マクロスΔ オペレーション・スィートプリズナー 作:夜叉五郎
惑星レハーム、アルテミシア・グランドホテルG棟806室
室内には沈みゆく夕日が長く伸び、キーボードを叩く硬い音だけが響く。
剣崎ヒビキは、先ほど記録した「地獄の記録」を、血走った眼で編集していた。
オリッシュ・ハメルマンという男の底知れない傲慢さ。
そして、愛するカナメを「中古にする」と言い放ったあの野蛮な独占欲。
(これを流さなきゃならない……。あいつの化けの皮を剥いで、全人類に警告しなきゃいけないんだ!)
ヒビキは指を震わせながら、自らの「敗北」の瞬間をも包み隠さず繋ぎ合わせ、一つの映像データに纏め上げた。
それをSNN(スクランブル・ニュース・ネットワーク)本社のチーフプロデューサー、松居のもとへ暗号化通信で送りつける。
送信完了のダイアログが表示されてから、一時間が経過した。
ヒビキは部屋の中を何度も往復し、爪を噛みながら、じれったく端末の着信を待った。
本社でのVチェックに加え、相手が相手だ。松居がオーオク社の広報部へ、この過激な内容の公開許可を求めて「お伺い」を立てているであろうことは想像に難くない。
(流石に、あの内容は撥ねられるか……?)
不安が頂点に達しようとしたその時、端末がけたたましい着信音を鳴らした。
画面には「松居CP」の文字。ヒビキは滑り込ませるように通話へ切り替えた。
「どうですか! 松居さん!!」
「バカ野郎! 相手は超大物、銀河の命運を握る男だぞ! あんな喧嘩腰で、感情を剥き出しにしてインタビューする奴がどこにいる!」
受話口から飛び出してきたのは、鼓膜を震わせる松居の怒声だった。
「しかし、彼は危険です! カナメさんを私物化し、銀河を依存の渦に……!」
「黙れ! 全然インタビューになってないじゃないか。だが……」
松居の声に、どこか乾いた高揚感が混じった。
「まあいい。大事なのは、あの謎に包まれていたオリッシュ・ハメルマンの『初顔出し』を、他局に先駆けてうちが独占で流すという事実だ。オーオク社の広報にもお伺いを立てたが、奇跡的にお許しが出た。このブイ、このまま流すぞ」
「……! ありがとうございます!」
ヒビキは安堵し、握りしめた拳に力を込めた。これで世界は目覚める。
しかし、松居の言葉はさらに続いた。
「しかしヒビキ、お前の失礼極まりないインタビューも、この暴露同然のビデオも……オリッシュとやらにとっては何の意味もない、心底どうでもいいことなんだろうな。……オーオク側から連絡があった。お前を明後日の結婚式にも招待するそうだぞ」
「なっ、それは……!」
ヒビキの顔が屈辱で歪んだ。
あれほどまで彼を否定し、糾弾した自分を、あえて祝宴に招く。
それは「お前の足掻きなど、俺の幸福には微塵も影響しない」という、この上ない蔑みだった。
「……舐められてるな、我々も。だがこちらにも報道マンとしての意地がある。ヒビキ、今日の夜の放送は徹底的にやるぞ。銀河の歴史が動く瞬間の『前夜』を、我々の手で演出してやるんだ!」
「松居さん!!」
ヒビキは端末を握りしめ、夜のニュース枠に向けて闘志を燃やした。
否が応でも、明後日――2068年6月1日。
ABVプレイヤーとワクチンABVソフトのローンチ、そして惑星レハームで執り行われる「世紀の結婚式」。
運命のカウントダウンに向けて、銀河の歯車が音を立てて回り始めた。
2068年5月30日(木) 22:00
ブリージンガル球状星団・主要SNS「ギャラクシーツイート」トレンドタイムライン
【トレンド1位:#SNN独占スクープ】
【トレンド2位:#オリッシュ・ハメルマン】
【トレンド3位:#マーメイドライン】
【トレンド4位:#ヒビキ記者】
@Galaxy_Watcher_X
22時だ! SNNのスクランブル・ニュース・ステーションが始まったぞ。
オーオク社のスクープってやたら煽ってたけど、一体何が出てくるんだ……?
