※この作品はR-18です。

マクロスΔ オペレーション・スィートプリズナー   作:夜叉五郎

172 / 218
2068年5月22日(火)
アルテミシア・グランドホテル ロイヤルスィート「ルビー・プリズン」


2068年5月22日
ch.172「マクロス・オーオク」


アルテミシア・グランドホテル、最上階のロイヤルスイート「ルビー・プリズン」は、まだ深い静寂に包まれていた。

 

遮光カーテンの隙間から差し込む微かな薄明が、エンペラーサイズのベッドで絡み合う三人の肢体を照らし出している。

 

昨夜の激しい交歓の余韻を象徴するように、オリッシュ・ハメルマンの左右には、全裸のカナメとクレアが吸い付くように侍って眠りについていた。

 

その静謐を破ったのは、カナメの左手首で鈍く光るバングルの振動だった。

 

(……緊急通知?)

 

控えめながら断続的に続く鳴動に、カナメが真っ先に瞼を持ち上げた。

 

ほぼ同時に反対側にいたクレアも菫色の瞳を見開く。

 

二人は視線を交わすと、中央で無防備な寝顔を晒している主(オリッシュ)を起こさないよう、細心の注意を払ってベッドを抜け出した。

 

薄手のガウンを羽織り、寝室を出た瞬間にカナメが通信を繋ぐ。

 

ホログラム・ディスプレイに映し出されたのは、既に戦闘配備を終えたかのような険しい表情のミラージュだった。

 

「カナメさん、クレアさん。至急、一階下の監視ルームへ。……ラグナでアラド艦長と美雲が、姿をくらませました」

 

その一言で、二人の眠気は完全に吹き飛んだ。

 

一階下の監視用スイートへ駆け込むと、無数のモニターが並ぶコントロールデスクの前で、ミラージュが指を走らせていた。

 

「状況を説明します。ラグナ支部からの報告によれば、アラド艦長は超距離フォールドブースターを強奪。VF-31Sジークフリードで惑星ラグナの宙域を離脱しました。推測航路から見て、目的地がこの惑星レハームであることは確実です」

 

「アラド艦長が?……何のために?」

 

カナメが信じられないといった風に眉をひそめる。

 

「アラド艦長の目的は、オリッシュ社長の身柄、カナメさん、あるいは……遺跡エムシー・ハラメのシステム、そのいずれかでしょう。ラグナ側は追撃部隊を出そうにも、肝心のマクロス・エリシュオンが艦長不在のため再起動に手間取っています。現状、レハーム側で迎撃態勢を整えるしかありません」

 

「美雲を連れ出しているなら、遺跡の機能を物理的、あるいは歌で無力化しに来る可能性が高いわね」

 

クレアが腕を組み、冷徹に分析する。

 

対してカナメは、困ったように頬に手を当てた。

 

「……着信拒否にしたのが不味かったかしら? 逆上させちゃったみたいね」

 

「今更そんなこと言っても始まらないわ。ミラージュ、迎撃用のバルキリー隊は? ホテルの防衛シールドだけで、ジークフリードの猛攻を凌げるの?」

 

クレアの問いに、ミラージュはふっと口角を上げ、不敵な「ドヤ顔」を見せた。

 

「……こんなこともあろうかと、レディMより預かっていた『切り札』があります。見てください」

 

ミラージュがメインスクリーンを操作すると、そこにある一隻の宇宙船の三面図が映し出された。

 

「これは……マクロス・クォーター級?」

 

カナメが息を呑む。

 

そこに映っていたのは、軍艦としての鋭利なシルエットを持ちながら、その装甲すべてが妖艶な輝きを放つパールピンクに染め上げられた、あまりにも異質な戦艦だった。

 

「オーオク社の新社屋船――『マクロス・オーオク』が本日、このレハームに到着します」

 


 

「超距離フォールドブースターを使用したとしても、ラグナからこのレハームまでは物理的に二日は掛かります。アラド艦長の予想到着時刻は、明日の正午。……時間は、まだあります」

 

