side槍田日巡璃
「わぁ〜!綺麗〜!」
今日はクリスマス!天捻ちゃんのご両親の厚意で、天捻ちゃんちの使用人さん達に車を出してもらって、近くの商店街のクリスマスフェアに連れてきてもらいました!
天捻ちゃんの使用人さんは車で待機してもらってる。なんかこういう場所があまり得意じゃないって!そういう人もいるのかなぁ?
人がいっぱい……みんな楽しみなんだね!
「日巡璃!あんまりはしゃがないの。」
「はーい!」
一緒に来たのは天捻ちゃん。愛ちゃん。カナ。
千音実ちゃんと捻瑠ちゃんは両方留守番。捻瑠ちゃんの勉強?なんだかんだ教えてたら少しづつだけど出来るようになったみたい!
やっぱり天捻ちゃんの妹だなぁって感じ!それでもまだまだ合格圏内には遠いけどね?頑張るって言ってるから私も気合いが入るよ!なんだかんだカナと愛ちゃんも手伝ってくれてるしね。
「とりあえず……家で待ってる千音実ちゃんと捻瑠ちゃんにお土産買お!」
「そうね。」「ん!」「はい。」
そうです!今日来てる理由は、ふたりにクリスマスプレゼントを!
ふたりの喜んでる顔が目に浮かぶなぁ〜!
「よし!それじゃ集合は1時間後ね!」
「わかったわ。」
「ん。解散。」
「はい。1時間後ですね。」
ってな訳でみんなで解散。よーし!いいの買うぞ!!
……う〜さむさむ。雪が降ってなくて良かったね。ホント。
槍田日巡璃。耐寒モコモコモード。これでだいぶ動きやすいよ〜。何にしようかなぁ?
本……化粧品……ゲーム……なんかピンと来ないなぁ?
服?……は自信あるけど……ふたりのサイズがわかんない……変なサイズ買うのもなぁ……天捻ちゃんに聞く?知ってそうだけど……こういうのは自分で選びたいよね!
同じ理由で靴も却下!
うーん……服がダメってなると……
……お??
「ありがとうございました〜!」
いいの買えた!これ!ちょうどいいんじゃない!?いっぱい使って貰えそうだし〜♪
可愛かったからみんなのも買っちゃった……お金いっぱい使っちゃった……後悔はしてないよ!
……あと30分?まだまだ時間あるなぁ……どうしよっかなぁ……
「……へぇ……新しいドーナツだぁ……」
とその辺をぶらぶらしていると……
パシッ……
「え?」
急に後ろから手を握られた。
人通りは少ない。人違いじゃない。
誰だろ?愛ちゃん?
「……日巡璃……ちゃん?」
背筋が凍った。
この声……もしかして……
「……な……なんで……」
ゆっくり。ゆっくりだが確信を持って振り返る。会いたくない相手。全身に鳥肌が立つ。
ここには……頼れる大人がいないのに……
「なんで……こんなところに……!!」
「こっちのセリフだよ!!なんで……なんでアンタが……!!」
マリア!!
「……あなたがいつも通り冷静で安心したわ。」
「……」
少々取り乱した私たちは、1度落ち着いて近くのベンチに腰を降ろした。
マリアは……相変わらずお嬢様のような綺麗なドレスと、黒いコート。マフラーを巻いて、手袋をして寒さ対策をしているみたい。……その手袋文化祭でもしてなかった?気のせい?
キチンと似合ってるのが腹立つ。ファッションセンスはあるみたい。
「……なんで居るの。」
「そっちこそ……なんで居るの!」
「……?」
……違和感。前会った時はこんな感じじゃなかったはず……嫌悪感が少ないというか……発言が違うというか。
「クリスマスプレゼント買いに来たの。何かある?」
「なんで……こんな場所まで……!」
「言わない。関係ないでしょ。」
「関係あるわよ……バカ……!!」
「はぁ?」
コイツが何を言いたいのかが全くわからない。あの時あれほど感じていた嫌悪感はどこへやら……気持ち悪さより心配が勝つ。
「なんで……よりによって今日……!!」
「何。ダメなの?」
「ダメに決まってる……くっ……」
マリアがスマホを取り出す。
「……もしもし。G?……作戦開始をもう少しだけ待ってくれない?……ええ……わかってる……Vには私から言うから…………ごめんなさいね。お願い。」
ピッ……
G……?V……?……そういえばMr.JもアルファベットのJ…………もしかしたらマリアの居る団体はアルファベットで呼びあってる……?26文字。26人……構成員がいるかもしれないってこと……?
予想以上に……強力な団体かも……
「日巡璃ちゃん。言うことを聞いてちょうだい。あと30分。30分でここから立ち去って欲しいの。」
「……は?なんで?」
ちょうどあと30分くらいで帰る予定だったからちょうど良かったけど……なんか釈然としない。
「お願い。何も聞かないで……」
「…………ねえ。理由は聞かないけど……何があったの。」
「……え?」
「アンタがそんな弱々しいの初めて見た。……まだ2回しか会ってないけど。そんなビクビクされると逆に怪しいんだけど。」
「…………」
だんまり。……めんどくさ……
少しの沈黙の後、マリアが口を開く。
「……からよ……」
「……は?」
「あなたに死んで欲しくないの。」
「………………は?」
変な声が出た。死んで欲しくない??敵が?そもそも死ぬって何!?何か起こるの!?
