side中曲瀬天捻
「せんせ……さっきの……何?」
「ん〜?」
お話の後……ブラッドロータス先生を1人中庭に呼び出して、さっきの発言の意を聞いてみた。
ここには誰もいない。……後ろでみんなが聞いてるけど。あれだけ1人にしてって言ったのに……もう。ひまひまはおしおきだね。
「…………殺してでもって話?」
妖艶な笑み。殺しが選択肢に入ってる瞳。先程の冷たい圧力じゃない。何者も包み込んでしまうような緩やかな殺意。
「…………!」
私でもわかる程のその圧は……無意識もうちに私に私の体に1歩……後退させていたらしい。
「んふっ……怖かった?」
「……とても。」
肝が冷えるというのはこの事か……ホラー映画、怖い話。いくら見てもよくわからなかったけど……これならよくわかる。
ブラッドロータス先生は……一体いくつの修羅場を潜り抜けてきたのか。今の私じゃ計り知れない。
「……あのね?殺してでもってことは……そのまんまだよ?」
「……ヒーローは……」
「殺しをしちゃいけないよね。」
「…………ん。」
先回りして言われてしまったのなら頷くしかない。
「うん。ごもっとも。…………でもね?中曲瀬さん。」
くるんとターン。ブラッドロータス先生がこちらに背中を向ける。
「どうしようもない人っているの。」
「……」
「知ってるはずだよ。あなたも。説得ができない相手。」
ブラッドロータス先生はゆっくりと前に進み……やがて影に足を踏み入れた。
「…………ん。」
心当たりなんて山ほどあった。私をいじめてたヤツ。ひまひまをいじめてたヤツ。私の妹に手を出したヤツ。
この1年でも既に5人。
「家庭環境。友人関係。本人の性格。全てを見返しても取り返しのつかない事をした人間。それでも法律は守ってくれるよね!…………果たしてそんな人間……法律で守る意味はあるかな?」
ブラッドロータス先生がこちらをゆっくり振り向く。
影で顔があまりはっきり見えないけど……目だけ。何故か目だけしっかり確認できた。先程までの穏やかなソレとはまた違うナニカ。
「……せんせ……?」
「…………守る価値もない。だから殺す。」
「……!!」
「私はそれだけの術を。仕事をしてきた。」
「……なにを……せんせ……」
「中曲瀬さん。私はあなたが思うヒーローじゃない。私は今まで……何人も殺めてきた。」
「…………」
あやめる……殺める?……先生が……?人を……?
「……日巡璃ちゃん?聞いてるんでしょ?出てきなさいな。」
急にホワッと顔を緩ませ、私の後ろ側に声をかける。
気付いてたんだ……先生も……
「「「……」」」
3人がおずおずと顔を出す。
「……聞いてたでしょ?」
「……おねーさん……?ヒーローじゃ……なかったの……?」
ひまひまの顔が困惑に歪む。そうだよ……だってひまひまは……ブラッドロータス先生みたいなヒーローになりたくて……
「ヒーローだよ。厳密に言ったら……ね?」
その言い方だと……
「違うと言ってるようなものですが……」
「憎田さん。そうだね。……正確に言うと……私は公安直属の始末屋だよ。」
「始末屋……!?」
「殺し屋ってこと!?」
「うん。敵専門のね?」
敵専門の殺し屋。都市伝説か何かだと思っていた。やっぱりいるんだ……公安の懐刀……
「まーあ。この話はおいおいするとして……私はそれでもヒーローとしての活動を怠ったことはないよ。見てたらわかると思うけど。」
「それは……」
「そうだけど…………」
「……学生に聞かせる話じゃないよね。……でもね?」
ブラッドロータス先生が数歩前に出る。影から出て……光に照らされる。
「居るのよ。ヒーローにも。汚れ仕事を専門に扱うやつが。……それで社会は平穏に保たれてる。」
「「「「……」」」」
「存在意義じゃない。それに縋ってるわけでも酔いしれてるわけでもない。私は言わば社会の抗体。なくちゃならない存在。…………社会を正常に回すために。」
「…………誇り……ってやつ……」
「……まぁそうね?私はこの仕事に後悔はないし、間違ったとも思ってないわ。私のやるべきことをやってるだけだから。」
「…………」
かっこいい……社会のために……あえて自分から裏の社会へ……
「……せんせ!」
私も……!
