マクロスΔ オペレーション・スィートプリズナー 作:夜叉五郎
アルテミシア・グランドホテル ロイヤルスィート「ルビー・プリズン」
ch.45「誕生日プレゼントを巡る攻防」
早朝、気持ちよくイビキをかいているオリッシュの隣りで目覚めたカナメ。
ベッドから起き上がり、鏡の前で自分の体を確かめた。
生理が終わって三日目。
下腹部の重さは完全になくなっていた。
(今日を乗り切れば、やっと本番解禁ね……)
カナメは気合いを入れて、ミラージュとのブリーフィングに向かった。
カナメの専用ルームに入ると、ミラージュが深刻な顔で待っていた。
「カナメさん、覚えていますでしょうか。明日は慰安対象の誕生日です」
カナメは一瞬言葉を失った。
「……ええ!?」
完全に忘れていた。
大ポカだ。
慰安任務開始前に見せられたオリッシュのプロフィールには、『生年月日:2034年4月1日』が明記されていた。
しかし、ここ三週間ばかり自分のことに精一杯で、オリッシュの誕生日にまでは頭が回らなかった。
性経験が皆無だったカナメが日々の慰安任務に追われる中で、それを忘れてしまうのはまま仕方のないことではある。
ミラージュが続ける。
「誕生日となれば、誕生日プレゼントが必要です」
カナメが同意する。
「そうね」
もしオリッシュが誕生日プレゼントを貰えないとなれば、その精神が不安定となり、彼とリンクする宇宙再構築システムが暴走しかねない。
ミラージュはタブレットを操作しデータを表示した。
「慰安対象は明日で34歳になります。この年代の男性が好むプレゼントは、高級腕時計や最新ガジェットや旅行券あたりになりますが、このロイヤルスィートでの生活を考えると意味のないデータです」
カナメも頷く。
「確かにそんなものじゃ足りないわ。あの人、もう全部持ってるようなものだもの」
これまで統合政府は、この部屋でオリッシュに与えられるものは全て与えてきた。
オリッシュにとって最高の供物であるカナメ本人を好きにできる今、それ以上に喜ばせるプレゼントを探すのは困難であった。
それゆえ、ミラージュは少し躊躇いながら提案する。
「そこでカナメさんに提案です。誕生日プレゼントに、カナメさんとのアナルセックスはどうでしょうか」
カナメは顔を青くした。
「それは嫌!」
ミラージュが慌ててカナメを説得しようとする。
「レディMの演算によると、カナメさんとのアナルセックス以上のプレゼントはないとのことでした。きっと慰安対象は満足してくれますっ」
実のところ、前日まで誕生日の件を伏せていたのは、カナメを追い詰めて覚悟を決めさせるためであった。
それでもカナメの意思は固い。
「絶対にダメよっ。他に案はないのっ?」
必死に抵抗する。
「すみません、カナメさん。レディMからは、アナルセックス以外の回答は得られてません」
辛い顔で謝るミラージュ。
「何よっ、使えないわねっ」
普段のカナメらしくない、乱暴な言葉が出てしまう。
カナメは必死に考えた。
(アナルは絶対に嫌。アナルは絶対に嫌。プレゼント、プレゼント、プレゼント、他に何かないのかしら……)
その時カナメはふと、オリッシュがいつも端末で自分の姿を撮影しようとしていたことを思い出す。
昨日はグラスいっぱいの精液を優雅に飲み干すところ。
一昨日はタプタプのコンドームとのツーショット。
(そういえばあの人、よく私を撮ってたわよね……)
それは、オリッシュの願望と直結している宇宙再構築システムがもたらした天啓か。
カナメは目を輝かせ提案する。
「ミラージュ、アダルトビデオ撮影はどうかしら?」
「ア、アダルトビデオ、ですかっ」
ミラージュは一瞬目を丸くした。
カナメは意気揚々と説明した。
「私がAV女優に扮して、あの人に男優役をやってもらって、誕生日プレゼントとしてアダルトビデオを撮影するの。撮影したビデオはロイヤルスィートの中だけで上映できるようにすれば、あの人はそれで自慰するようになるはずだわ。私の負担も減って一石二鳥になるはずよっ」
ミラージュは目を輝かせた。
「それはいい考えです!ちょっと待ってくださいっ」
カナメの提案をタブレットに打ち込んでくミラージュ。
「条件付きでレディMの許可が降りましたっ。そのプランでいきましょう!」
カナメはほっとした。
しかし、条件付きという言葉に当然引っ掛かる。
「条件って何かしら?」
ミラージュは顔を赤らめながら、タブレットを操作して説明する。
「私はアダルトビデオは詳しくないのですが、現在ケイオスのアダルト部門が開発中の、最新の追体験型アダルトVR方式の撮影ならばOKだそうです」
現状のアダルトビデオのフォーマットは、昔ながらの二次元映像のものと、視覚と聴覚情報を再現可能なアダルトVRにの二つに大別される。
それに加わる新たな分野として、ケイオスのアダルト部門はレディMの肝入りで、触覚・味覚・嗅覚をも再現する新アダルトVRをリリースしようとしていた。
新フォーマットの名前は、アダルトBV(Barrier Vision)。
視聴者の全身を薄いフォールドバリアで覆うことで、竿役の男優が受けた刺激の記録を追体験できるようになる、画期的な仕組みである。
あまりに刺激が強すぎて、感覚レベルのナーフの調整に難航している代物であった。
そんな事情は全く知らないカナメ。
ただただアナルセックスから逃れるために、深く考えずに承諾してしまう。
「わかったわ。最新の方式の撮影で結構です」
ミラージュはビシッと敬礼した。
「了解しました!機材を手配しておきます!」
カナメは微笑みながら内心で小さく息を吐いた。
(これで、なんとかなったわね……)
この決断が、後にアラド・メルダースを地獄に落とすことになるのだが、当のカナメに知る由もない。
(続く)