side槍田日巡璃
少しづつ視界が下に落ちる。
馬鹿だ……
馬鹿だ私。
あれだけ個性は触れる時とか推理しておきながら。ステゴロで戦っちゃった。
多分攻撃を受けると同時に触れられた。本当に上手いね。完全に私の負け。
反射的に足が出た。命を取り合う実戦経験の薄さ。
おねーさんと差が縮まらない理由。
相手はこの道のプロ。どれだけダメージを喰らおうが、死ななきゃいい。気絶しなきゃいい。個性で巻き返せるから。
私は本当の意味で理解してなかった。だから死ぬんだよね。
命を取り合うって……
「ッアアアアッ!!」
重いね。
片足を前に出して踏ん張る。
「……!」
「ごはっ……ァアアア……何ぼーっとしてんの。私……まだ生きてるけど。」
ビチャチャ……すごい血の量。
「…………。」
『前のコスチューム』だったら命が落ちてたかもね。
胸の当たりがズキズキ痛む。この男……躊躇なく胸を刺してきた。
ありがとう。佳舞ちゃん。あなたのコスチュームのおかげで……致命傷にならなくてすんだよ。
「……チェーンメイルか。それとおそらく強化繊維。ナイフが奥まで入り切らなかった。」
「そうだね。これが無いと死んでたよ。……本当に。……はぁ……ごめんね。」
「?」
佳舞ちゃんに謝る。せっかく作ってくれたのに……すぐダメにしちゃった。
パレオを1部長く破る。それを包帯代わりに、傷口を塞ぐように強く縛る。そして粘液で固定。
「……よし。……これでまた戦えるね。……んー……ぺっ!」
口の中の血を吐き出す。気持ち悪いからね。
「……バケモノめ。」
ナイフを持った手……右手がナイフごと真っ赤だね。多分私の血かな。Mr.Jがナイフを構える。
ていうか武器まだ持ってるんだ。1個壊したハズだけど。
また低空で突っ込んでくる。
同じ手は通用しないよ。ニョキリと額から槍を生やす。
「!?」
引き抜き、その勢いを使って大きく振り回す。
ガキィン!!
ナイフで受け止めたみたいだけど、相手が力負けして吹き飛んだ。
「素手だと思った?」
「……チッ。」
さっき……結構な血が抜けて。思考がクリアだ。身体もなんとなく軽い気がする。
毒島先輩と戦った時ほど調子がいい訳じゃないけど……なんだろう。
呼吸が軽い。武器が軽い。相手の動きがよく見える。余計な緊張も。変な慢心も。ぜーんぶぜんぶ血と一緒に吐き出した。そんな感じ。
「……んふふ。」
「!!」
相手が突っ込んでくる。今回も低空姿勢。……だけど武器の持ち方がさっきと違うね。逆手だ。
って事は刺す方向から切り抜ける方向にシフトしたんだね。
結構大きめのナイフ。これで突き刺したのに死んでないんだもんね。……コスチュームってすごいや。
だから切って負荷をかけようとしてるんだね。多分どちらかといえば一撃死よりも失血死の方を狙ってるんじゃないかな?
槍はまだ振らない。
相手の出方を最大限待つ。相手がリカバリーが効かないタイミングで叩く。どれだけ近くなっても。触れられさえしなければ個性が使われない。
相手の個性はよくわかんないけど、きっと感覚を奪う系だと思う。そうじゃなくても触れられたら基本詰みだね。
だからこそ。相手の油断を誘う。
狙うは……相手があと一歩で触れられる距離。
一番油断しない距離。だけど……
「シッ!!」
槍を一回転回し、遠心力をつけて横薙ぎ。
「!!」
一番気が緩む距離。
しかしMr.Jが大きく飛び上がり、私の頭上を超える。
死角から手を伸ばして触れようとする……のも全部見えてるんだよね。目が4つあると便利だね。
槍で言うところの石附で相手を突く。
「うぐぉっ!?」
腹部にヒット。後ろに吹き飛んだ。
瓦礫が崩れる音。……いいダメージが入ったんじゃない?
