※この作品はR-18です。

マクロスΔ オペレーション・スィートプリズナー   作:夜叉五郎

192 / 218
2068年6月1日(金)
アルテミシア・グランドホテル シアターレストラン


ch.192「六月の花嫁(アニバーサリー・マリッジ)中」

熱狂のライブが幕を閉じ、最新のホログラムと精巧な大道具によってコンサートホールのステージ上に再現されたのは、銀河の星々を背景に背負った荘厳な祭壇であった。

 

満を持してタキシード姿のオリッシュが待つその場所へ、ゆっくりと「花嫁」が歩みを進める。

 

カナメをエスコートするのは、かつて戦場を、そしてステージを共にした四人のワルキューレのメンバーたちだった。

 

マーメイドドレスに着替えたカナメの、しなやかで完璧なボディラインを強調する艶やかな姿は、エスコートする四人の純白の衣装と相まって、この世のものとは思えない美しさを放っている。

 

一昨日のSNNによる独占インタビュー映像で、全銀河に衝撃を与えたあのウェディングドレス。

 

モニター越しではなく、実物として目の前に現れたカナメの姿に、会場の招待客たちからは一斉に、押し殺したような感嘆のため息が漏れ出した。

 

168cmのモデル体型とオリッシュに愛されてる実ったFカップのバストラインが描く、計算し尽くされた曲線美。

 

それが一歩踏み出すごとに優雅に揺れる様は、銀河中の男たちが今朝からABVで貪り続けている「幻想」を、一瞬で置き去りにするほどの圧倒的な「本物」の輝きに満ちていた。

 

祭壇の中央。この「挙式」の司式者役として立っているのは、ミラージュ・ファリーナ・ジーナスであった。

 

彼女の凛とした祭服姿は、この華やかなショーに一本の筋を通すような厳格な重みを添えていた。

 

オリッシュの待つ祭壇の目前、四人はカナメを囲むように歩みを止め、一人ずつ彼女へと向き合った。

 

「カナカナ、本当におめでとう。世界で一番、最高にハッピーな花嫁さんだね!」

 

マキナが弾けるような笑顔で、カナメの両手をぎゅっと握る。

 

「うん。カナメの幸せは、私たちの幸せ。末永く、幸せになるべし」

 

レイナが静かな、しかし確かな温もりを込めた瞳で頷いた。

 

「リーダー、本当におめでとう! 子沢山で幸せな家庭を築きましょう」

 

クレアは溢れんばかりの祝福を込めつつも、言葉を選んで淑やかに一礼した。

 

その瞳の奥には、カナメの幸せの先に続く自分たちの未来への期待が、熱い光となって宿っていた。

 

「カナメ……。貴女の歌声と同じくらい、美しい人生を歩みなさい。私も負けないから」

 

美雲が神秘的で挑発的な微笑を浮かべ、その背中を優しく押し出した。

 

「……ありがとう、みんな!」

 

仲間の想いを受け取ったカナメは、目に薄っすらと涙を浮かべながらも、人生で最高の、眩いばかりの笑顔で応えた。

 


 

四人に送り出される形で、一歩、オリッシュの待つ祭壇へと足を踏み出すカナメ。

 

隣に並び立った二人。

 

182cmの長身を誇り、鋼のように引き締まったオリッシュと、168cmのしなやかで完璧なプロポーションを持つカナメ。

 

愛おしげに見つめ合う二人の姿は、まるで計算し尽くされた極上の絵画のようであった。

 

これ以上の新郎新婦の絵面はないと思われるほど完璧な構図に、会場からはため息混じりの賞賛と、見惚れるような歓声が次々と溢れ出した。

 

ミラージュが落ち着いた声で、銀河が見守る中での問いかけを開始した。

 

「オリッシュ・ハメルマン、カナメ・バッカニア。

 

両名は、いかなる時も互いを唯一無二のパートナーと認め、共に歩むことを誓いますか?」

 

