side槍田日巡璃
「……でね!今日は授業で……」
「そうなんだ!お友達と仲良しで安心したよぉ!」
……。
「うん!ひまちゃんもお友達いっぱい居るんでしょ?」
「当たり前じゃん!みんな仲良し!」
…………。
周りに分からないように毒島先輩を突く。合図だ。
誰か着けてる。後ろ。約10m。私達がお使いを終えて、スーパーを出た頃から。
「……。」
毒島先輩からも合図。多分気付いてる。
あの顔……Mr.J。個性が唯一わからなかった男。
服の上からでもわかるガタイの良さ。個性は増強系かな?
でも人目が多い上に、壊理ちゃんの個性。触れた相手の時を戻す個性で最悪死んでしまうかもしれない可能性があるのに来てるって事は、ある程度の勝算があるって事だよね。
「それでねそれでね!近々軽音部でライブすることになったの!」
「えぇ!?すごいねぇ!場所借りれたんだ?」
さてどうしようか。この辺りの地形は頭に入れた。戦える場は少ない……と言うよりほぼ無いと言った方が正しい。
その上このままだと壊理ちゃんの家に着いていかれる可能性もある。
幸か不幸か壊理ちゃんは気がついてない。
もしなにかの弾みで戦闘が始まって、片方が壊理ちゃんと一緒に逃げても残った片方が相当辛い戦いをしなくてはいけない。
もし壊理ちゃんが1人で逃げたとすると……もしもう1人着いてきていたらもう怪しい。前者もそうだ。どちらにせよ壊理ちゃんを1人にするのは無理だね。
一緒に逃げるは一番無いね。相手の個性が不明な上……捕まる可能性もある。そもそもヒーローが背中を見せることが大衆の目に晒された瞬間、社会は許してくれない。
その上……多分アイツ近付いてきてる。コスチューム着てるヒーローが2人いるのに。私達の目を出し抜く何かがあるんだと思う。……多分だけど個性は増強系じゃなくてそっち系じゃないかなぁ?
そうなると距離を詰められてる今は相当まずいね。時間が迫ってる。
「だからさ!ひまちゃんにもライブに来て欲しいなって!」
「いついつ?絶対いくよ!」
さぁて手詰まりだね。どうしようか。時間は……13:10……でもやるなら一個しかないよね。
「……先輩。壊理ちゃん任せれますか。」
「……ったく。そういうと思ったぜ。」
「……え?」
「槍田。ヤるならすぐそこ。廃墟になってるビルの跡地がある。そこなら及第点だろ。」
毒島先輩が顎で場所を教えてくれる。
「わかりました。通りがかったら作戦開始で。」
「え?え?なんの事ですか??」
「壊理ちゃん。全力で走ってね?」
「……!!」
気付いちゃったか。壊理ちゃん。
3……2……1……
「走るぞ!!」
「いやっ!!待って!!ひまちゃん!!!」
毒島先輩に担がれて連れていかれる壊理ちゃん。涙目になって手を差し出してくるけど……ごめんね。貴方を全力で守らないといけないから。
後ろのMr.Jもこちらの動きに気付き走り出す。
「行かせねぇよ。」
「!?」
こちらを通り過ぎようとした瞬間を狙って回し蹴り。
Mr.Jが廃ビル跡地に吹っ飛ぶ。
大きな音。それと流れ落ちる外壁。
「…………She's my friend. Do you know?(彼女、私の友達なの。分かる?)」
「うわあああああっ!?!?」
「きゃあああああっ!!!!」
白昼堂々一般人を回し蹴りしたんだ。周りの人から悲鳴が上がる。
「……ごふっ……英語じゃなくていい。日本語でも伝わる。」
「あ。そう。……Mr.J……ここで貴方を捕まえるね。」
「……ふん。やれるものならやってみるんだな。」
ほぼダメージになってない……か。個性?多分違う。受け身の問題だね。っていうか多分結構な廃材がクッションになってたんだね。……場合によっちゃ一撃だったけど……もったいない。
やっぱり出し抜く系の個性かな?
相手の個性が分からない以上……近付くのは厳禁。
だったらある程度情報を仕入れておかないと。
「……私の蹴りを1発防いだのは見事だね。」
「……敵ながら素晴らしい回し蹴りだ。狙う場所が悪かったな。首なら一撃だった。」
「ヒーローはそんなこと出来ないからね。」
「窮屈なものだ。……やはり理想郷からは程遠いな。」
「……何言ってんの?」
理想郷……?
「こちらの話だ。」
ポケットから何かを取り出す。……ナイフ。
すごく大きな体をしてるのに刃物。ミスリードじゃなければ、多分増強系じゃない。増強系の線は薄いと見た。
じゃあどういう個性か。
……相手が近付いて来る。
……私の蹴りに反応できなかった人が近付いてくる。さっきもそうだ。多勢に無勢になりかねない状況でも近付いてきた。
……近距離で発動するタイプの個性?どれくらいの距離を取ればいいんだろうか。
まって。近付いたら発動する個性なら、なんで私に近付いた時発動しなかったの?
出し抜ける個性なら近付いてる間にも発動し続ければ良かったじゃん。
あ……なんか読めてきた。
「……あなたの個性触れないと発動できないんでしょ?」
「……ほう。」
ビンゴ。私の勘がそう言ってる。
触れたら発動する個性。めんどくさいね。私近距離専門だよ……
「だとしたらどうなんだ。貴様は……丸腰のようだがッ!」
Mr.Jが突っ込んでくる。
「……!」
……この低空姿勢……おねーさんみたい。相手の死角を取りに行く動き。おねーさんによくやられる。おねーさんの十八番。
だから……尚更わかる。
「……遅い。鈍い。」
「!?」
足を蹴り上げる。相手の顎を捉えた。
「うぐぉっ!?」
いつもおねーさんの動きを見てたから。この程度ならいくらでも捌ける。
蹴り上げたところでボディが開いた。
蹴り上げた足を素早く半回転。地面を蹴る。
その速度を利用して体重移動。拳を叩き込む。
「おいしょぉっ!!!」
「ぬぐぁっ!?」
また瓦礫に吹き飛ぶ。
「……。」
気を抜かない。まだ戦う前提で。
「……フーッ……」
相手はナイフで防いだみたいで、ナイフが粉々に。
しぶとい。まだ起き上がるなんて。
…………壊理ちゃん。大丈夫かな。
構えは解かない。
「……ぺっ。」
口から血を地面に吐き捨てるMr.J。……汚い。
「……一撃一撃はそうとう重い。もう喰らいたくはないな。」
「何度でもあげますよ。」
「いらないと……そう言っている。」
パチン
Mr.Jが指を鳴らす。
その瞬間……私は真っ暗な空間にいた。
……何処?当たりが見えないほどの暗い空間。
手は!?足は!?
体全身が見えない。……それに音も聞こえない。何も匂わない。ワープ系の個性!?何もない空間にワープさせる個性なんて知らない!
すると少しづつ……本当に少しづつ光が見え始めた。……何が……
すると視覚が元に戻る。さっきまでの廃墟。目の前にはMr.J。
「終わりだ。」
「……え?っっっっぐううううっ!?!?」
急に全身を鋭い痛みが走る。そして喉から込み上げてくるものが……
「ごばぁっ!?」
私の口から……ありえない量の血が吹き出た。