side青空天気
「……」
「……」
雄英高校のとある一室。
私とスナイプ先生とブラッドロータス先生……そしてもう1人。
「……」
私のママ。
先生が同席してくれるからって……承諾したことを少しだけ後悔してる。
…………でも。ここに入る前に槍田に言われたんだ。
『……ねえ天気ちゃん。親ってなんだと思う?』
『……え?』
『これは私なりの解釈なんだけどね?親って親でしかないと思うんだ。』
『親でしかない?』
『うん。親は親でしかないんだよ。だからね?言わないと伝わらないことってあるんだ。お互いにさ?』
『…………そう……だね。』
『うん。相手も親である以前に人間なんだからさ?いっぱい話してみてよ!……私のエゴなんだけど、天気ちゃんはきっと納得いく答えに辿り着けると思う。』
『……』
『私たちじゃ何も出来ないけど!何かあったら先生に頼ってよ!ね?』
『……うん!ありがと!槍田!』
話してみてって。伝えてみてって。
……だから
「ママ。私……今ママの事信じられない。」
私の本心をぶつけてみる。
「……うん。」
「私……ずっとずっと比べられて生きてきた。ママにも。周りにも。比べられなかったのは天眼と天眼んちのパパママだけ。」
「…………ごめんなさい。」
「ううん。今はいいの。聞いて欲しい。」
「わかったわ。」
……よし。
「……でも家に帰って当たり前のようにおかえりって帰ってきて、当たり前のように美味しいご飯があって、当たり前のようにパパママがいる天眼の家がすっごく羨ましかった。」
「……。」
「だからといってママにパパと再婚しろって言ってるわけじゃないよ?……でも……寂しかった。」
目の前の景色が歪む。
「私寂しかった。誰にも認められてないんだって思った。苦しかった。……でも……誰にも……言えなかった。」
涙が溢れる。
「私だって頑張ってるって言って欲しかった!少しでも期待して欲しかった!私を信用して欲しかった!!…………でも全部天眼と比べられたんだ。私。……天眼が悪い訳じゃないのはわかってる。天眼も……私のこと心配してたのも今なら理解できる。…………でも……でもね?」
涙と鼻水でぐちゃぐちゃになった顔。普段なら絶対に見せない弱音。
「私だって1人の人間だよ……?ねぇママ……私ってダメかな?バカかな?居ない方がいいかな?」
「そんな事……!」
言い訳なんて聞きたくない。
「いままでぇ!!!!いちどたりとも!!わたしのぉ!!めをみてはなしてくれたことあった!?!?」
「っっ……」
「ママ!!ぜんぶぜんぶ!!となりのいえからっ……てんげんのいえからきいたことばで!!わたしをひょうかして!!しかって!!ねぇ!!ママ!!!!」
「…………ごめんなさい。ごめんなさい。」
「じゅぎょうさんかんも!!さんしゃめんだんも!!うんどうかいだって!!ぜんぶてんげんのママとパパがきてくれただよ!!?わたしってママにとってなんなの!!!いらないこならもうすててよ!!わたしにきたいさせないで!!ゆめをみせないでよおお!!!!!」
「…………」
「ふーっ……ふーっ……」
「青空さん。一旦座りましょうか?」
「……………………ごめんなさい。」
いつの間にか立ってたみたいで……ブラッドロータス先生が差し出してくれたティッシュでぐしゃぐしゃの顔を拭きながら、倒していた椅子を元に戻す。
「…………青空さんのお母さん。貴方……青空さんが解離性同一性障害の疑いがあるのをご存知ですか?」
黙った私を一目だけ向けて、スナイプ先生が切り出した。
「解離性同一性障害……!?」
「はい。俗に言う多重人格者ってものです。」
「そ……それは本当なんですか!?」
「……それはブラッドロータス先生から……」
「はい。私は精神科医ではないので診断及び断言は出来兼ねますが、ほぼ100%と言ってもいいでしょう。」
「……そんな…………」
何も知らないんだ。やっぱり私の理解者は……荒天だけなんだ。
何も思わなかった。ママに……母親に期待なんてもう微塵も無かった。
«……天気……»
私の中から荒天が心配してくれる。ありがとう……荒天。それだけで少しだけ楽になれる。
「…………証拠を……見せていただけますか。」
証拠……ねぇ?
