放課後スキン・アルケミー 作:lismme
「でもこれ、本当に着られるのか?」
制服の上着を脱ぎつつ、皮の頭の部分を持って目の前に垂らしてみる。髪は短め。顔はしわしわになっていて誰だかは分からないが、かなり小柄な女子らしいのは分かる。だらりと垂れた爪先は俺の膝あたりまでしかない。
「いいから試してみろって」
赤崎の手が俺の方へ伸びてきて、半ば脱がされるような形でワイシャツとズボンを下ろしていく。中身はどうあれ、女子の体が密着してくるのは股間に毒だった。パンツ一丁になった時にはしっかりとテントが張ってしまっていた。
「なぁ……これも脱がないとダメなのか?」
「多少なら着たまんまでもOKみたいだけど、ちゃんと感覚をリンクさせるなら脱いだ方がいいぞ」
感覚をリンク。そう言われると途端にぞくぞくとした興味が湧いてくる。その女の感覚とやらをコイツに独り占めにされるのもズルいだろ。意を決してパンツを下ろした。
「うわ、女子の前にそんな勃ってるモノ見せつけて何のつもり?露出狂?キモッ」
「うるせぇお前が脱げっつったんだろが」
全裸になるなり、人格が入れ替わったかのように赤崎の口調で罵ってくる。モノは一瞬ビクッと反応したが、徐々にそれは力を失い始めた。
「丁度いいじゃん。着てみろって」
「……」
ごくりと唾を飲み込み、背中に開いた穴から足を通していく。小さめの皮は引き延ばされ、足の周りに締め付けるような感じが伝わってくる。
「なあやっぱりこれ……あれ?」
サイズ的に無理があるんじゃないか。そう言いかけた時、不意に足の周りから違和感が消えた。つま先のあたりを見ると、寄っていたシワは綺麗さっぱり消え、俺のよりも一回り小さい足があった。足の指を曲げたり開いたりしてみても、まるで自分のもののように動く。
「な、なんだこれ……うわっ!?」
変な感触を覚えながら足を床に下ろそうとすると、急にバランスが崩れた。狭い部屋なので壁に腕を突っ張って耐えられたが、やっぱりおかしい。
手をついてもう一度立ち、足をまっすぐに伸ばす。今度は一目瞭然だった。皮を履いた右足が、床につかずぷらぷらと揺れている。左足よりも短くなっているのだ。
「マジかよ……」
これは本当にいけるかもしれない。そんな昂りを覚えながら、ゆっくりと屈んで浮いた右足を床につける。慎重にバランスをとりつつ、残った左足を皮の中に納めていく。ゴムのように伸びる感覚が消えると、足の長さは完全に揃っていた。
もう俺の気持ちは止められなかった。ズボンみたいに皮を腰まで履き上げると、皮に浮かんだ股間の膨らみは自然と消えていく。ギチギチと引き伸ばし、無理やり腕と肩を押し込めると、体型がそれに合わせて矯正されていく。視線が徐々に低くなっていくのはなかなか不思議な気分だ。
「これが終われば……」
首の前には、髪のついたマスクのようなパーツが垂れ下がっている。覚悟を決して、頭をその中へ収めていった。
「ん……」
一瞬だけ視界が暗くなり、すぐに元の視界が戻ってくる。ほっぺのあたりで髪が触れる感覚があった。俺より頭一つ分は低い視界。華奢な肩幅。胸の膨らみは……ほとんどないな。
「終わったみたいだな」
横から手鏡が渡され、自分の顔が映る。鏡の中にいたのは見慣れた俺の顔ではなく、幼い感じの顔つきをしたボブカットの女子だった。
「
「すげえ……」
思わず顔をペタペタと触ると、頬の柔らかさが指と顔の両方から伝わってくる。鏡の中では俺の気持ちを表すように日菜ちゃんの顔が驚きの表情を浮かべた。呟いた声もハスキーで高い声になっていた。
声?ちょっと待て。今の説明の声……。
「な、凄いだろ?」
後ろから聞こえてきた声は、聞き慣れた男の声だった。振り返れば、そこにいたのはパンツ一丁になった俺の親友。さっきまで居たはずの赤崎は、いつの間にか制服と一緒に皮として床でペラペラになっている。
「あれ?脱いじゃったの?」
「そりゃそうだろ」
玄太郎がにやっと笑う。下の方から見上げるようにこいつの顔を見るのはなんだか変な感じがするな。気を取られていると、玄太郎は俺の腕をガシッと掴んできた。
「え?え?あ!お前まさかそういう……」
「ふっふっふ……そう、俺は小さい女の子がタイプなのだよ」
「ちょ、マジで?まだそういうのは心の準備が」
軽く唇を舐めながら、玄太郎は俺の身体を壁に押し付ける。予想してなかった訳じゃない。いずれ俺が女役にされることは。でも今日だとは思ってなかった。いきなり言われても困る。
「くそっ、この……」
掴まれた腕を振り払おうとしても、思うように力が出ない。身体が変わったせいか?
