを次々と展開した。
投影された無数のニュースサイトやSNSのタイムラインが、朝の光の中で激しく明滅する。
「凄いわよ。もう、銀河中が『カナメ』一色です」
クレアがまず指し示したのは、芸能・ゴシップ系のトップニュースだった。
そこには、昨夜の試遊でカナメのABVを体験した記者たちが、熱に浮かされたような筆致で書き殴った記事が並んでいる。
「見てください。どのサイトも、カナメとの交わりの素晴らしさを絶賛してるわ。『指先一つで中枢神経が焼き切れる快感』だの、『銀河の女神に抱かれる背徳の極み』だの……。読者の欲望をこれでもかと煽り立てて、サーバーがダウンしそうな勢いね」
オリッシュは、カナメに剥いてもらった果実を咀嚼しながら、その熱狂的な見出しを眺めた。
「へぇ……。社会面の方はどう? さすがに少しは叩かれているんじゃないか?」
「それが驚くほど好意的ですね。『ヴァール根治への科学的ブレイクスルー』とか、『カナメ・バッカニアの自己犠牲と献身が銀河を救う』なんて、称賛の嵐です。倫理的な面での批判? ……そんなの、どこを探しても微々たるものですね」
クレアはクスクスと意地悪く、しかし楽しげに笑った。
「メイン会場にいた大手マスコミの記者連中が、全員ABVの試遊で文字通りカナメに骨抜きにされたんだもの。自分たちが昨夜、実際にABVで無様にセイズノールを放出してしまった手前、今さら道徳なんて語れるはずもないわ。ペンを握る指先が、まだカナメの感触を覚えていて震えているんだもの」
「ははっ、そいつは傑作だ。エリート様たちもカナメの肉穴の魅力の前じゃ形無しだな」
オリッシュが愉快そうに笑うと、隣に控えていたカナメも控えめに、しかしどこか誇らしげに微笑んだ。
オリッシュはコーヒーを一口啜り、ふと興味を惹かれたように尋ねた。
「これだけ大量の記事が出回っている中で、一番PV(閲覧数)を稼いでいるのは誰の記事?」
「ええと……ぶっちぎりのトップは、先ほど『中』レベルの最終ステージを最速でクリアした彼の記事ですね。SNNの剣崎ヒビキ。彼の書いた生々しい体験レポートが大手ポータルの歴代PV記録を更新し続けています」
クレアが指先を滑らせ、ヒビキのレポート記事を空中に浮かび上がらせる。
「ただ……彼の記事の後半は、『ABVがもたらす依存の恐怖』とか、『人類の生殖能力の減退、ひいては少子化への懸念』なんていう、社会的な問題提起もしてますね。でも……」
クレアは記事の読了エリアを示すデータ解析(ヒートマップ)を指し示す。
「その部分は見事に読み捨てられてしまってるみたい。皆、前半の生々しい体験描写にしか興奮していないの。人類の未来を心配するより、ABVの内容をはやく自分も体験したい……それが今の、この銀河の正直なリビドーなのでしょう」
オリッシュは感心したように顎を撫でた。
「ふぅん……。『中』レベルを最速クリアした上に、記事のPVでもトップか。見事な二冠だな。剣崎ヒビキ……有能だね」
あの圧倒的な快感に耐え抜き、さらにそれを完璧なテキストデータとして大衆に拡散させる能力。
オーオク社にとっても、彼は極めて優秀な「宣伝塔」になり得る。
オリッシュが興味を持ったのを察して、クレアは剣崎ヒビキのパーソナルデータを検索。
「あら?ご主人様。その剣崎ヒビキ、先ほどフロントで延泊の手続きをしてるわ」
「延泊? いつまでだ?」
「来月の社長とカナメの結婚式の翌日までになってます。挙式までこのホテルで密着取材を続けるつもりでしょうね」
「なるほどね。仕事熱心なんだ」
オリッシュは悪戯を思いついた子供のように、口元にニヤリと笑みを浮かべた。
「優秀な成績を残したレポーターには、運営から相応の『ご褒美』を与えてあげてもいいな。……クレア、そのヒビキ君に連絡を取って、何か欲しいものはないか聞いておいてくれ。できる範囲で叶えようじゃないか。あと結婚式まで二週間近くあるから、ABVの試遊もすぐに飽きちゃうだろ。彼の端末だけ試遊タイトルの種類を増やしてやって」
「ふふっ、了解したわ。彼、どんな顔をするかしらね」
クレアは艶然と微笑み、端末を操作する。
こうしてヒビキのABVのシステムに『高級娼婦 カナメ・バッカニア』『ハニトラ舞姫 カナメ・バッカニア』『リバーシブルバニー カナメ・バッカニア』の魅惑の3タイトルが追加され、彼が購入したコンドームの束は順調に消費されていくことになる。
そして、このクレアからの「ご褒美」の打診こそが、世界中のメディアが渇望していた特大のスクープ――謎多きオーオク社社長、オリッシュ・ハメルマンへの『SNN独占インタビュー』という異例の扉をあっさりと開くこととなる。
