side中曲瀬天捻
ん。お昼休み。今日は食堂できんきんとぎんぎんと一緒にご飯……の予定だったけど……
「……。」
ぽつんと1人。文化祭が近いから2人とも大忙し。皆に呼ばれて言っちゃった。
先行ってていいよと言われたから……さば味噌定食(ご飯超大盛り)を頼んで……どこ座ろう。
人があんまりいなくて……
トコトコ……
席が空いてて……
キョロキョロ……
「……あ。」
「〜〜♪」
せんせ。
「せんせ。近くいい?」
「あれ?中曲瀬さん。いいよいいよ。おいで?」
ブラッドロータスせんせ。私の師匠。いつも修道服みたいなフリフリ衣装で保健室にいるヒーロー。
ニコニコ優しい顔してるのに信じられないくらい強い。ひまひまの師匠だから……当たり前なんだけどさ。あんなに強いひまひまもまだ一回も勝ててないって聞いて背筋が凍った。
「……ごはん大盛りね?」
「せんせも……お弁当いっぱいだ……ね?」
「いいでしょ?半分くらい旦那様お手製なんだ〜♪」
せんせには愛しの旦那様がいるみたいで……ひまひまに聞いたらブラッドヘリアンサスっていうヒーローの女の人らしい。女の人同士で結婚って大変だと思うんだけど……
それにせんせはよく食べる。私ほどじゃないけど。今日もお弁当箱とは言えないくらいの大きいタッパー3つを美味しそうに食べてる。
よくあれで太らないね。消費カロリーが多いのかな?……筋肉量凄そうだし納得は行くかも。
「あむ……今日は日巡璃ちゃんと一緒じゃないの?」
「ん。今日は……きんきんと……ぎんぎんと一緒……だったはずだけど……」
「……金城さんと舌古さんのことね。あぁ……そっか。文化祭だもんね。忙しいか。」
せんせは話しやすい。私の言いたいことを察してくれる。私は喋るのが苦手だから毎回助かってる。ありがとう。
「…………いただきます。」
「今日は味噌煮?和風だねぇ〜。」
「和風が……好きです。」
「そっかそっか。お米美味しいもんね〜♪」
「ん。ん。」
「私はなんでも好きかな〜。嫌いなものあんまりないかも。」
「ん。……好き嫌い……良くない……です。」
「そうだよね〜。色んなもの食べて食べて食べ尽くして、全部血肉に変えるのも訓練だよ。」
「ん。」
せんせは独特の理論を持ってるみたいで……私の体力作りとか筋力作りも全部メニューを考えてくれてる。ありがたい。
おかげで個性の扱いも、動きも以前とは見違えたものになった。……多分。
「あーん。……おいしい♪」
せんせの……卵焼き。美味しそう。
「食べる?」
「え!……いいんです……か?」
「こっち半分は私のだからいいよ。1個あげる。こっちはダメ。」
「?」
「旦那様が作ってくれたのだから独り占め♪」
「ん。りょうかい。」
そういうことならしょうがない。ていうか当たり前。
……ということで1つ卵焼きを取り上げる。
ずっしり……卵が詰まった……だけじゃなくて中に明太子が入ってる。明太子に火が全然通ってない。職人技だ……!
「ん。……いただき……ます!」
じゅわぁと広がる甘い卵と、ピリッと舌を突く辛子明太子の刺激と、鼻を抜ける磯の香り。
「おいしい!……です!」
一口で食べたのを普通に後悔した。もっと食べたい。
「そうでしょ!……私卵焼きは甘いのが好きなんだけど、東日本では甘いのあんまりないから……作るしかないんだよねぇ〜♪」
「ん!ん!甘いのがいい……です!」
「そういえば中曲瀬さんは兵庫だっけ?そりゃ甘い卵焼きがいいよねぇ〜。」
「ん!」
甘い卵焼きこそ正義。異論は認める。
……って喋ってちゃダメ!この卵焼きと辛子明太子の風味が口の中に残ってるうちにご飯をかきこまないと!もったいない!
もぐもぐもぐ……
風味だけでご飯食べれる。無限だね。
「んふふ。そんな美味しかった?サービスでもう1個あげちゃう!」
「!……神様!」
せんせは神様。異論は認めない。
ひょいっと皿に1つ乗っけられる卵焼き。……あれ?明太子じゃない……黒い……?なんだろうこれ。
「……コレ……」
「ああそれ?塩昆布。最近ハマってるんだよねぇ〜♪」
「塩……昆布!」
卵焼きに昆布なんて美味しいに決まってる。せんせは神様!
