side槍田日巡璃
「力の使い方とか難しい話したけど、やることは簡単よ。例えば拳。」
おねーさんはスっと拳を突き出す。
「このパンチ1個とっても、私たち人間は腕を引いてから拳を突き出すみたいに、動きを細分化できるの。これをどこまで意識して細分化出来るかってこと。」
「意識して細分化……?」
「腕を引くってことも、もっと小分けにすれば肘を曲げる、拳を握る、肩を後ろに引くとか考えられるでしょ?これが細分化ね?無意識に出来ていることを意識化するの。」
肘を曲げたり、肩を引いたり実際にゆっくり動きながら説明。……うーん?
「なるほど……?」
「あんまピンと来ねぇな?」
「最初は誰だってそうよ。無意識に出来ることを言語化しろっつってんだから難しいわよ。呼吸って何?って言われてもあんまりよく知らないでしょ?」
「……息を吸う……酸素を取り込む?」
「二酸化炭素を吐く……みたいな事か?」
「血液中に酸素を送り込むみたいなこともあったはずだ。」
「私はそれ以上のことをしろって言ってるの。血液中に行った酸素はどこに行くの?酸素はどこでどうやって二酸化炭素になるの?みたいなね?極論だけどさ。」
……確かに。あんまり意識したこと無かったかも。無意識に出来ることって言われてみればよく知らないかも。
「へぇ……難しいね?」
「…………聞いててもあんまりピンと来ねぇな。」
「うむ。もう少し聞いてみようじゃないか。」
「この考え方をパンチ1個に落とし込むと、パンチって腕だけじゃなくて、地面を蹴ってる足も、拳を引っ張る大胸筋も、回転を加える腰も、足首も、なんなら手首だって。ぜーんぶ意識して使えるようになれば馬力はどんどん伸びるわ。」
おねーさんが1個づつ実践して見せてくれる。足を踏み込んで、腰を回して、胸で腕を引っ張るように拳を突き出す。
「……パンチの認識を拳だけに抑えないってこと?」
「そういう事。腰の回転も、足の踏み込みも、1個づつ全部適正な力を込めれば乗算で結果……破壊力は増すわ。……例えば初めての模擬戦……対人訓練の時覚えてる?」
「……私がビルぶっ壊したやつ??」
「そうそれ。あれは拳を突き出すだけじゃなくて別の力も加わってたんだけど……」
「…………?」
「……重力か?」
「あぁ!そっか!!」
私確かにジャンプしてからパンチしてた!
「香曽我部くん正解。元々の攻撃力に乗算して重力が乗ってた。だから攻撃力が増したのね?」
「攻撃力に……重力……!」
「……まじでビルぶっ壊す勢いだったからなぁ……」
「香曽我部くんは当たらなくて良かったな。」
「ホントだよ。」
「ちなみになんだけど、しっかり身体を使えれば多分ぶっ壊せてるわ。」
「「「え!?」」」
「うーん……これは実践して見せた方がいいわね……ちょっとまっててね?セメントス先生!!」
「「「はい!」」」
「えーっと……おねーさん……これは?」
「え?瓦。まぁコンクリ製だけど。」
「いや……わかるんだけど……」
見上げる。
「何枚あるの……?」
「300……400くらい。」
「「「400ゥ!?」」」
「セメントス先生に適当に作ってもらったからわかんない。」
TDL(トレーニングの台所ランド)の天井に着きそうなくらいの瓦が積み重なってる……え?今からこれ全部割るの?
「……一応聞くんだけど……何するの?」
「瓦割り。1回で全部割ってみせるわ。」
特に準備運動もせず、スっと立ってるおねーさん。……出来るとは思うよ?思うけどさ……全然想像できない。どうやってあんな上まで行くの?誰かに持ち上げてもらう?
