マクロスΔ オペレーション・スィートプリズナー 作:夜叉五郎
アルテミシア・グランドホテル カナメ専用スィート & ロイヤルスィート「ルビー・プリズン」
ch.68「ワルキューレの脅威と二つの踏み絵」
カナメの慰安任務が開始されてから、丸一ヶ月が経過していた。
早朝、ミラージュがカナメ専用のスィートルームを訪れ、対面でのブリーフィングが行われる。
カナメは素肌に白いガウンを羽織っただけの姿で朝食とピルの摂取を終え、ダイニングテーブルの椅子に腰を下ろしていた。
昨夜の余韻がまだ体に残り、ガウンの裾から覗く白い太腿に、かすかな赤い痕が浮かんでいる。
エージェントスーツ姿のミラージュは、目の下に薄いクマを浮かべ、明らかに疲労を溜め込んでいる。
カナメはミラージュをテーブルに招き、対面に座らせる。
「惑星レハームのプロトカルチャー遺跡……宇宙再構築システムの調査状況ですが、正直に申し上げて進展がまるでありません」
カナメは頷く。
胸の奥で、静かに覚悟していたものが、少しずつ重みを増していくのを感じた。
この任務がいつ終わるのか、誰にもわからない。
オリッシュの側に、いつまでいなければならないのか。
でも……不思議と、苦には思えなくなっていた。
これまでの毎夜の奉仕で、子宮がオリッシュの形を覚え、熱い白濁で満たされるたび、甘い痺れが体を支配するようになっていた。
最初は苦い珍味みたいな味だったオリッシュの精液も、今ではフルーティーで味わい深く、舌の上で転がすだけで日々の体調がわかるほどに口に馴染んでいる。
少し塩気が強い日は疲れが溜まっている証拠、甘みが強い日は興奮が最高潮だった証拠。
喉奥で受け止めるたび、体が自然に熱くなり、子宮が疼く。
最初は任務として耐えていただけなのに、いつの間にかその快楽に身を委ね、オリッシュの腕の中で眠る夜が、心地よいものに変わっていた。
そして、何よりあの夜——昏睡中に好き勝手されたはずなのに、アナルだけは守ってくれたオリッシュの優しさ。
目覚めた時の安堵と、胸の奥に灯った温かな想い。
あの瞬間から、オリッシュを「キモい中年オタクファン」と思う気持ちは、もうどこにも残っていなかった。
むしろ、彼の側に居続けることが、自然で、心地よいことにさえなっていた。
それよりも、ミラージュの続く報告の方が、カナメの胸を強く締めつける。
「それと……申し訳ありません。やはりワルキューレの皆さんが、カナメさんの行方を独自に調べています」
レイナがハッキングで、アルテミシア・グランドホテルへの滞在を突き止めたという。
初日の到着時、漆黒のリムジンから降り立った自分——深紅のシルクのイブニングドレスに身を包み、胸元を大胆に開きスリットが腰まで入ったルビー色の生地、金のチェーンとルビーの宝玉が秘部を飾る淫らな衣装で、ロビーを横断したあの姿。
パパラッチの目を引きつけ、娼婦になりきったパフォーマンスで混乱を誘い、ケイオス側の工作で情報封鎖を仕掛けたはずだった。
だが、天才ハッカーであるレイナには勘づかれてしまったらしい。
美雲とマキナも、レイナの情報からカナメの異変に気づき、心配して動き出しているという。
三人は連携して動いている様子で、ミラージュの調べによると、ラグナ支部の上層部はそれを黙認しているようだ。
このままではワルキューレがラグナ支部ごと反旗を翻し、この惑星レハームへ突っ込んでくる可能性すらある。
これまでカナメはレディMの命令で慰安任務を優先し、メンバーたちとの連絡を絶ってきた。
カナメ自身、ワルキューレへのフォローは必要とは考えてはいた。
だが、慰安任務が当初の想定以上に過酷すぎて、そちらまで手が回らない状況であった。
代わりにミラージュが応対していたが、そもそも根が真面目なミラージュに腹芸は向いてない。
