※この作品はR-18です。

放課後スキン・アルケミー   作:lismme

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青写真

積み上がった跳び箱に腰掛け、相手が来るのを待つ。

倉庫にある小さな窓を覗くと、日はほとんど沈み、空は黒く染まりつつあった。仮に下校時刻が過ぎても、ここなら見つかることもないだろうけど。

 

コンコン。

 

入り口の金属の扉を、静かにノックする音が響いた。

 

「ようやく来……」

 

扉を開いて目の前にいた相手の姿を見て、思わず息を呑んだ。

 

そこに立っていた相手は、現実と思える姿をしていなかった。

キラキラと光を反射する、青を基調としたフリルだらけの衣装。ノースリーブの方からはしなやかな腕が伸び、手首でシュシュが渦を巻く。夕暮れの最後の光が、輪郭を金色に照らしていた。

こちらを見つめている顔は、 ここ最近、テレビや雑誌で、しつこい位に見かける顔。

 

名前は、確か……そう、 風切(かざきり)アオイ。

 

数ヶ月前に発表した曲が大ブレイクし、人気が爆発したアイドルグループ「プリマテリア」。そのセンターが、アオイだったはずだ。

サラサラの黒髪がトレードマークであるツーサイドアップに結い上げられ、リボンが揺れている。長い髪の随所に、澄みわたるブルーのメッシュが編み込まれていた。

 

「あ……え……?」

 

声が出ない。頭が真っ白になる。なぜ。どうして。アオイは、俺の呆然とした様子を見て、悪戯っぽく唇の端を吊り上げた。

 

「しーっ」

 

アオイは、人差し指を唇に当て、白い歯を見せながら囁く。芝居がかった様子で後ろを振り返り、辺りをきょろきょろと見回した。

 

「こんな所を誰かに見つかったら、大変なスキャンダルになっちゃう。だから、早く中に入れて?」

 

困ったような顔で発されるお願いの言葉は、もはや命令に近かった。俺が一歩下がると、コンクリート上でブーツの踵を鳴らしながらアオイが入室する。ガラガラと音を立てて、重い倉庫の扉が閉められた。

 

「……お前、どうやってアオイの皮を」

 

色々な言葉が喉元まで出かかっては引っ込んでいったが、最初に口をついたのは至って現実的な疑問だった。いくら素材があったとしても、相手の血液がないと皮は作れない。

 

「まさかお前、彼女をストーカーとかして……」

 

トップアイドルの血液なんて、そう簡単に手に入るもんじゃない。百歩譲ってストーカーするにしても、ガードの硬さは普通の女子とは比べ物にならないはずだ。

 

「はは、流石にそこまではしねぇよ。ま、方法はご想像にお任せしますってやつだ。言っとくが、お前が考えてるよりずっと楽だったぜ」

 

鈴を転がすような声で、親友の言葉が聞こえてくる。任せる、とは言われても俺には見当もつかなかった。理解できたのはただ一つ、こうして目の前にアオイが現れている事実だけだった。

 

「いちおう確認だが、本当にこの姿でいいのか?さっきの翠先生とか桃子先輩の皮も持ってきてるし、なんならそこの日菜ちゃんの姿でもいいけど……って」

 

持っていた無骨な学校指定の鞄を床に置き、中から複数の皮をのぞかせる。アイドル衣装には明らかに不釣り合いなその鞄に、俺はここまで気づいてなかった。それほどまでに、アオイの姿は輝いていた。

 

「聞くまでもなさそうだな」

 

アオイは同じく床に脱ぎ捨てられた日菜ちゃんの皮にも目配せしたが、目線はすぐに戻って呆れたような笑いに変わる。もう完全にアオイの姿へピントを合わせてしまっている俺の眼球に気づいたからだ。

 

「そう来なくちゃな。これだけ時間かけてメイクとかも限界まで本物を再現したからな。リアクション薄かったらマジでどうしようかと思ってたぜ。なら……」

 

自信に満ちた表情をアオイの顔に浮かべた玄太郎は、軽く咳払いをする。すると、スイッチが切り替わったかのように、目の前にいた男友達の気配が消滅する。

 

「改めまして、こんばんは、霜山皓介くん♪“あなたと始める、新たな世界”!プリマテリアの、風切アオイでーす♪」

 