「中曲瀬さん。」
「!」
「私が今日来たのは他でもない。あなたに用事があったの。」
「…………私?」
先生がゆっくりと手を差し出す。
「ええ。……あなた……私の後継者にならない?」
「…………え?」
side槍田日巡璃
「ええ。……あなた……私の後継者にならない?」
「…………え?」
天捻ちゃんが……おねーさんの後継者……!?
「あなたは……人を心の底から憎める人。他者のために自らを犠牲にできる人。そして…………自らの理想を捨てない人。」
「…………」
「あなたは裏社会でヒーロー活動をできる。私が断言するわ。」
「ちょ……ちょっと待ってよおねーさん!何を言ってるの!?」
「……そうよ!他の人ならまだしも……先生がそんな勧誘をするなんて……」
「教育者としてそれはどうなのですか!我々は少なからず天捻様を大切に思っております。危ない道を自ら渡らせるなど……」
私に続き、カナと愛ちゃんも。みんな天捻ちゃんが大事だ。そんな勧誘……!!!
「みんな……」
天捻ちゃんが私たちを手で制する。
「天捻……ちゃん……」
「……ん。大丈夫……だから。」
何が大丈夫か分からないけど、天捻ちゃんはおねーさんに向き直る。
「せんせ……私は……そうしたら……妹みたいな苦しむ人を……助けれる?」
「ええ。」
1歩。
「みんなを……笑顔にできる?」
「ええ。」
1歩。
「私は…………仮免許すら持ってないよ……それでもやれる?」
「貴方なら。」
「…………」
天捻ちゃんは1歩づつ歩き、おねーさんの前に着く。
「天捻ちゃん……」
天捻ちゃんが私たちに振り向く。
「ね。みんな……私……妹が大切。」
「……うん。」
「それと同じくらい……ううん。それ以上に……みんなも大切。」
「当たり前じゃない。私も天捻のこと大切よ!」
「……ありがと…………だから……私。挑戦したい。」
「「「!」」」
「せんせみたいに……殺しをするかもしれない。……言っちゃいけない仕事に……手を染めるかもしれない。…………でも……私は……同じ苦しみを抱える人を……増やしたくない。」
天捻ちゃん…………そっか。
「私……やる。せんせみたいに……なる。」
天捻ちゃんはおねーさんに向き直り……手を取る。
「……ようこそ。こちら側へ。」
それが覚悟なんだ……天捻ちゃんの……
「…………わかった。」
「はぁ!?日巡璃!?」「お嬢様!?」
「その代わり……無理しちゃダメだからね!」
「……ん!」
「……。」
とは言ったものの……やっぱり少し寂しくなって天捻ちゃんを引き寄せ、抱きしめる。
「……ひまひま?」
「ホントはね……ホントはやって欲しくないんだ。もしかしたら怖い目に合うかもしれない。天捻ちゃんが戻ってこないかもしれない。…………そんなの耐えられないよ。」
「…………」
「でも!私は天捻ちゃんの覚悟を尊重したい。」
「……ひま……ひま……!」
「おねーさん!」
「はぁい。」
「天捻ちゃんを……よろしくお願いします。」
「……別れるみたいな感じだしてるけど全然そんなことないよ???」
「ううん。これは天捻ちゃんのパートナーとしての意思表明だから。…………何かあったらおねーさんでも許さない。」
「!」
「…………♪……へぇ……言うようになったわね?」
おねーさんが少しだけ口角をあげた。
「天捻ちゃん。」
「……?」
「私が表から支えて……天捻ちゃんが裏から支える。……きっと素敵な社会になるよ!」
「……!!」
「一緒にがんば……」
ベシン!
「あた!?」
「日巡璃!勝手に話進めてんじゃないの!!」
カナに頭を打たれた。
「ごっ……ごめん!」
「……もう。……天捻。後悔はないわね?」
「……ん。」
「じゃあ頑張ってみなさい。私たちだって負けないから。」
「カノカノ……」
「天捻様。大変ご立派な選択です。」
「…………さっき……大切にって……」
「……ふん。お嬢様がお背中を押しているのに、従者兼恋人である私が賛同しない訳にはいきません。」
「…………素直じゃない。」
「うるさいですね。何かあれば何時でも仰ってください。お嬢様の余り物でいいならお出ししますよ。」
「…………ありがと♪」
「なーんだ……みんなしっかり大人ね?」
そんなこんなでなんか満足したようなおねーさんは帰って行った。
天捻ちゃんの挑戦……
応援もそうだけど……負けてられないな!これからもっともっと強くなろうね!天捻ちゃん!