お待たせしました。
非常に難産でした。
side槍田日巡璃
「……。」
「うーん……まだおばけ屋敷は怖かったか……」
ラクネラちゃん。撃沈。
お化け屋敷に興味を持ったラクネラちゃん。私とマリアの静止を聞かず突撃。案の定私が抱っこして歩いてます。
「ごめんなさいね。」
「いいよ。全然苦じゃないし。」
「そう。優しいのね。」
「優し……まぁ……そうなのかな。」
「……ラクネラがこんな調子じゃ行きたい場所も行けないわね。」
「じゃあ近場のベンチ辺りに行ってみる?休憩してもいいんじゃないかな。」
「なるほど。一理あるわね。」
「キャッキャ」
あれだけこの世の終わりみたいな顔してたのにもう走り回ってる。…………子供ってすごい。
「やっぱり笑顔がいいわね。笑顔が。小さい子が笑顔じゃない社会に未来はないわ。」
「……どの口が。」
「あら?私が平和を望むことが嫌い?」
「だってあなたは敵でしょ。笑顔を奪う立場だよ。」
「……ふふ。」
「何がおかしいの。」
「カチカチね。固定概念よ?」
マリアはベンチにもたれかかる。
「……。」
「私たちは世間一般からしたら敵。それは間違いないわ。……でもね?私たちが居場所を作ることで救えてる命もあるの。」
「……それは……なんとなくわかる。」
私のいじめもそうだった。先生も。クラスのみんなも。誰も助けてくれなかった。両親には相談してた。色々掛け合ってくれてた。でも……助けて貰えなかった。
私を助けてくれたのは1人のヒーローだった。彼女のおかげで私はヒーローを目指せる。ヒーローになりたいと思える。
社会が助けてくれないから、外部の助けを求めてる人が一定数いる。
でも……
「……頭では理解できるけど理屈で理解できない。私は……まだ社会を知らないから。大人じゃないから。」
「……なるほど。ヒーローは正義。敵は悪。わかりやすい認識。社会の常識。」
「それが普通だったから。」
「……私もそれが普通だった時期があるわ。」
「え?」
「だいぶ前だけれどね。裏切られたから今生きている訳だけど。」
「裏切られた……?」
「あら?敵の話に興味を持ってくれるのかしら。」
「……誰が!」
「うふふ……声を荒らげちゃって。可愛い。」
「っ!!」
調子が狂う!敵ってみんな無法な人達じゃないの!?もっと悪辣で野蛮な人達だと思ってた!この人は違う!何!?意味がわからない!
「いいじゃない。敵の話に耳を傾けても。それを信じるかどうかはあなた次第でしょ?」
「……。」
この人と話してから……なんというか心がかき乱されてる。今まで知らない物。知らなくても生きてこれた物を無理やり押し込まれてる気分。すごく気持ちが悪い。
私の認識も。判断も。全部全部狂う感覚。
急に辺りが見えない吹雪の中。立ち尽くすような。それでも進まなきゃ行けないと刷り込まれた無謀な勇気。
私はこの1歩を踏み出してもいいの?
それは……私にとって正義なの?誰かの悪じゃないの?
「悩みなさい。貴方の全てを。やってきたこと。やれること。やれないこと。貴方はどうありたいの?」
「私は……」
「……ぷっ。」
「え?」
「アハハハハハハ!ついさっきまですっごい警戒してたのに今ぜーんぜん警戒してないじゃない。私の会話鵜呑みにしようとしたでしょ?ふふふっ……かーわい♪純粋なのね?」
「!!」
「知らないこと色々詰め込まれて訳わかんなくなっちゃった?うふふふっホントに可愛い♪私貴方みたいな人大好きよ?手のひらでコロコロ転がって……小動物みたい♪」
「っっ!!!私は嫌いッ!!!」
「うふふふふ♪」
マリアにスイスイと距離を詰められる。
「近寄ってこないで!!大嫌い!」
距離を取るように立ち上がる。なんかすごく嫌だ。言語化できない。すごく気味が悪い。可愛いって言われるのは嫌いじゃないのに……この人の可愛いは何か違う!