「……はぁ。ダメっぽいな。出来るだけ優しく頼むぜ」
「……ぷっ」
観念して全身の力を抜いた時、不意に玄太郎は吹き出し、押さえつける力も緩んだ。
「え?」
「ネタだよネタ。しっかし、お前がそんなしおらしくなるなんてなぁ……」
「チッ、おどかすなっての」
肩をすくめておどける玄太郎に軽く舌打ちをする。本気で犯されるかと思った。昔からこうして他人をからかいたがる奴なのだ。
「いきなり男に戻るんだからそりゃ勘違いぐらいするだろ」
「悪い悪い。でも、コレのためだけに脱いだ訳じゃないんだぜ」
「ん?どういうことだ?」
こんなドッキリの為に赤崎の皮を脱いだわけじゃない。俺には言葉の意味が理解できなかった。
「これは例の取説ノートにも書いてなかったことなんだが、この皮、重ね着ができるんだよ。つまり……」
ゆっくりと頭の後ろへと手を回していく玄太郎。腕の動きが止まった瞬間、親友の顔だと思っていたものが、ぐにゃりと形を歪めた。
「うぎゃっ!?」
突然のジャンプスケアに、呼吸が止まりそうになった。
玄太郎の表情が消え、顔がぐにゃぐにゃと変形していく。そのままお辞儀をするようにして上半身を倒すと、玄太郎の顔は一枚の皮となって脱げた。
「お前、その中に……」
顔部分を脱ぐと、長い、女の髪が揺れながらこぼれ出た。乱れた髪で顔はまだ分からない。この光景を見てようやく俺は理解した。こいつの作った皮は赤崎と日菜ちゃんだけじゃなかったという事だ。この女の皮を着た上に自分の皮を重ねていたのだ。
「誰だ……?」
俺の疑問には答えず、玄太郎は自分の皮を脱いでいく。予想に反して、中の身体は何か服を着ていた。ぴったりとしたセーターと、スキニージーンズ。裸の皮が脱ぎ捨てられ、服を着た身体が現れるという異様な光景が目の前に広がる。
「ふぅ……」
顔を上げると同時に、どこか聞き覚えのある声が耳に入る。乱れた髪の中から顔が見えるようになり、ようやく俺はそれが誰だか知った。
「どう?驚いた?霜山くん。あ、今は山吹さんだったかしら」
大人びた、優しい声で語りかけてくるその姿は、保健室の養護教諭、
歳は20代という話もあれば40過ぎてると言う者もあり、学校七不思議の一つなんて呼ばれる事もあるが、顔はまごうことなき美人と言っていい。ピッタリとした服に浮かぶボディラインもしっかりと大人の色気を放っている。
「実は最初に狙われたのは、この私。この学校の生徒相手であれば、やっぱり私の姿がいちばん血を集めやすいからね」
確かに、保健室の先生なら血は楽に集められそうだ。コイツもコイツで抜け目がない。
ヘアゴムを取り出し、髪を後ろで一つにくくる。舞った髪から、消毒液のような匂いが香った気がした。鞄の中から畳まれた白衣を取り出してセーターの上から羽織ってしまえば、一部の男子の憧れの的になっている、翠先生のいつもの姿がそこにあった。
「マジかよ……」
見た目がそっくりなのは勿論のこと、裸に見えた皮の中に服を着ていたというのも驚きだ。艶かしく撫で回してみせる胸や尻のラインも、男の体の中に収まっていたとは思えない。
「どうやって着てたんだよ」
「試しにやってみたら案外できた。別に俺の皮は仮に駄目になっても諦めがつくし」
よくよく考えれば、男の体が女の皮に入ってる時点で、多少着ているものが増えたところで変わらないのかもしれない。
足の指で、脱いだばかりの自分の皮を摘みあげている。足だけは裸足なのが何ともミスマッチだ。
「ズルくねぇ?どうせなら俺も翠先生がよかった」
それはそれとして。俺の不満はやや舌足らずな声となって狭い部屋の中にこだまする。こいつ、ちゃっかり先生の体をものにしてやがる。今の俺の体も喜ぶ奴はいるのかもしれないけど、俺にそういう趣味はない。同じく皮を着るなら先生のほうがずっと嬉しい。
「そういう訳にもいかないのよね」
翠先生は、ゆっくりと俺の方に歩み寄ってくる。細長い部屋の中で、俺はみるみる隅っこの方へと追い詰められていった。