とにかくカナメさんは大丈夫ですから!の一点張りで、逆にメンバーの不信感を増大させてしまう始末。
その溜まったつけが回ってきた格好で、ワルキューレの面々が独自にカナメの行方の調査に動き出していたのである。
ある意味、ミラージュの至らなさが招いた事態とも言え、ミラージュが疲労を溜め込んでるのも当然だ。
しかし、カナメはミラージュを責めることなく、ただただ己の胸の奥を痛めるばかりである。
(みんなが、私を心配して探してくれてる。それなのに、私はここで。あの人の腕の中で、毎夜甘く溶かされて)
歌姫としての誇り、リーダーとしての責任を裏切っているような罪悪感が湧く。
でも、同時に、もう自分はオリッシュから離れられないという想いもあった。
オリッシュの熱い視線、ねっとりとした触れ方、子宮を満たす熱——すべてが、体に刻み込まれている。
あの優しさを思い出すたび、胸が熱くなる。
この任務が終わったら、どうなるのか。
自分は、オリッシュの側を離れられるのか。
そんな不安と、甘い諦めが混じり合い、カナメの瞳を潤ませた。
とにかく公私共に最悪の事態に陥ってしまうことを防ぐため、ワルキューレを止めなければならない。
声が震えそうになるのを必死に抑えて、カナメは言った。
「ミラージュ。レディMに伝えて。メンバーたちと、対話させてほしいって」
ミラージュは少し目を伏せ、すぐに頷いた。
カナメはミラージュの肩にそっと手を置き、感謝と申し訳なさを込めて微笑んだ。
ミラージュの疲れた瞳に、自分の姿が映る。
(ミラージュも、ずっと私を支えてくれてるのに……)
胸が熱くなり、涙がにじみそうになるのを、カナメは必死で堪えた。
数時間後、レディMからの返答が届いた。
無機質なテキストメッセージ。
『定期的な対話を条件付きで許可する。条件:慰安任務の詳細をアラド・メルダースに開示せよ』
オリッシュを昼寝に誘導し、自身は医療ポッドに入ろうとしていたカナメは、端末を握ったまま息を止める。
アラド——マクロス・エリュシオンの艦長。
ワルキューレとデルタ小隊を統括する立場にある男。
あのプロポーズから、答えを出せないまま一ヶ月。
格納庫で、VF-31Sの主翼に手を置いたアラドが、真っ直ぐに自分を見つめて言った言葉が、脳裏に蘇る。
『カナメさん。俺と、付き合ってくれないか。……結婚を前提に』
あの時の衝撃。
耳を疑い、思考が真っ白になった瞬間。
十一歳年上で、戦友で、飲み仲間で、いつも頼れる存在だったアラドが、突然「男」の顔で告白してきた。
拒絶感は湧かなかった。それが怖かった。
胸の奥が熱くなり、甘く疼くような感覚に襲われた。
フレイアの鮮烈な生き様、メッサーの遺言——大切な人を失ったばかりの心に、灯った小さな火。
でも、答えを出せないまま、任務に没頭し、逃げてきた。
レディMの条件は、その未練を強制的に断ち切らせるものだった。
レディMの意図は明白だ。
ワルキューレが暴走しようとしても、アラドの協力が無ければ実質何もできない。
事態の深刻さをアラドにも理解させ、暴走を防ぐための措置。
カナメは胸の奥が締めつけられるのを感じた。
(開示と言ってもどこまで? 任務の概要だけ? それとも毎夜の逢瀬のすべてを? そんなものを、アラド艦長に……)
美雲たちには、胸を張って今の任務を伝えられる。
だが、アラドにはどうだろうか。
自分の性事情を、憎からず思っている相手に明かす。
想像しただけで、頰が熱くなった。
引かれるのは確実で、あの真剣な瞳が失望に変わるのを思うと、胸が痛い。
未練を断ち切るためにも、必要なのかもしれない。
だが、一人で決めて良い話ではなかった。
慰安任務とは言え、突き詰めると男女関係の話であり、当然だが相手もいる。
一方の当人であるオリッシュに無断で明かすわけにはいかなかった。
