※この作品はR-18です。

マクロスΔ オペレーション・スィートプリズナー   作:夜叉五郎

173 / 218
2068年5月22日(火)
惑星レハーム アルテミシア・グランドホテル G棟806号室


ch.173「勘」

SNNのエースレポーター、剣崎ヒビキが滞在中の部屋のベランダからも、マクロス・オーオクの降下は観測できた。

 

この日、ヒビキはルームサービスの遅い朝食兼昼食を胃に流し込みながら、気怠げな溜息を吐いていた。

 

現在時刻はすでに正午近く。

 

彼がここまで爆睡を貪っていた理由は明白だった。

 

5月19日の会見直後、ヒビキがSNNの検証用として体験したのは、あくまでワクチンABV(アダルト・バリア・ヴィジョン)ソフトの普及を目的としたベーシック版であり、ステージも全4ステージと比較的マイルドな構成に抑えられていた。

 

しかし、昨晩と一昨晩、オリッシュからの「温情(ご褒美)」として特例で支給された追加タイトルの一本目『高級娼婦 カナメ・バッカニア』は、それとはまったくの別物だった。

 

これはオーオク社が立ち上がった極く初期、オリッシュ個人を物理的・精神的に満足させるためだけに撮られたプライベートデータがベースとなっており、全10ステージに及ぶカナメの奉仕は、オスの脳髄を直接焼き切るほど超濃厚なものだった。

 

ケイオスきっての早漏であるアラド・メルダースが、生体負荷を下げた感度『並レベル』でさえクリアに一ヶ月以上を費やしたという危険な代物である。

 

ヒビキはアラドよりも断然タフな「性豪」であり、よりダイレクトな快楽を味わえる『中レベル』の刺激に耐えうる体質を持っていたが、それでもこの二日間でステージ6まで進むのが限界だった。

 

一昨日の5月20日の夜は『手コキ』『フェラチオ』、そして『授乳手コキ』の三発で撃沈。

 

昨夜の5月21日は『パイズリ』『シックスナイン』、そして『騎乗位』の三発で完全に精嚢が空になり、朝方に気絶するように眠りに落ちたのだ。

 

特に、一昨日のクライマックスであったステージ4の『授乳手コキプレイ』の疑似体験は、彼のオスとしての性癖を完全に捻じ曲げてしまうほどの致死的な危険性を孕んでいた。

 


 

――視覚野に投影されたカナメは、深紅のチューブトップドレス姿でヒビキ(オリッシュの視点)の隣に横座りしてきた。

 

高級娼婦らしく胸元を強調するように体を寄せられ、甘く深いキスを交わす。

 

Eカップの豊かな乳房が胸に押し当てられる柔らかな感触までが、ABVの生体リンクを通じてヒビキの神経系に完全に再現された。

 

『旦那様、まだ、お元気ですねっ♡』

 

視界の中で自然に伸びた自分の手が、ドレスの生地越しに彼女の乳房を揉み始める。

 

乳房が揉まれるたびに生地が擦れ、彼女の乳首が硬く尖っていく生々しい感触。

 

『旦那様。次は、授乳手コキは如何ですか? ママの乳を吸いながら、ママの手で気持ち良くなりませんか?♡』

 

そう囁きながら、彼女は両手のロンググローブと赤い宝玉のネックレスを外し、ドレスを腰まで滑らせた。

 

完全に剥き出しになった白く滑らかなセミヌード。

 

ぷるんと揺れる美乳と、すでに硬く尖って淡いピンク色に染まった乳首が目の前に迫る。

 

『旦那様。どうぞ、私の乳をお召し上がりください♡』

 

左手で顔を抱え込まれ、硬く尖った桜色の乳首を口に含む圧倒的な弾力。

 

チュパチュパと音を立てて吸い付くたび、カナメの体がビクッと震え、彼女の甘い喘ぎが聴覚を支配する。

 

『あんっ、旦那様、乳首、そんなに強く吸われたら……んんっ、ママ、おかしくなっちゃうわっ♡』

 

それと同時に、限界まで勃起した自身の肉棒を、彼女の右手で絶妙な速度でしごかれる快感。

 

乳首が弱点なのであろう身じろぐカナメの健気な生体反応までもが、五感を通してヒビキに伝わってくる。

 

『旦那様、ママのお乳をいっぱい吸って。ママの手でいっぱい気持ちよくなりなさいっ♡』

 

視覚、聴覚、触覚、そして感情の共有――すべてが完璧に同期し、ヒビキは抗う間もなく盛大に射精させられた。

 