ミラージュは淡々と、しかし確実な戦術予測を口にする。

 

「アラド艦長の主目的が遺跡のシステム無力化である可能性は高いですが、万が一ということもあります。カナメさんとクレアさん、そしてオリッシュ社長は、このマクロス・オーオクに避難し、船ごと座標を隠匿してください。私はこちらの戦力を集中させ、地上から遺跡を死守します」

 

「……避難には賛成だけど、ミラージュ。このマクロス・オーオクって、一体どういう経緯で用意されたものなの?」

 

腕を組み、怪訝そうに眉を寄せたのはクレアだ。

 

いくらレディMの権限が絶大とはいえ、クォーター級の戦艦がこのタイミングで「社屋」として現れるのはあまりに手際が良すぎる。

 

「レディMは、慰安対象へオーオク社設立打診した段階から、この艦の艤装とスタッフのリクルーティングを極秘裏に進めてきました。書類上はケイオスからレンタルする形ですが、実質的にはオーオク社専用の独立旗艦として機能する新社屋船です」

 

「……なるほどね。先日の記者会見のおかげで、私たちの手元にはキャッシュが無尽蔵に有り余っているわ。宇宙の最重要人物となったオリッシュの身を守るのに、戦艦を丸ごと一隻用意するというのは最高に合理的ね」

 

クレアは不敵な笑みを浮かべ、納得したように頷いた。

 

一方、カナメは実務的な懸念を口にする。

 

「でも、どうやって運用してるのかしら? これだけの巨艦、動かすには相当な数の専門スタッフが必要でしょう? どんな人たちが乗っているのか気になるわ」

 

その問いに、ミラージュは僅かに声を潜めて答えた。

 

「スタッフは最低限の百十七名。全員、女性です。レディMは傘下の各企業体から目ぼしい優秀な女性スタッフをピックアップし、破格の給与を提示してオーオク社への出向を打診しました。さらに民間軍事プロバイダーのSMSにも、プロフェッショナルな女性スタッフの派遣を法外な値段で依頼しています。……とにかく数は揃えましたが、彼女たちはあくまで高額な報酬に惹かれている状態です。現状、オリッシュ社長への忠誠心は、ほぼ皆無と言っていいでしょう」

 

スタッフが全員女性であるという報告に、まずはカナメは安堵の吐息を漏らす。

 

それと同時に、彼女の胎の奥底で、熱く淫らな疼きが目を覚ました。

 

(……百名以上もの優秀な女性たちが、オリッシュさんのチンポに仕える。それが現実になるなんて……最高だわ)

 

カナメの思考は、もはや「自分一人による独占」などという矮小な枠をとうに超えていた。

 

オリッシュの雄としての本能を刺激する優秀な個体が増えることは、サキュバス・クィーンである彼女にとって、この上ない悦びであった。

 

彼という圧倒的な雄の遺伝子情報を、百人以上の美しい雌たちと共有し、絶頂という名の生体リンクで繋がる巨大な生殖のネットワーク。

 

その中心に自分も寄り添い、他の女たちに快楽を与え尽くしてもなお猛り狂う彼の熱量を、最後にこの子宮で残さず受け止めてあげる――その壮大で官能的なサイクルを想像しただけで、カナメの秘部はぐちょぐちょと甘い音を立てて濡れそぼっていく。

 

「……高給取りの派遣社員、というわけね。それじゃあ困るわ。あの人の膨大なエネルギーを受け止め、その一物に仕えるに足る女性なのかどうか……早急にチェックさせてもらうわね」

 

カナメは潤んだ瞳に嗜虐的な色を滲ませながら、ミラージュに向かって有無を言わせぬ手つきで端末を差し出した。

 

「ミラージュ、乗艦スタッフ全員のリストを頂戴。経歴、適性、そして……生体データも全部含めてね」

 

大奥の女主人としての責務と、一匹の雌としての貪欲な本能。

 

その二つを完璧に融合させたカナメは、主人であるオリッシュのハーレムの本格的な構築に向けて、蠱惑的な笑みを浮かべていた。

 