「……ママ。私もうひとつ人格があるみたいなんだ。」
「…………」
「……やっぱ信じれないんだ。実の娘の言葉でも。」
「そんなこと……」
「いいよ。ママはそういう人だってわかってるから。私の言葉よりも他人の言葉を信じる人だから。」
「…………。」
「荒天。出てきてくれる?」
«……いいの?»
「うん。もういいよ。」
«じゃあ……失礼するわね?»
意識が入れ替わる感じ……なんというか……不思議な感じ。
「っ……!?」
ママがびっくりしてる。そうだよね。見た目も変わるから。
「こ……これは……!?」
「解離性同一性障害……として扱ってますが、もしかしたらもっと酷い別の何かの可能性すらあります。」
「別の酷い……何か……」
「これも全部今までの天気ちゃんの生活環境が複雑に絡み合ってできた形です。一概にお母さんのせいとは言えませんが……」
「…………はい。……わかってます。」
«……ほんとかな。»
もうなんでもいいや。好きにして。
「天気……あまり投げやりにならないで?」
«やだ。なんかもうどうでも良くなっちゃったから。»
「……天気……」
«私には荒天が居ればいいよ。»
「…………本当?」
«……うん。»
「…………そう。」
……ふん。
「……このように彼女たちは自分たちの中でコミュニケーションが取れます。」
「…………。」
「先生。……私も話していいですか。」
荒天?何するんだろ。
「いいよ。好きに話して欲しい。」
「はい。ありがとうございます。」
荒天がスナイプ先生に一礼。……こういうところは私と違うよね。
「……天気のお母さん。私……荒天と呼んでいただければ。」
「…………本当に……天気じゃないの?」
「はい。天気は私の中でこの様子を見てます。」
「…………」
「……では話しますね。……貴方はどうして家庭を疎かにしたんですか。」
「……そ……それは……」
「仕事を熱心に頑張ってた。知ってます。毎月多額のお金を家に振り込んでた。知ってます。そのせいで帰れない日も沢山あった。知ってます。……私が聞きたいのはその行動原理です。」
「…………」
「天気は誤魔化せても私誤魔化せるなんて思わないでください。」
「……う……えと……」
何も喋れないママをみて、荒天がひとつ大きなため息を付く。
「こんな事に時間をかけたくないのでどんどん行きますね。答えは簡単ですよね?父親……元父親を見返す為でしょう。」
「な……なんでそれを……!」
「そうですよね。不倫されて。離婚して。慰謝料を請求したのはいいものの、全部相手の良いようにされたのを根に持ってるんでしょう。」
「……う…………ぐ……」
……そう。私のパパとママの離婚理由はパパの不倫。しかも不倫相手はメチャクチャお金を持ってたみたいで。全部言い値で払われてすぐ終わってしまったみたい。
当時のママには復讐なんて出来る気力も暇も無かった。頼れる人も居なかった。ママは元孤児。両親なんて居ない。
「それで自分の娘を成功させて少しでも見返してやろうとしているのでしょう。……ふざけないでいただけますかッ!!」
「そんなつもりはッ!!」
「今は無いかもしれないッ!!でも!!当時は確実にあったッ!!天気を……私の大切な天気をあなたのエゴの道具にしないで!!!!」
「っっ……!!」
大切な……天気…………そんなセリフママから言われたことないや。……嬉しい。荒天。私幸せ者だよ。
「謝りなさいッ!今すぐ!!あなたのすべてを使って謝りなさいッ!!!私はあなたを絶対許さないッ!!母親なんて絶対に認めないッ!!私は天気を守るためならいくらでもあなたと戦います!もう絶対に寂しい思いなんてさせませんッ!!」