熱い白濁がドレスのスリットから覗く彼女の右太腿に飛び散り、それをカナメが幸せそうに指で掬い、舌で舐め取る艶かしい姿。

 

『旦那様。また、いっぱい出ましたね。良かったです♡』と微笑みかけられる絶対的な充足感。

 

初めて体験する赤ちゃんプレイの衝撃。

 

カナメの母性と相反するその手コキの淫さのギャップに、最高のママに出会ってしまったという幼児返りしそうになるヒビキ。

 

(こんなママなら、いくらでもチンポミルクびゅーびゅー出しちゃいまちゅよー......はっ!?俺は何を考えてるんだっ)

 

思考が幼児返りしそうになっていた自分に気付いて赤面する。

 

ヒビキの新たな性癖のドアが開いた瞬間であった。

 

プレイを強制終了し、意識を現実の視覚情報へと戻した直後、ヒビキの脳裏には現実のパートナーである恋人、シルヴィアの顔が浮かんでいた。

 

(ああ、くそっ……。シルヴィアと現実(リアル)でこれと全く同じプレイができたら、どんなに最高だろうか……)

 

彼女の金髪と、スレンダーだが形の良い乳房。

 

もし彼女があのカナメのように、母性と雌としての淫靡さを全開にして自分を甘やかしてくれたなら――。

 

想像しただけで、完全に枯渇したはずの生体エネルギーが再び発火しそうになる。

 

だが、数秒後には、その微かな希望的観測は冷徹な演算結果によって打ち砕かれた。

 

(……いや、絶対に無理だ。あのプライドが高く理知的なシルヴィアが、「ママのお乳をお召し上がりください」なんて発情しきった声で奉仕してくれる確率など、銀河の果てまで探しても存在しない……)

 

彼女の性格(パーソナリティ)データから推論すれば、そんな変態的で従属的な交尾手法を提案した瞬間に、絶対零度の軽蔑の視線を向けられ、関係が即座に破綻する未来しか予測できない。

 

仮想現実(ABV)での絶対的な充足感と、現実の恋人の生体ベクトルとの間にある、決して埋めがたい要求水準のギャップ。

 

その絶望的な落差に直面し、ヒビキはシーツに顔を押し当て、あまりの悲しさにオスとしての惨めな呻き声を漏らすしかなかったのだ。

 


 

疲労の抜けきらない肉体をベランダのチェアに沈めながら、ヒビキは手元の端末を操作し、自身の書いたABV体験レポートのアクセス推移を確認していた。

 

「……125億PV突破か。だが、記事の読了エリアを示すデータを見れば一目瞭然だな」

 

ヒビキは自嘲気味に息を吐いた。

 

彼が本当に訴えたかった記事の後半――ABVがもたらす『社会的断種の危機』や生殖能力の減退への警告は、見事に読み捨てられている。

 

銀河のオス共にとっては、種族の未来への警鐘より、目先の生々しい粘膜の記憶の方が圧倒的に価値があった。

 

「こうなることはわかってた!わかってたけど、現実に見せつけられると、やっぱキツイぜ」

 

若くして掴み取ったこの天文学的な数字は、彼自身の記者の勲章というより、オーオク社とカナメ・バッカニアがもたらした異常な熱狂の証左に他ならない。

 

広大な湾内を一望できるこの部屋で、彼は空になったコーヒーカップを置き、今後の取材プランを練っていた。

 

その時だった。

 

ふと、周囲の気圧が微かに変動した。

 

「……? この低周波の振動、通常の民間機(シビリアン)じゃないな」

 

ヒビキの記者の嗅覚が、即座に脳の中枢神経へ警告を発する。

 

彼は分析チャートを指先で弾き飛ばすと、ベランダの手すりに身を乗り出した。

 

惑星レハームの澄み切った空。

 

その上空を覆っていた薄い雲が、物理的な質量の暴力によって引き裂かれた。

 

「――っ、何だ、あれは」

 

雲の間から姿を現したのは、鈍い軍用艦の金属光沢ではなく、妖艶なパールピンクの輝きを放つ巨大な質量体だった。

 

そのシルエットは、かつてのフロンティア船団で活躍したマクロス・クォーター級に酷似している。

 

だが、外装の処理があまりにも異質だ。

 

大気の摩擦や太陽光の反射さえも「誘惑」に変えてしまうような、生物学的な艶めかしさを帯びた特殊コーティング。

 

