マクロスΔ オペレーション・スィートプリズナー 作:夜叉五郎
ケイオス・レハーム支部
「カナメさん、これを」
ミラージュはカナメに小さな銀のケースを差し出した。
蓋を開けると、透明なブリスターの中に二粒の白い錠剤が並んでいる。
見た目は普通の薬と変わらないが、カナメにはそれが何を意味するのかすぐにわかった。
「今すぐそれを飲んでください」
「……避妊薬?」
カナメが呟く。
ミラージュは静かに頷く。
「はい。慰安任務専用の低容量避妊ピルです。効果は投与後24時間にわたり、ほぼ100%の確率で妊娠を阻止します。今夜、カナメさんがどれだけ中に出されても、絶対に妊娠しません」
カナメの指が凍りついたように止まった。
「どれだけ中に出されても」
——その言葉が耳の奥で何度も反響する。
「すみません。飲むのを見届けさせて下さい。水はこちらに」
これもまたミラージュに課された任務の一つであった。
差し出されたグラスを受け取り、カナメはその細い指で二粒を摘み上げた。
小さな白い錠剤は、まるで彼女の未来を断ち切る刃のように見えた。
口に含む。
舌の上でほろ苦い味が広がる。
水で流し込む瞬間、喉の奥が熱くなった。
ごくん、と音がして、ピルは胃の中へと落ちていく。
ミラージュは銀のケースを閉じ、静かに、しかしどこか痛みを堪えるように告げる。
「今夜分はこれで完了です。継続用の錠剤は、明日朝より毎日、食事と一緒に支給します。飲み忘れは絶対に許されません。申し訳ありませんが、記録も取らせてもらいます」
カナメは俯いたまま、小さく頷くしかなかった。
「効果は即座に発現し、24時間持続します。これで、慰安対象にとって、カナメさんの体は完全に『安全な玩具』として機能します」
その言葉が胸に突き刺さる。
安全な玩具。
妊娠の心配すら取り除かれた、ただの肉体。
もう、本当に逃げ場はどこにもない。
今夜の二粒と、これから毎日届く無数の錠剤が、彼女の子宮に永遠の鍵をかけたのだ。
ミラージュは別の小さな箱を差し出した。
「こちらを」
蓋を開けると、黒い金属製のリストバンドが現れる。
表面に微かに青い光が走り、体温、心拍、興奮度、そしてホルモンバランスをリアルタイムで監視する、慰安任務専用の高性能デバイスだった。
「任務中は常時装着してください。貴女の体調に異変が生じないかをモニタリングするためです。万一の異常時には即座に対応可能です」
箱を受け取るカナメ。
その瞬間、ミラージュの視線が、カナメの左手首に釘付けになる。
そこには、メッサーの形見のブレスレットが仄かに光っていた。
ミラージュの表情が凍りつく。
「カナメさん。そのブレスレットは、メッサーさんの……」
カナメは、反射的にブレスレットを隠そうとした。
「これは、私の……大切な……」
ミラージュは目を伏せ、一度だけ深く息を吸った。
そして、感情を殺した鋼のような口調で告げる。
「……申し訳ありません。任務中は、こちらの用意した衣装および装飾品以外は、一切の装着を禁止されております」
カナメの右手が、ブレスレットをぎゅっと握りしめた。
「もしカナメさんがそのブレスレットにこだわる様子を見せれば、慰安対象の機嫌を損ね、ストレスを生じさせる可能性があります。任務の成功率を100%にするため……外していただきます」
そう言われてしまうと、カナメも泣く泣く受け入れるしかない。
「了解、したわ」
ミラージュは、静かに敬礼した。
「それでは、ドレスルームへご案内いたします」
ミラージュに促されたカナメは、メッサーのブレスレットを握りしめたまま、覚悟の足取りで彼女についていく。
寒々しく感じる廊下をミラージュと共に歩くカナメ。
「こちらです。衣装は中に用意してあります。着替えが済んだらベルを鳴らしてください」
ドアを開いてドレスルームに入る。
そこにあったのは、カナメのこれまでの人生の中で、最も淫らな衣装だった。