ミラージュの落ち着いた声が、静まり返ったホールに響き渡る。

 

「誓います」

 

「……はい。誓います」

 

二人は力強く言葉を交わした。

 

続いて、オリッシュがゆっくりと手を伸ばし、用意されていたリングケースを開いた。

 

そこに収められていたのは、最高純度のフォールドクォーツが眩いばかりの輝きを放つ結婚指輪だ。

 

それは5月5日のプロポーズの夜に贈られた、彼女の持ち歌の名を冠した婚約指輪――『スターリィ・ライン』のアクシア・ステラ――と重ね着けができるよう、緻密に設計された特別なセットリングである。

 

オリッシュがカナメの左手を取り、その薬指へ。

 

愛の象徴である一粒石のアクシア・ステラを追いかけるように、新たな誓いの輪を滑り込ませた。

 

続いて、カナメがオリッシュの手を取る。

 

かつての贅肉は完全に削ぎ落とされ、今やスマートでしなやかな女泣かせの彼の指。

 

そこへ、カナメが彼のために用意した結婚指輪を手に取る。

 

「……私のすべてで、あなたを支えます。旦那様」

 

カナメは潤んだ瞳でオリッシュを見つめ、慈しむように彼の左手薬指に指輪を嵌めた。

 

二人の指輪に宿るフォールドクォーツが共鳴し、目に見えない絆が結ばれたことを証明するように、透き通った淡い光が指先を包み込む。

 

その刹那だった。

 

純白のウェディングドレスの布地を透かし、カナメの下腹部に刻まれた淫紋が、指輪の共鳴に呼応するように鮮やかなピンク色の光を放った。

 

肉体を内側から突き抜けるような、甘く激しい熱がカナメの全身を駆け抜ける。

 

同時に、シアターレストランの客席に参列していたマクロス・オーオクの女性クルーたちの間に、目に見えない衝撃が走った。

 

彼女たちが社員証として左手の薬指に嵌めている指輪が、主(マスター)と正妻の契りが完成した瞬間のフォールド波に感応し、一斉に脈動を始めたのだ。

 

(……あぁっ……!)

 

百名以上のオーオク社所属の美女たちの意識が、サキュバス波を介してカナメの意識へと強力に同調していく。

 

彼女たちは一瞬にして、オリッシュに対するカナメの深い愛と、開発され尽くした雌としての悦びを、自らの感覚として共有した。

 

その異様な光景を、参列席の隅で剣崎ヒビキは戦慄と共に目撃していた。

 

(何だ……何が起きている!? パートナーも連れずに参列しているあの美女たち……全員の顔つきが、一瞬でカナメと同じ『心酔した女』に変貌したぞ……!)

 

ヒビキが隠しカメラで一人一人の表情を捉え続ける中、儀式は最高潮へと向かう。

 


 

オリッシュがゆっくりと手を伸ばし、ヴェールアップを行った。

 

二人の間の壁を取り払い、永遠の愛を誓う神聖な儀式。

 

プロポーズ直後の「練習」の時は、心臓が口から飛び出しそうなほど震えていたオリッシュの手は、今は驚くほど静かで、確かな力強さに満ちていた。

 

繊細なレースを慈しむように、迷いのない所作で撥ね上げる。

 

露わになったカナメの顔は、昨夜、五本の熱量によって極限まで「妻」として開発され尽くした名残か、恥じらいと情熱に艶やかに上気していた。

 

その神々しいまでの美しさに、オリッシュは改めて「この女性を一生守り抜く」と心に誓う。

 

練習を経て、本番の重みを背負った彼は、かつてないほど堂々と、そしてエロティックなまでの男の色気を纏い、カナメへと唇を寄せていく。

 

次の瞬間、二人は深く、熱い、魂を繋ぎ合わせるような誓いのキスを交わした。

 

