side????
『あなた達はひまちゃんの何を知ってるの?』
『恋人になりたいのに好きな物も知らないの?』
『恋を知らない子に好きを押し付けてるだけ。あなた達のエゴだよ。』
『ひまちゃんの隠し事も知らないくせに。』
『私は今のあなた達をひまちゃんの恋人だと認めない。』
「ハッ…………ハッハッ……」
目が覚める。夜。
「……嫌な夢。」
嫌な汗が背中を伝う。思い出したくもない言葉。
あの時日巡璃をストーキングしたのがバレて、一緒にいた女にこっぴどく言い放たれた。日巡璃への好意は私達のエゴ……
そんなわけない。そんなはずない。何度だって反芻する。
まるで自分に催眠を……騙すように。
いつ見ても胸が高鳴る。会話をするだけで、笑顔を見るだけで胸がいっぱいになる。
これが恋じゃなかったら何なの。……もっと……恋にはもっと先があるの?あの2人は全く気にしてなかったけど……
私にはあの言葉が胸に刺さって抜けない。
学生時代。
私はお嬢様学校に通っていた。
毎日ティータイム。所作。言葉遣い。嫌になった。
…………嫌だった。
私はヒーローになりたかった。子供の頃、オールマイトに憧れた。
でも…………子供の頃、憧れが砕かれた。
夢を諦めようと何度も思った。……日本が大変な時にパパとママの故郷に逃げ帰った私達を、皆はどう思うかなんて考えたくなかった。
諦めれなかった。ギリシャに帰ってもヒーロー活動を目で追った。道行く人を助けるヒーローを。日本のニュースで瓦礫を片付けるヒーローを。復興を果たした日本を。
日本が安全になってから仕事の都合で帰ってきた。既に受験シーズン。それでも私は諦めきれなくて……パパとママに頼んで雄英高校を受験した。
パパとママは快諾してくれた。初めてのわがままだったって。振り返ってみればパパとママとはあんまり会話をしてない気がした。自ら心を閉ざしていたのかもしれない。自分はこうするしか生きる道が無いのだと……諦めていたのかもしれない。
私は全部を救うヒーローになりたかった。
この日本みたいに、みなが手を取り合える社会を。
『大丈夫?』
見つけたんだ。私は。
コケた私に見向きもしない中、1人だけ手を差し伸べてくれたんだ。笑顔で。まるで助けるのが当たり前みたいに。
見入ってしまった。その美しさに。
それと同時に……転けた自分を見られた事が恥ずかしくなった。
『えっ?……アンタカタツムリ?』
今思えば少しだけ照れ隠しだったのかもしれない。
口から出た言葉は突拍子もなく……それでいて差別と捉えられてもおかしくない発言だった。
彼女は全く気にせずに自己紹介を済ます。
素直になりたいのに。同年代の人と普通の会話が……わからなくなっていた。やったことないような尖った言葉遣い。普通にできない自分に嫌気がさす。
彼女が一緒に行こうと言うのでついて行こうとするが……膝が痛む。転んだ時に少し膝を擦りむいたらしい。恥ずかしさで気が付かなかった。
『ちょっと待ってね?』
『え?』
彼女は自らのカバンから絆創膏を取り出し、しゃがんで私の膝に貼ってくれた。
『えへへ!これでいいね!』
『なっ!?なにこれ!頼んでないんだけど!』
また言葉がキツくなる。本当に私って……嬉しいって言えばいいのに。
自己嫌悪が止まらない。
『私のお節介だよ。受け取ってくれると嬉しいなぁ?』
そんな私を見越したのか……彼女は言葉を選んでくれた。私が頷けるように。頷いても……極力恥ずかしくないように。
『……どうしてもって言うなら受け取ってあげなくもないわ。』
『どうしても!』
両手を合わせる彼女は可愛かった。一瞬目を奪われたが、何とか言葉を紡ぐ。
『ふん!優しい私で良かったわね!』
『ありがとう!』
一緒に歩く頃には膝の痛みなんて忘れてた。
その後の実技が終わってすぐ外に出たのに見つからず、受付の人に聞いたらもう出たと。
全力で走って、走って……走ってやっと見つけた後ろ姿。
全部素直に口から出た。
連絡先が欲しい。一緒に雄英に受かれると嬉しい。
思い通りに口から出たかは怪しいけど、この出会いを離したくなかった。
いっぱい通話した。顔が見たかったからビデオ通話の理由をこじつけた。
幸せだった。嬉しかった。胸がいっぱいになった。
毎日ビデオ通話が楽しみになった。
パパとママ、メイドさん達にも笑顔が増えたと言われた。
毎日が幸せだった。
「…………幸せ。」
これがエゴ?
