放課後スキン・アルケミー 作:lismme
聞こえてきた声は、男のものとは明らかに違う、包まれるような甘い声だった。脱げた翠先生の頭の下からは、ふんわりとウェーブのかかった髪が現れて背中まで垂れ下がり、ほのかにミルクのような香りが漂う。
胸は明らかに大きくなり、背中越しでも側面が見えるほどのサイズを誇っている。こちらへ振り返ると、布地の少ないビキニに覆われたおっぱいが、ゼリーみたいにぷるぷると揺れた。
「さっきも言ってたもんね〜。重ね着ができるって」
優しげな垂れ目が、俺のことを見つめてくる。玄太郎は、翠先生の皮の下にも、さらに別の皮を重ねていたのだった。
——
噂の桃子先輩のあられもない姿に、俺の思考は完全に停止した。ゆるい曲線だけで出来たような体を覆っているのは、小さな三角形の生地と紐だけ。派手なピンクの蛍光色が目に突き刺さる。ゆるふわな雰囲気とはかけ離れていたけども、そのミスマッチさが、一滴垂らされた化学調味料みたいに中毒性を生み出していた。
「皓介くんは、こうされる方が好きなのかな〜?」
胸を支える紐はあまりにも頼りなく、軽く身じろぎしただけで大きく弾む。徐々に迫ってくるそれは、まるでマシュマロの壁だった。
「うぁ……」
抗う間もなく顔が温もりに包まれ、視界が淡いクリーム色に染まる。日菜ちゃんとの身長差のせいか、真っ直ぐ立っているだけで頭が胸にずぶずぶと埋もれていく。
「ふふふ……どうかな?」
柔らかく、温かく、甘い。
俺の頭に浮かんできたのは、その三つの単語だけだった。もっとも、口に出そうとしても弾力に吸収されて潰れてしまうのだが。押さえつける手の力はそんなに強くないはずなのに、思うように体が動かない。息継ぎをする鼻には、甘ったるい香りが出入りした。
「私はね、翠先生みたいに物知りじゃないけど、一つだけ知ってることがあるの」
頭上から、とろけるような囁きが聞こえた。柔らかい響きは、もはや暴力的ですらある。
「男の子はみーんな、優しく包んでこうしてあげると、ふにゃふにゃになっちゃうってね♡」
視界を覆っていたマシュマロが、左右に波打ち始めた。横から腕で押されているのだ。圧迫と緩みが交互に訪れる。一サイクルごとに、理性が溶け出していくのが分かった。生クリームか何かに沈んでいくような錯覚まで覚え、口の中でよだれが分泌され始める。
このままずっと、この夢の世界に溺れていたい。
「……はい、こんな感じ」
脳が思考を放棄し始めた時、頭がそっと両手で抱き起こされた。はにかんだ表情の桃子先輩と、改めて目が合う。
「日菜ちゃんも……って言いたいとこなんだけど、日菜ちゃんの体はまだ生地が膨らみかけだからね」
視線を落とすと、同じ高校生にしてはあまりにもサイズの違う膨らみが2セット、向かい合って並んでいるのが見えた。今の今まで、あの二つの山の間に頭が挟まれていたのだ。
「……だから、たっぷり膨らんだ私ので練習。ね?」
たぶん実際に、後輩の女の子にもしているだろう話し方で、目線を合わせて囁く桃子先輩。
俺の手を取って自分の胸へと当てがってくる。俺は身を任せて……というよりむしろ自分から、さっきまでの名残を求めて手を伸ばしていた。
ビキニの上から、そっと手のひらを押し当てる。
「うわ……」
この身体は、本当にパンケーキか何かで出来ているんじゃないか、なんて改めて考えてしまうほど、手が柔らかさの中に埋もれていく。日菜ちゃんの可愛い手のひらでは、両手であってもとても包みきれない。
「ん……そう、その調子」
とろとろの声にそそのかされるまま、生地をこねるようにしておっぱいを揉んでいく。表情を見ながら、その柔らかすぎる塊を押し、寄せ、変形させる。