カナメの肉体は女としての至高の幸福感に貫かれ、甘やかな絶頂の波に呑み込まれる。

 

脳を焼くような多幸感によろけそうになる彼女の体を、オリッシュは逃さぬよう強靭な腕でキツく抱きしめ、さらに深く、魂を啜り上げるような接吻へと移行する。

 

鉄鎖のような抱擁と終わりのないキスに拘束され、カナメは歓喜の絶頂に溺れながら、その身も心も愛する「旦那様」へと完全に明け渡した。

 

ステージ上の四人も、そして客席のクルーたちもまた、カナメと感覚を共有しながら、心の中でオリッシュへの永遠の愛を誓っていた。

 

自らの主(マスター)への、抗いようのない絶対的な服従と愛が、彼女たちの瞳に深く刻み込まれていく。

 

その刹那だった。

 

絶頂の極みに達したカナメの下腹部から、かつてないほど強力なサキュバス波が奔流となって噴出した。

 

その不可視の波動は、ステージ上の四人のメンバーが刻まれた淫紋、そして客席の百名を超える美女たちが嵌めた指輪によって幾重にも増幅・共鳴し、会場全体を密閉するように包み込む「サキュバスフィールド」を形成した。

 

銀河を牛耳る巨大コングロマリット『ケイオス』の幹部らをはじめ、統合政府軍の高官連中、ブリージンガル球状星団の各星系政府のお偉方。

 

さらには銀河中の主要メディアを支配するプロデューサーや、名だたる芸能人、インフルエンサーたち。

 

この場に集った銀河の支配者層たる招待客全員が、抗いようのない力で発生源――すなわちサキュバス・クィーンとなったカナメに魅了され、抗弁の余地なく隷属状態へと叩き落とされた。

 

彼らの瞳からは理性の光が消え、ただひたすらに壇上の女神を崇拝し、彼女を所有するオリッシュを絶対者として仰ぐ虚ろな熱だけが宿っていく。

 

常日頃からカナメたちのサキュバス波を至近で浴び続けてきたミラージュ。

 

そして、この十日間『ワクチンABVソフト』を繰り返し試遊し、サキュバス砲の至近弾を観察し続けたことで奇跡的に耐性を得ていたヒビキ。

 

この二人を除くすべての参列者が、文字通り根こそぎ「餌食」にされてしまったのである。

 


 

誓いのキスの瞬間、会場を飲み込んだ「サキュバスフィールド」は、剣崎ヒビキの脳髄を暴力的なまでの快楽で殴りつけた。

 

「ぐっ、ああぁっ……!?」

 

ヒビキの視覚野に、強烈な生体パルスが極彩色の幻影を強制的に上書きしていく。

 

数多の美しい女たちが一斉に背を反らせて狂おしい絶頂に震える生々しい光景、そして聴覚神経を直接撫で回すような、鼓膜を溶かすほどに甘く濃密な啼き声の奔流。

 

それは、あの日マクロス・オーオクの至近距離で「サキュバス砲」の余波を浴びた時と同じ、脳を直接焼き切るような悪魔的な感覚だった。

 

「ハァッ……ハァッ……! ふざけんな、こんなモンに……呑まれてたまるか……ッ!」

 

ヒビキは自らの唇を血が滲むほど強く噛み破り、その強烈な物理的疼痛によって意識のピントを無理やり現実へと繋ぎ止めた。

 

この十日間、ワクチンABVソフトの繰り返しの試遊によってサキュバス波を浴び続けていたことと、一度「サキュバス砲」を至近で感じて耐性を得ていたことにより、彼の理性を辛うじて踏みとどまらせていた。

 

荒い息を吐きながら、ようやく視界を確保したヒビキの目に飛び込んできたのは、言語を絶する「惨劇」だった。

 

「……嘘だろ……」

 