「かわいい〜♪あぁ〜……ほんとにいいわ貴方。何にも染まってない純粋な白。社会の闇も、膿も……なーにも知らないか弱い子♪私ラクネラみたいな闇から育った子も好きだけど……あなたみたいな真っ白な子もすっごく大好き♪」
背筋が凍る。き……き……
「……気持ち悪い!!」
「あぁ〜♪その顔もいいわ!本当に唆る!!ねぇ!ねぇ!今からでもいいから私たちの仲間にならない!?一生可愛がってあげるわよ?」
「無理!!やだ!!絶対やだ!!!」
「首輪つけて鎖で繋いで、可愛い服も着せてあげる♪一生養ってあげる♪私という存在がないと生きていけないようにしてあげる♪可愛い♪可愛い♪あぁ〜……貴方を見てるだけで本当に元気になるわ♪」
「無理無理無理!!やだっ!!それ以上絶対近寄らないで!!」
「頑なね?そんな所も可愛い♪ドロドロにとかしてあげたい♪」
「近寄ったら殴るからね!!わかってる!?」
「うふふふ♪嫌われたくないから辞めておきましょうか?」
「もう嫌ってるから!!!」
「いやーん♪ほんとに可愛い♪食べちゃいたいくらい♪」
私に見せつけるような舌なめずり。
ゾゾゾ……
「ほんとにやめて!!!」
そんなこんなで押し問答をすること数分……
「うふふ♪満足♪」
「……ふーっ……ふーっ……」
この人はダメだ!危険!近寄っても半径2mが限度!それ以上は耐えられない!
「さぁーて。そろそろ帰りましょうか。ラクネラ。」
「え?」
「はーい!」
帰る?やっと!
「寂しい?」
「早く帰って。」
「あら手厳しいわね?うふふ。嫌われちゃったかしら?」
「近寄ってこないで!」
「もう。恥ずかしがり屋ね?」
マリアは……アイツはベンチから立ち上がり、ラクネラちゃんを抱き上げた。
「……どうやって帰るの。」
「あら?気になる?」
「……気にならないって言ったら嘘になる。」
「うふふ♪そうね……でもこれは機密情報だからねぇ〜……そうだ!」
…………なんか嫌な予感がする。凄く!
「私と友達になって?だったr……」
「絶対無理!!」
「あら?残念。」
「なんでできると思ったの!!」
「うふふふ♪そうよね。……じゃあ……特別。最後に見せてあげちゃうわね?少し厄介な人たちもこっちに来てるみたいだし……」
「……?」
なんの事?……もしかして……カナ!気付いてくれたの!!?
「嬉しそうな顔しちゃって……嫉妬しちゃう。」
「勝手にしてて。」
ほんと嫌い!
「うふふ……まぁいいわ。いずれあなたは私のモノにするんだから。」
「……怒るよ。」
「きゃ♪怖い怖い。とっとと帰りましょうね。ラクネラ。挨拶は?」
「はい!おねーちゃんばいばーい!」
ラクネラちゃんが笑顔で手を振ってくる。…………ラクネラちゃんは可愛いんだけどなぁ。
手を振り返すと、アイツまで振ってきた。
「あんたじゃない!!」
「そうだったかしら?うふふふふ♪」
するとアイツの足元にピンクに光る魔法陣が展開された。
「!!」
「じゃあね?日巡璃ちゃん♪」
「名前で呼んでいいとは言ってない!!!」
「もう!イケズ♪」
ボフンと煙を立てて魔法陣ごとアイツらが消えていった。
「…………。」
足の力が抜け、地面に座り込んだ。
「…………はぁーーー……」
終わった……何事もなく……
……厄介な人に目つけられた気がする……
動けない私は、遠くから聞こえる私を呼ぶ愛しい声に少しだけ安堵しながら、皆の到着を待つのだった。