大切に食べよう。
ご飯美味しい……お米があるだけで毎日が幸せ。
するとせんせの顔が少しだけ真剣になる。
「……日巡璃ちゃんとは仲良くやれてる?」
「?」
「疑ってるわけじゃないんだけどね?まぁ……日巡璃ちゃんの小さい頃知ってるから。すこーし不安でね。」
ひまひまは虐められてた。小中と。聞いただけだけど。……せんせは……ひまひまが小学生の時に会ったとか。今は親御さん代わりなのかな……
「ん。……心配しなくても……だいじょぶ。……です。」
「うんうん。良かった良かった。……中曲瀬さんもあれから大丈夫?」
「……あれ?」
「いじめ。もう大丈夫そう?」
「……ん!」
ひまひまに助けてもらった日。ひまひまに惚れ直した日。私にとってみれば、今はもう幸せな思い出に昇華されてる。
「そっか。……いじめはね。良くないことだからね。」
「……。」
「そういえば中曲瀬さん。なんでいじめがよくないと思う?」
「……なんで?……ですか?」
「うん。そりゃ倫理観が〜とか人の子供を〜とか人権が〜とかはわかってると思うんだけど、貴方なりにどう考えてるのかなって。少し気になったの。」
「…………。」
考えたこともなかった。思い返してみれば良くないことだという認識はあれど、なぜ良くないか。なぜダメかはあまり考えたことがない……というか教えられた覚えがない。
「せんせは……どう考えてるん……ですか?」
「私?私はね……成長を止めちゃうからだと思うな。」
「成長を……止める?」
「うん。いじめてる方も。いじめられてる方も。」
「……??」
ますます意味がわからなくなった。いじめてる方はなんとなくわかるけど……いじめられてる方?
「ふふっ。これは私の自論だからあんまり鵜呑みにしないでね?いじめてる方は、人間関係において歪な成功体験をしちゃってるから成長出来なくなっちゃう。いじめだけが自分を保てるコミュニケーションだと勘違いしちゃうわけね。歪な成功体験は良くないわよ〜?それに縋っちゃうから。」
「……。」
それは……なんとなくわかる。多分いじめとかに関係ない事でもよくありそう。
「それで、いじめられてる方なんだけど……こっちは別の意味で成長が止まっちゃうの。……まぁ正確に言うと時間が止まっちゃうって言った方がいいかしら。」
「……時間が……止まる?」
「うん。心の傷が深ければ深いほど、精神的な成長を阻害しちゃうの。普通心ってゆっくり傷付きながらどんどん成長していくんだけど、一気にズドンと大きな怪我を負うと成長する前に回復の時間がいるから、心が身体の成長に取り残されちゃうわけ。」
「…………。」
心の傷?成長が止まる??
「アハハ!よくわかってないって顔してる。じゃあ明確な例を出すね?日巡璃ちゃん。あの子すごーく自我が幼い時ない?例えば……恋愛とか。」
「!」
自我が幼い。成長が止まる。……そういう事か。
「うんうん。日巡璃ちゃんの場合って自分を否定されて育ってきたから、好きに疎いんだよね。幼い。心が成長出来てない。……正確に言うと出来なくなってるが正しいかな〜。」
「……でも……最近……勉強して……」
「ね中曲瀬さん。……恋っていつ勉強した?」
「え……?」
「記憶ある?恋の勉強。」
「……。」
そう言われると……物心ついた時には……恋を知っていた……かも。明確に何時と言われたら……分からない。
「ね?……本来成長するに伴って外部から仕入れた情報……例えば本とかアニメとか。これらである程度勉強なんてしなくても脳が理解するんだけど、日巡璃ちゃんは勉強しないといけなかった。……これは明確ないじめの被害者だよね。」
「…………ん。」
「だから私はどちらの成長も止めてしまうから、いじめはよくないと思う。……ね?」
片やいじめの加害者。片やいじめの被害者。どちらも成長出来ない。…………すごくなんて言うか……
「先生らしい答え……ですね。」
「ま。先生だしね〜。」
……そういう考えもあるんだ。どちらにも良くない。なるほど……
「……だからさ。日巡璃ちゃんの事精一杯幸せにしてあげて欲しいな。私じゃそういうの出来ないからさ?」
「……ん!……任せて……ください!」
「頼もしいね。期待してる。」
私が……私も!ひまひまを幸せにする。できることをする。
私しかできないことは……きっとある。
念の為天捻ちゃん語録。
ひまひま→槍田日巡璃(うつぎだひまわり)
きんきん→金城邊(きんじょうあたり)ちゃん
ぎんぎん→舌古古銀(ぜっここぎん)ちゃん
です。