キャッチコピーを唱え、ポーズを取って挨拶するアオイ。パチンと閉じられた片目から、稲妻が走った気がした。頭からつま先まで、一切の隙がない洗練された動き。

俺もオタクではないので、実際のフレーズやポーズまで詳しく知っているわけではない。そんな俺でも本物としか思えない、圧倒的なオーラが全身から放たれていた。

ポーズを決め終わったアオイは、一歩俺に近づくと、声をひそめるようにして囁く。

 

「今日はホントに大切な番組の生放送があったんですけど……皓介くんの為だけに特別、抜け出してきちゃいました♡」

 

本物と同じ顔、同じ声で告げられた、背徳的な告白。高いところから突き落とされたかのように、心臓が一瞬止まってどくんと跳ねた。

 

「は……はぇ?」

 

次の言葉が出てこず、うわごとのように呟く俺に、アオイはそっとスマホを見せてくる。

テレビの同時配信画面。角に表示された時刻は、7時を少し過ぎたところだ。国民的な音楽番組が、ついさっき始まった所だった。

 

『プリマテリアの皆さんです!』

 

液晶の中では、スマホを持っている人間と全く同じ姿が司会に紹介されている。ゲスト席の真ん中にいるアオイは、さっき見たのと全く同じキャッチコピーとポーズを、他のメンバーと一緒にカメラへ飛ばしていた。

 

微かに芽生え始めていた、ありえない妄想——もしかしたらこれはバラエティのドッキリか何かで、目の前にいるのは本物のアオイなのではないか。なんて錯覚が、一瞬にして粉々になる。

 

「……はは、ホンモノだ」

 

口をついて、無意識の呟きが飛び出す。吐き出した後になってようやく、何を言ったかに気づいた。理解するなり、訳のわからないおかしさが込み上げてくる。この状況で言う言葉が、よりによって“ホンモノ”なんて。

 

「ふふふ、“ホンモノ”かぁ……」

 

くっくっくと自嘲的に肩を揺らす俺に同調するように、アオイの、さえずるような笑い声が重なる。

 

「でもね、皓介くん、よく考えてみて?」

 

彼女はスマホの画面をさらに近づけ、画面を指差す。画面の中のアオイは、完璧な笑顔を浮かべながら、周りの言葉に頷いている。

 

「確かにこの子には、何十万、何百万の人たちからの熱い視線が向けられてる。でもこの子は、見てる全員へ平等に、まとめて応えてあげるだけ。それが、アイドルだから」

 

そこまで言うと、彼女は顔の前に掲げていたスマホをスッと下に下ろす。液晶に映っていたはずの顔と、視線が交わる。彼女は自分の胸にそっと手を当てた。

 

「でも、私はそうじゃない。あの子と違って、今ここにいる私は君だけのためにここにいるの。あの子と全く同じ体で、君だけを見つめて息をしてる」

 

「ねぇ、皓介くん。君にとって、どっちが“ホンモノ”?」

 

ゆっくりと近づかれ、耳元で聞こえたその声は、魔法の呪文にも等しかった。目の前にいるコレは確かに偽物だ。でもコレは、本物には絶対にできないことができる。答える代わりに、そっと相手の背中へ腕を回した。

 

「ふふ、ありがと♪じゃあ、私たちのステージに移ろっか」

 

アオイは、ふいと横に目線を逸らし、積み上がった柔軟マットに目配せする。俺はふらりと、崩れ落ちるようにその上へと腰を下ろした。アオイがこちらを見下ろす目に、俺の醜態を面白がる男子の視線が混じっているのは分かっていた。それでも、彼女の声には、もはや抵抗することはできなくなってしまっていた。

 

口角を釣り上げる彼女は、勿体つけるように、ゆらゆらと俺の方へ近づいてくる。手に持ったスマホからは、相変わらず音声が流れたままだ。

 

『それではまず、世間を沸かせたミュージックビデオ、その裏側に迫りたいと思います!』

 

威勢の良い司会の声が響き、画面がVTRへと切り替わる。静寂と埃に包まれた体育倉庫に、派手な音楽がこだましていた。

 

『プリマテリアの名前を一躍有名にした楽曲「ラブ・エイドス」。各種ストリーミングサイトでの総再生数は1億回を突破しています』

『人気の一因が、斬新なミュージックビデオ。そのメイキング映像を初公開!』

 

「初公開……ね♪」

 

可愛らしい舌が、小さく唇の周りを一舐めする。フリルが何層にも重なったミニスカートに指をかけると、ゆっくりと捲り上げていく。ただでさえ不安になる長さのスカートがリフトアップされ、隠れていた中身が晒される。

 