@Scoop_Hunter_V
待ってました! SNNの報道といえば、我らがヒビキ君の出番だろ?
@Hibiki_Fan_Club_01
きたきた! 銀河一しつこくて、銀河一顔が良いエースレポーター剣崎ヒビキ!
彼が動くところにドギツイスクープあり。今日も権力者の腹わたブチ撒けてくれ!
@Net_Troll_Z
ヒビキはイケメンなのが鼻につくけど、相手が誰だろうと忖度なしで突っ込んでいくから嫌いになれないんだよなw
今日のターゲットはあの「謎の投資家」か?
@News_Lover_Galaxy
エースレポーターの剣崎ヒビキだ!
惑星レハームから生中継してる。
「オーオク社社長、オリッシュ・ハメルマン氏の独占インタビュー」だって!? マジか!!
@Net_Detective_Z
「このVTRをご覧ください」
ヒビキがブイ振りした! くるぞ……!!
@Galaxy_Watcher_X
ブイ始まった!! ついにオリッシュ・ハメルマンの顔が出るぞ!!
あのカナメさんを落とした男、どれほどの成金デブか拝んでやる!!
@Beach_Side_Vibe
どこかで見たようなプールのサイドデッキだな……。
あ、タキシード着た男とウェディングドレス着た女が撮影してる。
@Dress_Otaku_Maria
ちょ……待って……カナメさんのウェディングドレス、神すぎる。
あのタイトなマーメイドライン、身体の曲線がエグいほど綺麗に出てる。
168cmのモデル体型だからこそ着こなせる究極の一着……溜息しか出ないわ。
@Galactic_DT
うおおおおおお!!! カナメさんのマーメイドドレス姿!!
腰のくびれからヒップラインにかけてのラインが芸術的すぎて、目が潰れる!!
後ろ姿のライン、あれは反則だろ!! 抱きつきたい、いや後ろから抱きしめたい!!
@Idol_Otaku_Z
……ファッ!? あれカナメ・バッカニアじゃねーか!!!
ってことは、隣に立ってるあの男がオリッシュ・ハメルマン!?
@News_Flash_Galaxy
【速報】オリッシュ・ハメルマン氏、カメラの前に。
……えっ、嘘だろ。
顔、めちゃくちゃ精悍なんだが!?
もっとこう、投資家特有のギラついた中年太りを想像してたのに、とんでもないイケメンじゃないか!!
@Idol_Otaku_Z
ちょ、待て。想像と全然違う!!!
もっと腹の出た強欲ジジイだと思ってたのに、なんだあの引き締まった体と精悍なツラは……!
高身長のタキシード姿、カナメさんの隣に立って絵になりすぎだろ……(絶望)
@Beauty_Hunter_Girl
オリッシュ様……! 抱かれたい!!
あの鋭い眼差しと、大人の余裕たっぷりな佇まい、ヤバすぎる。
カナメさんが惚れるのも納得しちゃう。こんなの銀河中の女が放っておかないでしょ。
@Business_Salary_A
オリッシュとカナメさんが見つめ合ってる遠景……。
クソッ、悔しいけど「これ以上の新郎新婦はいません」ってくらい完璧な絵面だ。
こんな嫁さんが家にいたら、俺だって銀河の半分を敵に回してでも守り抜くわ。
@Idol_Otaku_Z
撮影の合間にオリッシュがカナメさんの肩に手を置いて、耳元で何か囁いてる。
カナメさんが顔を赤らめて小さく笑った……。
ああああああああ!! 俺たちの知らない「女」の顔、幸せそうな「メス」の顔を見せるなああああ!!
こんな嫁さん、前世でどれだけ徳を積めば手に入るんだよ!!(怨嗟)
@Single_Lady_Planet
あんな風に、強くて精悍な旦那様にリードされて、世界一美しい花嫁になれるなら……。
カナメさんのあの幸せそうな微笑み、全女性の憧れそのものだよ。
羨ましすぎて、鏡に映る自分を見て泣きそうになった。
@Idol_Otaku_Z
あ、撮影終わった。ヒビキが近づいていくぞ。
いよいよ独占インタビュー開始か……。
@Gachi_Koi_Knight
「あの方は私のABVを最速クリアした記者さんですよ」
カナメさんの囁ききたあああ!! ……って、デコルテ開きすぎだろ!!