作戦開始とか言ってた。作戦……?何があるの?
「ちょ……ちょっと待ってよ!……何言ってるの!?」
意味がわからない。相手の発言が意味不明すぎて回らない頭で何とか考える。この人は……私を守ろうとしてるってこと!?なんで?理由が見えない。
「…………何が起こるかは言えない。でも……ここにいたら最悪……日巡璃ちゃんが死んじゃうかもしれない!」
「……だから……何を……なんで私を守ろうと……」
「日巡璃ちゃんは私のモノだから。絶対失いたくないの。」
「…………」
思考が読めない。何を言ってるか脳が理解しない。処理が止まる。
結局……こいつはなんなの……??
「お願い日巡璃ちゃん。何も言わずに……私の言うことを聞いて。」
「……」
嫌悪感。疑問。恐怖。思考が止まる。私は……
「お願い……私はどうなってもいいから!!」
肩を掴まれた。
本来なら嫌がってる。振りほどいてる。
でも理解が追いつかない頭が、身体を動かしてくれない。
「……ラクネラちゃんは?」
「いないわ。連れてくるわけないじゃない。」
……死ぬかもしれないからってこと?危険だからってこと?コイツにとって……私はいつの間にかラクネラちゃんと同じくらい大切になったらしい。それが事実なら本当にやめて欲しい。
「……拒否したらどうする。」
「力づくで退かすわ。どんな犠牲を払っても。」
「……」
「……」
拒否権は無し……か……
周りを見渡す。周りの人の数は増えているみたいで……ここであの個性で暴れられたら……何人死ぬかは考えたくない。私一人を退かすために、全員を犠牲にできるだろう。
私が素直に帰れば……今現状はこの人達は安全ってこと……
でもそれは……私が逃げるってことにならない?それはヒーローとしてどうなの。
…………今の私は……何ができるの。
「……」
「日巡璃ちゃん……」
コイツは……なにがしたいの。
本気でお願いされてるように見える。……私の目が節穴じゃなければ。
「……ひとつ聞かせて。」
「いいわ。」
「何を恐れているの。」
「!」
「いつもに自信はどうしたの。私を失うのが本当に怖い?あなたのセリフ一つ一つに嘘は感じない。だけど……やっぱり違和感が拭いきれない。」
「…………」
「これだけ答えて。」
「…………………………わかったわ。」
マリアが息をひとつ大きく吐く。
「何も失いたくないの。」
「…………それはさっき言ってた。」
「ちがうの!もう……私のモノを失いたくないの!!」
「あなたのモノになった覚えは無いけど。」
……何を言ってるかやっぱり理解ができない。
……ダメ。固定概念。こいつを理解するには……固定概念なんて邪魔なものを吹き飛ばさないと。理解じゃない。認知するんだ。コイツという敵の存在を。
「…………何かあったの。」
「昔にね。……トラウマなの。」
「そう。」
「信じてくれるの?」
「全く?」
「……ふふ。」
「何笑ってるの。」
「んーん?成長したわねって。」
「……!」
さっきまでカチカチだったマリアの表情が少し和らいだ。
「あれだけ私の対処にワタワタしてた子供が……いつの間にか私を俯瞰できる場所にいる。貴方なりに悩んでいたのね?それに座ってる距離。私が万が一暴れても対処出来る距離にいるんでしょう?……文化祭の時とは比べ物にならないわね。」
「……黙って。」
敵に褒められるなんて……変な感覚。
「……私は私が愛でるものは私以外に侵されて欲しくないの。誰にも盗られたくない!」
「………………あっそ。」
もう私は皆に盗られてるけどね。
「あら。イケズ。」
「私は貴方に執着なんて無いから。」
「私はあるわよ?」
「勝手にしてて。」
「ふーん……?でも話は聞いてくれるんだ?」
「知ろうとしただけ。私なりに。貴方という敵を。それを知ったところで私が許せるかは分からないけど……お互い戦意がない貴方とのこの会話は……私は好きじゃないけど嫌じゃない。」
「……!!」
マリアの目がキラリと光った。まるで希望を見出したような……
「そんな目すんな。気持ち悪い。」
「ね……日巡璃ちゃん?」
スススとマリアが寄ってくる。
私の射程範囲内どころか私の懐に入ってきた!?こいつ……何考えて……!?
「私……貴方になら殺されてもいいわ?」
「……は?」
「私は幸せになれないもの。ならばせめて……私が心を許した相手の為に殺されたい。」
「何を……」
「だから……ね?」
急にマリアの顔が近付いて……咄嗟に目を閉じる。
ちゅ……
まぶたに暖かな感触。……こいつ……まさか……!!
目を開けるとマリアが既に立ち上がっていた。
「貴方も私を愛し《殺し》に来て?愛しのマイヒーロー♡」
「まっ……!?」
そのままマリアが私に背を向けて歩き出した。
手を振り、早く帰りなさいとでも言うように。
時間はちょうど30分。もう集合時間。
「…………」
行き場のない手を降ろしながら、私は集合場所に赴くのだった。