白く伸びる太ももが並んでいる奥に、しっかりと処理が施された薄い茂みと、一本のスジがあった。アイドルなら当然あるはずの防壁は、初めから取っ払われていた。

自分にだけ公開されたその光景に、俺はただ戦慄することしかできなかった。

 

「ただ見てるだけじゃ、勿体無いでしょ?」

 

小悪魔のような表情のアオイは、舞い降りるようにして、呆然とする俺を押し倒してきた。白いフリルが、重ねられた二人の股間を覆い隠す。俺の太ももの内側に、温かく柔らかな感触が直接押し付けられた。間違いなく、さっき見たあの場所だ。

 

『この曲のダンスは、足腰のしなやかな動きが——』

 

「……だってさ♪皓介くんも、体験してみる?」

 

番組のナレーションに被せるようにして言うと、重ねた腰を前後に、ゆっくりと擦り付け始めた。これまでに体験してきた女子とは明らかに違う、引き締まった太ももが左右からがっちりと挟み込み、ズボンの布越しに、ぷにぷにとした摩擦が伝わってくる。俺の股間がすぐさま反応を示し始めた時、流れていたスマホの音楽が切り替わった。

 

『——特にアオイは、こういう大変な撮影でも、絶対に妥協しないんです』

『そのプロ意識が、グループ全体を牽引しているのだ』

 

メンバーがワイヤーで釣られたり水に打たれたりといった撮影風景が流れた後、メンバーの一人がアオイについて話すカットが映され、ナレーションが挟まる。

 

「……ダメだね。布越しじゃ、私の『プロ意識』、ちゃんと伝わらないや」

 

その間にも俺の上でのグラインドは続き、モノはもうパンパンになりつつあったが、ナレーションを聞くと、腰の動きが止まった。

俺の上から一旦身体を離し、ズボンのジッパーに、何の躊躇もなく手をかける。 中から、すでに熱く膨れ上がった俺の分身が引きずり出された。

 

「うん、こっちのほうが正直だね」

 

アオイは、生々しいそれを見ても嫌な顔ひとつ見せず、まるで握手会でファンの手を握るかのように、優しく、確かな手つきで握ってきた。

 

「私のファンサービス、すごいって評判なんだよ? 君は、一番の特別扱いだけど」

 

細く長い指が、巧みに全体を撫で、扱いていく。それは、ただのがむしゃらな動きではなかった。どこをどうすれば俺が声を上げてしまうのか、全てを知り尽くしているかのような手つきに、俺はなすすべもなかった。

 

『撮影の合間にはこんな場面も……』

 

またもやVTRが切り替わる。撮影に使う小道具の本の余白にアオイが落書きをする場面だ。よく分からない絵をメンバーに見せるも苦笑いで返されるシーンが、プライベートな一面として紹介されている。

微笑ましい映像とは裏腹に、俺の身体はもう限界に近づいていた。アオイの指の動きはどんどん速くなり、俺の頭には、もうすぐ訪れるであろう爆発の予感だけがあった。

 

「……ふふ、笑っちゃうよね」

 

あと、数回。そう思った瞬間、ぴたりとアオイの手の動きが止まった。

 

「は……ぇ?」

 

行き場を失った熱が、体の内側に溜め込まれる。最高潮の直前で、時が止められたかのようだった。アオイは、俺のモノから手を離すと、心底呆れたように、そして小馬鹿にしたように、くすりと笑った。

 

「あれが『プライベート』なんてさ。本当のプライベートを、テレビに映すわけないじゃない」

 

肩をすくめ、スマホの画面を後ろ目で見るアオイ。俺の中の不満や屈辱を、見透かしたかのような動きだった。

 

「分かるでしょ?私の本当のプライベートを、君は覗いてるんだから」

 

アオイの囁きが頭の中で何度も反響する。ファンには決して見せないアオイの姿が、目の前にある。改めてその事実を突きつけられ、背徳感と優越感が掻き立てられていく。相手は俺の顔をチラリと見て笑う。全てが、相手の台本通りに進んでいた。

 

VTRが終わり、再びカメラがスタジオに戻ってくる。

 

この離れた場所で、自分と同じ顔をした相手が痴態を見せているなんて思いもせず、司会からの質問に応対するアオイ。そんな画面と、目の前の相手を交互に見るだけで、溜め込まれた欲望が風船みたいに膨れ上がっていくのを感じる。

 

『……では、センターとしてこの舞台に立つお気持ちは?』

 

