side槍田日巡璃
「…………。」
いつもの夜。
のはずなんだけど……
「…………。」
時計を見る。22:35……もう寝てる時間だね。
全然眠れない。それもそうか。明日は……
「……ひまひま。寝れないの?」
「わ。……うん。寝れない。」
天捻ちゃんを起こしちゃったみたい。
「……ん。……明日……仮免試験だもん……ね。」
「……うん。」
そう。明日は仮免試験。この試験で受からないと……インターンなんて以ての外。おねーさんが期待してくれてるのにその期待を裏切る事になっちゃう。
「……緊張……かな?……寝れなくて。」
「…………」
私の腕の中に居る天捻ちゃんが、スルスルと上に上がってくる。
「どうした……の……」
天捻ちゃんが私を抱きしめる。顔が天捻ちゃんの胸に埋まって……柔らかくて……いい匂い……
「……私は……仮免試験……まだ……無いか……ら。……こういうことしか……出来ない。」
「……天捻ちゃん……」
「……ひまひま……応援してる……きっと受かるよ……ね?」
「……うん。……ありがとう。」
天捻ちゃんの腰に手を回し……ゆっくり抱きしめる。
すりすり……ん……なんか……落ち着いてきたかも。
「……ひまひま……可愛い……」
天捻ちゃんに頭を撫でてもらって……抱きしめてもらって……
天捻ちゃんの高い体温と、落ち着く匂いで……
「……ん。……なんか……眠くなってきたかも。」
「…………良かった。……おやすみ。ひまひま……」
「……うん。……ありがとう。天捻ちゃん……」
そのまま意識をゆっくり落とす。
明日のことは……明日の私が頑張ってくれる。
……少しでも……体と……心を休ませて…………
夢を見た。
私が……経験した過去。
幼い私とパパとママと……お出かけしたある日。
駅の近くで敵が暴れて……建物の瓦礫が私の上に。
何とか一命は取り留めたけど……足が挟まって動けなくなった。
痛い。暗い。怖い。
周りの大人の人も助けてくれようとしてるけど、無理に動かせなくて四苦八苦。手詰まりだった。
死んでしまうかと思った。みんなに虐められたまま。嫌なことしか無かったけど……パパとママに会いたい。まだ生きたい。そんな思いが錯綜し涙が滲んだ。
子供ひとりじゃ……どうしようもなかった。私を助けてくれる人なんて……どこにも……
突然の轟音。
何かが転がってくる音と、もうひとつ何かが落ちてくる音。
「〜〜〜!!!」
「〜〜〜!!!!!」
大きな声……女の人……?それと……獣……猛獣みたいな……
声が聞こえなくなった。
……もしかして……見捨てられた?
私……ひとりぼっちに……
「たす……けて……」
声が漏れた。
「足が……挟まっちゃって……取れないの。……痛いよぉ……ママァ……」
会いたかった。ママに。最後まで助けようとしてくれたママに。
パパに会いたかった。抱きしめられたかった。
パパとママに……また……会いたい。
「…………お姉さんに任せて。」
声をかけてくれたのは……知らない人の声。女の人。さっきの人……?
「……誰ぇ……?」
「ヒーローよ。……私が来たッ!!」
「!」
ヒーロー……知ってる。色んな人を助ける仕事。……もしかして……先生でも……パパでもママでも助けてくれなかった私を……ヒーローの人なら……助けてくれるの?
もう一度大きな音が鳴った。
シーン……
何も……聞こえない?どうしたんだろう……
「もう悪い人は居なくなったよ。大丈夫?」
「ひっ……はい……」
急に話しかけられて変な声が出た。ホッとしたけど……それと同時にあることに気づく。
このままだと私の姿を見られて……また嫌な顔されるんじゃ……
「うんうん。足はどうかな?」
「な……なんとか抜けました……だ……大丈夫なのでもう……」
何とか嘘をついてどこかに行ってもらおうとする。パパとママに助けて貰って……
「?よくわかんないけど助けるね。」
「えっあのっ!?」
問答無用と言った形で……
ガコン……ガコン……
大きな瓦礫が退かされる音がする。何とか足が抜けて、それでも見て欲しくなくて……私がとった最後の手段は……
「…………?なにこれ。」
「ひぃっ!!みっ……見ないでください……。」
殻に隠れることだった。
「ダメだよ。怪我してたなら病院に行かないと。」
浮遊感。それと殻を触れられる感覚。ゾワゾワする!!
