side槍田日巡璃
「服脱いで?」
「えっと……その……」
「大丈夫。洗ってあげるから。」
「…………わかったわ。」
お風呂が溜まるまで濡れた服を着せる訳にもいかず、かと言って温めないと風邪ひく可能性もあるわけで。
なので一旦シャワーだけでもとお風呂場に来た。
湯船を確認。……まだ半分行ってないくらい。もうちょっとかかりそう。腕まくり。ズボンも捲り上げる。
シャワーの前にお風呂の椅子を置いて……
「よし。入ってきていいよ。」
「……しっ……失礼します!」
タオルで大事なところを隠したまま、ガチガチに緊張した様子で今昔鏡さんが椅子に腰をかける。
「そんな緊張しなくていいのに。」
シャワーを出す。……もう少し暖かい方がいいかな?
「どっ……同級生の前で肌を出したことがないから!!」
……そういえば修学旅行も来なかった気がする。なるほどねぇ……
「別に気にしなくていいよ。私彼女とよく洗いっこしてるし。」
「へぁ!?ちょっ……ちょっと待ちなさいよ!あなただって両性具有……」
「知らなかったら私が彼女にしてないよ。それに……知ってる上で私のことが好きって言ってくれたから。」
うん。これくらいでいいかな。
「……そう……よね。」
「じゃあ目瞑ってね。」
「……ん。」
sideカノーテス・ディミトリウ
「本当に申し訳ありません。ご配慮痛み入ります。」
「大丈夫よ。今日巡璃がお風呂入れてるから。」
日巡璃に言われた通り、天津場さんを日巡璃の家に入れ、リビングに通した。
一応天津場さんが同僚のメイドに今昔鏡さんの服を1式持ってきてくれるよう頼んだらしいので、あと少しすれば着替えも来る。
日巡璃の家を悪く言うつもりは無いけど……あの服を普通の洗剤で洗う勇気は無いわ。ごめんなさい。
「…………お嬢様が……人を庇うとは……」
「そんなに変なこと?ヒーローを目指してるなら当たり前でしょ。」
ちなみに今愛は一応日巡璃の着替えを用意しに部屋に、天捻はお茶を用意してくれてる。
「……当たり前……ですか。」
「…………なにか引っかかるようね。」
「粗茶ですが。」
天捻が3人分のお茶を持って机に。私と天津場さんに配って私の横に座る。
「ありがとう……ございます。」
「…………ん。一応……私たちは……ひまひまの……槍田日巡璃の彼女だから。……ひまひまが……今昔鏡さんを気にかけるなら……私たちも……彼女の事を……聞きたい。」
「そうね。正直悪い人じゃないとは思うけど、人柄を知らなすぎるわ。」
「…………。」
少しの沈黙。正しいわね。これでベラベラ話すようなら少し人間性を疑ったわ。この人も。今昔鏡さんもね。
数分……少し空いて天津場さんが口を開く。
「…………話して良いか分かりませんが……お嬢様は天才です。私がお仕えしてもう10年になりますか。お仕えした時既に神童と呼ばれておりました。」
「……そう。」
神童……ね……
「文字通り天才です。なんでも出来てしまいます。なんでもできてしまう分…………出来ない人の事が分かりません。」
……天才の悩みってやつかしら。普通の人からしたら嫌味ね。
「ですので、同級生の友達……というものが出来ませんでした。ただ、年上とは仲良くされてらっしゃいます。」
「年上?」
「はい。年上の方は……自らが経験したことがない事も経験しているため、私が勝てる要素はない。と……お嬢様自身が……」
「……勝ち負けで人間関係を見てるのね。」
私はそういうのよくわかんないけど……人間関係って綺麗事じゃないのはよく知ってるつもり。こういう人もきっと居る。
「はい。しかも厄介なのが……自分の知らない分野……特に興味がそそられない分野に関しては、お嬢様にとってもうどうでも良いのです。」
「……なるほど。自分の知らない世界に興味が湧かない……と。だから知らないことで図に乗られても何も痛くない……か。」