一方的なの?
私の恋を……幸せを。
言い負かされた気になった。嫌な記憶にしてしまった。
あの女……出水と言ったかしら。
絶対に見返してやる。私が……日巡璃の隣に居るのに相応しいって言わせてやる。
「……日巡璃。」
日に日に増えていった写真にキスをして目を閉じる。
私だけの幸せ。二度と馬鹿になんかさせない。
私の世界は……もう日巡璃なしじゃ輝けない。
あいつにも。
『カノカノ。』
あいつにも奪われていい。
『ディミトリウ様。』
でも……日巡璃の1番は私。恥ずかしがってちゃ……戦えない。
side槍田日巡璃
「あの……カナ?」
「何?」
「……今日それ好きだね?」
「……。」
今日……というか放課後。ちょっと教室に残る予定があったから残ってたら、カノーテスちゃんが腕にくっついてきた。椅子を横にぴっちりつけて、寄りかかってくる。
2人しかいないとはいえ……すりすりと頬を寄せて……なんというかリラックスされてらっしゃる。
「うん……日巡璃が……好きだから。好き。」
「んんっ!!!!」
ドキン!
顔が一気に熱くなる。
心臓がバクバクなってる。今日のカノーテスちゃんどうしたの!?いつも以上に……好意を隠さないって言うか……なんて言うか。
「カナ……嬉しいけど……ちょっと心臓が持たない!」
「……じゃあ……ハグする?」
「ハ……!?」
「うん。こうするの。」
カノーテスちゃんが私の正面に移動。椅子の上に私の太ももを跨いで膝で立ち上がり、私の顔を抱き寄せる。
ドクンドクンとカノーテスちゃんの心音が聞こえる。
視界がカノーテスちゃんの胸で埋まる。
「ちょっ!?!?」
いつものカノーテスちゃんじゃない!?こんなガンガン押せ押せなカノーテスちゃん初めてなんだけど!!
「……どう?落ち着いた?」
落ち着けるわけなくない!?
「……ふふっ。……顔真っ赤。可愛いらしいわね。日巡璃。」
「!!」
カノーテスちゃんの匂いと、温もりと……声と……
全部が私を包んで離さない。
だ……だめ!このままじゃ……
コンコン。
「…………。」
カノーテスちゃんがハグを解く。
危なかった……これ以上やられたらどうにかなってしまいそうだった……。
「…んんっ……はーい!」
教室のドアが空いて、スナイプ先生が入ってくる。
「槍田。……ディミトリウもいるか。……別にいいか。」
「なんですか?」
「来週の体育祭なんだが……選手宣誓は槍田がやることになった。」
「え!!本当ですか!」
「やるじゃない!日巡璃!」
カノーテスちゃんはいつの間にか自分の椅子に座ってる。何事も無かったかのように。
少しもやっとしたけど……まぁいいや。
「挨拶を少しだけしてもらう予定だから考えておいてくれ。……これだけだ。残ってもらってすまなかったな。」
「いえ!大丈夫です!頑張ります!」
「ああ。ヒーローらしい宣誓を頼むな。早く帰れよ。」
スナイプ先生が教室を後にする。
…………まだドキドキしてる。さっきのカノーテスちゃんのせい。
「ふふっ。」
カノーテスちゃんの笑い声が聞こえる。
さっきの空気に引き戻される。
「…………ねえ日巡璃。」
私の耳元で声が響く。
「ひゃっ……ひゃい…………」
「ソレ……何か聞いてもいい?」
「え……?」
カノーテスちゃんが指さすそれは……
私の嫌悪の塊。トラウマの全て。
必死に抑えてきたそれは、私のスカートを持ち上げていた。
首筋が……背筋が凍るのを感じた。
心臓が高鳴る。嫌な意味で。