『はい、初めて、これだけ大きいステージに来たので、本音を言うととても緊張しています』

 

番組の中のアオイが、初々しい声と表情で答えると、目の前のアオイの表情が、誘うような流し目に変わった。両手で頬を押さえつけられ、アオイの顔がグッと近づく。

 

近い。

 

目の前に、トップアイドルの顔があった。 息がかかるほどの距離で見て、俺は初めて気づいた。彼女の顔は、想像していたよりもずっと、丹念に「作り込まれて」いる。

長いまつげがくるりとカールし、目尻には薄く水色の尾が引いている。毛穴は近くでも見えないよう丁寧に隠されており、唇はみずみずしく光っている。

 

一見身近にいそうでいて、その実どこにもいない。そんな美貌は、天然ものというよりは、しっかりと技術で作られたものなんだと気付かされる。

もしかしたらアオイにもすっぴんがあるのかもしれない。でも俺には想像もつかないし、見たくもなかった。目の前にいる偶像に、溺れていたかった。

 

「ねぇ」

 

巡る思考を遮るように、透き通る瞳が、俺の顔を覗き込んでくる。

 

「皓介くん……私も“ハジメテ”、君に全部、あげちゃうね♡」

 

熱い息が顔に当たると共に、艶かしい響きが発せられる。意思が見えない糸で絡め取られ、操られていく音がした。

 

『——それではプリマテリアの皆さん、お願いします!』

 

インタビューが終わり、メンバーたちが舞台へと移動していく。目の前のアオイも、膝立ちになってゆっくりとマットの上を這いずり始めた。改めてスカートをめくり上げると、ひくひくと微かに痙攣する割れ目が、もう一度視界に入ってくる。曲が始まる直前の静寂と共に、俺の竿を目掛けて少しずつ腰が下ろされていく。

 

「ふぁ……っ!」

「ちょっ!?何、いきなり!?」

 

モノの先端に、生暖かい、湿ったものが触れた。慣れない感覚に全身がびくんと羽根、思わずアオイの肩を握ってしまう。

 

「急にそんな事しないでよ!特に髪なんか、エクステがずれちゃう」

「え……えく……すて?」

 

腰をその位置で止めたアオイは肩の手に巻き込まれた髪を外し、ふわりとかき上げて後ろへ流す。爽やかな潮風のような香りが、鼻の中に舞い込んできた。心地よい香りと更なる焦らしに、聞き慣れない言葉を俺はぼんやりと呟き返すことしかできなかった。

 

「もう、本当にそういうのには疎いんだから。付け毛だよ付け毛。このメッシュとかも地毛だと思ってるわけじゃないでしょ?」

 

ため息をつきながら、ロングヘアの青い部分を軽く摘んでみせる。アオイの口調の中に、ほんの少しだけ、玄太郎の面影が混じったような気がした。

 

「……と、そんな野暮な話はもう止めかな」

 

直後、立てかけられたスマホから、曲のイントロが流れ始める。同時に、微かな親友の残り香は霧のように消え失せた。眼前の少女が、画面の真ん中でマイクを握る少女と同じ雰囲気を纏い直す。

 

「私たちも本番、初めよっか♪」

 

画面から最初の音が放たれると同時に、腰がグッと突き下ろされた。ドラムのように、規則的なリズムを刻み始める。

 

「うぅ……っ!」

「んっ!んっ!」

 

上下の動きに合わせて、アクセサリーやフリルが舞ってシャラシャラとした音色を奏でる。今をときめくアイドルが、恥ずかしげもなく脚を開き、ただの男子に向かって腰を振る。あまりにも非現実的な光景に、萎みかけたモノも一瞬でパンパンに膨れ上がった。

 

「曲が終わるくらいまでは……っ、ちゃんと待ってね?Aメロが終わる前に息切れなんて、興醒めもいいとこ……っ!だよ?」

 

肌と肌のぶつかる音が、音楽への下品な合いの手となって響く中、歌声と同じ声が、淫らな息を混ぜながら囁いてくる。端がつままれたままのスカートの下では、日本中が憧れている肢体の中に、俺の分身が侵入を繰り返す様がはっきりと見えた。ずっぷりと咥え込むたびに、湿ったヒダが肉棒へと絡みつき、触手のように強く吸い付いてくる。

 

「わ、わかっ……!」

 

この時点で俺の性欲はすでに限界を超えていたが、彼女の言葉は絶対的な命令として頭の中に刷り込まれる。

 

「そう来なくっちゃ♪」

 