 

朝の生体エネルギー放出を促す濃密な奉仕から始まり、高カロリーな朝食、そして生体数値を最適に維持するためのトレーニング。

 

ルビー・プリズンでの日課(ルーティン)を終え、本来であればそのまま浴室でのソーププレイへと移行するところだが、今日は違った。

 

「ねえオリッシュさん、今日はサプライズがあるんです」

 

カナメが妖艶に微笑みながら告げ、彼を簡単なシャワーで汗を流すだけに留めさせた。

 

その後、カナメとクレアに両腕を引かれ、オリッシュはロイヤルスイート専用の広大な屋外施設「インフィニティプール」へと案内された。

 

(外に出るのは……実に三ヶ月ぶりか)

 

肌を撫でる惑星レハームの風と、本物の太陽の光。

 

完全に環境制御されたスイートの空気とは違う、生々しい大気の感触にオリッシュが目を細めていると、上空の雲を割って、巨大な影がゆっくりと舞い降りてきた。

 

太陽の光を反射して妖艶なパールピンクに輝く、威容を誇る巨大な宇宙船。

 

「あれが、オーオク社の社屋です。社長」

 

クレアの言葉に、オリッシュは目を丸くして空を見上げた。

 

マクロス・オーオク。

 

マクロス・クォーターと同系のサイズと構造を持つ巨艦だ。

 

外見上の最大の特徴である右腕部には、巨大な「マクロスキャノン」が装備されているように見える。

 

だが、その実態は通常の重粒子砲ではない。

 

レディMが極秘裏に開発した新兵器――通称「サキュバス砲」である。

 

今回、このマクロス・オーオクがレハームに配備された裏の目的には、この未知の兵装の試験運用も想定されていた。

 

特筆すべきは、その特異な運用体制だ。

 

カナメ、クレア、ミラージュの三名を除き、乗組員はケイオス傘下の企業や民間軍事プロバイダーから集められた117名の女性のみ。

 

最小限の人数、かつ女性クルーのみでこの巨艦を運用するため、過酷な艦の整備や物理的な力仕事には多数の自律型アンドロイドが導入されている。

 

さらに、左腕の空母に搭載された防衛用の艦載機も、全十五機中十機がゴースト系列の無人戦闘機で占められ、徹底的な自動化と省力化が図られていた。

 

「このホテルの施設には及びませんが、なかなかの設備が揃ってるみたいです。……今日からしばらくの間、あちらの船で甘い時間を堪能しましょう?」

 

カナメがオリッシュの屈強な胸板に指を這わせながら、甘い声で誘導する。

 

(マジかよ……あれが俺の船……!)

 

オリッシュは、アルテミシアグランドホテルの最上階から一望出来る湾内にホバリングしながら着水態勢に入る巨艦の圧倒的な質量を見つめ、激しい感慨に襲われていた。

 

つい三ヶ月前まで、自分はケイオス・レハーム支部のしがない三等兵に過ぎなかった。

 

理不尽な命令で辺境の遺跡の調査任務に就かされ、ただ同然で労働力を消費されるだけの安い個体だったはずだ。

 

それが今や、あのマクロス級戦艦の主人なのだ。

 

これまで、オーオク社の急成長や株価の高騰といったものは、端末のモニターに表示される「数字」でしかなく、どこか他人事のような感覚があった。

 

だが、こうして銀河の最先端技術と莫大な資本が結集した「リアルな質量」を突きつけられ、オリッシュはようやく自分が正真正銘の『銀河の富豪』へと変貌を遂げたことを実感した。

 

アラドが狂気に駆られて自分を狙い、強行軍で迫ってきていることなど微塵も知らないオリッシュは、高揚感に包まれたまま、満面の笑みで頷いた。

 

「ああ、行こう! 俺たちの新しい船へ!」

 

能天気にマクロス・オーオクへの退避を承諾した主の背中を、カナメとクレアは計画通りとばかりに、静かな熱を帯びた瞳で見つめ返していた。

 

(続く)

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