もし自分の女が、自分との性事情を、他人に——それも男性に——勝手に明かしたともなれば、決していい気分にはならないだろう。
信頼は崩れ、最悪その関係性は破綻する。
カナメはソロアイドル時代を生き抜き、ワルキューレのリーダーとして人との絆を築いてきた女だ。
筋を通すことの大切さは、骨身に染みている。
しかも、オリッシュは宇宙再構築システムとリンクしており、万が一にも機嫌を損ねるわけにはいかない相手だった。
「まずは、オリッシュさんの許可を得るのが先ね」
カナメは深く息を吸い、静かに呟いた。
ディナーの後片付けを終えたカナメは、食事を終えて寛いでいるオリッシュの隣に腰を下ろす。
白いシャツの胸元が少し開いたオフスタイルのまま、静かに息を整えてから口を開く。
「オリッシュさん、少し真剣なお話をしてもいいかしら」
オリッシュは食後のコーヒーのカップを置き、不思議そうにカナメを見た。
カナメは姿勢を正し、穏やかだが芯の通った声で続けた。
「私が貴方の側に居続けるために、ここでの貴方との逢瀬の記録を、とある人物に開示する必要が出てきました。許可をいただけますか?」
言葉は丁寧で、申し訳なさはもちろんあるが、目はまっすぐにオリッシュを見つめている。
オリッシュは目を丸くした。
「え、誰に?」
カナメは端末を操作し、アラド・メルダースのプロフィールをスクリーンに映す。
マクロス・エリュシオンの艦長。
ワルキューレとデルタ小隊を統括する立場。
オリッシュと同い年、同じ背丈だが、精悍でワイルドな顔立ち。
経歴を簡潔に説明する。
非の打ち所がない叩き上げの優秀過ぎる軍人だった。
オリッシュは写真をじっと見つめた。
表情は変わらない。
だが、一瞬でその眼に確かな嫉妬の火が灯っていた。
カナメがアラドのことを語る声に、敬意と親しみが混じっているのを敏感に感じ取ったからだ。
(同期なのに中佐。何階級上だよ?それに俺と正反対のイケメン)
(カナメの声……少し優しいじゃん。こいつと一緒に戦って、飲みに行って……ずっと近くにいたんだろ?)
(俺はここでやっとカナメを手に入れたのに……あいつは最初からカナメのそばにいて……)
胸の奥で、何かがざわめき始めた。
これまでカナメを独り占めしてきた日々。
毎夜彼女の体を抱き、子宮を満たし、甘い喘ぎを聞き、熱い白濁を注ぎ込む。
あの柔らかな肌、甘い匂い、すべてが俺のものだった。
それが、他の男に知られる?
しかも、こんな完璧な男に?
(カナメ……あいつのこと、好きなんじゃないかな……)
嫉妬が、黒い炎となって胸を焦がす。
カナメを失うかもしれない恐怖と、誰にも渡したくないという独占欲が、混じり合って渦を巻く。
オリッシュはそれを表に出さず、ニヤけた笑みを浮かべた。
「いいよ、カナメ」
穏やかに、しかしどこか含みを持たせた声で即答。
カナメが少し驚いて目を細めると、オリッシュは続ける。
「ただ、一つだけ条件があるんだ」
「条件ですか......なんでしょうか」
レディMに引き続いて、また条件をつけられて身構えるカナメ。
「限定解除モード無しの通常版のアダルトBVを、そのアラドさんって人に送り付けること」
カナメは息を呑み、一瞬言葉を失った。
アラドに任務の詳細を開示するだけでも胸が痛いのに、さらにオリッシュとの逢瀬を——モザイクだらけとはいえ——五感で味わわせるなんて。
オリッシュの熱い視線、ねっとりとした触れ方、子宮を満たす熱、喉奥で受け止める甘い味……すべてを、アラドに。
想像しただけで、体が熱くなり、膝が震えた。
拒絶されるかもしれない恐怖と、なぜか湧き上がる背徳の疼き。
カナメは唇を噛み、オリッシュのニヤけた顔をまっすぐ見つめ返した。
(この人は、私を誰にも渡したくないと思っている)
その嫉妬心、独占欲が、嬉しくて、苦しくて、胸が締めつけられる。
さらなる踏み絵がカナメの前に用意されてしまった。
(続く)