それでも近付かない。最大限隙は見せない。
「……。」
「……ハァ……ハァ……」
Mr.Jが立ち上がる。まだやるみたい。
「……。」
「…………この俺が……お前みたいな無名のヒーローに……いいようにされるとはな……」
「……私も1回死んでるからイーブンだよ。」
「……減らず口を……」
…………正直限界が近い。あまり無理はしたくない。
「出し惜しみはなしだ。」
もう1本ナイフを取り出す。今度は……あ!あれってカランビットナイフってやつじゃない?合宿でおねーさんが使ってるの見た!
「……。」
もう一度低空姿勢で突っ込んでくる。
「それしかないの?」
槍を構える。
すると……一瞬目が合う。
「ブッ!!」
「!?」
顔になにかかけてきた!!
赤……血!?見えな……
ブズ!!
左足に激痛が走る。早い!!そこまで深くない。ナイフを投げてきた!?
「ぅぐうっ!!!!」
だったら上の目で見ればいいもんね!!
「なにっ!?」
振り回してきたカランビットナイフを弾き飛ばす!
「シッ!!!」
槍を振り下ろす。クリーンヒット!
「ごはっ!!……つか……まえたァ!」
この人!まだ意識が!!身体で受けて捕まえに来たんだ!!
槍を掴まれた。両手で。だったら!!
「ふん!!」
頭から槍を生やして射出!
Mr.Jの肩に突き刺さる。
「がああああああっ!!!??」
Mr.Jが後ずさり。その間に顔を吹く。
左足を確認。太ももに突き刺さってる。結構深い。
血の目潰し。足を第一に狙う。…………どちらも慣れてた。仕留めるための動き。判断が遅れていれば……あるいは。
ナイフを引き抜く。
「ぐうううっ…………ハァ……ハァ……」
「ハッ……ハッ……くそ……くそがっ……」
お互い満身創痍。私に至っては立つのすら怪しい。
「くそっ……がっ……俺たちの……理想郷を……ッ……ハァ……ハァッ……まだだ……まだだよォ……!」
理想郷……?俺たちの?
「……あなたの……仲間なら……別のヒーローが襲撃して……きっと……」
「……誰があいつらなんか仲間なものか。」
「……え?」
「俺には……もっと崇高な存在が……」
ズゥン……
「「!?!?」」
急に上からなにかの重りが。地面に押し付けられる。重いッ!!重力!?
「ぐっ!?あああ!?……なっ!!何がッ!!!」
「!!こっ……これはっ!!……ママッ!!」
ママ!?
何とか上を見上げる……ビルの上に人影。……けど逆光になって顔が見えない。
「……ふん。不甲斐ないこと。ジュリア。1度引きますわよ。」
「ごっ……ごめんなさい!ママ!!」
するとMr.Jは宙に浮く。
「うっ……ぐぐぐぐぐっ……ぐううっ!!!」
逃がすわけには……いかないっ!!
何とか力を込めて立ち上がろうとする。
「!……へぇ。私の力を持ってしても……抑えきれないなんて。」
既にMr.Jは肩に担がれているみたいで……だけどこのまま逃す訳には!!
「ま……ちな……さいッ!!!!」
「嫌。私……指図されるのは嫌なの。」
「!!」
急に体が軽くなったと思ったら、横に吹き飛ばされた。
壁にすごい勢いで叩きつけられる。
「……最低限自分の身を案じておきなさいな。未来は変えられないの。」
まずい……意識が……
「槍田ァ!!」
「ぶ……す……じま……せん……ぱ……」
毒島先輩が見えた気がしたけど……もう……
「テメェ!!」
「あら?新手?」
「逃がさ……!……!!」
「う……わ……!!」
「!!……」
……毒島先輩の目の前に、ママと言われた女性が降りてきたのが最後の記憶。
私はそのまま意識を手放した。