「ひぁっ!?変なところ触らないでください!!」
「変なところ!?」
ぴょこっと顔を出してしまった。目の前には……真っ赤な体と……白い長い髪。お人形さんみたいな顔の……綺麗なおねーさんがいた。
ダメ……また嫌な顔……
「カタツムリの個性!?可愛い〜……。」
「ひぃっ………………え?かわ……!?」
言われ慣れてない言葉。パパとママ以外から言われたのは……初めて。恥ずかしくなって顔を隠してしまう。
「うん!可愛いね。足の怪我見せて?」
「え……いや……私……気持ち悪くないんですか?」
「?何処が?」
「だって……私普通の人じゃないからっ……」
意味がわからなかった。初めての私に……可愛いなんて……
気持ち悪いも消えろも死ねも何度も言われてきた。普通じゃないんだって何度も思った。私みたいなのは……存在しちゃ……
「…………普通って何?」
「…………え?」
「この社会……難しいこと言うね?今この世界で、普通じゃない人って何?みんな何かしらの特徴を持ってるよ。みんな普通だよ。みんな当たり前。あなたも……自信を持って。すっごく可愛いから。お姉さんと一緒にパパとママの所に行こ?」
「………………」
意味は多分理解しきれなかったと思う。普通?世界?特徴……難しい言葉が並んでてよくわからなかった。
自信を持って。すっごく可愛いから。
それでもおねーさんの優しさと……嘘をついていないことを子供ながらに理解ができた。
だから顔を出せた。おねーさんと向き合うために。
「どうしたの?」
「……行きます。パパとママに会いたい。」
おねーさんが笑いかけてくれる。
「そうだね。その前に足だけ見せてくれる?酷くなってたらいけないから。」
「…………はい。」
言われた通り足を出す。青くなって腫れてる……ちょっと痛い。
「……まだ痛いかな?」
「はい。ジンジンします。」
「ちょっと触るね?」
「えっ!?」
急におねーさんになんの躊躇いもなく触れられる。
「ひぁっ!?」
「んー……折れてる感じはないね。……圧迫しした所に無理やり引き抜いたから擦り傷と内出血って感じかなぁ〜。」
パパとママ以外に触られることなんてほとんどないから……慣れてない!すごくゾワゾワする!!
「ひっ……やっ……ま……」
「……?痛かった?」
「ち……違うんです…………あんまりパパとママ以外に触られたこと…………無かったんです。」
「………………アッ!!ごめんね!?配慮が足りなかったね!?」
……配慮ってよくわかんないけど……私の身体を触るの……嫌じゃないんだ。
「……………………嬉しかったです。私の体……ぬるぬるだから……」
「ぬるぬる?だからって怪我してる子触診しない訳にはいかないでしょ。」
さも当たり前かのように……これが……ヒーローなんだ!私でも助けてくれるんだ!
「!…………お姉さん。」
「痛いの我慢出来る?パパとママの所行って病院に行こっか。」
「〜〜っ!!はい!」
感極まって抱きしめてしまう。初めての人に……ううん。この人なら私を受け入れてくれる!
「ふふっ。前見えないよ?」
「あっ……ごめんなさい!」
「それじゃいこっか。」
「はい!」
おねーさんに抱き上げられて……パパとママのところに。
きっとこれから……私は……
パチ
「……ん……」
朝。眩しい光。
「……おはよ。……ひまひま。」
天捻ちゃんから声がかかる。ずーっと抱きしめてくれてたみたい。
「……天捻ちゃん……ありがとうね。おはよ。」
「……いい夢見た?」
「え?」
「なんか……すごくいい顔してる。」
「……そういえば……夢を見た気が……なんだったっけ?」
「……いい夢だった……んだよ……多分。」
「……そうだね!そんな気がする!」
よし!仮免試験……頑張るぞ!!おー!!!