マネキンに掛けられた深紅のシルクのドレスが、照明を受けて濡れたように妖しく輝いている。
オフショルダーで胸元を大胆に開き、乳房を寄せて持ち上げる設計。
ロングスカートの右側は腰骨の上の脇腹までスリットが深く入り、歩けば太ももが丸見えになる。
まさに高級娼婦——いや、この任務のための、完璧な「商品」だった。
「……これを、私が?」
声が震えた。
鏡に映る自分の顔がみるみる赤く染まっていく。
想像してしまう。
こんな格好で男の前に立つ自分を。
白い肌が赤い布に包まれ、ルビーのネックレスが鎖骨の窪みに落ちる。
乳房の谷間が深く刻まれ、腰の曲線が強調される。
スリットから覗く太ももに金のチェーンが絡まり、ルビーが揺れる。
恥ずかしさで膝が震えた。
それでもカナメは震える手で制服を脱ぎ始めた。
ブラウスを脱ぐ。
ブラジャーを外す。
ショーツを下ろす。
一糸まとわぬ裸身が冷たい空気に晒される。
乳首が硬くなり、羞恥で下腹部が熱くなった。
まずGストリングのTバックのショーツを穿く。
赤いルビーが揺れる金のチェーンが腰骨に食い込み、布地面積の少なさに息を呑む。
次にドレスを頭から被る。
シルクの冷たさが肌を滑り、胸元に収まると同時に乳房が押し上げられた。
谷間が深く刻まれ、ルビーのネックレスがそこに落ちる。
そして——
カナメは、最後に左腕に巻いていたメッサーのブレスレットを外した。
いつも肌身離さず身につけていた形見。
指輪のように大切にしていたもの。
これを外すのは、自分自身の一部を切り離すような痛みだった。
「任務のため……」
呟いて、代わりに渡されたリストバンドを装着する。
冷たい金属が肌に密着し、体温・心拍・興奮度をリアルタイムで監視する。
これで彼女のすべてが組織に筒抜けになる。
姿見の前に立った。
そこに映るのは、もはや戦術音楽ユニット・ワルキューレに属するカナメではなかった。
夜の街に立つ高級娼婦。
赤いドレスに包まれた、淫らな女。
胸のふくらみが強調され、腰のくびれが際立つ。
スリットから覗く脚線美は、男なら誰でも欲情するだろう。
金のチェーンが太ももを飾り、歩くたびにルビーが妖しく揺れる。
「私、本当にこんな格好で……」
頬が熱い。
恥ずかしい。
でも、同時に下着の奥がじんわりと湿り気を帯び始めているのがわかった。
こんな淫らな格好をさせられること自体が、すでに彼女を興奮させ始めている。
ベルを鳴らす。
ドアが開き、ミラージュが入ってくる。
瞬間、彼女の瞳が大きく見開かれ、息が詰まった。
「……っ」
軍人としての訓練された姿勢が、一瞬だけ崩れる。
カナメの姿を、頭のてっぺんからつま先まで完全に捉えた視線が、まるでフリーズしたように動かない。
深紅のドレスに包まれた豊満な胸の谷間、スリットから覗く白い太腿、金のチェーンが妖しく光る腰の曲線、歩くたびに揺れるルビーと乳房。
ミラージュの喉が、ごくり、と鳴った。
「カナメさん、これは……すごいです……」
声が裏返り、最後の「です」がかすれた。
彼女は慌てて咳払いし、必死に表情を引き締めた。
「失礼しました。ライブ衣装とはちょっと次元が違いすぎて、一瞬判断が遅れましたっ」
頬が、ほんのりと赤く染まる。
とがった耳まで真っ赤だ。
ミラージュは、まるで教科書通りの敬礼の姿勢を取り直し、しかし視線はカナメの胸元にチラチラと吸い寄せられ、すぐに慌てて逸らす。
「……!いえ……その……慰安対象の反応予測値はおそらく、最大値を大幅に超えると推測されますっ」
言葉が、いつもより早口で、少し上ずっている。
ここまで動揺されると、たとえ相手が同性のミラージュであっても、カナメも恥ずかしくなる。
カナメは目を伏せながら、小さな声で言った。
「ミラージュ、次はヘアメイクをお願いしていいかしら」
(続く)
カナメの衣装
オシャレマクロス10の赤ドレス