先ほどまで威厳を湛えていたはずの銀河の支配層たちが、一様に虚ろな瞳を晒し、ある者はグラスを持ったまま、ある者はテーブルから身を乗り出したまま、恍惚とした表情で身体を震わせている。

 

彼らの瞳からは理性が霧散し、壇上のカナメと、彼女を支配するオリッシュを絶対者として仰ぐ「隷属の熱」だけが宿っていた。

 

ヒビキは震える手でデジカムのモニターを確認した。だが、そこには何も異変は映し出されていない。

 

あの日、宇宙空間を切り裂いたピンク色のレーザー光線のような射軸も、空間の歪みもない。

 

画面の中ではただ、新郎新婦が美しく、幸せそうに口づけを交わしているだけだ。

 

(……デジカムには映らない。この『地獄』は……記録できないのか……ッ!?)

 

背筋を凍りつくような悪寒が駆け抜けた。

 

映像の上では「平和で感動的な結婚式」が行われているに過ぎない。

 

しかし、現実には銀河の首脳陣が軒並みハッキングされ、その魂を根こそぎ奪い去られている。

 

「……これが、お前の狙いだったのか。オリッシュ・ハメルマン……ッ!」

 

物理的な爆発も、流血もない。だからこそ、この事態は絶望的だった。

 

(この惨状を、どう報じればいい? 『映像には何も映っていないが、支配者たちは奴隷になった』なんて……一体誰が信じてくれるんだ……!?)

 

デジカムに残された「美しい結婚式」の映像。

 

それが世界に向けた最高に残酷な「偽りの証明」となってしまう。

 

ヒビキは自分の無力さに打ち震えながら、冷徹に世界を掌中に収めた新郎新婦の姿を、ただ呆然と見つめることしかできなかった。

 


 

オリッシュがゆっくりと唇を離す。

 

タイミングを計ったかのように、ホールの喧騒を透き通らせるように澄み切った、天上の祝福の鐘の音が、静かに、そして気高く鳴り渡った。

 

その音色は耳を劈くような大音響ではなく、人々の心の奥底に直接沁み通るような、清冽で柔らかな響きであった。

 

すると、先ほどまで会場を支配していた悍ましいほどの淫靡な熱気が、まるで最初から存在しなかったかのように一瞬で霧散していった。

 

恍惚に身体を震わせ、椅子から崩れ落ちかけていた招待客たちは、その清らかな調べに導かれるようにして、吸い込まれるように元の姿勢へと戻っていく。

 

「……おお、なんという素晴らしい式だ」

 

「ああ、感極まって意識が飛ぶかと思ったよ」

 

彼らは、自分がたった今「魂を書き換えられた」ことなど微塵も気づいていない。

 

理性の光を取り戻したかのような瞳には、しかし、深層意識に深く刻み込まれたオリッシュへの絶対的な親愛と、カナメというサキュバス・クィーンへの盲信的な崇拝が、完璧な「忠誠心」として偽装され、定着していた。

 

(……消えた? いや、馴染んだのか……!?)

 

デジカムを構えたまま立ち尽くすヒビキは、その鮮やかすぎる「正常化」に戦慄した。

 

先ほどの地獄絵図は幻だったと言われれば、そう信じてしまいそうなほど、会場は再び「気品溢れる世紀の結婚式」へと、完璧な調和を取り戻している。

 

この天上の調べこそが、洗脳を完了させ、彼らの意識をオリッシュの望む「平穏な隷属」へと繋ぎ止めるための、最後の仕上げ(トリガー)だったのだ。

 

これまでにないほどカッコよく、頼もしい新郎の姿に、カナメは胸を熱くし、改めてこの男に深く惚れ直していた。

 

オリッシュの腕の中で、彼女の身体が甘やかな歓喜にわずかに震える。

 

天から降り注ぐようなその調べは、一人の女神が、一人の男の「唯一無二」となったことを全銀河へ優しく告げる、福音ならぬ究極の快楽へのファンファーレであった。

 

(続く)

 

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