その巨大な船体は、まるで広大な銀河を泳ぐ巨大な「雌」のような、圧倒的な官能性を発散している。

 

ヒビキの記者の本能が、即座に肉体を突き動かした。

 

彼はベランダから室内に飛び込み、デスクにあったプロ仕様の高解像度デジタルカメラ(デジカム)をひったくる。

 

再びベランダに出ると、レンズを巨大なピンク色の艦体に向け、自らも画角に入りながら即席のレポート映像の収録を開始した。

 

「SNNの剣崎ヒビキです! 現在、惑星レハームの上空に、所属不明のマクロス・クォーター級と思われる巨大艦が降下中! 外装は異常なほど艶やかなパールピンク……先日の会見の文脈から見て、オーオク社関連の艦船である可能性が極めて高いです!」

 

数十秒の生々しい映像データを記録すると、ヒビキは録画を切り、そのまま端末からSNNレハーム支部のホットラインを呼び出した。

 

『はい、SNNレハーム支部です』

 

「俺だ、剣崎ヒビキだ! そっちのレーダーでも、今レハームに降下してきているマクロス・クォーター級の質量反応を観測しているか!?」

 

『えっ……? クォーター級、ですか? いえ、定期便以外の大型艦の接近警報は入っていませんが……』

 

平時のルーティンに浸かりきったローカル支部の鈍重な反応に、ヒビキは盛大に舌打ちをした。

 

「馬鹿野郎、光学観測の生データを確認しろ! 目と鼻の先に化け物みたいな質量体が降りてきてるんだぞ! 今さっき俺が撮ったレポート映像のデータをそっちに転送した。すぐに開け!」

 

『ひっ、映像データ受信しました……な、何ですかこのピンク色の戦艦は!?』

 

「オーオク社の船だ! いいか、いますぐ取材用のバルキリーを一台、エアポートに回せ。大気圏内だけじゃない、そのまま宇宙(そら)にも出られる大気圏外仕様の機体だ。燃料も満タンにしておけよ!」

 

『えっ!? いや、いきなり宇宙に出られる機体なんて……第一、取材許可も経費の承認も降りてませんよ!』

 

「ちんたら許可を待ってる暇なんてないんだよ! 考えろ、あんな巨大な戦艦が、ただ六月一日の結婚式に合わせてお披露目されるためだけに、わざわざこのレハームへ来たとでも思ってるのか?」

 

『えっ……? それは……』

 

ヒビキはデジカムを握りしめ、窓外に浮かぶ不気味なパールピンクの質量を鋭く睨みつけた。

 

先日発表された「サキュバス波」という、既存の生体法則をハッキングする得体の知れない波動。

 

ヴァール根治という触れ込みの裏に、もっと生々しく破壊的な軍事利用の可能性が隠されているのではないか。

 

――あれは、サキュバス波を戦術的に運用するための、大規模な実戦試験艦なんじゃないか。

 

長年現場で培ってきた記者の直感が、その正体を暴けと激しく警鐘を鳴らしていた。

 

「俺の勘が、あれは単なる戦艦じゃないと叫んでるんだ! いいか、本社の松居ディレクターの名前を使え! 俺のこのレハームでの長期特例取材は、あの人が全権を握って莫大な滞在費を通した、会社を挙げての大博打だ! ケチな支部決済なんてすっ飛ばして、松居ディレクターのトップ承認案件として即座に機体を用意させろ!」

 

『ほ、本社の松居ディレクターの……っ!? わ、わかりました、至急手配します!』

 

本社の絶対的な権力を盾にしたヒビキの怒声に、支部のオペレーターは慌てて応諾した。

 

一方的に通信を切ったヒビキは、予備のデータストレージと高感度光学センサーをジャケットのポケットに押し込んだ。

 

昨日、クレアから「ご褒美」の打診があった際、彼は「独占インタビュー」の確約を求めた。

 

だがどうやら、事態は彼が想定していた以上のスピードで動いている。

 

運命は、単なるインタビュー以上の「巨大な現場(ナマ)」を彼に見せようとしているらしい。

 

「面白くなってきたじゃないか、オーオク社……!」

 

つい先ほどまでの生体的な疲労は、致死量の純粋なアドレナリンによって完全に書き換えられていた。

 

ヒビキはホテルの部屋を飛び出し、エレベーターへ向けて全力で駆け出した。

 

彼の背後、窓の外では、パールピンクの巨艦が惑星レハームの海水を激しく押し分け、その雄大な、そして淫らな肢体を白日の下に晒し始めていた。

 

(続く)

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