side青空天気
「……ありがとう……ございました。」
教室を後にする。
……私……私……
«……天気……»
「ごめん。荒天……私……」
「天気ちゃん!」
槍田達が走ってくる。もしかして待っててくれたのかな。どこかで聞いてたのかな。
もう…………どっちでもいいや。
「天気ちゃん。良かったの?」
「……ごめん。……私弱かったみたい。」
「そんなことッ!」
「っ……ごめんっ!!!」
走り出す。顔も見れないで。
「天気ちゃん!!」
お願い。追いかけてこないで。
弱い私をみんなに見せたくないから。
私は………………母親の謝罪を受け入れた。
「…………。」
河川敷。……別に家から近い場所じゃないんだけど。ここは静かだから好き。
«……天気。本当に良かったの?»
「…………。」
あの時一瞬……私の本心がわからなくなった。逃げ出したい。助けて欲しい。そんな気持ちが膨らんで……もう頷いてしまった。
「…………自分の心に素直に……」
ごめんなさいブラッドロータス先生。せっかく作ってくれた機会を……台無しにしちゃった。
ごめんなさいスナイプ先生。信じてくれたのに……受け入れてくれたのに……逃げ出しちゃった。
ごめん。寮のみんな。せっかく味方になってくれたのに……やっぱり私はダメな子だったんだ。
「…………荒天。……ごめんね。」
«今からでも遅くないわ!まだ匿ってもらえば……»
「ダメだよ。これ以上何も出来ない私がみんなの時間を使う訳にはいかない。」
«何も出来ないなんて……そんなことないわ!»
「ありがとう荒天。私それだけで救われてるよ。」
«天気……»
もう……考えることも戦うことも嫌になっちゃった。
自分の境遇を変えたかったはずが……結局一方的に蟠りがある状態に。
何が変わったのさ。何が本音をぶつけ合うさ……意見を聞くさ。
何も解決してない。出来てない。
「私は……」
ずっと何も出来ないままなんだ。我慢するしかないんだ。
この時期……外が冷えるのもあって河川敷は静かだ。空も夜の帳が降りつつある。直ぐに暗くなるよね。
…………帰らなきゃ。
立ち上がろうとする……けど……
足がすくんで力が出ない。
「…………ぐすん……」
«……っ……»
「帰りたくないよ……やだ……みんなといっしょの場所がいい……」
«天気……ごめんなさい。私が無理にでも出てくれば……»
「やだよぉ……もう我慢したくない……なんで私ばっかり……」
みんなに受け入れてもらった。助けてもらったあの温かさを忘れることができない。
私は結局何がしたいの?どうしたかったの?
不完全燃焼。自分のことすら何も分からない。
「……だれか……助けてよ……」
その声は空に消えていった。
「天気ィ!!」
はずだった。
「……は……天げ……ん……なんで……」
「んな事はどうでもいいだろ!!」
そこにいるのは天眼通。私の幼なじみ。
走ってきたのか、この寒さにしては随分薄着で息も上がってる。
「も……う……ほっておいてよ!……どうせ連れ戻しに来たんでしょ。」
「そうだ。」
「っ……だったら!!」
「だって!!俺たちはまだお前の誕生日を祝ってないっ!!」
「っ!!」
「家に帰るか寮に行くかはそのあとでいい。俺は、お前の誕生日をしっかり祝いたい。」
「…………だったら今言えばいいじゃん。」
「ダメだ。」
「なんっ……」
「ダメなんだ。俺だけじゃ。」
「なによ……何が……」
まっすぐ。天眼が立ってるから見上げる形にはなっているけど。
他の誰でもない。私をまっすぐ見つめて。
「俺の両親は、少なからず君のことを家族だと思ってる。もちろん俺もだ。」
「……!」
「誕生日は家族みんなで祝うものだろ。楽しめなんて言わん。ただ誕生日くらい……素直に祝わせろ。」
「てん……げん……」
「……邪魔するぞ。」
天眼は私の横に座り込む。
「なっ!?」