ヒビキの野郎、生カナメの谷間拝んでんのかよ! 殺す!!
@News_Flash_Galaxy
ちょwww ヒビキのカメラ、オリッシュの顔じゃなくてカナメさんの胸元ばっかり映してねーか?
報道のプロ失格だろwww 視線が下がりすぎなんだよ!!
@Knight_of_Rehaam
いや、これは責められない……。
目の前であのドレス姿のカナメさんに屈み込まれたら、男なら誰だってカメラ(視線)が吸い寄せられるわ。ヒビキだって一人の男なんだよ。仕方ないんや……。
@NoBra_Police
【緊急鑑識速報】
前傾姿勢によるデコルテの広がり、およびマーメイドドレスに収まりきらない肉感的な弧から推測。
カナメ・バッカニアのバストサイズはFカップ相当と断定。
あの「暴力的な白さ」は、もはや一つの兵器だ。
@Net_Troll_A
ヒビキ記者、いきなり「目的は何だ!」ってブチ切れてて草www
でも、その横でカナメさんがオリッシュの腕にぴたっと縋り付いてるの見て、俺の心もバキバキに折れた。
あのカナメさんが、あんなに「守られたい女」の顔をするなんて……。
@Mind_Break_User
ちょ、ヒビキが発狂したwww
「カナメさんとのセックスなしでは生きていけない体になった!」
全銀河の男の代弁すぎて涙出た。でもそれを新郎の目の前で言うなよwww
@Corporate_Slave_A
オリッシュ、ポカンとしてるぞwww
「人類を滅ぼすつもりか!」とか言われて、ポカンとしてる支配者。
あいつ、自分がどれだけ男たちを狂わせてるかマジで興味なさそう。
@Galactic_Alpha_Male
「目的、か。そんな大層なものじゃない。俺の望みはただ一つだ」
くるぞ……!
@Galaxy_Citizen_88
「カナメ・バッカニアを幸せにすること。それだけだ」
…………言葉が出ない。
野蛮で、傲慢で、でも圧倒的に「勝者」の言葉だ。
あのマーメイドドレス姿のカナメさんを隣に置いてこれを言えるのは、この男しかいないわ。
@No_ABV_No_Life
「この子宮を自分の子種で中古にする」……っ!
全銀河のアイドルに向かって、公共の電波で、本人の腰を引き寄せながら言い放ちやがった!!
でも悔しい……! あの圧倒的な自信と、カナメの引き締まった腹を愛撫する大きな手……。
「こいつならカナメを幸せにできる」って本能が納得しちまって、何も言えねぇ……!!
@Gachi_Koi_Knight
カナメさんが真っ赤になって身を捩らせてる……。
拒絶じゃない、明らかに「悦び」で火照ってる顔だ。
あんな情熱的な所有宣言、女なら一生に一度は言われてみたいよな。
オリッシュ・ハメルマン……お前が、お前こそが真の「覇者」だよ……(完敗)
@Tech_Nerd_Beta
「サキュバス波は伊達じゃない!」
このセリフの説得力よ。後ろでクレア広報まで熱い吐息漏らして蕩けきってるし。
オリッシュが「孕ませる」って言うたびに、画面越しのこっちまで受精させられそうな圧を感じる。
@Net_Troll_A
ヒビキ、まだ粘ってるぞww
「少子化をどう防ぐんだ! 答えろ!」って必死だけど、オリッシュのあの冷え切った目よ……。
@Valkyrie_Logic_Analyze
オリッシュの一言、シビれたわ。
「人間の叡智はそんなものだって、すぐに乗り越えられる。……連れて行け。これ以上の問答は時間の無駄だ」
ABVで少子化がくるっていうヒビキの危惧を、「叡智への信頼」で一蹴しやがった!