ヒビキが掴み取ったこの「独占取材権」の獲得に、SNNの局内は大いに沸き立った。
アルテミシア・グランドホテルでの二週間にも及ぶ滞在費は、シングルルームとは言え超高級施設ゆえに莫大な金額となる。
しかし、ディレクターの松居をはじめとするSNNの上層部は、特例として即座にこの経費を許可し、ヒビキの取材を継続させていた。
結果としてこの判断は、彼らの報道マンとしての嗅覚の正しさを完全に証明することになった。
まさに、会社を挙げた大博打が見事な勝利を収めた瞬間であった。
他メディアを完全に出し抜いた歴史的な特ダネに松居たちは狂喜乱舞し、SNNは未曾有の特大スクープを釣り上げた勝者として、大いなる祝杯を挙げる結果となったのである。
クレアの紹介した昨日からのマスコミの論調。
その中で一点だけオリッシュに不満があった。
どのメディアも『戦術音楽ユニット・ワルキューレの役割は終わり、解散へ向かう』という予測で一致していた点である。
「はぁ、解散か……。世間じゃそんな風に思われてるんだな」
オリッシュは、手にしていたコーヒーカップをテーブルに戻した。
「マスコミの連中は、何も分かっちゃいない!」
オリッシュは、まるで自分の宝物を貶された子供のように、身を乗り出して力説し始める。
愛するカナメは今や自分の婚約者であり、決して他人事ではないため、その口調にも自然と熱は入る。
何よりオリッシュ自身がワルキューレの熱烈なファンであり、カナメたちが戦場を駆け抜け、その歌声で銀河を震わせてきた歴史を何ものにも代え難い軌跡として感じていたのである。
「いいかい、カナメ。確かにワクチンABVによるヴァール根治プランは素晴らしいよ。でもさ、表のキラキラしたステージで誰の手も届かないほど光り輝いているワルキューレが歌い踊る姿があるからこそ……その裏で、俺にだけ見せるサキュバスとしての淫らな姿が何倍にも、いや何十倍にも引き立つんじゃないか! ギャップだよ、ギャップ萌え!」
「……まぁっ」
カナメは頬を赤らめ、困ったように微笑んだ。
オリッシュの瞳はいまや支配者としての冷徹さではなく、一人の純粋な――そして底なしの欲望を抱えた――ファンの熱を帯びている。
「俺はさ、銀河中のファンどもがカナメたちに熱狂し、嫉妬の炎を燃やしているのを横目に、その『本物』を独占して抱き潰したいんだ。奴らが画面越しに夢を見ている間に、俺はカナメの歌い踊る衣装をひん剥いて、思う存分にその子宮をネバネバドロドロにする……。これ以上の贅沢があるかい?」
「ご主人様は、相変わらず欲望にストレートね」
クレアがクスクスと笑いながら、空いたコーヒーカップを片付ける。
しかし、オリッシュは彼女を指差し、真剣な表情で続ける。
「だから提案なんだ。カナメとクレアには、このままレハームで俺への慰安任務とABVの撮影を続けてほしい。その上で……年に数回でいい、ワルキューレとしてこの惑星でライブをやってくれないか? クレアがフレイアの代わりにワルキューレに正式復帰すれば五人に戻るじゃないか!」
「え、私が……ワルキューレに復帰、ですか?」
突然の指名にクレアの瞳が驚きでわずかに揺れた。
「ああ。君たちがステージで輝けば輝くほど、俺への奉仕はもっとエロくなる。ワルキューレを解散させるなんて、宝の持ち腐れだよ」
オリッシュの、ファンとしての純心と、オスとしての歪んだ独占欲が入り混じった熱弁に、カナメとクレアは顔を見合わせた。
「……ふふ。オリッシュさんがそこまで仰るなら、無下にはできないわね」
カナメは優しくオリッシュのチンポに自分の手を重ね、安らぎを与えるように微笑んだ。
「分かりました。明日のラグナ支部との定期通信で、美雲やマキナ、レイナたちの意向を確認してみます。クレアの復帰も含めて、彼女たちがどう考えるか……。私たちの新しい『歌の形』を相談してみます」
クレアもまたオリッシュの願望を受け入れる。
「ご主人様の仰せの通りに。昔の私とは違うところ、マキナやレイナたちにも見せつけてやるわ!」
ワルキューレはかつて彼女が恐怖で逃げ出した場所であったが、今の彼女はオリッシュという自分の「所有者」による後ろ支えがある。
クレアも不敵に微笑み、オリッシュの肩にその豊かな胸を押し当てた。
人類の未来がオーオク社の支配による緩やかな終焉へと収束されていく中、このロイヤルスイートの中だけは、欲望と愛着が混ざり合った、あまりにも身勝手で輝かしい未来図が描かれようとしていた。
(続く)