「でもよぉ先生……どうやって上行くんだ?無理だろ。俺とか流鏑馬みてぇに飛べねぇと……」
「……それは個性の使い方次第ね。しっかり離れててね〜?」
おねーさんの両手両足が赤く染まる。あ……これ……
「エスコルチア!久しぶりに見た!」
「「エスコルチア?」」
「えっ!?エスコルチアって言った!?ブラッドロータス先生何すんの!?」
ヒーローオタクが噛み付いてきた……
「引子ちゃん……もう終わったの?」
「今休憩中!それよりも!こんな面白そうなことしてるなら言ってよ!」
「一応授業中だよ!!」
「いいわよ。日巡璃ちゃん。……私も久しぶりだしね〜。……さぁて……見てて?」
おねーさんがグッと体勢を下げる。重心を落とし……跳躍。
ダァン!!
「速ぇ!?」
「これがプロヒーロー!?」
「もう上居る!!」
よく見るとおねーさんが天井に張り付いてる。
どうやってるのそれ!?血でできるものなの!?
「いくよ〜!」
一言。
その一言だけ。
おねーさんがすごいスピードで瓦に向けて突撃。手刀を振り下ろす。
ドガッシャァアアアン……
轟音、そして飛び散るコンクリートの欠片。
大きな砂煙とともに、真っ赤なおねーさんが出てきた。
「ま……こんな物ね。」
「きゃー!!きゃー!!エスコルチアかっこいい!!うわぁ!!かっこいいかっこいい!写真撮っていいですか!?」
「だーめ。ブラッドヘリアンサスに許可とってね。」
「……ヴッ……関係性……尊い……」
引子ちゃんどうしたの???
「全ッ然参考にならねぇ……」
「まぁ瓦とビルは全然違うけど……多分私でもビルくらいなら壊せるわ。」
「……あれ見たら出来るだろうなとは思いますが……」
「私が言いたいのは力の使い方。……見て?」
おねーさんが私達に手を見せる……糸?赤い糸が……
「私はこれを引っ張って速度と破壊力を上げてたの。」
地面にくっついてた。いつの間に……
「これを引っ張りながら体の回転と、速度が充分に乗った攻撃を少ない面積で対象に当てた事で……こういう結果になったってわけ。対人戦闘訓練の時は、乗ってた力が少なかったのとインパクトの瞬間が面積が広かった。だから突き刺すダメージじゃなくて破裂させるダメージだってわけ。」
おねーさんが手で実践しながら見せてくれる。ダメージを奥まで届けるなら接触面積は少ない方がいい……ってこと?
「「「……なるほど……」」」
「それと……」
「身体強化のエスコルチアで破壊力を増した訳ですね!」
「………………そう。」
割って入るヒーローオタク。
「引子ちゃん……」
「本当にかっこいい!……幻だよこれ皆!槍田は一旦置いておいて皆知らないでしょこれ!?ブラッドロータスといえばこれ!エスコルチアといえばブラッドロータスだよ!!」
あっ変なスイッチ入っちゃった!
「そ……そうなのか??」
「すまない……僕もあまり存じ上げなくて……」
「えぇ!?知らないの!?じゃあ教えてあげる!これは映像記録に残ってるの自体少なくてレアなんだけど、初めて映像に残ったのが9年前の福岡の事け……」
「引子はん?」
「何……ヘブッ!?!?」
引子ちゃんの鳩尾に拳が……
「……引子はん?頑張ってらっしゃる皆さんの邪魔しちゃあきまへんよ??」
憂世ちゃん!!
「頑張り屋さんフェチの憂世ちゃんだ!助かった!!」
「なっ!?そんなフェチズムありまへん!!」
憂世ちゃんが顔真っ赤にして否定する。
「ありがとな!頑張り屋さんフェチの圖書!」
「ちょ!?香曽我部はんまで!!」
「うむ。恩に着るぞ!頑張り屋さんフェチの圖書くん!」
「副委員長はん!!…………槍田はん……後で覚えておきなはれ。」
ズモモモモモ…………
「え!?なんか悪いこと言った!?」
「日巡璃こういうところあるのよね〜……」
「まぁそれがお嬢様のいいところではあるんですが……もう少しデリカシーを……」
「だったら注意してやれよ。」
「「倍返しされてる日巡璃(お嬢様)は捗るから。」」
「…………一体何がだよ。」