「初めての霜山くんに、オンナノコについて教えてあげないといけないから」
先生の手が、ふわりと肩に置かれる。頭よりも上には優しい微笑みがあり、視線と同じ高さにはセーターを押し上げる膨らみがあった。
「それでは今から、保健の“特別授業”を始めたいと思います♡」
次のセリフを聞いて、俺は背筋がぞくりとするのを感じた。相手の中身が男だと分かっていても、翠先生の声で言われてしまったら抗えるはずもなかった。
「手始めに、身体測定から始めるわね」
羽織っていた白衣のポケットに手を入れると、小さな巻き尺を取り出す。身長体重はさっき言ってたし、それよりも深いところに踏み入るためだろう。用意がいいな、なんて心の中で皮肉を言ってみるけれども、しょせんは目の前の状況から意識を離そうとする逃避でしかなかった。
「はーい、じゃあまず両手を上げてくれるー?」
気づいたら、俺は催眠にでもかかったかのように腕を上げていた。ふだん、傷の診察をする時の声と全く同じ調子で言われると、あたかもここが保健室のような錯覚さえしてしまう。
やや小ぶりな胸に、きゅっと軽く締め付けるようにして帯が巻きつけられていった。視線は外していても、どこかくすぐったい感触が胴体にある。
「バストは73センチ……と。小さめではあるけど、まだ1年生だし今後も大きくなる可能性はあるから、心配はしなくていいからね」
「ひぇっ!?」
計測が終わり、メジャーが離れて一息つこうとしたら、急に胸をつねられたような気がして思わず変な声が出る。皮のはずなのに、しっかりとつねられた感覚がある……?初めてなだけに、びっくりすることばかりだ。
「ウエストは55センチね。しっかり引き締まってるのは立派だけど、食べ物はちゃんと食べないとダメよ?」
俺の驚きをよそに、くびれの部分にもメジャーを当ててくる。
いかにもそれっぽいことを並べ立てているが、おそらく適当なことを言ってるだけ。
ただ聞いている俺の方は、しゃがんだ事で下に見えるようになった先生の胸に夢中で、まともに答えることもできなかった。玄太郎も分かっているのか、測定を続けながら敢えてさらに密着してくる。
スリーサイズの計測はそうこうしている間に終わったが、それはまだ始まりでしかなかった。
「あら山吹さん、心拍数が上がってるみたいね?」
役目を終えた巻き尺をポケットに戻すと、薄めの胸の間に手のひらを当て、わざとらしく質問してくる。首を傾げる翠先生の表情が目に入ると、俺の心臓はさらに激しく鼓動を鳴らした。
「でも、授業はまだまだこれからよ。実際に観察しながら、男の子と女の子のカラダの違いを知ってもらうんだから……」
繊細で長い指が、俺の手首を掴む。普段よりも細くか弱い腕は、ゆっくりと下の方へと導かれていく。手がぶつかるはずの棒の存在はなく、平坦な股間がそこにあった。
「いい?ここが入り口。ちょっと触っただけだとただの線に見えるかもしれないけど……」
二人の指が重なって二、三回そこを撫でた後、2本目の指が取られ、ハサミのように左右に開かされる。股の間に、急に風が当たるような感覚。
「中は、たくさんのヒダがあって、すごく敏感なの」
手を包む先生の温もりに混じって、しっとりとした、別の温かさが指先に触れる。同時に、未知の刺激が神経の上を走って、思わず腰が引けそうになる。
「怖がらないの。今は自分の身体でしょ?」
真面目な表情で語りかけてきたと思ったら、先生の顔にはすぐに悪戯っぽい笑いが浮かんだ。玄太郎は、もうこの感覚に慣れているのか?こいつの適応力の凄さ、少しだけ見直した気分だ。
「もっと大事なのは、ココ」
小さく呟く声と同時に、導く手は少し上の方へとズレた。ぷくりとした、小さな膨らみ。そこに、俺の指先がそっと触れた瞬間だった。
「ひゃ……っ!」
声にならない声が、日菜ちゃんの喉から漏れた。さっき感じたのとは質の違う、電流のような鋭さが脳を貫く。