どういう幼少期を過ごしたらこういう思考になるのかしら。単純に少しだけ興味があるわ。
「はい。…………槍田様に会うまでは。」
「……日巡璃に?」
「お嬢様が明確に変わられたのが槍田様にありとあらゆる分野で負けてからです。それも運動と勉強……そして個性。どれもお嬢様が神童と持て囃された分野です。」
「…………日巡璃も日巡璃で相当化け物だからね。」
「ひまひまは……すごい……向上心の塊……努力を努力と思ってない。…………だから……強い。」
さっきまで黙ってた天捻が急に口を開く。
「そうね。あの子は特別よ。天才じゃない。考え方が人とは少し違うだけ。」
神童と持て囃された子が……自分じゃ勝てない相手と出会う。普通なら折れて立ち上がれなくなっちゃうけど……
「……あの日のお嬢様の笑顔は忘れられません。」
「笑顔?」
「……はい。『学校に凄いやつが居たの!私よりもなんでも全部できるの!』って……」
「…………ひまひま……脳を焼いちゃったんだ……」
「そうみたいね。」
罪な女ね。日巡璃ったら。
「…………お嬢様はその日から何度も何度も負けたと報告してきました。私だけではなく……他のメイドにも。それこそご両親にも。あんなに静かで毎日楽しくなさそうなお嬢様が……よりによって負けた……と楽しそうだったので、皆様凄い目でお嬢様を見てましたね。ふふっ。懐かしいです。」
「……それで色々変わったのね?」
「はい。人当たりが柔らかくなり、会話が増えました。……それに努力する姿も何度も見受けられ……毎日が本当に楽しそうでした。」
……今の今昔鏡さんからは想像できない程本人にとって辛い過去があった。……それを救ったのが日巡璃って事ね。なるほど……
「……それで?今昔鏡さんは……日巡璃をどうしたいの?」
「……どう……とは?」
「今日の彼女はハッキリ言って変よ。何がしたいかわからない……訳でもないけど、ハッキリさせておきたくて。」
「……ん。……そこが気になる。」
これは愛も気になってるはず。……この調子だと……日巡璃の事が好k……
「お嬢様は槍田様とお友達になりたがってます。」
信じられない言葉が聞こえた気がする。
「……へ?」
「ん?」
お友……達……?お付き合い……じゃなくて?
「え?……ですから……お嬢様は槍田様とお友達に……」
「いやいやいや!!ちょっと待ちなさいよ!?あれはどこからどう見ても恋する乙女でしょ!?」
「ん!そうそう!私たち警戒してた!」
「……あぁ〜……なるほど……なにか食い違いがあったみたいですね。」
「「……は?」」
ひとりで納得してる天津場さん。……え?
「えーっと……お嬢様の理解度がまだ足りてないようなので……お嬢様は、同年代の人とのコミュニケーションが死ぬほど苦手です。」
「え?でも日巡璃とは……」
「先程申し上げたように、お嬢様は年上となら礼節を持って仲良く出来ます。……ただ……今まで同級生にお嬢様が礼節を持って接せるようなお相手が居なかったんです。……すごく傲慢なんですけど!」
「「…………」」
何か……何か見えてきた気がする。
「…………えーっと?……つまるところ……コミ障ってやつ?同級生以下限定の。」
「はい。」
「それで……日巡璃だけ普通に接せれるから……友達になろうと……?」
「はい。」
天津場さんの真っ直ぐな瞳。それはご主人様の事に大して向ける視線じゃない気がするけど……
「…………ッスーッ……」
「…………そんなんじゃ……恋心以前の問題……だね……」
「そうね…………私達は何心配してたのやら……」
もう初歩。初歩も初歩。彼女は友達が欲しかった……って事ね。
「そもそも考えてください。他人を思いやることが出来ないお嬢様に恋心がわかるとお思いですか?」
「それ本人の前で言ってないわよね?」
「言ってます。」
「…………」
「……すごい……ね……」
なんだろう……ちょっとドッと疲れた気がするわ。