そのたびに、指がどこまでも埋もれていく感触が、脳に直接響いた。初めての感覚に胸は高鳴り、モノが消えたはずの股間が疼く気がした。
「心を込めてこねてあげれば、もっともっと美味しくなるはずだから。ふわぁ……っ」
先輩のぷっくりとした唇から、シロップみたいな息があふれる。眼下でグニュグニュと形を変えるマシュマロは、しっかりと桃子先輩……そして、その中にいる男子をも興奮させている。その様子からさらに高められた興奮は、口の中でよだれを溜めていく。
「んむぅ……日菜ちゃん、上手だね。私の体、だいぶ仕上がってきたみたい……♡」
濃いピンク色のビキニに、ぽつんと突起が浮かび上がってきているのが分かった。そのまま布地に指を引っ掛けて上にずり上げると、僅かな支えをも失った乳がぷるんと震え、薄茶色をした輪っかと乳首が露わになった。
「……ん?この匂い……」
乳首が露出されたのと同時に、漂っていた甘い香りの中で、ねっとりとした……蜜のような香りが存在感を増した気がした。
「あ、もしかして気づいた?トッピングとして、メープルシロップを塗ってみたの」
胸を抱えて持ち上げると、香りはいっそう近くなる。まさか、本当に胸の部分に何か塗っているのか?
「ここまで頑張ったご褒美に、メープルシロップ味のおっぱい、味見してみる?」
心は半身半疑だったものの、体の方は勝手に動いていた。突き出された胸に、口を半開きにしながら、子供のように吸い寄せられていく。よだれを垂らした舌先が、乳首の先端を、軽く舐めた。
——甘い。
本当に、自然の優しい樹液の風味が口の中に広がった。優しい甘味が、今に限っては毒だった。
もっと。
思わず唇で突起を挟んでさらに吸いつこうとした所で、ハッと我に返る。
「……お、お前……!一体どれだけ仕込んで……っ!」
首を振りながら慌てて離れ、玄太郎に話しかける。相手の中身はただの男子だ。その事実を強く頭で意識し、どうにか理性を保つ。
何枚も皮を重ね、その上で色々と細工まで用意してあるなんて、何がコイツをそこまで駆り立てるのか。
「そ、その下にもまだまだ何か隠してるんじゃないだろうな……!」
「ははは、流石にそれはないな。4枚も皮を作って、その上衣装まで用意となると予算はカツカツだ。お前も知ってるだろ?」
桃子先輩の口調が、急にフランクなものに戻る。それは、今まで忘れかけていた、親友の言葉に間違いなかった。
「あ、でも……もうひとつ、とっておきがあるらしいよ?」
しかし男口調はすぐに鳴りをひそめ、桃子先輩本来の甘い声色に戻る。
「そう、例えるなら……私がお家のパンケーキなら、お店で出てくる豪華なパフェみたいな子がね」
分かるような分からないような例えを並べながら、いかにも先輩らしく喋る玄太郎は、俺から一歩離れると、鞄の中をごそごそと探り始める。
「でも、それには下準備が必要だから、ちょっと時間がほしいんだって。だから、その間待っててくれないかな?」
ふんわりとした口調で話しながら、さっきまでアイツが着ていた女子の制服と、なにやら布が入ったビニールのパックを渡してくる。
「例の体育倉庫で、待っててね。それまで、日菜ちゃんとして校内を歩くとか暇つぶししててもいいからさ」
校舎のはずれにある、誰も来ないような倉庫。皮のことを知る前、密かに鍵を手に入れた時から、二人で何か見られたくないことをする時の集合場所だった。
一体何が待っているのか。
期待と不安とが一緒になってやってくる。
渡されたものをよく見ると、新品の女子用下着だった。こんなものまで用意しているとは……。俺は、心の底から呆れ返る思いだった。