「ふふっ、驚いた?陰核……いわゆるクリトリスのこと。快感を感じるためだけに存在する、特別な器官よ」
俺の耳元で囁きながら、指の腹でぐりぐりと弄り回してくる。電流が、渦巻くようにして繰り返し駆け巡る。
「ふぁぁ……っ!」
「女の子の急所だけど、山吹さんの身体は一段と感じやすいみたいね。まるでスイッチみたい」
日菜の身体は正直だった。吐息は熱を帯び、腰が砕けそうになる。
「や……やめろ……っ!」」
相手は玄太郎なんだ。 思考とは裏腹に、身体の奥からじわりと熱が湧き上がってくるのが分かった。
「……うん、飲み込みが早いわね。実技は満点よ」
ひとしきり日菜の体をいじり回すと、翠先生は俺の手を解放した。俺はよろめきながら、壁に手をついてかろうじて身体を支える。
「でもね、霜山くん」
突然、俺の立ち上がった翠先生は、自分のセーターの裾に、ゆっくりと指をかけた。
「山吹さんの身体はまだ発展途上で、いわば芽が出たばかり。本当に女の子の全てを知るには、熟れた実も使わないとね」
「え……?」
「ここに、また別の教材があるのよ」
そう言って、翠先生はセーターの裾をゆっくりと、焦らすようにまくり上げていくのだった。
綺麗なお腹が露わになり、黒いレースに覆われた二つの果実が、下の方から徐々にその姿を見せていく。同時に履いていたジーンズを下ろすと、同じ生地が股間にピッタリと張り付いていた。
逆さになったセーターを頭から抜き取ると、結んだ髪が引っ張られてふわりと舞う。翠先生のランジェリー姿が、そこにあった。
「次の単元は、女の子の身だしなみや仕草について。例えば……」
翠先生の姿で、玄太郎は腕組みをしてみせる。形の整っていた胸はギュッと横から押しつぶされ、深く吸い込まれそうな谷間を形成する。俺の視線は、重力に引かれるようにして釘付けにされた。
「……と、ちょっとした動きでも、男の子の注意を引けるからね」
腕を離すと、胸は元の位置へと戻った。先生の顔にはしてやったりといった得意顔が浮かんでいた。
「もちろん、動きを見せるために、女の子の服について理解するのは前提になるんだけど」
芝居がかった仕草で腕を広げながら、その場でゆっくりと半回転し、背中を見せてくる。
「じゃあ霜山くん、試しにこの下着、脱がせてみてくれる?」
日菜の身長に合わせて中腰になっているせいで、翠先生の尻がこちらへ突き出される形だ。これも狙っているのだろう。視線を奪われないようにしながら、滑らかな背中へと手を伸ばす。
金具で止められているのはわかるが、ぱっと見ではどう動かせばいいか分からない。
手探りで探っていくと、指先に奇妙な段差を感じた。ビニールの端のような、わずかな違い。爪の先でつまんでみると、一枚の膜がめくれるような感覚があった。
「ん……?」
明らかに、布や金具とは別の質感だった。思い当たるものは一つしかない。目を凝らすと、背骨のくぼみに沿って、縦に小さな切れ目が走っているのが分かった。下には、別の皮膚がのぞいている。
「あら、もしかして別のも見つけちゃったかしら?」
俺の声を聞いて察したのだろう、後ろを向いたままの相手から、俺の内心を見透かしたような声が聞こえた。
「脱がせたいなら、そっちも一緒に脱がせて良いわ」
次に聞こえたのは、意外な言葉だった。この皮を脱がせてしまえば、この恥ずかしい“授業”も終わるはず。そして、相手も許可を出しているのだ。
何か出来すぎではないか?
心のどこかでそんな疑問も浮かんだが、それを検討するよりも先に、指先は外した金具と皮の裂け目を同時に左右へ引っ張っていた。
「ん……もごぉっ!」
ブラジャーが床にぽとりと落ち、翠先生の上半身が蝉の抜け殻のようにして下へと垂れ下がる。妙な声色の断末魔は、途中で先生とは別の声に変わった。
「……はぁ。これで、先生の授業もいったん終わりってことかな」
確かに、それは“授業”の終わりだったけども、俺の災難が終わることを意味はしていなかった。