「黙って聞いてろ。……何となくだが今日の話は聞いた。委員長から。」
「……槍田が……?」
槍田が……本当に……みんなは……
「ああ。砂臣づてだったけどな。お前の母さんが謝ってるなら俺も謝らないといけない。」
「…………え?」
「ずっと守ってやれなくてすまない!もっと俺が強くなれていれば!お前に無茶させる事なんてなかった!お前が傷ついてるのも気がつけなかった!1番近くで見てきたのに!」
天眼が頭を下げる。関係ないのに……
「…………!」
「どこかでお前なら大丈夫っていう油断があったんだと思う!驕りがあった!もちろん荒天のことも知ってた!でも言えなかった!夢だと思っていた!!」
「そん……な……いいよ!天眼は何も……」
「俺が謝らないと気が済まないんだ!許して欲しいなんて言わない!ただ謝らせてくれ!!」
天眼が土下座を始めた。誰も見てないとはいえ、少し恥ずかしい。
「まっ……待って待って顔をあげてよ!私が土下座させてるみたいじゃん!!」
「そ……そうか!そうだな……すまん!」
なにそれ……
「勢いに身を任せすぎでしょ。」
「だが……天気がそうなった一因は俺にもあるし……」
「天眼は違うって言ってんじゃん。怒るよ!」
「うっ……わ……わかった。」
……なんか全部バカバカしくなってきた。
ぐぅううぅぅぅ……
「……」
「……」
«……天気?»
お腹空いた。そういえばお昼御飯まともに食べてないや。
「天眼。腹減った。」
「は!?え……えと。どうするんだ!?1回寮に行くか!?」
「ん。」
ワタワタ慌てる天眼に向かって両手を広げる。
「……え?」
「疲れたからおんぶ。家まで送って。」
「……はぁ……お前……わかったよ。今回だけだぞ。」
「……」
「……」
…………ねぇ。なんか私滅茶苦茶言ってるよね?言ってたよね?なんでこいつはおんぶしてんの??
なんか少し恥ずかしくなってきた。高校生にもなっておんぶされてるなんて……
「なあ。」
「……何。」
「お前の母さんのことなんだけどさ。」
切り出されると思った。そんな気はしてた。
「…………」
どうせ天眼も……
「許してやらないでくれないか?」
「許してくれって…………え?なんて?」
「許すなっつってんだよ。」
「……は?普通は許せって話じゃないの!?」
何言ってんのコイツ!?意味わかんない。
「何言ってんだよ。被害者は許したらダメだろうが。」
「え?え??」
本当に何言ってるか全然わかんない。意味不明。許すなってどういうこと???
「忘れないようにしろってことだよ。絶対な。……天気。あんたの母さんはぜーんぜん俺たちの事わかってねぇよ。だから許しちゃダメなんだ。教えてやらないといけない。俺たちを。」
「……!」
「もちろんあっちからも教えてもらわないと困るものも多いけどな!……人間って不便だよな。言葉で伝えなくちゃわかんないのに空気で察せとか言われんだぜ?無理無理。テレパシーなんて持ってねぇよってな!」
「……不便だよね。わかるよ。」
「お互い様だぜ?天気。許しちゃったんだろ?」
「う……だって……逃げたくなっちゃって……」
「はぁ……お前いっつもそうだよな。そういう時はもっとガツンと行くんだよ。」
呆れられた……!!くそ!天眼め……!!
「ううう……そ……そういえばなんで天眼は私があそこに居るのわかったの?」
「……………………勘だ。」
「絶対違う!!」
「いいだろうが別に!勘ってことにしとけ!!」
「絶対違う!!変な間があった!!」
「絶対言わねぇ!!」
「言え!言え!!」
「イデデデデ!?耳引っ張んな!!!」
「うるさーい!言え言え!!」
「もうおぶってやらねぇぞ!!」
「それはやだ!!」
「……子供かよ。」
「子供だよ。」
自分の思ったことも言えないガキだよ。
「…………次はちゃんと言うんだぞ。」
「…………わかってる。」
天眼の背中はいつになく大きく見えた。