@Daily_Sinner
(絶望を通り越した賢者タイム)
……認めざるを得ない。
あの精悍な顔、あの厚い胸板、そして銀河を敵に回しても「カナメを幸せにする」と言い切る胆力。
オリッシュ・ハメルマンこそ、カナメ・バッカニアという女神を娶るに相応しい、唯一の男だ。
@KB_Model_Official (オーオク社広報代理)
SNN独占インタビュー、ご視聴ありがとうございました。
社長の言葉通り、愛すべき伴侶を幸せにすること――それこそが弊社の原動力です。
明後日6月1日、いよいよABVプレイヤー&ソフトがローンチ。同日にKBモデルの「新婚人妻モード」も配布開始です。銀河の新しい夜明けを、共に見届けましょう。
@Waiting_For_Marriage
よし、決めた。
明後日の結婚式生配信、全裸で待機する。
俺たちがABVソフトでシコったり、KBモデルのアップデートを待ってる間、オリッシュは本物のカナメさんの子宮を「中古」にする作業に入るんだな。
悔しいけど、最高の夜になりそうだぜ……クソッ!!
[さらに 3,500,000 件の新しいツイートを表示]
この夜、SNNが放った一撃は、銀河中の「嫉妬」を「諦念」と「期待」に変貌させた。
一人の王が女神を自らのものにする。
その残酷なまでに美しい物語の完結編を、全銀河が固唾を呑んで見守る準備が整ったのである。
2068年5月30日、22時から放映されたSNNの独占スクープは、銀河の精神内域を焼き切るほどの熱狂をもたらした。
画面越しに突きつけられたオリッシュ・ハメルマンの精悍な容姿、そして「カナメを中古にする」という野蛮極まりない所有宣言。
男たちは、自分たちの女神を奪い去った略奪者の横顔に殺意に近い嫉妬を抱きながらも、その圧倒的な「雄」としての重圧に屈服しかけていた。
だが、その熱狂が沸点に達しようとしていた時、さらなる衝撃が銀河を貫いた。
銀河標準時、5月30日、23時00分ジャスト。
星間複合企業体「ケイオス」と「オーオク社」が、全銀河の通信網に向けて連名の公式声明を発表したのである。
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【共同声明:世紀の祝宴(アニバーサリー・マリッジ)の挙行について】
この度、弊社所属のカナメ・バッカニア、ならびに弊社代表取締役オリッシュ・ハメルマンの婚礼の儀を、以下の通り執り行います。
■日時:2068年6月1日 19:00(レハーム現地時間)より開始
本儀式は、専用チャンネルおよび主要メディアを通じて銀河全域へ完全生中継いたします。
かつて銀河を救った歌姫が、一人の男の「妻」となる歴史的な瞬間を、全銀河の皆様と共有できることを願っております。
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この声明は、銀河中の男たちにとって「逃げ場のない二段構えの陥落」を意味していた。
明後日、6月1日の朝。
遂に銀河中のショップで五感追体験型デバイス「ABVプレイヤー」が販売開始され、「ワクチンABVソフト」に配信が始まる。
手に入れた者たちは、狂ったようにデバイスを股間に装着し、プロトカルチャー由来のフォールドバリアが再現する「カナメの体温、匂い、肉の締めつけ」に溺れるだろう。
朝から夕方にかけて、彼らは仮想現実のカナメに魂まで絞り取られ、セイズノールを垂れ流しながら絶頂を繰り返すことになる。
しかし、そうして賢者タイムという名の虚無に突き落とされた彼らを待っているのは、同日19時からの「現実」だ。
既存メディアのモニター越しに映し出されるのは、自分たちが数時間前まで貪っていたはずの、しかし今や「他人のもの」となった本物のカナメ・バッカニア。
彼女が、自分たちを依存の淵に叩き込んだ張本人であるオリッシュに対し、一人の「メス」として、貞操と子宮を捧げる誓いの儀式。
「偽物のカナメ」で精根尽き果てた状態で、「本物のカナメ」が中古にされていく様を見せつけられる。
これ以上の陵辱があるだろうか。
翌5月31日。
惑星レハームの周囲には、この瞬間を現地で、あるいは少しでも低遅延の電波で目撃しようとするプレス艦や野次馬の民間船が殺到し、衛星軌道上が光の帯で埋め尽くされるほどの過密状態となっていた。
嵐の前の静けさを湛えたこの日、銀河中の誰もが、刻一刻と刻まれる運命の刻限を肌で感じていた。
一人の女神が消え、一人の「人妻」が誕生する。
その残酷で甘美な祝祭への招待状を手に、銀河は狂乱の夜明けを待つのだった。
(続く)