表情をぎゅっと歪ませる俺を見ても、アオイの責めが緩むことはない。上下するたびに、大きくはないがしっかりと存在する膨らみが揺れている。俺は気を紛らわせるかのように、ラメの入った衣装の胸部分へと手を伸ばしていた。指先に、微かにザラついた硬い感触と、その下の柔らかく温かいナマの感触が同時に伝わり、脳が揺さぶられる。

 

「んんっ……♡」

 

アオイが片目をつぶり、可愛らしく顔をしかめた。案の定というべきか、布地の下に下着の存在する気配はなかった。ぎゅっと押さえつけるようにして握ると、きつく張った生地の上に小さく浮かび上がる影があった。

 

「くぅ……っ!ようやく、その気になった、みたい……っ♡だね」

 

断続的に前後しながら搾り取ろうとしてくる柔らかさをどうにか耐えながら、浮かんだ突起の部分をキュッとつまむ。一瞬だけ、アオイの顔が悶えるように歪んだが、すぐに元の笑顔が張り付く。仕返しとばかりにテンポを増す、腰のピストン。ぐちゅぐちゅという生々しい水音が、オシャレな電子音の中にノイズとして混じり合う。

背後で鳴っている音楽はいつの間にかBメロに突入し、サビの部分に差し掛かっていた。

 

『始まった、この不可逆反応——』

 

Bメロ最後のロングトーンが伸び切ったのを合図に、バックの演奏は一段とテンポを増し、振り付けはさらに激しくなる。

 

派手なダンスに呼応するかのように、目の前の腰の動きにも、ねじって回転するような動きが追加される。尻の曲線を艶かしくくねらせながら、ぐりぐりと快楽を与えてくる。

 

スマホの画面の中では、完璧な笑顔のアオイが、メンバーと一糸乱れぬパフォーマンスを繰り広げている。 しかし俺の上では、頬を真っ赤に染め、髪を振り乱し、よだれを垂らしながら、快感に喘ぐアオイがいる。目に入る全てが最上級の強度で興奮を煽り、頂点へと俺を連れて行こうとする。

 

もう、限界だ——。

 

そう思った次の瞬間、サビが終わり、間奏が流れ始める。アオイはすっと腰を浮かせ、先っちょが僅かに入るくらいの位置まで上がる。追いかけるようにして浮き上がった俺の腰は、細い両手でマットの上へぎゅっと押し付けられた。

 

「まだ、ダメでしょ?最高の見せ場は、この先にあるってんだから」

 

湿っぽい息を吐きながら、アオイが囁く。さっきまでのスマイルは消え、俺のことを嘲るような表情が浮かぶ。声も、さっきまでの鈴を転がすような声から、低めの刺すような声色に変わっていた。

アオイの声帯から出た言葉でありながら、それはもはやアオイの言葉ではなかった。度重なる焦らしと屈辱に、俺の中の火種は一段とくすぶっていく。

 

間奏が止んだ。

スクリーンが、アオイの顔のアップに変わる。

 

スマホの液晶が放つ、冷たい光。それが、目の前のアオイを、ぼんやりと照らし出していた。逆光で、彼女の表情は薄暗い影に覆われている。ただ、その唇の端が、三日月のように歪んで笑いの形を作っていることだけが、薄明かりの中で見て取れた。

 

一方、スクリーンの中の彼女は、ステージの暖かな白色のライトを浴び、非の打ち所のない笑顔でカメラを撃ち抜く。

 

『君だけに、ありのまま私の本質を——』

 

スクリーンから流れるのは、どこまでも清らかな歌声。画面のアオイと同じように首を傾げた偽物は、その声に口の動きをシンクロさせる。

 

電波に乗った天使の姿に、淫魔のような笑いが重なり、コントラストが脳裏にはっきりと焼き付いた。

 

もう一度、サビのフレーズが始まる。もはやなり振りなんて構わず、快感を求めて互いの体をぶつけ、絡みつく。爪が食い込むほど強く彼女の背中を掴み、歯を食いしばり、ただ互いを求め合った。動きはさらに激しく、乱暴になり、統制なんて取れないまま、最高潮へと向かって真っ直ぐに進んでいく。

 

「んぁあっ!!!!」

 

カメラに向かってアオイが最後の決めポーズを取る。ぷつんと途切れる最後の音を合図に、たまりに溜まったモノがついに爆発した。

二人で抱き合ったまま、溶けるようにして埃っぽいマットへ倒れ込んだ。

 

 

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